第193話 4人目の仲間
迷い込んだ心象の深層世界に不自然に、ただ一軒だけ建っていた家。
仮想世界で俺達の住んでいた家だ。
その中で俺を待っていたのは、クミシャルナ達と同じ契約神獣の1体であるムリュシーレアだった。
ムリュシーレア
森巫蟲と呼ばれる節足の虫や甲殻類、微生物などの小さな存在を基とするモンスター群の頂点。リスティナによって創造された五行守護神獣の1体だ。
まだエンパシスウィザメントをゲームとしてプレイしていた時、裏ボスとして登場したリスティナとの戦いでリスティナに倒された。それが原因かは分からないがクミシャルナ達のように仮想世界には来ることが出来なかった。
『久し振りだな。前に会ったのはゲーム時代にリスティナと戦った時以来だな。』
『はいです。ずっとお会いしたかったです!。』
抱きついてくるムリュシーレア。
小さな身体を目一杯使って甘えてくる。
見た目は小さな少女。瀬愛と同じくらいの身長。額には触角がピクピクと動いている。
その正体は、半透明な不形状の軟体生物だ。
あらゆる虫や甲殻類の能力を扱うことが出来る。
『主様。こちらにどうぞです。ゆっくりお話しましょうです!。』
『ああ。』
案内されるままリビングに移動する。
あの時のまま。長年過ごしてきた、今は無き家の間取りが目の前にあった。
『なぁ。ここは俺の心象の世界なんだよな?。』
『はいです。私もここに来るのは初めてです!。けど、主様の思い出のお家だと知っているので安心するです!。』
ここは、俺の記憶を基にして創造されたんだろう。
けど、俺の意思じゃない。
それに、ムリュシーレアがいるのも…いや、もしかして…あの【神獣石】か?。
兎針に渡されたムリュシーレアの【神獣石】の欠片。上着の内ポケットに入れていた筈なのにいつの間にか消えていた。
つまりは、落としたとか無くしたではなく、俺の中に吸収された?。
『お前は本物のムリュシーレアじゃないな?。』
『っ!。はいです。気付いたんです?。流石です。主様っ!。私は本体の心の一部分。主様にこの場で会うために本体が用意した心の残骸です。』
『何で、こんなことを?。本人は直接会いに来れなかったのか?。』
『はいです。詳しい話は此方で。今、お茶を用意するです!。』
リビングにある長椅子に座る。
テーブルを挟んで向かえの長椅子にムリュシーレア。テーブルに用意されたお茶。
『まず、最初に話すのはこの世界のことです。』
ムリュシーレアが、この世界【リスティール】について語る。
『リスティールは主様も知っている通りエンパシス・ウィザメントを利用した転移先に設定されていた世界…星です。侵略してきた【絶対神】が率いる神々によって一度…滅ぼされました。』
神々の手…というのは、俺達。プレイヤーだった者によるゲームの攻略のことだろう。
『リスティナ様が主様方に敗北したことで、この星は完全に神々の手に落ちてしまいました。リスティナ様が創造した元いた生物達は 全て 殺され…この星から生物は私とトゥリシエラ姉だけになってしまったです。』
リスティナはクロノ・フィリアの面々を神に対抗できるようにと鍛える為にダンジョンを創造した。数々のモンスターを生み出し、そして、俺達と戦った。
その時点でリスティナは、ほぼ全ての力を使い尽くしたのだろう。神に抗う力までも失う程に…そこまでして俺達に希望を託してくれたんだ。
『トゥリシエラか…。今は元気なのか?。』
『はいです。私と一緒でリスティナ様より特別な命を受け行動中です。』
『特別な命令?。』
『それを説明するには、この星の現状をご説明するです。』
ムリュシーレアの説明。
このリスティールという星は俺達がプレイしていたエンパシス・ウィザメントだ。
大陸や地形、海や川に至るまで俺の記憶にあるゲームの知識と同じである。
生態系に関しても同じで、様々な種族が各々の生息域で村や里、小国を作り暮らしているという。
今、この星に住む生物達はリスティナが改めて創造した生物達であり、俺達に倒された後に作り出された生態系なのだという。
『現在、この星は7つの巨大国家に支配されているのです。』
7つの巨大国家。
各々の支配エリアに属する小国を束ねる国。
・赤国
・青国
・緑国
・黄国
・紫国
・黒国
・白国
…の7大国で構成されている。
まるで六大ギルドみたいだな…。
『主様も気が付いていると思うですが、主様達、仮想世界の住民だった方々はこの世界に転生する際、ゲーム開始時に与えられた種族が住む場所で目覚めるです。』
『ああ。やっぱりそうなのか。』
『はい。リスティナ様が転移先を固定しましたです。』
なら、仲間を探すには仲間の種族が何処に住んでいるのかを探る方法が良さそうだな。
『リスティナは…リスティナの本体は何処に居るんだ?。』
『リスティナ様は神々の居城にいます。』
『神々の居城?。』
『はいです。【絶対神】グァトリュアルと共にこの星の運営を行っています。』
『…は?。【絶対神】と?。敵だろ?。何で一緒に居るんだ?。』
リスティナ本人が語ったことだ。
リスティナの姉妹星を滅ぼし、リスティールを侵略したのが【絶対神】が率いる神々だ。
何でそんな奴と行動を共にしているんだ?。
『無理矢理従わされてるのか?。』
『いいえ。何でも「利害が一致したから手を貸すことにした」だそうです。私には詳しい理由を教えては下さいませんでしたです。その…リスティナ様より伝言があるです。』
『何だ?。』
『こほん。「閃、妾は神の居城と呼ばれる場所にいる。ここは ある条件 を満たさなければ来ることは出来ん。妾に会いたくば居城へと続く扉を探しだしてみろ。因みにお主の仲間の一人はこの居城に捕らえられている。神々の人質という訳だ。…閃よ。お主と神々との戦いは終わっていないこと…忘れるでないぞ?。ではな。会える日を楽しみにしているぞ?。」だそうです。』
『……………リスティナは…敵なのか?。』
『分かりません。リスティナ様の真意を私は教えては頂けませんでした。命令だけを与えられたので…下界に降りてきてしまった以上、居城に戻る手段もないです。』
『直接、会って確かめるしかないってことか…。お前はリスティナからどんな命令を受けたんだ?。』
『………えっと…ですね…。仮想世界から転移した
【紫雲影蛇】のメンバーを探しだし前世の記憶を蘇らせることです。』
それで兎針のところに現れた訳か…。
『そして、もう1つです。』
『もう1つ?。』
『はいです。主様の仲間の中に【種族データ】だけで転生した方々が2名いるです。その方々、どちらかに私の 全てを委ねる ことです。』
『それは…どいうことだ?。』
『主様の仲間で仮想世界で命を散らした際に全てを消失した方々がいますよね?。』
『……………ああ。』
睦美と瀬愛のことだ。
端骨の野郎に能力を奪われて死んだ…。
『私の場合は適性的に瀬愛さんですね。彼女と【同化】するようにと言われています。』
『同化…って…。』
『同化は神獣にのみ与えられた能力です。対象者と融合し1つの存在になるです。今回の場合ですと私の能力が瀬愛さんのモノになるということです。』
『融合…意識はどうなるんだ?。』
『神獣の意識が消失するです。つまり、私の…。』
その続きは、ムリュシーレアの口からは聞けなかった。
つまり、ムリュシーレアの意識は消滅し能力だけが瀬愛のモノになるってことだろう?。
『もう私の本体は瀬愛さんのいる場所に向かっています。』
『瀬愛は何処に居るんだ?。』
『ここから遠く、海を越えた先にある紫国の領土内です。』
紫国…パリームプルムだったか…そこに瀬愛が転生している…。
『主様ぁ。』
『おっと。』
ムリュシーレアが抱きついてきた。
小さな身体で目一杯抱きしめている。
その身体を受け止めた。
『ずっと…ずっとこうしたかったです…。お会いしたくて…。ずっと待ってたんです…。』
泣きながら顔を俺の胸に埋めるムリュシーレア。
そうだよな。クミシャルナ達と違って仮想世界には来れなかったんだよな…。俺達の時間で約4年…この世界の時間の流れが仮想世界とどれくらい違うのかは分からないが。その間、ずっと待っててくれてたんだ。
『ごめんな。待たせて。あと…ただいま。また会えて嬉しいよ。ムリュシーレア。』
『っ!。ですです!。お帰りなさいませです!。』
頭を撫で、抱きしめ返す。
ムリュシーレアは嬉しそうな笑顔を向けてくれた。
『なぁ。さっきの話の続きなんだが。』
『はいです?。』
対面だった位置は俺の膝の上に変わったムリュシーレアに話し掛ける。
『能力を奪われたのは睦美もなんだ。睦美覚えてるだろ?。』
『はいです。睦美さん。覚えてるです。恋人になったのですね。しかも、主様から告白したと聞きましたです!。』
『ど、何処からそんな情報漏洩が!?。』
『リスティナ様です。妾に娘が出来たぞぉ。と喜んでいたです。』
仮想世界での記憶を持ってんのか?
『仮想世界のリスティナ様が消滅した時、本体のリスティナ様に仮想世界へ送り込んでいたエーテルが還元されたのです。その際に記憶も一緒に移動したです。』
俺の表情を読んで疑問に答えてくれたムリュシーレアの頭を撫でる。
『そうか…。ますますリスティナが何をしたいのか分からねぇな。』
敵なのか。味方なのか。
『主様。そろそろ。時間みたいです。私の神獣石の欠片に移していた魔力が消えかかってるです。』
見るとムリュシーレアの身体が透けている。
『主様。これが最後だと思うのでお願いしてもいいですか?。』
『ああ。』
『キス…して欲しいです。』
『ああ。良いぞ。』
同化をすればムリュシーレアの意識は消える。
本体が瀬愛の元に向かっている以上止める手立てはない。
なら、俺に出来るのは…この小さな従者の小さな願いを叶えてやるだけだ。
俺はムリュシーレアの唇に自分の唇を重ねた。
『えへへ。どうもです!。主様!。』
照れた顔で唇を離すと、改めて抱きついてくるムリュシーレア。
『大好きです。ずっと。これからも。私は瀬愛さんの中で生き続けます。だから、ほんの少しでも良いので…私のこと…思い出して下さい。』
そのまま姿が消えるムリュシーレア。
最後に涙を流しながら必死に笑顔を作る彼女。
『ああ。絶対忘れない。 また な。』
『っ!。はい!。また、です!。』
こうして心象の世界からムリュシーレアの魔力は消滅した。
ーーーーー
5、6人が余裕で入れる広さの天然温泉に現在5人が入浴している。
女の姿の俺の膝の上に夢伽。右に詩那。左に兎針。そして、俺達と反対側にタオルを巻いたまま湯に浸かっている奏他。
てか、夢伽達…くっつき過ぎじゃね?。
夢伽は俺の膝の上で前後に身体を揺らして「お兄さんのおっぱいクッションみたいで気持ちいい~。」とか言ってるし、詩那は自分の身体と俺の身体を交互に触り「あぅ…ウチ勝ててるとこないじゃん…好きな人の方が自分より女の部分で勝ってるって…。アイデンティティ崩壊?。誘惑も失敗?。つらぁ。」と呟きながら肩を落としたり溜め息をしたり、兎針は俺の身体に自分の身体を密着させ「柔らかいです。はぁ~。匂いもいい香り~。はぁ~。こんなのご褒美ですよ~。」とか目を輝かせてるし…。
男の姿なら問題だろうな…。
『こらっ!。3人ともくすぐったいから身体を触るな!。』
『え!?。気持ち良くないですか?。えい。』
『ぅ…。止めい!。どこ触ってんだ!。くすぐったいわっ!。』
『はうっ!。すみません…。テンション上がってしまい…つい。それより閃さん。声も色っぽくて可愛いくなるんですね。』
兎針に敏感な部分を触れられ、お返しに額にチョップを繰り出す。
兎針…こんなキャラだったのか…。
何とか3人を引き離す。
夢伽は詩那の膝の上に移動し、兎針は石の上に腰をおろした。
『はぁ。すまん。待たせたな。』
『君…美人過ぎない?。女の私から見ても見惚れちゃうくらいなんだけど?。』
『俺と俺の妹の力作だからな。ゲーマー2人の本気がこの姿だ。』
『はぁ…。あんまりその姿で彷徨かない方が良いよ。こんな美人なら捕らえて高値で売り払おうとする奴が絶対現れるから。』
『忠告。ありがとう。まぁ、気を付ける。』
『それで、本題に入りたいんだけど。』
『ああ。取り引きの話だったな。』
俺と奏他の取り引き。
俺は奏他に過去を教える。
俺の知っている奏他個人の情報なんて、たかが知れている。出会ったのは大会が開催されてからだ。ゲーム時代にも接点は無かった。なので、伝える情報は俺の知り得るゲーム時代を含めた仮想世界での【白聖連団】の活動と内容。奏他の立場。そして、俺達…クロノ・フィリアとの関係。ついでに仮想世界での出来事。
それらを教える。
奏他からは、この世界のこと。
彼女が所属していた国、他の国。この世界で奏他の知り得る情報。そして、【人族】に関することだ。
因みに今奏他は国を裏切り俺達に接近した。
奏他の部下が夢伽と詩那に多大な迷惑をかけたことを頭を下げ謝罪した。
奏他は俺達と別れた後、仮の拠点へと移動し騎士達に真実を聞き出した。
聞き出した情報は案の定のことだったらしい。
部下達は奏他を拠点で待機させ自分達で【人族】を散策。見付けては手当たり次第に蹂躙し楽しんでいたのだという。
奏他には【異神】により既に【人族】の里は滅ぼされた後だったと虚言の報告が続いていたらしい。
国からは保護を命じられていた。明らかに命令違反の行為だった。
知らなかったこととはいえ、騎士達がしたことは許されることではない。国に事の顛末を報告すると言った奏他に対し部下達は口封じの為に奏他に剣を向けたが…奏他は彼等を返り討ちにした。
全ては隊長である自分の責任。知らなかったでは済まされない。
国に報告することを…躊躇う奏他。
任務を無視し【人族】への虐殺。
報告すれば、おそらく極刑か牢獄行きか…。
悩んだ末に。彼方は俺と兎針の事を思い出したらしい。
自分の名前を知っていた。
過去の自分を知っているような口振り。
奏他は、この世界の白国のとある地域で目覚めた。同時に神と間違われ殺されかけたという。
自分の名前しか思い出せない奏他。
混乱する頭で奏他は必死に自分が神でないと訴える。白国の連中は奏他が神でないと分かると2つの選択肢を奏他に与えた。
1つ、この世界の平和を脅かす【異神】を倒すために我々の仲間となり力を振るうか。
2つ、危険因子としてこのまま殺されるか。
…という極端な選択だった。
こうも言った。
仲間になれば騎士団の隊長として小隊を与える。それなりの待遇を約束すると。
何よりも奏他の意思を釘付けにしたのは、白国に貢献し実績を残せば失われた記憶を蘇らせることを約束すると。
白国の王が持つ神の神業を持ってすれば不可能ではないと。
殺されたくない。
当然の考えに至った奏他は白国の騎士団に入ることとなり小隊を与えられた。
命じられた任務は3つ。
・【異神】の情報の収集。
・【人族】の保護。
・【異界人】の勧誘、及び、排除。
【異神】というのは俺達、クロノ・フィリアだ。情報を集めているとなると、俺達をこの世界から抹消するっていう【絶対神】のお告げを信じているからか。
【人族】の保護。奏他の部下だった奴等をみる限り保護された結果に幸せな未来が待っているとは思えないんだよな…。
そして、最後に【異界人】か。
奏他に聞いた【異界人】とは【異神】と同じ方法で転生してきた神でない者達のこと。奏他や夢伽達。つまりクロノ・フィリアに所属していなかった仮想世界の住人のことを言うらしい。いや、正確にはリスティナの魔力の影響を受けていない者か…。
【異界人】は神程ではないにしろ、この世界の普通の兵士クラスよりは強いらしく、各国の軍事力を強化する手っ取り早い方法が【異界人】を仲間に引き入れることらしい。だが、断られると他の国に奪われる可能性がある。他の国の戦力を向上させてしまう可能性がある以上、勧誘を断られたら即座に命を奪うんだと。
随分と自分勝手な理屈だな。
奏他は白国に入り小隊長の任を与えられた。
しかし、奏他の中では自分の中に違和感があった。自分が本当に仕えていた人は他にいたような…本当の仲間がいたような…。
悩んでも答えの出ない違和感がずっと奏他の中で渦巻いていたのだった。
『お前は、白聖連団ってギルドの幹部だったんだ。そして、ギルドマスター…リーダーは白蓮という男だった。』
俺は白聖連団で知っていることを全て伝えた。流石に白聖の内情までは分からないが、俺達とどういう経緯があり争うことになったのか…と、その内容。白蓮の行動。やろうとしていたこと。神々との取り引き。大会で見た奏他自身の様子。
『………。』
無言のまま。奏他は俯いている。
『信じられないか?。』
『………ううん。………。うん。そうだよ。白蓮…白聖連団…白聖十二騎士…土のエレメント…。記憶にはない。思い出した訳じゃない…けど。何だろう…凄く心にしっくり来る感じがする…。』
『クロノ・フィリアに関係した者以外の転生者は名前以外の全てを失いこの世界に転生するらしい。ここにいる詩那と兎針もそうだ。兎針は俺の契約神獣と出会ったことで転生前の記憶を取り戻した。』
『はい。そのことから。記憶を取り戻す方法が存在することは間違いないかと思われます。』
『だな。だが、それには神の力が関わっている。今、神と接触するのは危険だからな。まずは仲間集めが優先だ。』
『そうなんだ。君達は【人族】の里を目指してるんでしょ?。何かあるの?。』
『ああ。俺の仲間の1人が【人族】なんだ。ソイツが他の里にいるかもしれないと思ってな。』
『成程。だから、私に情報を求めたんだね。』
『ああ。そうだ。』
『色々、教えてくれてありがとう。今度は私の番だね。私達が向かう計画を立てていた【人族】の里の在り処を教えるよ。』
奏他から聞く【人族】の里。
一番近い里は、ここからは2日程歩けば着く距離だ。
『けど。気を付けないといけないの。』
『何を?。』
『この場所というか。この場所より奥にある【人族】の里にはちょっとした噂があるんだ。』
『噂?。』
『うん。【人族は神を創っている】っていう。』
『神を創る?。』
仮想世界でも白蓮が【完成された人間】の研究をしていたが、今度は神ってか?。
異常とも言える耐久力。脅威的な回復・再生力。圧倒的な筋力から生まれる力と速さ。常人を遥かに越えた反射神経と吸収力。
そんな存在がこの世界にもいるのか?。
『君は【異神】だよね?。』
『ああ。【人族】の【異神】だ。』
『つまり、人の神だよね。君と同じ存在を研究しているのかもしれない。まぁ、あくまでも噂だから信憑性は皆無だけどね。』
『俺と同じ…。』
『私の知っている【人族】のことはこれくらい。』
『ありがとう。いい情報だった。で、お前はこれからどうしたい?。』
国に帰れない。帰れば殺される。
任務に背き、部下も殺した。
奏他の立場は危うい。
『………私は…凄く自分勝手な物言いなのは、理解している。…けど。これしかなくて…君達と一緒に…仲間にして欲しい。』
それしかない…よな。
だが、これは爆弾だ。
奏他はおそらく白国に追われることになる。それは、仲間になった俺達も同様に追われるということ。
この何も分からない状況で敵を増やすのは得策ではないのは理解できる。けど…白蓮の仲間だった奴を見捨てることは…出来ない…。
『お前達はどうしたい?。』
俺は3人に尋ねる。
俺の意思は決めた。だが、共に旅をしている3人にも決める権利がある。
『私は夢伽さんの意思に従います。』
『私は………お姉さんは強いですよね?。なら、仲間にしても良いと思います。これから戦いになる場面に遭遇することもあると思います。だから…私は仲間になって欲しいです。』
『ねぇ。アンタさ?。』
『は、はい!?。』
奏他に近付いていく詩那。
『ウチさ。アンタの部下に………襲われた訳じゃん?。』
『っ!?。』
『まぁ。それは良いわ。先輩に助けて貰えたし。けどさ。これだけはハッキリさせたいの。これから先アンタは先輩の敵になることがある?。』
『敵に?。な、ないよ!。そんなこと!。君達は私に色々教えてくれたし…。それに迷惑かけたから…。』
『そ。なら良いわ。宜しくね。奏他。先輩もそれで良いよね?。』
『ああ。決まりだな。』
『っ!。』
『これから、宜しくな。奏他。』
『宜しくです!。奏他お姉さん。』
『宜しくお願い致します。』
『はい!。宜しくね。』
その後、俺は一人温泉から上がる。
何でも、女の子同士で話したいことがあるとかで…。
俺は、火の番をしながら猪型のモンスターの丸焼きを作る。燃える火を見つめる。クロノ・フィリアの仲間達のこと考えながら。
『無事だと…いいな。』
ーーーーー
人族は弱い。
種族としての能力も他の種族に及ばない。
力も…頭脳も…特殊性も…。
他の種族に並ぶこと。
それは器用さ。それと、繁殖能力。そして…容姿。
争う能力はない。
争っても勝てはしないのだから。
残された道は、隠れ潜むこと。
捕まれば奴隷。
生き地獄か、死か…。
彼等に出来るのは祈ること。堪えること。
自分達を救いし救世主が現れることを…。
現れるまで堪え忍ぶ。
だが、弱い心はつけ込まれる。
【神】という名の幻想を掲示されては…。
彼等は飛び付くしかなかった。
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