第191話 一段落
少しずつ意識が覚醒に近付いていく。
しかし、まだ。起き上がるには…もう少し時間が必要だ。
自分の身体を巡る失ったエーテルが徐々に回復していくのが分かる。まるで、自然界に流れるエーテルを肉体が取り込んでいる…そんな感じだ。
【神力】を発動して2回。1度目よりも感覚…コツを掴んできた。
エーテルの波を放出し周囲の気配を探る。
俺が寝ている間に何が起きたかを知るためだ。
周辺には…魔力の気配が…多いな…1、2、3………11か…。
1つは夢伽だ。一度会話したから覚えている。
その夢伽を庇うように背中に隠しているのは…ああ。良かった。確か…詩那だったか。どうやら、【神力】での治療が上手くいったようだ。身体を巡る魔力の流れも正常だし、問題なさそうだな。
もう一人の俺との戦いの時は無我夢中で自分の腕を再生させたからな…今回は手探りだったが…まぁ、上手くいって良かった。
そして、彼女達を取り囲むように並んでいるのは…。ふむ。さっきの連中か、俺が殴った奴…まだ諦めてなかったか…仲間を率いてノコノコと。
さっきは詩那の魔力が尽きかけていたのを感じたから殴るだけに留めたが…まさか、増援を呼んでくるとは…。
それに…明らかに他の連中とは違う魔力を纏っているのが1人。あれ?。けど、コイツの魔力には覚えがあるな…。誰だ?。知ってる。…が、思い出せん。
最後に1人。
周りの奴が全員魔力を纏っているのに対し、一人だけ エーテル を纏っている奴がいる。…って、コイツも何か知ってる気配がするな。
状況が今一だが、大方理解した。
夢伽と詩那と俺を追ってきた連中。その間に割り込んできた正体不明のエーテル使い。そんなとこか?。
エーテルの波を介して僅かだが会話も聞き取れている。
『ば、馬鹿な!?。2体目の【異神】だと!?。何故【人族】の里に2体も現れるのだ!?。』
『彼女が【異神】…確かに凄い力を感じる…。』
『……………こ、来ないで…。』
『待って。この娘に何するつもりよ?。』
『危害を加える気は御座いません。怯えさせるつもりも…。ですが、私がしてしまったこと…貴女の心に傷をつけてしまったのですね…。』
『何を!?。』
『謝罪です。許されることではありませんが…私のしたこと。貴女を苦しめてしまったこと。深くお詫び致します。申し訳御座いませんでした。』
『………あ、貴女は…何をしに、ここに来たんですか?。』
『貴女に…夢伽さんへ、あの時のことを謝罪に来ました。私の目的は貴女と彼に謝罪することですから。』
『………そう…ですか。確かに私は貴女が怖いです。貴女を恨んでもいます。けど、きっと…そうしなければいけなかった理由があったんですよね?。』
『はい。未来を手にする為でした。私は自分の目的の為に貴女を利用した。貴女が望むならどんな罰でも受け入れます。』
『………もう、私に…私達に危害を加えませんか?。』
『はい。貴女がそれを望むなら。』
『………なら、私達と一緒に戦って下さい。私には戦う力が無いので…貴女の力を貸して欲しいです。』
『分かりました。貴女を守る責任が私にはあります。さて、其方の方々、如何なさいますか?。私と戦いますか?。』
『な、なんという魔力だ…。』
『…撤退する。少し考えが甘かったみたい。私達では彼女に勝てない。【白国】に報告し、戦力を整え【異神】を迎え撃つことにしよう。』
『ちっ…。だが、私の秘密を話されたのだ。だたでは引き下がれん。【石のエレメント】よ!。』
『や、やめなさい!。撤退って言ったでしょ!。勝手なことばかり!。いい加減にしなさい!。』
『はっ!。関係ないですよ隊長!。もう後には引けなくてね。俺達の秘密を知られたんだ。戻れば当然罰を受けることになる!。ならば、それを上回る成果を上げて帰れば無罪放免ってことさ!。あの男の【異神】は何かしらの理由で姿を見せないのだろう?。どうせお前達が出てきた社の中に隠れていることは容易に想像がつく。これで潰れて死ね!。』
『やめっ!。』
『ダメッ!。間に合わない!。』
『お兄さん!。』
ん?。何か此方に魔力の塊が近付いて来てる?。え?。これヤバくない?。俺防御に回せるエーテルなんて残って無いし…てか、早く起きないと直撃だぞ!これ!。早く…早く起きろっ!。
『はっ!。起きたぞ!。って!?。うごぼっ!?。』
目を覚ました瞬間に全身を襲う衝撃。
社ごと巨大な岩に押し潰された身体は社の瓦礫と岩の下敷きになった。
『ははは。やったぞ!。【異神】を倒したぞ!。』
『ああ…閃…さん…そんな…。』
『お兄さん!。お兄さん!。』
喜ぶ騎士の男と、俺を探す夢伽と詩那。
心配させてすまん。まぁ…生きてるよ。めっちゃ痛かったけど。
身体を魔力でなくエーテルが循環するようになった影響か身体そのものが丈夫になっているみたいだ。
『いってぇぇぇぇぇえええええな!。くっそっ!。目覚ましにしちゃ最悪の起こし方だぞこれ!。』
『お兄さん!。良かったぁ~。無事だったぁ~。』
『閃…さん…。良かった…。ああ。声も格好いい…。』
抱きついてくる夢伽と、頬を赤らめうっとりしている詩那。
『ああ。無事だ。災難だったがな。さて…。』
周囲を見渡す。
ああ。エーテルを纏っている奴はお前か。
【紫雲影蛇】のギルドにいた…。
『確か…兎針だったか?。』
『はい。貴方が閃さんですね。お噂はかねがね。』
『なんとなく話しを聞いてたんだが、お前は俺達の味方で良いんだよな?。』
『はい。夢伽さんがそう願ったので。この力は貴殿方の為に使用します。』
『そうか。宜しくな。』
『はい。』
深々と頭を下げる兎針。
そして…。
『で?。俺に殴られた仕返しにでも来たのか?。おっさん騎士。』
『ぐ…あの攻撃でも倒せないとは…。』
『ん?。ああ。やっぱりお前か?。白蓮のとこにいた奴だよな?。』
『え?。』
おっさん騎士の後ろにいる女。
何処かで感じたことのある魔力だと思ったが、そうそう。【白聖連合】の幹部だった奴だ。大会の実況をやってたよな?。確か…名前は…。
『奏他だったか?。』
『っ!?。……………き、君は…私のことを…知っているの?。』
『ん?。知らなくはない…か。そこまで親しい関係じゃなかったし…むしろ敵だったからな。あれ?。けど、途中から居なくなってたよな?。』
『………そう…なんだね。私の知らない記憶を持ってるんだ…。』
奏他は踵を返した。
『戻るよ。』
『し、しかし…隊長!。』
『君達が私に黙って【人族】にしていたこと。洗いざらい白状してもらうから。』
『………くっ…了解しました。』
最後に、ちらりと俺を見た奏他。
何も言わずに立ち去って行った。
『ふぅ…。何か良くわかんねぇ状況だったな…。』
俺はその場に座り込む。
目覚めは最悪だったが、一先ず…落ち着けるかな?。
『お、お兄さん。』
『ん?。ああ。夢伽か。さっきは立て続けに問題が起きたから真面な挨拶も出来なかったよな?。閃だ。宜しくな。』
『あ…夢伽です。あの、助けてくれてありがとうございました。』
『気にするな。困ってる奴がいたら助けるのは当たり前だ。俺の方こそ助けるのが遅れてすまなかったな。』
『ううん。そんなことないです。』
俺は夢伽の頭を撫でる。
背丈は瀬愛と同じくらいか。
撫でられたのが気持ち良かったのか、俺の隣に座る。
『あ…あの!。閃…さん!。』
『お前も…ええと、詩那だったよな。名前は夢伽から聞いたよ。治療はぶっつけ本番だったが、成功して良かった。傷とかはないと思うが身体は大丈夫か?。』
『は、はい!。その、あの、大丈夫、です!。助けて頂きありがとうございます!。』
『身体を張って夢伽を守ったんだってな。勇気がある。けど、自分のことも大切にしてやれよ?。女の子なんだから傷が残ったら大変だろ?。』
『は、はい…その…夢中だったので…後先考えてませんでした…。夢伽ちゃんを救いたい一心で…。』
『頑張ったな。辛かっただろ?。』
詩那の頭も撫でる。
あの全身の傷を見た時、昔の氷姫の姿と重なった。何としても救ってやりたかったから全力で【神力】を使ったが…ああ。傷はないようだし。無事で本当に良かった。
『っ!。…は…ぃ…つら…かった…です…。』
『大丈夫だ。アイツ等がまた攻めてきてもお前達には指一本触れさせねぇよ。』
『うぅ…ぁぁぁぁぁあああああん!!!。』
辛かったんだろうな。
我慢していたモノが一気に溢れたようで、詩那は俺にすがり付くように泣いた。俺は頭を夢伽が背中を撫で続け、それが10分程続いた。
『ご…ごめんなさい。服…汚しちゃった…。汚いね。』
思いっきり泣いたんだろう。
俺の服は涙と鼻水とよだれでべちょべちょになった。
落ち着きを取り戻した詩那は顔を真っ赤にして俯いている。
『気にするな。お前の心が詰まった涙だ。汚くなんかないさ。』
『はうっ!?。夢伽ちゃん!。ウチッ今、ズキュンってなった!。ズキュンって!。』
俺達の様子を眺めていた兎針に話し掛けた。
『さて、待たせたな。此方も色々あったんだ。』
『お気になさらず。むしろ出会って間もない彼女達のメンタルのフォローまで。男性としても尊敬しました。』
『そんなんじゃねぇよ…。本当の気持ちを押し込めて普通に振る舞ってるのが辛そうに見えただけだ。』
『だからです。彼女は間違いなく。今、救われました。』
『お前の目にもそう見えたんなら…まぁ。良かったよ。』
詩那と夢伽が話をしている様子を見る。
あんな目に合っても夢伽を優先したんだ。強いな。詩那は。
『それで?。兎針。お前は夢伽に謝りに来たんだよな?。』
『はい。貴殿方と白聖との戦いの時、私は嫌がる彼女を無理矢理戦わせました。あの時は貴殿方に勝つことを優先していたのです。ですが、終わってみれば白聖…いえ、私達の敗北。私の彼女へ対してしたことは許されることではありません。彼女の私への感情を二の次にしても。直接謝りたかった。』
『そうか。お前も救われたんじゃないか?。俺も短い時間しか夢伽と接していないが、アイツは素直で良い娘だ。アイツが許してくれるって言ったんだ。なら、お前の心の重圧も少しは和らいだんじゃないか?。』
『はい。仰る通りです。後は彼女の弟にも謝らなければならないのですが…居場所が分からないので…。』
『ああ。確か姉弟だったか?。俺もこの世界に来たばかりで良く分かってないんだよなぁ。』
『そうでしたか。ああ。そうです。貴方に渡すように頼まれていたモノがあります。どうぞ。』
兎針から小さな宝石を受け取る。
これ…【神獣石】だ…。神獣の力の源であり生命の核だ。しかも、この宝石から伝わる魔力は…。
『ムリュシーレアか…懐かしいな。お前がこれを持っているのはムリュシーレアに会ったって事だよな?。』
『はい。私に前世の記憶と神の力を授けてくれたのが彼女です。その時に宝石を貴方に渡すようにとお願いされました。』
『…確かに受け取った。ありがとうな。届けてくれて。』
『いえ。お気になさらず。』
『兎針は俺の知らないことを知ってそうだな。時間はあるんだろ?。これから俺達と行動してくれるってことでいいか?。』
『はい。当面の目的は夢伽さんを守ることですので。』
『そうか。心強いな。さて。』
俺は立ち上がる。
『お兄さん?。』
『閃…さん?。』
『2人とも手伝ってくれるか?。』
『うん。けど…何を?。』
『ここの村人達の墓を作る。俺達のことはその後で話し合おう。』
『っ!。そうだね。うん。頑張る。』
『沢山お世話になった人達…だったんだ。こんな野晒しじゃ辛いよね。』
『では。私もお手伝い致します。』
『ああ。助かる。』
4人で村人達の墓を作る。
墓の数は最終的に50にもなった。
彼等は奴等の犠牲になったんだ。あの騎士達…奴等を許すことは出来ない。
彼等の犠牲があったから夢伽も詩那も今生きている。感謝しかない。
手を合わせた後、手頃な石の上に腰を下ろす。
『アイツ等…ここが初めてじゃない言い方してた…。』
『ここ以外にも【人族】の里や村があって、あの騎士達は何度も襲撃していた…あの女…奏他は部下の騎士達がしていたことを知らなかったみたいだな。』
『うん。保護が目的って…。』
『はぁ…やっぱりか…。奏他に秘密で村を襲って自分達の快楽を満たしてたってか?。最低だな。奏他も部下の暴走を止められなかったのか…。保護が目的なら、こんなこと知らないじゃ済まされないだろう…。』
『閃…さんは、あの女のこと知ってるんですよね?。』
『ああ。敵だったからな。アイツのボスの白蓮と俺は戦ったんだ。白蓮の名前を出した時、奏他は反応していた。もしかしたら、今の自分の記憶に違和感があるのかもしれないな。』
『ウチと同じ…だよね。きっと。名前以外の記憶が消えちゃってる。』
『そうだな。けど、何でだろうな?。俺達と詩那との違いは?。俺と…夢伽もか。前世の記憶を持ってる。だが、詩那と…兎針はムリュシーレアに会って思い出したんだよな?。』
『はい。彼女に会う前は名前以外の記憶がありませんでした。』
なら。十中八九、リスティナの魔力の影響だよな。
この世界の情報がもっと必要だ。
『さて、腹が減ったが…この有り様じゃ食料なんて残ってないよな。』
墓を作るのに廃材を退かした。
残っているのは社が3つ。それ以外は全て燃やされてしまっていた。
そろそろ夕方だし、食料の確保は難しいか?。
『安心してください。私の蝶…ああ。因みにですが。この蝶の名前は【毒蜂蝶】と言います。蝶に命令して近くの森から食べれそうな作物を運んで来ましたので、今日一晩なら何とかなりますよ。』
『おお!。マジか。助かるぜ!。兎針!。』
『い、いえ。これくらい手間ではありませんので…。』
『何、言ってんだ?。お前が居なきゃ空腹で今後のことすら考えられなかったぞ?。兎針。ありがとな。』
『………はぃ………。』
『むぅ………閃…さんに褒められてる…ズルい。』
『私も何か役に立ちたいです。』
俺達は社の中に集めた作物を運び夕食とした。
『あの…閃…さん。』
『ん。何だ?。』
リンゴのような果実を頬張っていると詩那が話し掛けてきた。
『閃…さんのこと教えて欲しいです。』
『俺のこと?。』
『はい。夢伽ちゃんに聞きましたが、前の世界では有名人だったんですよね?。』
『んーーー。有名人というか。指名手配されてたな。』
『えっ!?。指名手配!?。』
俺は【仮想世界】での俺…いや、クロノ・フィリアというギルドや他の勢力。能力を得た経緯や神々との接触を掻い摘まんで説明した。
『因みにですが。貴女のギルド。それと貴女は良い噂を聞きませんでしたよ。』
『はぅ…やっぱりそうなの…。何やってるのよ…ウチは…。』
『そんなことになってたなんて…私、知らなかったです。白蓮お兄さんは神を警戒してお兄さん達に挑んだのですね。』
『ああ。白蓮はある意味被害者だった。全世界の人達を人質に取られていたようなもんだからな。奴は独りで戦ってたんだ。』
『そうでしたか…では、私達も神の手のひらの上だったのですね。』
『ああ。結果として神の目的は達成されたからな。あの【仮想世界】からクロノ・フィリア…いや、【創造神】リスティナの魔力を完全に消失させた。』
『その結果が今の私達…ということでしょうか?。』
『それは…分からない。この状況が偶然か神によって作られたのか…だが、少なくともここが【人族】の里で…【人族】の種族を与えられた俺や夢伽、詩那が転生した先だってことは、流石に偶然じゃないと思う。兎針が転生した先は【虫族】の国だったんだよな?。』
『はい。私の種族は【黒羽針蝶王族】でした。あの村は【虫】関係の種族が集まった小国でしたから。ああ。そう言えば。彼女…ムリュシーレアさんが仰っていました。この世界は【リスティール】と呼ばれる世界だそうです。私のいた虫族の小国でも呼ばれていたので間違いないでしょう。』
【リスティール】って、リスティナが【創造神】として創造した星の名前だよな。
なら、そういうことだよな…。
『成程な…。この世界は俺達がプレイしていた【エンパシス・ウィザメント】の舞台となった場所だ。』
なら、俺達が自分自身の種族によって転生場所が決められたことも…リスティナか、それに近しい神の仕業ってことか…。
『だが、何故俺達を【異神】として、この世界に住む住人と敵対させているのか…それがわかんねぇ。』
『ムリュシーレアさんは【絶対神】からの天啓と言っていました。』
【絶対神】…全ての元凶。
ソイツが俺達をこの世界から排除しようとしているのか?。
この世界でも排除対象ってか?。笑えない冗談だな…。
『あの…難しいことは分からないのですが…お兄さんに質問しても良いですか?。』
『ん?。何だ?。』
静かに話を聞いていた夢伽が話し掛けてきた。
『お兄さんは…これからどうするんですか?。』
『俺か?。そうだな。いつまでもここには居られないから。この世界の情報を探りつつ仲間達を探す…かな。』
俺がこうして【リスティール】に転生したんだ。仲間達もこの世界の何処かに居るに違いない。
『仲間…そ、そうですよね…。あ、あの…。』
『ん?。』
目茶苦茶真剣な表情で見つめてくる夢伽。
『こんな力のない私では一緒にいて迷惑かもしれませんが……その……お兄さんと一緒に行きたいです。お願いします!。』
『あ、う、ウチも……足手まといでしかないけど…閃…さんと一緒にいたい!。あ…行きたい!。』
夢伽の言葉に反応した詩那が慌てた様子で便乗してきた。
『何言ってんだ?。一緒に連れてくに決まってるだろ?。こんな何も無くなっちまった場所に女の子2人だけ置いていける訳ないだろう?。嫌がっても連れていってたわ。』
『あ…そうですよね…よ、良かった…。』
『やった…まだ、閃…さんと居られるんだ。』
『閃さん。もちろん私もお伴致します。夢伽さんを守るのは私の使命ですので。ああ。ついでにそっちのチョロインも守ってあげますから。』
『はぁ!?。誰がチョロインよ!。』
『貴女です。』
『はぁ!?。』
『まぁまぁ。俺達はゲームで与えられた種族。その種族が生活する場所に転生する。これは、間違ってないと思う。』
『はい。そうですね。私と閃さん達の事例しかありませんが。【人族】である皆さんが、これだけの人数同じ場所に転生したのです。偶然ではないと思います。』
『だよな。仮にこの仮説が間違っていたとしても、これに近いことが起きているのは間違いない。なら、種族の情報を集めるのが仲間達に近付く一番近い方法だろうな。………ああ。ちょっと待てよ…夢伽。』
『はい?。どうしましたか?。』
『燕には会ったか?。』
『燕さんですか?。いえ。会っていません。』
『そうか…確か、アイツも【人族】だった気がするんだが…。』
『ああ!。そうです!。その通りです!。何で気が付かなかったのでしょう!。』
『燕?。』
『私と同じギルドにいた方です。燕さんも【人族】ならここに転生していてもおかしくないです。』
『【人族】の里は幾つかあるようです。ここでお会いしていないとなると他の里や村の可能性はありますね。』
『なら、決まりだな。まずは燕を探しに、ここ以外の【人族】の里を探そうか。』
『はい。』
『そうですね。』
『何処までもついていきます。』
何だかんだで纏まってくれて良かったな。
ーーー
『あのね。閃…さん。』
『何だ?。』
食べ終えた作物の種や芯を片付けていた俺に話し掛けてくる詩那。
『あのね。お願いがあるの。』
『お願い?。』
『うん。閃…さんのこと。【先輩】って呼んでも良い?。』
『先輩?。何で?。お前の先輩じゃないぞ?。』
『何となくかな?。先輩って呼んだ方が何かしっくりくるの。』
『まあ、別に呼び方は何でも良いけどな。好きなように呼んでくれ。』
『っ!。うんっ!。ありがとっ!。先輩っ!。』
嬉しそうに跳び跳ねる詩那。
何がそんなに嬉しいのか分からないが笑顔を取り戻してくれたようで安心する。
『ねぇ。先輩。プライベートなこと聞いても良い?。』
『良いけど。答えたくないモノは答えられないぞ?。』
『うん。それでも良いよ。あのね。先輩って彼女…とかいるの?。』
これまた。随分と踏み込んだ質問を。
『へへへ。夢伽は知ってます!。お兄さんの恋人は智鳴お姉さんです!。』
『え!?。夢伽ちゃん!?。』
『ああ。夢伽は智鳴を知ってるんだったな。』
『私も知っています。私と戦っていたのが彼女ですから。狐の方ですよね?。』
『ああ。兎針も知ってたのか。そうだ。智鳴は幼馴染みの1人でな。小さい時から一緒で、家も隣同士だったんだ。』
『幼馴染みでお付き合いできるなんて…仲が良かったのですね。』
『ああ。ずっと一緒だったからな。それにアイツは性格が素直だから…裏表がないから素を見せてくれるんだ。そこが凄く安心する。』
すると、ふらふらと頭を揺らした詩那が夢伽に寄り掛かった。
『ですよねーーー。先輩格好いいし…彼女くらいいますよね…。ええ。分かってました。はい。ははは…。それくらい…気付いてましたぁぁぁ…はぁ…。』
『ああ。申し訳ありません。閃さん。』
『え?。あ、な。何だ?。』
『うわぁぁぁぁぁあああああ!。蝶女に話し逸らされたぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
『お伝えすべきことを1つ失念していました。』
『伝えること?。』
『はい。閃さんは【樹界の神】と呼ばれる【異神】をご存じでしょうか?。』
『【樹界の神】………。』
その名前は…もしかして。
【異神】はリスティナの魔力を受け転生した者、つまりは俺達の仲間だ。
俺の仲間で【樹界の神】なんて呼ばれる奴は1人しかいない。
『美緑か…。』
『美緑さんですか…確か【緑龍絶栄】のギルドマスターだった方ですよね?。』
『ああ。色々あって俺達の仲間になったんだ。まぁ、話を戻すことになるんだが…美緑は俺の恋人でもある。』
『っ!?。』
『あれ?。智鳴お姉さんは?。』
『恋人だな。』
『美緑さんは?。』
『恋人だな。』
『……………恋人が2人も?。』
『まぁ…な。』
『流石です。閃さん。英雄色を好む。最強ギルドのエースなら恋人が2人や3人いても不思議ではありません。』
『………11人だ。』
『え?。…じゅういち…にん…?。…………。』
『……………。』
『……………。』
暫く沈黙。
『…多いですね。』
『そうだな。普通ではないのは理解している。だが、全員を等しく愛するって約束したからな。誰が何と言おうとアイツ等は俺の恋人だ。』
『因みにですが…どの様な経緯でそのようなハーレムが築き上げられたのですか?。少し興味があります。』
『ふむ。ちょっと長くなるんだが…。』
俺は俺自身ですら全貌を把握していない【にぃ様大好きクラブ】なるクラブについて俺の知り得る知識を集結させ説明した。
恋人になった経緯や各々に行ったこと。
思い出してみると…結構、楽しかったんだと理解させられる。
アイツ等に会いたいな…。そして、仲間達も含めて、あの時のような毎日を取り戻したい。
『ゴリ押しですね…。』
『ああ。俺の妹が暴走してな。』
『お兄さんの妹お姉さん…怖い…。』
『ウチ………頑張るっ!。』
一通り話し終わり夜も更けてきた頃。
寝る前にある計画を実践することにした。
『皆。ちょっと来てくれ。』
俺は寝る準備をしていた3人に声を掛けた。
社の中には大きな布が何枚か収納されていて、それを敷き布団代わりにすることになった。
『どうしたの?。先輩?。』
『何ですか?。お兄さん?。』
『如何なされましたか?。閃さん?。』
俺の計画、それは…。
『夢伽と詩那に服を作ろうと思ってな。いつまでも、そんな布切れを服代わりに出来ないだろ?。明日から長い旅になるかもしれないんだ。ちゃんとした服が必要だろ?。』
『え?。先輩、服を作れるの!?。』
『でも、布も糸も針もないよ?。』
『神の力を使う。俺の服を見ろよ。これも俺が【神力】を使って作ったんだ。』
『そう言えばそうですね。閃さんは最初からその衣類を身に付けていたので気になりませんでした。』
『そこでだ。何か要望はあるか?。作れるのは俺の知識にある服だけなんだが。恋人達に服をプレゼントしたこともあるから大抵のモノは作れるぞ。』
『こ、恋人って…11人いたんですよね?。その人達全員に作ったんですか?。』
『ああ。大変だった。あの時は【神力】なんて使えなかったから手作業で頑張った。』
『お兄さん。凄いですね。』
『で、どんな服が良い?。』
『あ、あのぉ。先輩。』
『何だ?。』
『先輩に任せちゃ…だめ…かな?。ウチに似合いそうな服を先輩が仕立てて欲しいんだけど。』
『ああっ!。良いですね!。それ!。私もお願いしたいです!。』
『マジか?。』
『うん!。』
『はい!。』
『文句は受け付けないぞ?。』
『言わないよ。けど、先輩が私に似合うと思った服にしてね。』
『私もです。文句は言いません。お願いします。』
キラキラとした期待に満ち溢れた眼光。
何か灯月達を思い出した。
『分かった。でだ。作るにあたって問題が1つ。』
『何ですか?。』
『兎針。』
『はい。』
『2人の採寸を頼んでも良いか?。』
『ああ。成程。だから私も呼んだのですね。畏まりました。お引き受けします。』
『すまんな。流石に2人も男の俺に身体を見られるのは嫌だろ?。だから、お前に頼みたい。』
『構いません。ですが…あの2人なら逆に喜びそうですが。』
『…それはないだろう?。今日会ったばかりの男だぞ?。いや、この話しは止めよう。メジャーとか無いけど大丈夫か?。』
『問題なしです。私の蝶を使えば長さも簡単に導き出せます。貴方は外で待っていて下さい。』
『ああ。頼むな。』
俺は社の外に出る。
満月が3つ。満天の星空。
周囲を見渡す。
そこは一面に兎針の蝶がヒラヒラと舞っていた。月明かり反射して淡く輝く。幻想的な光景だった。
『兎針。有り難いな。こうやって周辺を蝶を使って警戒してくれていたのか。』
俺は社の襖を背にし座る。
てか、アイツ等の声が大きい。相当、大きな声で会話しないと聞こえない筈なのに…。
『夢伽さんはお年よりも発育が良いですね。肌も綺麗ですし。成長すれば素晴らしいスタイルになりますよ。将来が楽しみですね。』
『えへへ。ありがとうございます。嬉しいです。けど、私達って成長するんでしょうか?。』
『どうでしょう?。ですが、神様がいるんです。どんな事でも可能だと思いますよ。』
『そうですね。早く大きくなりたいです。そうすれば…お兄さんに…。』
『ふふ。応援してますね。』
『あれ?。もしかして、気付いてました?。』
『ええ。ですが、それも仕方がないことです。身の危険から助けられ、身の回りのことまで気を使って頂ける殿方。ときめかない訳がありません。』
『はい。いつか…恩返しがしたいです。』
何か聞いてはいけない会話だった気がする…。
『はい。腕を上げて下さい。』
『はいはい。』
『ああ。バスト89ですか。駄肉ですね。食べた栄養が全て胸に吸い取られてます。可哀想に。』
『はぁ!?。何言ってんのよ!。てか、勝手に揉むなし。』
『はぁ…。ウエスト55ですか…。細すぎます。やはり、吸い取られていますね。』
『喧嘩売ってる?。売ってるよね?。てか、あんたの胸は随分と慎ましいじゃない?。ウチが羨ましいんでしょう?。』
『あら?。その駄肉のような無駄がないと言って頂きたいです。閃さんの大きな手。その手のひらにぴったりとおさまる膨らみです。きっと満足してくれます。』
『先輩に何する気だよ!。蝶女。』
『ふふ。秘密です。駄肉。』
『わわわ。何故かお姉さん達の間に火花が見えます…。』
俺は何も聞いてない。
『さて、じゃあ始めるな。【神力】を発動した後、俺は気を失っちまうんだ。後のことは任せる。』
『はい。任せて下さい。』
『よし。じゃあ…行くぞ。』
エーテルを集中する。
使うのはリスティナの【神力】。
【創造神】の力を行使。創造する物質のイメージ。材質、質感、大きさ、装飾。それら全てを脳内に想像しエーテルで物質化させる。
神の意思は必ず現実へと発現する。
それが…どんなにか細い願いであっても、現実離れした過剰な願いであったとしても…。
よし。成功だ。
目の前には2人分の衣服。
彼女達に似合うと思って創造した。
着たところをみたいけど…もう、限界みたいだ…。また、来た…意識が…遠退く…。
『すまん。あ…と…頼んだ…。』
そのまま俺は意識を失った。
ーーー
『わわわ。』
『先輩!。おっとと!。』
『閃さん。危ないです。』
気を失い倒れ掛けた閃の身体を支える3人。
『こっちに寝かせましょう。』
『おいしょ!。おいしょ!。』
『ふぅ。何とかなった。』
閃を寝かせた3人。
『よいしょ。』
『おいこら。蝶女。何してる。』
『何の事でしょう?。私はこのままでは閃さんの頭が床に当たって痛いだろうと思いまして膝枕をして差し上げようと。』
『あんた。朝まで膝枕するつもり?。』
『いいえ。貴女方が寝静まった後に閃さんの隣に移動するつもりです。』
『はぁ?。そ、そんなことさせないし!。』
『良いなぁ。私もお兄さんの隣で寝たいなぁ。』
『良いですね。夢伽さん。左側にどうぞ。私は右側へ。』
『ちょっと待て。ウチだって。隣が良い。』
『駄肉が邪魔です。』
『何だと?。てめぇ!。』
『お姉さん達。喧嘩はダメです。皆で寝ましょう!。』
『はい。夢伽さんがそう仰るなら。』
『むぅ。まぁ…夢伽ちゃんが言うなら…。』
ーーー
意識の覚醒。
身体に違和感を感じる。
ん…何か…暑いな?。てか、動けない?。
身体に掛かる重量感。両手両足が拘束されているような…。
『な、何だ?。』
目を開ける。
頭を持ち上げ自分の身体を確認。
『どうしてこうなった?。』
3人が静かに寝息を立てていた。
胸の上で穏やかな寝顔を向けている夢伽。小柄だからか思ったより軽いな。
左側には俺の腕に抱き付いて、左の足に自分の足を絡めた詩那。大きな胸が押し付けられて感触が…柔らかいな。
右側には兎針。詩那と同じようにくっついているが、俺の腕の中に自分の身体を入れ俺が抱きしめているような状態になってる。手が兎針の両手に包まれているせいで腕ごと動かせないし…。
おかしいな。確か寝床は4人分用意した気がしたんだけど?。
重ねられた布は敷布団のように敷かれ、残りは枕代わりに俺の頭の下に丸められていた。
俺が気を失ってから何があってこの状態になったのか…。
『………よし。』
二度寝だ。
俺は何も考えずに目を閉じた。
次回の投稿は3日の日曜日を予定しています。