第188話 夢伽
ーーー夢伽ーーー
目が覚めた私は独りだった。
木で造られた建物の中で独り。
最後の記憶は弟の儀童と一緒に死んだところ。
気付いたらこの場所に居たの。
ステータス画面もアイテムBOXも何もない。
生きていた時…は語弊があるけど。…うん。死んじゃう前に使っていたスキルも使えなくなってた。
唯一、扱えるのは 自分以外が発生させた能力を強化する ことだけ。独りじゃ使えない…ダメなスキル。
死んじゃう前は弟のスキルを強化して強いロボットを操っていた。けど…弟が今何処に居るのかも分からない。
それ以前に自分が置かれている状況すら分かっていない…。
『儀童…。お姉さん…。』
智鳴さんと機美さん。
私と儀童が最期に戦った相手…本当は戦いたくなかった。けど…命を削る能力強化の薬を飲まされて…そして、操られてしまった。
結局、戦いになって…お姉さん達に倒された。
最後に私達姉弟に泣いてくれた2人のお姉さん。私達を救えなかったことに涙を流して悲しんでくれたことが…嬉しかった。
『会いたいよぉ…。………………………ん…頑張る。』
悲しい気持ちを押し殺して冷静に行動する。
建物の中を散策した。
気付けば私は丸裸だったから。
アイテムBOXが無くなってしまったから着るものも消えてしまった。
何か無いかと探していたら大きい一枚の布が見つかった。
『あっ。これなら何とかなるかも。』
布を身体に巻き付けて簡単な服にする。
ハサミとか糸と針があればもっと動きやすい服に出来るのに…。
『ここ…何処なの?。』
周囲を見渡しても分からない。
『取り敢えず。外に出よう。うっ!?。』
大きな襖に手を掛けて左右に開く。
薄暗い場所に居たせいか目に入る眩い太陽の光に強い刺激を受ける。
外は凄く広かった。
木製の家が転々と並ぶ、小さな村。
キラキラと太陽の輝きに照らされる綺麗な川が流れていて、その水で女の人達が衣類を洗っている。その周りを子供達が楽しそうに駆け回っていてた。
遠くの方には畑が見えて緑色の作物が実っている。老人達が作物を篭に入れている。
男の人達は遠くに見える森から狩猟で取って来た猪のような動物を運んでいるし…。
何だろう。
昔の…教科書で見た昔の人達みたい…。
『お?。おお?。おおおおお!!!。』
『えっ!?。』
私の姿を見た1人のお爺さんが涙を流しながら近づいてきた。
え?。え?。何?。怖いよ?。
おろおろしている私に手を合わせて拝み始めるお爺さん。
『あ、貴女様のお名前をお聞きしても宜しいですかな?。』
『え!?。あ、あの…夢伽…です。』
『夢伽様ですか!。貴女様は【人神】様で在られますか?。』
『え?。何ですか?。それ…知らないです。』
『知らないと…しかし、僅かに【神柱】に反応があったのですが…。』
村の中心にある小さな噴水。
その更に真ん中に聳え立つ大きな石の柱がある。
あれが【神柱】?。
『知りません。ここは何処ですか?。』
『おやおや。貴女様も記憶が無いのですね?。』
貴女様 も ?。
『お爺ちゃん。その娘困ってるよ。あんまりがっつくと嫌われちゃうよ?。』
お爺さんの後ろから一人の女の人が話し掛けてきた。
ここから見える村の人達とは違う。金髪のショートカットが綺麗に輝いている。凄く綺麗な人だった。
『そんなことはありません。ワシはただ、この方も貴女様と同じく記憶が無いようなので、この村のことを教えてあげようとしただけですぞ。』
『そうなの?。じゃあ、案内するわ。ねぇ。貴女、お名前は?。』
『夢伽…です。』
『夢伽ちゃんかぁ。良い名前だね。それに可愛い。』
建物の入り口に立ち尽くしていた私の腕を取りお姉さんに引き寄せられた私は優しく抱きしめられた。
甘くて良い匂いがした。それに柔らかくて優しい感じがする。
『さあ、此方へ。お腹もすいているでしょう?。たいした持て成しも出来ませんが、どうか、おくつろぎ下さい。』
『安心して良いよ。ここ、貧しいけど良いところだから。』
『は、はい…。』
お姉さんに手を引かれて案内されたのはお爺さんの家。そこには何人もの人が集まっていて次々に料理が運ばれていた。
何かのパーティー?。
『こっちおいで。一緒に座ろう。』
『うん。』
お姉さんが案内してくれた席に座る。
その横にお姉さんも座る。
『嫌いなモノがあったら良いなよ?。食べてあげるから。』
『あ、はい。ありがとうございます…。』
確かにお腹がすいてる。
食べ物を目の前にした瞬間にお腹がなってしまった。
どうやら、この集まりは村の人達総出で私を迎える為の宴会だったみたい。
【神柱】に反応があった瞬間、【人神】を迎える為の準備が始まったみたい。
そして、私が建物から出たことを確認したお爺さんが声を掛けたみたい。
『宜しいですかな?。』
お爺さんが向かえの席に腰をおろした。
『貴女様はこの村のことを何も知らない様子でしたのでお教えさせて頂きたいのですが?。』
『あ、はい。ぜひ…。』
『では、料理を食べながらお話しましょう。』
お爺さんの話。
この村は、【人族】の隠れ里の1つ。
【人族】は他の種族に比べて突出した能力を持たないことで有名で、他の種族との争いになれば生き残れない。
しかし、他の種族にとって【人族】は奴隷としての価値が高く他の種族に捕まれば自由を奪われ、やがて死ぬこととなる。
その理由で人族は他の種族から隠れるように村を作り独自に生き物を狩り、作物を育てることで貧しいながらも助け合い生活している。
お爺さん達が心の支えとし信仰している神を【人神】と呼んでいて、いずれ人族を他の種族間の弾圧から救ってくれると伝えられているらしい。
そんな中、最初に現れたのが私の隣に座っているお姉さん。
お姉さんは私と違って自分の名前以外を全て失ってしまっていた。行き場もなく、自分が誰かも分からないままで放浪すると間違いなく他の種族に狙われてしまう。
そんな理由で、お姉さんはこの村で暮らすようになったのだという。
他の村人達とも打ち解け馴染み始めた、今日この頃、この村に新たな人物が【神の社】と呼ばれる建物から現れた。それが私だったみたい。
けど…私は普通の人間…使える能力も何もない。村の人達を守るどころか自分自身を守る力も持ってない…。
『そうですか。ですが。安心して下さい。この貧しい村で良ければ、いつまでも居て下され。神の社より貴女様方が現れたのはきっと何か意味があるのでしょう。村の者達も受け入れてくれていますぞ。』
お爺さんや村の人達の優しさで村に住まわせて貰えることのなった。
その後はあっという間だった。
お姉さんは私の面倒を良くみてくれて、村の人達と打ち解けられるように計らってくれた。
村の人達も村のルールを色々と教えてくれる良い人ばかりで打ち解けるのにそう時間は掛からなかった。
住む場所に部屋も用意してくれて…楽しい毎日が繰り返されていった。
そんな日が半年くらい続いたある日のこと。
その日の朝は村の人達が慌ただしく動く足音で目が覚めた。
『何があったの?。』
『しっ!。静にして。』
眠気眼を擦りながら起き上がる私をお姉さんが抱きしめ窓の陰に隠れた。
窓から外のようすを眺めると村の人達の前に数人の…白い鎧を着た騎士達がいた。
何か…話してる?。
『隠しても無駄だ。この村に【異神】…もしくはそれに連なる者がいることは分かっている。隠すとお前達の為にならんぞ?。』
『知りません。そんな者は居ません。』
【異神】?。
彼等は誰かを探しているの?。
『そうか…ならば仕方がない。お前達を皆殺しにすることとする。その後にゆっくり【異神】を探すとしよう。』
『なっ!?。何故ですか!?。居ないと言ったのに!?。』
『ははは。この村にもあるではないか。【異神】の存在を感知する【神石】が!。我々にもあるのだ。同じ効果を持つモノがな。そして、それが約半年前にこの村付近で【異神】の反応を検出した。それがこの村から移動していないことも分かっている。』
『っ!?。』
『そして、お前達はその存在を隠し隠蔽しようとした。当然、我が国家の敵、法の罪となる。よって粛清する。【異神】はこの世界の災いを運ぶ悪神。それを庇うお前達も当然粛清対象だ。』
騎士達が剣を鞘から抜いた。
『ひっ!。その者達はあの建物に居ます!。どうか!。殺さないで!。』
『なっ!?。馬鹿な…お前っ!。』
村人の一人が私達の住んでいる家を指差して言った。
『ははは。そうかそうか。そうだよなぁ。やっぱ命は惜しいよなぁ~。けどな。』
『え?。』
村人の胸に剣が突き刺さる。
『俺達は人族が嫌いでね。いや、違うな。人族を殺すのが好きなんだ。精々、苦しみながら叫んで死ねや!。』
そこからは、蹂躙と呼ぶに相応しい状況が繰り返される。
楽しそうに笑いながら逃げ惑う村人達を斬りつける騎士達。
足を斬られ逃げられなくなった人達に笑いながら拷問にも似た苦痛を与え、男の人は騎士達の遊び道具のように投擲の的にされたり、生きたまま斬り刻まれたり、引き摺られたりして殺され。
女の人は服を脱がされ騎士達に凌辱され、最期は無惨に殺された。
『酷いよぉ…。』
『っ!。逃げるよ。静かについてきて!。』
お姉さんに手を引かれて私達は外に逃げた。
逃げ道があるのか分からない。
けど、逃げないと殺される。
私達は必死に逃げた。
けど、騎士達は私達の魔力の反応を感知してすぐに追って来た。
村を抜け、森の中に入る私達。
木々を上手く利用して逃げるが、【肉体強化】を使っているのか騎士達は慣れない森の中でも関係無しに距離を詰めてくる。
途中で村の方に火の手が上がるのが見えた。森が赤く燃え広がって黒い煙が空にのぼってる。
村の人達が…村が…。
最後には崖に追い詰められた。
前には剣を構えた騎士達。後ろには崖。
もう逃げ場はなかった。
『逃げきれないか…。夢伽ちゃん。』
『え?。お姉さん?。』
『絶対、生き残りなよ?。絶対だからね。』
お姉さんは私を崖から突き落とした。
最後にお姉さんは私の身体に魔力を流したことを覚えている。
私が崖の下に落ちてもほぼ無傷だったのがその証拠だった。
『お姉さん…。』
私はお姉さんの身を案じながら更に逃げた。
けど…私の足では結局、騎士達に見つかってしまい追い詰められることになる。
『ひっ…こ、来ないで…。』
『ははは。良い表情だ。安心しろ死ぬ前に気持ち良くしてやるよ。最も快楽を得るのは俺達の方だがな。ははははは。』
『い、いやぁぁぁあああああ!!!。』
叫んでも誰も助けに来ないことは分かってる。
けど、恐怖と無力感で私は最後に出来た抵抗は叫ぶことだけだった。
私は無意識に助けを求めた。
弟の儀童…そして、智鳴お姉さんと機美お姉さんの名前を…。
そんな私の耳の知らない声が聞こえた。
『いや、助けには入るぞ?。』
すぐそこまで迫っていた騎士と私の間に割り込んだ男の人。
突然のことに混乱し男の人の顔を見る。
『わりぃな。そのお姉さんじゃなくて………って、あれ?。お前…赤皇のところに居た!?。』
振り返った男の人の顔には見覚えがあった。
死んじゃう前に戦っていたクロノ・フィリアで一番強い人。手配書で見た。智鳴お姉さんと機美お姉さんの仲間。
見ると男の人も私を知っている反応だった。
赤皇お兄さんの名前を出して…。
『夢伽…だったか?。』
私の名前を口にしたから。
『何処の誰かな?。我々の楽しみを邪魔するのは?。』
『ん?。楽しみってこんな女の子を虐めることがか?。それとも…村の人達を遊び半分で殺したことか?。』
『………ほぉ。そこまで知っての乱入か?。君は何者かな?。』
『ふ、副隊長…あの男から…強大な…い…【異神】の反応を感じます!。ほ、本物の…【異神】です!。』
『何っ!?。』
慌てた様子で騎士達が腕に装着された【神石】を確認すると石が白く光っていた。
『つ、ついに…現れたのか!。【異神】がっ!。』
騎士達の緊張が伝わってくる。
『だが、所詮は【人族】から発生した【異神】だ。使用できる能力など限られている。』
『そうだな。俺に出来るのは【人族】が獲得できる能力の延長線上でしかない。』
『へへへ。ははははは。だよなっ!。結局、【人族】の神だろうが雑魚なんだっ!。』
『ああ。【肉体強化】しか取り柄のない種族さ。…だがな。』
その瞬間。
お兄さんの姿が消えた。
同時にリーダーらしき人の後ろにいた騎士2人が吹き飛び後方に聳える岩の壁に叩き付けられた。鎧にはくっきりと拳の跡が残っている。
『雑魚と決めつけるのは早いんじゃないか?。』
『…馬鹿な…何が…起こった?。』
『ただ移動して殴っただけだ。安心しろよ。俺はお前達みたいに弱い奴を楽しみながら殺す趣味はないからさ。全員一撃で殺してやる。』
再び。
お兄さんの姿が消える。
『だからさ。何でお前達は自分より弱い奴を狙うんだ?。』
『え?。』
私の目の前に現れたお兄さん。
そして、気付いた。騎士の一人が私の背後に忍び寄っていたことに。
『ああ。そうか?。この娘を人質にでもしようと思ったのか?。だが、それは逆効果だろ?。ここまで実力の差がある相手に人質なんて取ったら余計に自分の命を縮めるだけだぞ?。』
『ごぶっ!?。』
お兄さんは一撃で騎士の鎧を粉々に粉砕して、続く二連撃目で騎士の心臓を打ち抜いた。
倒れる騎士。
お兄さんは私の頭を撫でる。
『もう少し、ここでじっとしてろよ?。』
『う、うん。』
このお兄さんは私の味方だ。そう理解した。
『さて、後は…。』
その場にいた残り3人の騎士の内の2人が同時に倒れた。
『お前だけだな?。』
『ば…化け物か…。』
リーダー格らしき騎士が膝から崩れた。
自分以外の騎士が殺られた。何をされたのかも理解できない内に…。圧倒的な強さを見せつけられ戦意を喪失したようだった。
『お前を生かしたのは、この世界での情報を知るためだ。散々、村人を使って楽しんだんだろう?。なら、次は自分が痛め付けられる立場になっても文句は言えないよな?。』
『ひっ!。来るな!?。』
『はぁ…。さっきまでの威勢は何処に消えたんだか…。』
強い…。この人が…智鳴お姉さん達の…。
『副隊長!。ご無事ですか!。』
そこに、現れたのが5人の騎士。
あっ…この人達は…最初にお姉さんと私を追って来た…。
『おお!。お前達!。気を付けろ!。この男は【異神】…【人族】の神だ!!!。』
『なっ!?。本当にそんな存在が!?。』
『はぁ…。次から次へと…。』
『お姉さんは…お姉さんはどうしたんですか!!。』
私は騎士達に叫んだ。
彼等がここに居るということは…まさか…お姉さんは…。
『あん?。ああ。さっきの崖から落ちたガキ…まだ、生きてたのか?。』
騎士の一人が私を見て嘲笑う。
『ああ。さっきの女か?。ははは。楽しませて貰ったぜ?。若い良い女だったからな。人族ってことを除けば全然楽しめたぜ?。』
『そ、そんな…。』
『途中から反応が無くなっちまってよ。つまんねぇから腹にナイフ刺して放置してきたからな。そろそろ死んだんじゃねぇか?。』
お姉さん…。
『ははは。お前も楽しませてくれるぶっ!?。』
お兄さんが騎士を殴り飛ばした。
さっきよりも強い一撃に岩に当たった騎士の身体がカエルみたいに大の字で潰れた。
『何が!?。びぎゃっ!?。』
『がぁっ!?。』
『ぶがっ!?。』
増援に来た5人の騎士が瞬く間に原型のない肉片に変わってしまった。
『わりぃな。時間が無くなっちまったみたいでさ。』
『ひっ!?。やめろ…何を…するぅ…。』
リーダー格の騎士の胸ぐらを掴んで持ち上げるお兄さん。その騎士の顔面に拳を叩き込んだ。騎士の身体は宙を飛び、森の中に消えていった。
『はぁ…この世界でもクズがいるのか…。』
お兄さんが私に近付いてくる。
『遅くなって悪かったな。それと、良く頑張った。』
お兄さんが私の頭を撫でる。
大きな手。あたたかい温もり。
この人なら…。
『あの…助けて貰って…突然…こんなことを言われても…お兄さんが困ってしまうかもしれないのですが…。』
『………。』
『お姉さんを…。詩那お姉さんを…助けて…下さい…。』
この人に頼るしか…出来ない…。
すると、お兄さんは私の身体を抱き抱える。
自然と視線が高くなり目の前にお兄さんの顔があった。
『ああ。任せろ。必ず助けてやる。』
お兄さんはそう言って駆け出した。
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