第189話 詩那
ーーー詩那ーーー
ああ…空が…青い…。
仰向けに倒れる身体。
上を向く顔。視界いっぱいに広がる青空。
騎士達から夢伽ちゃんを逃がすために自分を犠牲にした。
ウチの能力は 予め触れたモノに自身の魔力を通わせ、身体から離れた時にその能力を強化する というもの。
簡単な話、そこら辺に落ちている石に魔力を通わせて投げると凄い速度と威力で飛んでいく。そんな能力。
使いどころが難しいクセの強い能力。強化したところで同じレベル以上の能力を持っている奴等には決定打を与えられないどころか防がれてしまう。結局、数の暴力の前には為す術がない。
『こん…な…短い…時間で…ここまで…するなんて…どんだけ…おん…な…に…うぐっ…飢えてんだよ…。くそっ…。』
村の人達に貰った着物。
綺麗な色で染めてくれたお気に入りだったのに…引き裂かれて…踏まれて…汚されて…ぐちゃぐちゃ…。
ウチが抵抗しないと分かった途端、着物は剥ぎ取られて一瞬で全裸にさせられて…全身がボロボロ…そよぐ風でさえ身体にしみる痛みに変わる。
『男臭い……………おと…こ…なんて…キライ…。』
不快な臭い。全身が痛い。
男達に散々、弄ばれて…。
もう…力が…入らないや…。
指一本動かせない…。意識も薄れてボーッとする。
けど…痛みだけは、はっきり感じて…。
『…辛い…よぉ…。』
ああ。涙は流れるんだ。
ウチ…きっと…記憶を失う前に悪いことしたんだ…だから、きっと罰が当たったんだ…。
そんなことを考えていると、少しずつ。痛みも薄れてきた。
全身が寒いのに…お腹だけが熱い。
トクトクと流れる血…。横に落ちてるナイフ。
『お…なか……いた…いなぁ…。』
ウチを襲っていた騎士達は突然、何かを感じ取りウチを捨てて何処かに消えてしまった。
何があったのか?。夢伽ちゃんが見つかった?。理由は分からない。
けど…ウチはもう限界だった。
もう…死ぬのかな…。
村の人達は皆死んじゃったのかな?。
凄く良い人達だったのに…。
夢伽ちゃんは逃げられたのかな?。
死にたくないな…。
怖いな…。
独りは嫌だな…。
ウチは誰なの?。
色んな気持ちが溢れる中…最後に口にした言葉は…。
『誰か…助けて…。』
だった。
『ああ。待ってろ。絶対、助けてやるから。』
『お姉さん…良かった…まだ。生きてるよぉ…。』
急に浮遊感を感じた。
誰かに抱き抱えられてる?。こんなボロボロになったウチの身体を?。
それに夢伽ちゃんの声が聞こえたような?。
ぼやける視界に微かに映ったのは…とても…格好いい…男の人だった。
この人…凄く…安心する匂いがする。
その横顔を眺めていたウチは…自然と意識を失った。
ーーー
『あれ?。ウチ…何して…。』
ウチは目覚めた。
薄暗い視界。何か覚えがある光景。
ああ。そうだ。ウチが初めて目覚めた時と同じ場所。
お爺ちゃん達は【神の社】って言ってたっけ。
『ウチ…どうしたんだっけ?。』
上半身を起こす。
パサッと布が落ちる。って…ウチ、服着てないんだけど?。っと、慌てて胸元を布で隠す。
そして、足元…いや、正確には太股に寄り添うように抱きついている夢伽ちゃんに気付いた。
『あ…良かった…無事だった…。』
え?。無事?。
そうだ。ウチ達は…。
徐々にこれまでの出来事を思い出してきた。
あれからどうなったの?。
何でウチはここに居るの?。
様々な疑問が浮かぶが一番驚いたのは…。
『傷…が…無くなってる。』
身体中ボロボロ。かすり傷、切り傷、それにナイフで刺されたお腹の傷まで綺麗に治ってる?。痕すら残ってない?。
『何が…起きたの?。』
『ん…んん…。ん?。あっ!。お姉さん!。起きたんだ!。うわぁぁぁぁぁあああああん!。よがっだぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
ウチが目覚めたことに気付いた夢伽ちゃんが泣きながら抱きついてきた。
どうやら、夢伽ちゃんは無事だったみたい。
けど…どうやって騎士達から逃げ切ったの?。
『あの…夢伽ちゃん…あれから何があったの?。騎士達は?。それに私はどうやって助かったの?。』
この場で全てを知っているのは…夢伽ちゃんしかいない。だから、つい質問攻めにしてしまった。
『ん…あのね。お兄さんが助けてくれたの。』
『お兄さん?。』
『うん。そこに居るよ。』
夢伽ちゃんの指差す方。
この建物の隅で横になっている男の人。
『あ…この人…。』
ウチが気を失う前に見た…格好いい人…。
『お兄さん凄かったんだよ!。騎士の人達を皆一撃で倒しちゃうし、リーダーっぽい人を森のずっと向こう側まで吹っ飛ばしちゃうし!。私やお姉さんの身体の傷を治しちゃうし!。』
興奮気味に早口で喋る夢伽ちゃん。
『この…人が…助けて…。くれた?。』
近付いていく。
『どうして、この人は寝てるの?。』
『良く分からないけど…私とお姉さんを治した途端に気を失っちゃったの。ここまで、お姉さんと私を運んでくれて、「治療したら俺は暫く動けなくなる。ここに居れば安全だと思うが、くれぐれも用心してくれ。」って言われたの。』
そうだよね。死にかけてた身体を治療してくれたんだし…それなりの代償があるのかもしれない。
ウチは寝ている男の人の頬に触れる。
寝顔が凄く少年みたいで可愛いと思ってしまう。
『助けてくれて…ありがとう。………そういえば…この人の名前は?。』
『えっと…確か…閃さんって聞いた気がするよ。』
『閃さん…。早く目覚めると良いなぁ…。』
彼のことをもっと知りたい。
『夢伽ちゃんは彼のことを知っているの?。』
『うーん。お兄さんの仲間の人と知り合いなの。ちょっと悲しいことがあったけど…。お兄さんも私の知り合いと仲間だし。間接的な知り合い…みたいな感じかな?。お兄さんについては私も初対面って言っても良いレベルだよ。』
『そうなのね…。』
彼は何者なのかな?。
どうして私達を助けてくれたのかな?。
知りたい…知りたいなぁ。
………何か…凄くドキドキするんだけど…。
胸が…ドキドキする…これって…。
『お姉さん?。』
『はひっ!?。』
『わっ!?。びっくりした。急に変な声出すと驚いちゃうよ?。』
『あ…ごめんね。ちょっと自分自身に驚いてた。』
『ん?。どういうこと?。』
『今は…言えないかなぁ…。』
『そうなんだ。何かあったら教えてね。助けになるよっ!。』
『あ…ありがとう。』
ウチ…チョロくね?。
助けられただけなのに?。もしかして…惚れた?。会話したことも、どんな人なのかも分からないのに?。しかも、さっきまで男なんて嫌いとか言ってた癖に?。
『うわうわ~。ないわ~。』
『お姉さんが壊れた…。』
うん。ウチ…壊れました…。
それから、ウチと夢伽ちゃんはこれからについて話し合った。
けど…ウチ達は、自分が置かれている状況を全く知らない。そんな2人の話し合いが進む筈もなく、途方に暮れる。
『外の…村の様子はどうなったの?。』
『………。見ない…方が…良いと…思うよ?。』
『………そんなに…酷いの?。』
『………。うん。』
覚悟を決める。
村に住みようになって1年近く。
住人の数はそこまで多くない。全員の顔を覚えている。何も覚えていないウチに、とても良くしてくれた。
襖を開ける。
夢伽ちゃんは外を見ない。
『っ!?。』
鼻につく異臭に思わず目眩がした。
何かが焦げた臭いと…腐ったような臭い。
『あ……。うっ…。』
そこにウチの知っている村は無かった。
崩れ倒壊した家と村人だった人達の遺体。
人の形を保っていない。バラバラな…人間の…パーツ。
『そ、んな…。お爺ちゃん…。うぐっ!?。』
慌てて口を押さえる。
胃の中のものが逆流し口の中にまで戻ってくる。幸いなのか。胃の中には何も入っていない。胃酸の酸っぱい独特の味が口の中に広がった。
『お姉さん。無理しないで。』
ウチの身体を社の中に引っ張り入れた夢伽ちゃん。静かに襖を閉める。
『はぁ…はぁ…。うっ……。』
涙が止まらない。
何でこんなことになったの?。
『お姉さん。』
背中を擦ってくれる夢伽ちゃん。
その小さな身体を抱き寄せてウチは泣いた。
そんなウチのことを受け入れ背中を擦り続けてくれた。
どっちがお姉さんか分からないわ…。
『ごめん。夢伽ちゃん。』
『ううん。私もさっきは緊張してて何も考えられなかったけど…改めて、この村を見て泣いちゃったから…。』
『そう…なんだ…。これから…どうしよう…。』
『私達の能力じゃ、さっきみたいに襲われたら何も出来ないもんね。』
『そうだね。』
『この世界がどんな所かも分からないし。』
『…前にも聞いたけど…夢伽ちゃんは…その この世界 じゃない場所の記憶があるんだよね?。』
『うん。私は多分死んじゃったの。けど…目覚めたらここに…この世界に居たから。』
『なら…ウチも…死んじゃったのかな?。全然、記憶が無いけど。』
『お兄さんなら…何か知ってるのかな?。』
『お兄さん…閃…さんのこと?。そう言えば知り合いの知り合いって言ってたよね?。』
『うん。実際に話したのは今日が初めてだったけどね。お兄さんは…ううん。お兄さん達は前の世界では有名人だったから。』
『そんなに凄い人なの?。』
『うん。凄く強いって皆言ってたよ。さっきも騎士の人達を余裕で倒しちゃったし。』
『それでいて…私の傷を治すことも出来るなんて…本当に凄い人なんだね…。』
閃…さんの顔を見る。
静かな寝息。少年みたいな顔。
つい。眺めてしまう。
『前の世界のこと…夢伽ちゃんが知っている範囲で良いから教えてくれない?。』
『うん。良いよ。…って言っても、私もあんまり詳しくないんだ。周りは敵だらけだったから、玖霧お姉さん達に…あ、私と同じギルドだった人ね。ギルドは仲間達のことで、その人達に外に出ないように言われてたから。』
『ええ。それで良いよ。』
夢伽ちゃんの説明。
その世界の人達は、突然不思議な能力を使えるようになった。その原因は夢伽ちゃんは知らないと言っていた。
気付いたらゲーム?。と呼ばれる遊具の中で使っていた能力が現実の世界で使えるようになっていたらしい。
人々は、その能力を使って争いだして、平和な日常が崩れ去る。
ゲームの中で仲の良かった者同士で集まって自分の身を守った。
そして…。
『私は、お兄さん達と戦って負けたの。そして、死んじゃった。あっ…お兄さんの仲間が私を敵として殺した訳じゃないよ?。私は別の人に操られちゃったんだ。そうなった私を救う方法が殺す方法しかなかったの。だから…お姉さん達は…私を…私達を呪縛から解き放ってくれたんだ…。』
『もう…大丈夫。ありがと。色々教えてくれて。』
『うん。』
ウチは夢伽ちゃんの肩を引き寄せ頭を撫でた。さらさらの髪の触り心地が気持ち良い。
『そっかぁ…。じゃあ、ウチの能力も前世から受け継いだモノなのかなぁ~。』
話題を変える。
嫌なことを思い出させちゃったから…少しでも気が紛れる話しに変えたかったから。
『そうみたい。けど…完全に同じって感じじゃないみたいなの。』
『どういうこと?。』
『私はもっと色んな能力を持ってたんだよ。ゲームの時は頑張ってモンスターを倒して色々な能力を取ったの。けど…今残ってるのは1つだけ。モンスターを倒して手に入れた能力じゃなくて…自分が自然に覚えた能力。』
『そうなの?。じゃあ、ウチのもそうなのか?。』
『うん。お姉さんの能力は私の能力の1つ上で覚えられたヤツだから覚えてるよ。【人族】は強化することが得意な種族だったから。』
『その種族って沢山あったの?。』
『うん。数え切れないくらい。その中で一番のハズレが【人族】だったんだ。』
『あぅ…そうなんだ…いや、そうだよね。ウチの能力…微妙だし。お爺ちゃん達も、【人族】は他の種族と争えば滅んでしまうって言ってたし…この隠れた村も他の種族から見つからないようにこんな森の中にあるって言ってたもんね。』
『そうなの。その得意な強化も結局他の種族に抜かれちゃうから…。』
『はぁ…それは…ハズレだねぇ。ん?。けど…ここに居るってことは、閃さんも【人族】だよね?。』
『そうみたいだよ。身体も人族のモノだし。』
『それなのに…あの騎士達を倒しちゃったの?。しかも、ウチの傷を治して?。』
『あの騎士達がお兄さんのことを【人神】って呼んでたの。それと、お兄さんが使ってたエネルギーは…魔力じゃなかった気がする。』
『魔力じゃない?。』
『うん。もっと強いエネルギーだったの。お姉さんを治療したのも、そのエネルギーを使ってた。』
『へぇ…。』
不思議な人…。
そんな凄い人がウチを助けてくれたんだ…。
ますます…話してみたくなってきた。
『………。』
『………。』
暫くの間、無言の時間が流れる。
自然と閃…さんの左右に腰をおろしているウチ達。
『アイツ等は…何者なのかな…。』
ウチ達を襲ってきた騎士達。
私の身体を好き勝手に弄んだ最低の連中。思い出したくないけど、これからのことを考えたらアイツ等のことは必要な情報になってくる。
アイツ等に触れた全身に鳥肌が立つ。両肩を抱くように擦った。
『分からない…けど。【人神】を探してるみたいだった。ううん。【人神】を討伐するのが目的なのかも?。』
『【人神】って…閃…さんのこと…だよね?。閃…さんを狙ってるってこと?。』
『う…ん。多分?。【異神】っていうのが良く分からないし…私にもその反応を僅かに感じたって言ってた。…お兄さんが騎士達の前に立った時、あの人達凄く驚いてたし…。』
『これも…閃…さんに聞いた方が早いのかな?。』
『そう…かも?。』
『はぁ…結局…ウチ達に出来ることはないのが悔しいね。』
『うん…。悔しい…。』
ウチと夢伽ちゃんの間に流れる暗い空気。
『っ!?。』
『何っ!?。』
2人同時に何かの気配を感じた。
『誰か…外にいる?。』
『うん。それも複数。』
【人族】の 気配を感じ取る力 で社の外の気配を察知する。
『誰だろう…。』
『想像したくないけど…さっきの連中の仲間じゃない?。』
ゆっくりと襖を開け外を見る。
そこには数人の騎士。数は………10人か。その中の一人は…全身に包帯を巻いた男。
『あの人…お兄さんに殴り飛ばされた人だ…。』
ああ。だから包帯なんだ…。
そして、明らかに他とは違う魔力を纏っている女。アイツがリーダーかな?。
『あれ?。あの人…知ってる。見たことあるよ。前の世界で。』
『え?。あの女?。』
『うん…名前…何だったかな?。話したことないから…。』
どうやら連中は何かを探しているようだ。
何か?。決まってるよね。
閃…さんのことだ。
僅かに開いた襖からアイツ等の会話が聞こえてくる。
『酷い…ね。これ…。』
『はい…我々も必死に抵抗したのですが…【異神】の力は我々の想像を遥かに越えたモノでした。ここに住んでいた村人達の保護は快く受け入れられた矢先…【異神】によってこのような惨劇に…。』
『これが…【異神】の…力…。けど…残留魔力は、貴方達のモノしか残っていないようだけど?。貴方達を退ける程の力が行使されたのなら痕跡くらいは残ってるものだけど?。』
『そ、それは…【異神】と言っても【人神】…出来ることは肉体を強化するだけです。内効魔力は体外に放出されにくいので…。』
『…じゃあ、何でこの村、燃えてるの?。』
『それは……。』
『何か、私に隠してる?。』
『……いえ……そんなことより!。まずは【異神】です!。奴を野放しには出来ません!。現に我々の部隊は私を残し奴に全滅させられたのですから!。』
あのホラ吹き野郎…自分達がしたこと全部、閃…さんに擦り付けやがった!。
ゆるせねぇ~。
会話からアイツ等の本当の目的は村の人達を
保護することっぽいけど…あの女以外の独断的な行動?。部下達が【人族】を無惨に殺していることを女は知らされていない。
その証拠に、あの隊長っぽい女は疑いの目を男に向けてる。アイツなら話が通じるかもしれない。けど…部下を制御出来てないってことだし…信用できるのかな?。
『隊長。あそこに見える複数の建物をご覧ください。全てが燃え崩れた廃家の中にあり焦げ痕すらついてない社。あれが【異神】が潜んでいると思われる場所です。』
『っ!?。』
夢伽ちゃんと顔を見合わせる。
アイツ等…やっぱり閃…さんを狙ってる。
『奴はこの中の何れかに隠れている。1つ1つ破壊していきます。』
『………そうだね。まずは与えられた任務から遂行しないとだね。…気が進まないけど。』
『ふぅ…では、始めましょうか。』
アイツ等…社を破壊し始めた。
4つの柱に貼り付けられている御札のことも知ってるみたいだし…何なの?。
この社は魔力による衝撃や攻撃には強いけど純粋な物理的な攻撃には弱いみたい。
騎士達は魔力を使わず巨大な岩で社を押し潰して破壊していく。
『このままじゃ。マズイよ。お兄さんはまだ動けないし。』
『………ここからじゃ、社から出た瞬間にアイツ等に見つかっちゃう…。』
『お兄さんを起こすしか……』
夢伽ちゃんが閃…さんに近付き、その身体を揺する。
『お兄さん!。お兄さん!。起きて!。敵が来てる!。』
『……………。』
『ダメ…気を失ってる…。』
反応のない閃…さん。
こうなったら…賭けるしかないかな…。
あの女なら、もしかしたら…。
『夢伽ちゃん。手伝って。』
『え?。』
夢伽ちゃんに耳打ちする。
『うん。やってみよう。』
ウチ達は襖を開け外に出る。
『なっ!?。お前達はさっきの異端者!?。』
ウチ達に気づいた騎士達。
あっという間に10人の騎士達に取り囲まれた。
『…異端者?。何それ?。』
『【異神】に連なる者ということだ!。』
堂々と言い放つ騎士。
【異神】に連なる者…閃…さんの関係者ってことだよね?。ちょっと…嬉しいかも…。
『彼女達が…。けど…普通の【人族】に見えるけど?。何で、彼女達は【異神】に殺されてないの?。』
リーダーの女が騎士に疑問を投げ掛ける。
そう、あの女は騎士達の行動に不信感を抱いているみたい。
ここで真実を伝えれば逃げるチャンスが出来るかもしれない。
『そんなの簡単よ。この村の人達を殺したのは、貴女の横にいる騎士とその仲間達なんだから。』
『っ!?。』
『ばっ!。ち、違います!。奴等は嘘を言っている!。』
『嘘じゃないよ!。私達を助けてくれた命の恩人達に酷いことして…しかも…村に火を放つなんて…。』
リーダーの女の顔が騎士に向けられる。
『確かに…この場には貴方達以外の魔力を感じないよね?。もしかして…私に嘘の報告をした?。』
『滅相もありません!。それに【異神】の反応は貴女様もご存じの筈ではありませんか!。この娘達が、この場を乗り切る為に虚言を繰り返しているだけです!。』
『………。』
『お前達!。あの娘達を捕えよ!。最悪殺しても構わん!。』
男の言葉に残り8人の騎士が剣を構えウチと夢伽ちゃんに近付いていく…。
くそっ…もう、形振り構ってないわ…。どうすれば…。
『お前達!。止めなさい!。』
『それは出来ません!。【異神】に関わり、更に匿った疑いのある者達です!。貴女が何と言おうと他の【人族】のように保護することは出来ない。捕えよ!。』
『…わかりました。ですが、なるべく無傷で捕えなさい!。』
騎士達が迫る。
重たい鎧が擦れる金属音がウチに手を伸ばした。
『お姉さん…。』
『ごめん…失敗だったみたい…。』
夢伽ちゃんを後ろ隠す。
『させません。』
『っ!?。』
『これは…蝶々?。』
別の女の声。
気付けばウチ達の…いや、この場にいる全員の周囲にヒラヒラと飛び交っている蝶々。
『な…何だ?。これは!?。蝶?。』
騎士達も困惑している。
そして、次の瞬間。
『なっ!?。止めろ!?。何を、ぎゃぁぁぁあああ!!!。』
『か、身体が勝手に!?。』
『動く!?。』
2人の騎士が他の騎士に斬りかかり始めた。
いったい。何が起きてるの!?。
『はぁ…はぁ…。こ、これ…あの…人の…はぁ…はぁ…。』
ウチの服を掴んで怯えるように震えている夢伽ちゃん。
『無事な者は一度距離を取りなさい!。早く!。』
リーダーの女の指示に従い無事だった騎士達がウチ達から離れた。
すると、間に出来たスペースに漆黒の…光によって色を変えるドレスに身を包んだ女が現れる。その背中には蝶々の大きな羽が生え、額に小さな触角がある。
『誰です?。貴女は?。』
『お初に御目にかかります。私、兎針と申します。…あら?。貴女は初めましてではありませんね。あまり会話をしたことはありませんが、この場合は、お久し振りですと言い替えておきましょうか。』
リーダーの女が顔をしかめた。
兎針?。知らない女…けど…。コイツは…リーダーの女を知っているっぽいけど…。
『やっぱり…あの…人…だ…。』
弱々しい声。
顔色の悪くなる夢伽ちゃん。
その震える身体を抱き寄せて、再び女を見る。
あの女を夢伽ちゃんは知っている。
じゃあ、前の世界で出会ってるってことで…この怯えようは…。
この…女…敵…?。
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