第187話 現実から異世界へ
この話から第三部になります。
これからも読んで頂けると嬉しいです。
ーーー第三部 神世界編ーーー
沈んでいた意識が覚醒する。
暗闇から一気に光の中に飛び出したような感覚。
頭が徐々にはっきりしていき、次第に記憶がよみがえってきた。
俺の名前は閃…。
仲間を神に殺され、そして…神の奴等と戦って…死んだ…んだ。
ああ。覚えてる。
仲間達としたゲーム【エンパシス・ウィザメント】のことも。
仲間達【クロノ・フィリア】のことも。
仲間…友人…家族…恋人…全員のこと。
『俺…生きてるのか?。』
自分の胸に手を当てる。
確かな心臓の鼓動を………感じない?。
あれ?。何でだ?。やっぱ死んだのか?。
一瞬、混乱するがすぐに冷静になった。
いや、違う。心臓のような脈動は感じないが…確かに胸に感じる生命の灯。
これは…いったい?。俺の身体はどうしたんだ?。
現状を把握したい。
その一心で横になっている身体に無理矢理鞭打った。
『ここは…どこだ?。』
目を開いた俺の視界に広がる天井。
木材を組み合わせた天井。鼻には芳ばしいような湿気っているような独特の匂いを感じる。
上半身を起こすと同時に俺の身体の上に乗っていた何かが同じく木製の床の上に落ちた。
『何だ?。これ?。』
落ちたモノを手に取る。
それは、木材を加工して作られた人形だった。それが、パッキリと胴の部分で割れている。
考えても分からないので、取り敢えず周囲を見渡す。
薄暗い建物の中だということは分かった。
『ここ…神社の本殿みたいだ。』
建物内で一際、存在感を放っているのが木を彫られて作られた巨大な人形。
その足元には大きな字で【人神】と書かれていた。
建物の造りなども、テレビで見たことのある神社の本殿と酷似してるし…多分、【人神】っていう神を祀っている場所なんだろう。
…って、【人神】っていえばゲームでの俺の種族だけど何か関係があるのか?。
『それより…何で俺は裸なんだ?。』
全裸の自分の姿に驚く。周りには服はない。
『何か着るものはないのか?。いてっ!?。』
建物内で服を探そうと立ち上がった俺は何かを踏んづけた。
『あれ?。こっちにも?。』
足の下敷きになっていたモノは俺の上に乗っていたのと同じ、もう1つの人形。これも胴から半分に割れていた。
俺のを含めて2個か?。
そして、建物内を調べていて見付けた…開けられた痕跡のある棚。
中には人一人を包めそうな大きな一枚の布。
俺以外に誰か居たのは間違いないな。
『取り敢えずこれで良いか?』
その布を身体に巻き付け簡易的な服にする。
『さて、状況の確認だ。』
腰をおろす。
状況の確認。自分に起きている現状の把握を行う。
『俺の状況…は…っと。あれ?。』
手っ取り早くステータス画面を開こうとするも反応無し。
おかしいな。今までなら身体を動かすのと同じくらい自然にステータス画面を目の前に開けてたのに。全く反応しない?。
『何でだ?。まぁ…開けないなら。1つ1つ確認するしかないんだが…。』
アイテムBOXを開こうとする。
反応無し。アイテムBOXそのものが消えてしまっているようだ。
『マジか…大事な物とか思い出の物とか全ロスか…。』
これは辛い。
アイテムBOXがある生活に慣れてしまっている分、これからは荷物を手に持って運ばなければならないってことだ。
『じゃあ、スキルは…。』
全身に魔力を通わせる。
あっ。これは上手くいったな。全身を駆け巡るエネルギーを感じる。
どうやら魔力は顕在らしい。
けど…これって魔力じゃないな…。これは…そうだ。神の…【神王】が使っていた…。
『エーテル…。』
魔力よりも強力なエネルギー。
それが俺の身体を巡っている。
『肉体強化は…。ああ。問題ないな。けど…スキルって感じがしないな。自然に自分の肉体が強化された。』
そうだ。どちらかというと【種族スキル】に近い感覚だ。
ゲーム【エンパシス・ウィザメント】のスキルは大きく分けて2種類に分類されていた。
それが【獲得スキル】と【種族スキル】。
【獲得スキル】は、素材アイテムや特定のモンスターを討伐することで得られるスキルで強力なスキル程、強いモンスターやレアな素材を集める必要があった。
そして、【種族スキル】は最初に選ばれた自分の種族が持つ固有スキル郡で、その全てが【レベルアップ】で覚えることの出来るスキルだ。
【人族】の種族特性は【強化】【感知】。
自身や他人の肉体や能力を強化したり、モノの働きを強くしたりするのが得意だった。
【感知】は簡単に言うと察知するスキルだ。
相手の弱点やスキルの特性などを瞬時に見抜くことが出来る。【人族】は全てのスキルの中で最も早く【情報看破】を取得できる種族だったんだ。
てか、それ以外に何も覚えないから早く覚えて弱点をつくしか戦いようがなかっただけなんだが…。
仕舞いには、他の種族もレベルが上がれば2つとも覚えてしまうし、他種族特有のより強力なスキルになってしまう。
人族がハズレだと言われるところだな。
『つまり…俺の今の状況は…。【神剣・顕現】!。』
しーーーーーん。
『やっぱ…ダメか。これは発動しないと…。』
このスキルは様々なモンスターか討伐し、更に仲間達の力を借りてやっと獲得した【獲得スキル】だ。
それが使えないということは…。
『待てよ。じゃあ…【神具】も!?。【時刻法神・刻斬ノ太刀】!。』
しーーーーーん。
『ちっ。これならっ!【時刻ノ絶刀】!。』
しーーーーーん。
『…………………………マジか…。』
【種族スキル】以外何も残ってないぞ…。
絶望し頭を垂れる。
『………【女性化】。』ボソッ。
俺の身体は変化した。
背は縮み。筋肉質だった手足は細くしなやかに。髪が銀髪へと変化し腰よりも下まで伸びる。胸が膨らみ、尻に肉が付き丸みを帯びる。胸と腰との間のクビレが強調された。
『………って、女にはなれるのかよ!。』
自分でも見惚れてしまう絶世の美女が降臨した。
『………はぁ…戻ろ…。』
落胆し元の姿に戻る。
様々な有用なスキルを失って残ったモノが中途半端過ぎる。
他に…俺に何か残ってないのか?。
思考を巡らせ、ふと…1つの可能性に行き着いた。
『あ…もしかして…。』
手を前に掲げエーテルを集中する。
高まるエーテルを一点に集め言霊を呟いた。
『………【神力】発動。』
その瞬間、膨大なエーテルの渦が目の前に放出された。
俺には分かる。この渦の中心には 全て がある。俺の中に流れる【創造神】リスティナのエーテルが【神力】に共鳴し、到達すべき【結果】の提示を待っている。
『この場に【服】が欲しい。』
願いは聞き届けられた。
【創造神】の力が発揮されエーテルが集束。俺の思い描いた結果に向かってエーテルが物質に変化し形を為していく。
『は…ははは…成功。』
目の前には俺が着ていたお気に入りのデザインが施された服。ジャケット、シャツ、ジーパン、ベルトまで出現した。
『やったぜぇぇぇ…あれ?。』
急に足に力が入らなくなり、その場に倒れた。
『あっ…やべ。これ…めっちゃ消耗する…。』
指一本動かせないぞ。
いや、意識も…霞んで…マジか…こんなに…。
俺はそのまま気を失った。
ーーー
再び、目覚めた時。
周囲に変化は無かった。
気を失う前と同じ状況。
強いて上げれば身体に巻き付けていた布が無くなっていたことと目の前の服。
ああ。そうだ。少しずつ思い出してきた。
【創造】の力を使った時、布が渦の中に吸い込まれていったんだ。
あの布を利用して服が作られたってことか?。代用が必要だった?。
『まだ…力を使いこなせていない…ってことか?。じゃあ、試しに。』
落ちている胴から半分に割れた人形を取る。
『【創造神】があれなら【絶対神】の方なら。【神力】…。』
エーテルが集まるのを感じる。
『【結果】は【消滅】。人形を消す。』
願いは聞き届けられた。
手のひらサイズの人形に対し、過剰ともいえるエーテルが人形を消滅させた。塵1つ残さず人形は消えてしまった。
『出来たが…ま…たか…。』
全身を襲う疲労感にそのまま気を失った。
せめて、服を着てからすれば良かったと若干後悔しながら…。
ーーー
『はぁ…。周囲に変化は無し。取り敢えず着替えよう。』
目覚めた俺は服を着る。
さて、俺自身のことは理解した。
現状。俺は人間ではなくなったのは確かだ。
・心臓ではない。核が胸の中で動いている。
・魔力ではなく、神の奴等が使っていたエーテルを扱える。
・ステータス画面とアイテムBOXは消失。
・スキルと神具も消えた。
・出来るのは、肉体を強化すること。
・周囲の環境と状況。気配。などを正確に察することが出来ること。
・女の姿になれる。
・【神力】を扱えるようになった。
『こんなとこか。』
【神力】を扱えるようになったのは大きい。
俺が【神王】に勝つことが出来たのは【神力】のお陰だからだ。
けど、今のままでは使い物にならない。
何せ、使用すれば気を失うんだからな。
【神王】を倒した際は連続で使用した…その代償が自分自身の命だった訳だ。
『使いこなせるようになるのが当面の目標ってことか…。さて…。』
立ち上がり入り口の襖に向かう。
もうここで出来ることはないしな。
着るものを探し回って結局、布しか見付けられなかった。神の像もただの木で作られた置物だったしな。
気になったのは僅かに魔力の込められた4つ角に立っている4本の柱。各々に貼られた意味深な御札くらいか。
『まぁ。何にしても、ここに長居しても仕様がない。俺が生きているってことは、きっと仲間達も生きてるってことだしな。仲間探しと行きますか!。』
襖を開く。
『外はどうなっているのか…。うっ…。何だ…これ…。』
外を覗く。
その時、鼻をつく強烈な臭いが漂っていた。
腐敗した肉の臭い。肉の焼け焦げた異臭。
思わず嘔吐しそうになりそうな悪臭が充満していた。
『何…が…あった…んだ。』
焼き崩れ全焼した家屋。
土に染み込んだ赤黒い血液の跡。
そして…辛うじて人間のモノだと判別できる焼き焦げた人間のパーツ。生焼けで虫が集っているモノや真っ黒なスス状になっているモノまで数多くの死体が転がっていた。
『何で、この建物だけ無事だったんだ?。…ああ。そうか。あの御札か。しかも、入り口を開けるまで臭いも遮断されていた。』
内と外を別つ境界を作る御札か。
良く見ると幾つか似たような建物が無事で残っている。おそらく、同じ構造で同じ御札に守られているんだろう。
『それにしても…酷いな…。』
戦闘の跡が確認できる。
いや…抵抗した跡って感じか…。
小さな集落…村みたいだし。何者かに襲われ抵抗空しく皆殺しにされ焼き払われたってところかな?。
周囲の気配を探りながら他の無事だった建物の中を覗き込む。
ふむ。俺がいた場所と変わらない構造だ。
ああ。手のひらサイズの人形が1つ落ちてるな。胴の部分で割れているところまで同じか…。
『てことは…。あれ、やってみるか…。』
俺はエーテルを密度の薄い波に変えて周囲に高速で放った。気配を探る。ゲーム時代の【気配察知】のエーテルバージョンだ。
『気配は…あるな…。魔力の塊が…複数…1…2…3…全部で6…いや、7。少し離れた場所に1つ。小さな魔力を感じる。しかも…この感じ…リスティナ?。』
感じ取った魔力の塊は合計8。
その内の1つにリスティナの魔力を僅かに感じた。
『リスティナ本人か…それとも仲間か…この村の惨状だ。あまり良い展開じゃなさそうだな。』
少しでも手懸かりの欲しい俺はリスティナの魔力がする方へ急いだ。
ーーー
『はぁ…はぁ…はぁ…こ、来ないで…よぉ…。何で…追って来るのよぉ…はぁ…はぁ…。』
『それは出来ん。お前からは【異神】の気配を僅かに感じたんでな。不穏分子としてここで排除する。はは。だが、 僅かに感じた だけで今のお前からは何も感じないがな。確かに内に秘めた魔力は我々よりも強大だが。それだけだ。』
『【異神】?。…そんなの…知らない…それに…はぁ…はぁ…。何で村の人達を殺したの?。あの人達は関係無かったのに…。』
『はっ!。今更か?。【異神】と関係を持つお前を匿ったのだ。当然、罪になる。よって粛清した。』
『嘘。面白半分に弄んでたクセに!。』
『……………ああ。ははははは。そうだ。目茶苦茶楽しかったぜ?。弱い奴等を一方的に蹂躙するのはな!。所詮、【人族】なんて特に目立った特徴も持たない残念な種族だ。増えるだけしか取り柄のないな。ああ。俺達の日頃の鬱憤を晴らすのには役立ったか。』
『ひどい…。うっ…。』
『ははは。良くここまで逃げ切ったと褒めてやりたいが限界だな。 もう一人の女 も別の部隊に弄ばれてる頃だろうし、そろそろお前も諦めろ。』
『ひっ…こ、来ないで…。』
『ははは。良い表情だ。安心しろ死ぬ前に気持ち良くしてやるよ。最も快楽を得るのは俺達の方だがな。ははははは。』
『い、いやぁぁぁあああああ!!!。』
ーーー
エーテルの波に乗って聞こえてくる会話。
どうやら、人族の女…声からして少女か…。その娘が男達に襲われている場面のようだ。
それに、あの村の惨状を引き起こしたのが男達。村は人族の村で男達のストレス解消の捌け口にされて皆殺しにされた訳だ。
『胸くそ悪いな。』
それにしても。
エーテルの気配を感じる能力…ここまで鋭敏に感じ取れるのか。明らかに魔力とは違う。
それは、身体に掛けている肉体強化もだ。
魔力の比じゃない。圧倒的な強化が施されている。
『さて、連中を懲らしめるか。やられたらやり返されるってこと教えてやんねぇとな。』
俺は少女と男達の間に飛び込んだ。
『た、助けて…儀童………助けて…お姉さぁぁぁあああああん!!!。』
『ははは!!!。誰も助けになんて来ねぇよ!。』
『いや、助けには入るぞ?。』
『は?。っ!?。』
少女に迫る男の手を払い退ける。
『え?。』
まさか本当に助けが来るとは思わなかったのか少女は目を丸く見開いて俺を見つめていた。
『わりぃな。そのお姉さんじゃなくて………って、あれ?。お前…赤皇のところに居た!?。』
『あ、クロノ・フィリアの…。』
少女の顔には見覚えがあった。
そうだ。
ギルド【赤蘭煌王】の…。
『夢伽…だったか?。』
ギルドメンバーだった少女だ。
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