表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/424

番外編 小さな閃の物語①

『ねぇねぇ。リスティナちゃん。』

『んー?。何だ?。つつ美?。』


 俺の部屋で子供服の本を眺めていたつつ美母さんが、料理の本を読んでいたリスティナに話し掛ける。


 因みに、つつ美母さんの今の姿は灯月と同じくらいの年齢である。

 あのホワイトデーの日から母さんはこの年齢の姿で固定しているようだ。


 それで、何でわざわざ俺の部屋で読書?。と、思って尋ねるが特に理由は無いらしい。

 強いて上げるなら一緒に居たいということなので、まぁ…良いかと思い俺も氷姫に借りた本を読むことにした。


 各々が読書を楽しみ部屋が静寂に包まれていた。僅かに聞こえるのはページをめくる音。

 静かな時間が流れていく。

 うん。こういう時間は悪くない。むしろ、落ち着いた感じで好きだな。


 そんなことを考えながら次のページをめくった時だった。

 つつ美母さんがリスティナに話し掛けたのは。


『ちょっと。聞きたいことが。あるの。こっち来て貰って良い?。』

『ああ。構わんぞ。』


 リスティナが頷くと、つつ美母さんは笑顔でその手を握り俺の部屋に備え付けられたキッチンへ連れられて行った。


『何なんだ?。いったい?。』


 キッチンから僅かに聞こえてくる声。

 はっきりとは聞こえない。断片的な声が耳に届く。


『………だけど………こういうの………出来る………。』

『ああ………くはない……何故………。』

『ふふふ。うぞう……て………ちゃん………時の………思わない………。』

『………おお。………なそれは………名案だぞ………。』

『なら………ね。』


 ガチャガチャと何かを始めた母さん達。

 まぁ。いつものことなので俺は読書に戻った。

 

 暫くすると、2人がキッチンから戻ってくる。

 その手にはガラスの皿。中には色とりどりの飴玉が入っていた。


『閃ちゃん。閃ちゃん。口寂しいと思ってリスティナちゃんに作って貰ったんだけど。お1つどうぞ。』

『おお。美味しそうだな。貰うよ。』


 俺は母さんから飴玉を貰い口に運ぶ。

 口の中に広がる甘い味。

 内から沸き上がる体温。

 身体が熱い…はっ!?。熱い?。


『おい!。母さん!?。何を食べさせやがった!?。っ!?。身体が!?。』

『ふふふ。掛かったわね!。閃ちゃん!。その飴玉は、私の【外見年齢操作】のスキルをリスティナちゃんに頼んで中に混めたモノなの。食べると強制的に肉体が若返るわ!。』

『な…んで…そんな…こと…。』

『そんなの簡単よ!。子供の姿の閃ちゃんを甘やかせたい!。それだけよっ!。』

『口調まで変えやがって…くそっ…リスティナ…てめぇ…。』

『妾も閃が子供の時の姿を見たいのだ!。』

『くっ…共犯め…。』


 俺の身体はみるみる小さくなっていった。

 全身から湯気のような煙が立ちあがり。意識が遠退いていく。

 これ…マズイんじゃないか…。


『わくわく。』

『どきどき。』


 駄目だ。

 コイツ等…助ける気がねぇ…。


 そこで…俺の意識は消えた。


~~~~~


ーーーつつ美・リスティナの場合ーーー


『やったわ!。リスティナちゃん!。成功ね!。』

『ああ。閃が子供の姿になったな。』

『ええ。可愛いわぁ~。』


 私の目の前で閃ちゃんが子供の姿になった。

 私の記憶にある最も古い記憶の閃ちゃんよりも小さな姿。3歳か4歳くらいかしら?。

 凄いわ!。可愛すぎる。


 周囲をキョロキョロと見渡しているその可愛らしい容姿に思わず抱きしめたくなってしまう誘惑を必死に抑え込む。


『どう?。閃ちゃん?。子供の姿になった気分は?。安心して数時間で元の姿に戻れるから、今はいっぱい甘えてね。』 

『因みに自らの解除は出来んぞ。それにしても何だこの感覚は…。これが母性というものか?。』


 リスティナちゃんも幼くなった閃ちゃんが気になっているようね。

 ふふふ。この作戦は成功のようね!。


『あら?。どうしたの?。閃ちゃん?。』


 その時、僅かな違和感を感じた。

 あんなに怒っていた閃ちゃんは何も言わずに私とリスティナちゃんの顔を交互に見つめていたから。

 どうしたのかしら?。


『あ、あの…。お…おねえ…ちゃん…たち…だれ?。』


 びくびくと身体を震わせながらそんなことを言って来た幼い閃ちゃん。


『え?。お姉ちゃん?。』


 いつもなら母さんって呼んでくれるのに?。

 私はリスティナちゃんの方を見た。

 すると、リスティナちゃんも私の方を見て驚いていたわ。

 もしかして…やっちゃった?。


『あ、あのね。君の名前は分かるかな?。』

『う、うん。ぼく…ね。せんって…いうの…。お…おねえ…ちゃん…たち…。ぼく…しらない。』


 あっ…名前は覚えてるんだ。


『どうやら、記憶まで消えてしまったようだな。おそらく外見年齢に引っ張られる形で精神年齢まで若返ってしまったようだ。』

『と…いうことは…。』

『うむ。ここに居るのは見た目通りの年齢の閃…ということだ。』

『ちゃんと戻るの?。』

『ああ。それは問題ない。飴玉の効果は有限だ。効力を失えば自ずと元に戻る…数時間で…な。』

『そうなのね。良かったわ。よしっ!。こうなったら。このまま計画続行よ!。』


 私は子供閃ちゃんの前に乗り出して目線を合わせた。


『閃ちゃん。私達はお姉ちゃんではないわ。』

『え…おねえ…ちゃん…じゃないの?。』

『ええ。私達は貴方のお母さん。ママなの。』

『まま?。』

『ええ。そうよ。』


 ママという言葉に反応した閃ちゃん。

 私とリスティナちゃんを交互にじっと見つめる。


『まま?。』


 私を指差し尋ねてくる。


『ええ。そうよ。』


 私はその小さな手を優しく握ってあげる。


『まま?。』


 今度は、反対の手でリスティナちゃんを指差す閃ちゃん。

 リスティナちゃんも一瞬困ったように私を見たけど、私と同じように閃ちゃんの手を握った。


『ああ。そうだ。妾は閃の母親だ…ああ。ママだ。』


 交互に見つめる動きが早くなる。

 握っている手を見て私の顔を、再び手を見てリスティナちゃんの顔を何度も見る閃ちゃん。


『まま…ぼくの…まま。うわぁぁぁぁぁああああああああああん!!!。』


 泣き出した閃ちゃん。

 その姿は初めて見る。思い返せば閃ちゃんが泣いた姿を私は見たことがなかった。

 いつも子供なのに大人顔負けに冷静で、大人のような考え方をしていた閃ちゃん。

 私の元に初めて来た時は既に小学生の高学年の時。その頃には灯月ちゃんの面倒を良く見てくれる優しいお兄ちゃんだった。


 本当はお母さんという存在が居ないことを寂しく思っていたのかもしれないわね。


『閃ちゃん。』


 私は閃ちゃんを優しく抱きしめる。


『リスティナちゃんも。ほら。』

『あ、ああ。』


 閃ちゃんを挟むようにリスティナちゃんと2人で閃ちゃんを抱きしめた。

 身体の小さい閃ちゃんは私達の間にすっぽりとはまっていてとても可愛いわ。


 豊華ちゃんに借りてきた子供服を閃ちゃんに着させた。

 凄いわ。サイズがぴったり。流石、豊華ちゃんね。


『えへへ。まま~。』


 いつの間にか笑顔になった閃ちゃんを真ん中に私とリスティナちゃんは座っていた。

 両手はしっかりと私とリスティナちゃんの片手を握ったままニギニギと感触を確かめるように離さない閃ちゃん。


『なぁ。つつ美。』

『なぁに?。』

『妾は今、何もしていない。閃と手を握っているだけだ。何のに…嬉しそうな閃を見ているだけで…もの凄く幸せを…幸福を感じているのだが…。これが我が子を持つという感覚なのか?。いや、別に今までも幸せは感じていたのだが…なんというか…。』

『そうよ~。事情は承知しているから仕方がないけど。本当は閃ちゃんもリスティナちゃんも親子と会えなかった時間がお互いに寂しかったのよ。だから、この限られた時間内で足りなかった親子の時間を埋めれば良いと思うわ。』

『そうだな…。閃…。』

『んん?。』

『おいで。』

『うん!。えいっ!。まま~~~。』


 閃ちゃんを抱きしめたリスティナちゃん。

 閃ちゃんの頭を優しく撫でながら嬉しそうに泣いていた。

 暫くすると、満足したようで閃ちゃんを離すリスティナちゃん。すると、今度は閃ちゃんが私に抱きついてきた。


『ままも~。』

『あらあら~。ママもいいの~?。』

『うん!。まま~。ふかふか~。』

『あらら。胸に埋まったわ。』

『くっ!。妾にもそれ程の立派なモノがあればっ!。』

『リスティナちゃんも十分に立派なお胸だと思うけど?。』

『つつ美よ。お前に言われるとムカつくぞ。』

『あらあら。』


 私からも離れた閃ちゃんが入り口の方に歩いていく。


『あら?。どうしたの?。』

『といれ。いく~。』

『一人で大丈夫か?。』

『うん。だいじょうぶ。』


 閃ちゃんは迷わずに部屋に備え付けられているトイレに向かう。

 トイレの場所は忘れてないのね…。


『はぁ…。妾…閃の為なら何でもしてあげたいぞ。』

『ふふ。母性に目覚めちゃったわね。ねぇ、どのくらいの時間で閃ちゃんは元の姿に戻るの?。』

『う~む。だいたい。12時間といったところか。そこまで強力な効果は加えていないからな。』

『そう。丁度。夜には戻るのね。ふふ。閃ちゃんは嫌がるでしょうけど。こういうのも悪くないわね。』

『なぁ。つつ美よ。』

『何かしら?。』

『閃…遅くないか?。』

『あ…そう言えば、そうね。』


 私達はトイレに向かうと、そこには閃ちゃんの姿はなく、代わりに部屋の出入口のドアが僅かに開いていた。

 廊下を覗いてみても閃ちゃんを発見できない。


『これは…外に出ちゃったわね。』

『何っ!。心配だ。閃の身に何かあれば妾は…。』

『そうね~。怪我とかするような危険はないと思うわ。無凱君が造った建物ですもの。子供達も出入するから安全面には凄く注意して建造されているもの。けど…。』

『けど?。』

『あの娘達に見つかったら…何をされるか…。』

『灯月達か…。』

『母性に目覚めちゃうかも…。』

『………閃を探そう!。』

『ええ!。面白くなってきたわ!。』

『おいっ!。楽しむなっ!。』


 私達は閃ちゃんを探すために廊下に飛び出した。


ーーー

ーーー無華塁の場合ーーー


『良い汗かいた。』


 トレーニングルームから出た私は前に閃に貰ったタオルで汗を拭く。

 同時に香るママの匂い。良い香り。


『んー。シャワー。浴びよう。』


 私はシャワー室に向かう。

 終わったら、ランニングにでも行こうかな?。


『ん?。あれ?。』

『んーーー。んーーー。どこ?。』


 私の目の前にキョロキョロと辺りを見渡しながら首を傾げている男の子がいる。

 凄く可愛い。普段は見かけない子。ママの保護施設の子かな?。けど、何となく見覚えが…。


『ん?。』

『あっ。』


 考え事をしていたら男の子と目が合った。

 あれ?。私の直感が言ってる。この子供…閃?。


『おねえちゃん。だぁれ?。』

『え?。あ。えと。無華塁。』


 私は余り子供が得意ではない。

 何を考えているのか分からないし、突然、思いもよらない行動をとる。


『むかる?。むかるおねえちゃん。』

『君。は?。』

『ぼく。せん。』


 あっ。やっぱり。閃なんだ。

 何で子供の姿なの?。それに…私のこと忘れてる?。


『せん。どうして。ここにいる?。』

『わかんない。まま。どこ?。』

『まま!?。』


 普段の私なら絶対に出さないような声を出してしまう。

 いや、冷静に考えれば閃のママは、つつ美とリスティナ。なら、この閃の状況は2人が?。


『おねえちゃん。どこかいく?。』

『え?。あ…。シャワーに。』

『しゃわー!。あびたい!。』

『え!?。その。一緒に。いく?。』

『うん!。いく!。』


 何故か。子供の閃とシャワーを浴びることになった。何で?。私は断れないの?。


『服。脱げる?。』

『うん。ぬぐ。んっしょ…んーーー。しょ。』


 本人は普通に脱いでいるつもりなんだろうけど。頭が出てこない。腕も袖に通ったまま。

 私はしゃがんで閃の服に手を掛けた。


『ほら。じっと。してて。』

『うん。ぷはっ!。えへへ。ありがとー。おねえちゃん。』

『っ!。…どういたしまして…。』


 何…この生き物…持ち帰りたい…。

 頭からシャワーをかけられて楽しそうにはしゃぐ閃。

 

『きゃははははは。つめたいね!。』

『こら。暴れるな。』

『うん。ごめんなさい。』


 素直に私の言うことを聞き大人しくなる閃は私の抱きついてくる。


『おねえちゃんのおなか。かたいね。』

『うん。鍛えてる。』

『でも、すべすべ~。』

『……………。』


 すべすべは閃も同じだ。普段は逞しくて男の人特有の筋肉質な身体なのに今日の閃は子供だからか柔らかい。


『身体。拭く。』

『うんうん。』


 自分の身体にはタオルを巻き、先に閃の身体を拭いていく。

 あっという間に服を着せ終わる。この服は閃のサイズにピッタリだ。つつ美とリスティナが作ったのか?。


『終わった。』

『うん。ありがとっ!。おねえちゃん。』


 跳び跳ねて喜ぶ閃。その姿を見ているだけで胸が満たされる。


『おねえちゃん。だいすき~。』

『っ!?。』


 目線を合わせるためにしゃがんでいた私の頬にキスをした閃。


『閃…。』

『えへへ。』


 その後、閃をシャワー室の外で待たせ自分の着替えを済ませる。

 この後はどうしようか?。一先ず、つつ美とリスティナのところに閃を…。

 いや、もう少しだけ。閃を独り占めしたい。一緒にいたい。

 いつもは何でも出来る閃だが、今は私に身体を委ねてくれている。私の言うことに素直に従ってくれる。

 もっと…甘やかせたい…。頭を撫でたい…。抱きしめたい…。


『決めた。』


 私の部屋に連れてこう。

 少しだけ。もう少しだけ。今の閃との時間を楽しんでもバチは当たらないはず…。


『え?。閃?。』

 

 だが、わくわくとドキドキする胸を抑えながらシャワー室を出た私の前から閃は姿を消していた。


ーーー

ーーー美緑・砂羅・累紅の場合ーーー


『ふふ。美味しそうですね。』

『ええ。ガドウさんの新作ばかりですから。』

『甘くて良い匂い。紅茶で良い?。美緑?。砂羅。』


 ラウンジにあるテーブルの上にはガドウさんの新作の一口ケーキの数々が並んでいます。新しく作ったケーキの味を確かめて報告してほしいとお願いされ、おやつの時間を利用してこうして3人でケーキを楽しもうとしているところです。

 どれもこれも美味しそうで…確かめるまでもなく全て美味しいに決まってますよ。


『さて、いただきましょうか。』

『ええ。』

『待ってました。』


 各々が椅子に座り、目の前に並べられたケーキに目を輝かせていると。


『おいしそー。』


 っと、聞きなれない声が聞こえ3人の視線が一点に集中しました。

 そこには小さな可愛らしい男の子がいて、並べられたケーキに目を輝かせていました。


『ん?。何処の子でしょうか?。初めて見る顔ですが?。』

『何か…閃君に似てない?。』

『言われてみれば…魔力も閃さんのモノを弱くしたような感じですね。』


 私は立ち上がり男の子の前に移動します。


『私は美緑と申します。貴方のお名前を教えて貰っても宜しいですか?。』


 男の子に目線を合わせながらなるべく優しく問い掛けます。


『ぼく?。せんだよ。』

『せん…さん?。いえ、閃君ですか。』


 やっぱり閃さん?。

 けど、何で子供の姿に?。


『おねえちゃん。ケーキ?。』

『え?。あ…はい。そうですよ。』

 

 砂羅と累紅に目配せを。私の意図を察した2人は首を縦に振った。


『一緒に…食べますか?。』

『っ!。いいの?。いいの?。』

『ええ。一緒に食べましょう。』

『うん!。』


 嬉しそうに椅子に座る閃さん。

 フォークを握りケーキを頬張り始めました。


『もぐもぐ。もぐもぐ。おいしいぃ。』


 可愛い…。

 つい。頭を撫でてしまいます。


『ん?。おねえちゃん?。たべないの?。』

『え?。食べますよ。』

『んー。おいしいよ。はい。』


 フォークに刺したケーキを私に向けてきた閃さん。


『え?。あの…。』

『あーんして。』

『あ、あーん。もぐもぐ。美味しいですね。』

『うん!。いっしょ。』


 私は隣の椅子に座り直し一緒にケーキを食べます。


『んーーー。ふふふ。もぐもぐ。』

『あっ。頬っぺにクリームがついてますよ?。取ってあげますので動かないで下さいね。』


 閃さんの頬についているクリームを指先で取り、それを自分の口に運ぶ。

 あら?。私、随分と大胆なことを…。


『えへへ。ありがと。おねえちゃん。』


 はぁ~。何でしょう。この感じ…凄く幸せです。

 閃さんと子供が出来たらこんな感じなのでしょうか?。

 あれ?。っ!?。私…何て大胆な想像を!?。


『あ、おねえちゃんもクリームついてるよ!。』

『え?。どこですか?。』

『ぼくがとるね。』


 閃さんが身を乗り出して私の頬を…ぺろっ。と舐めました。


『っ!?。』

『えへへ。とれたよ。』

『はう~。もうっ。我慢できません。』

『わーーー。きゃははははは。びっくりした~。』


 私は閃さんを自分の膝の上に乗せて抱きしめました。


『あ…つい。その…閃さ…君。嫌ですか?。』

『ううん。いやじゃないよ。おねえちゃん。あったかい。それにね。おはなの匂いがする。いいにおい。』

『ん~~~…ありがとうございます。』


 抱きしめる私にされるがままの閃さん。

 柔らかい。

 はぁ。いつもは頼れる閃さん。逞しくい身体だった男の人の閃さんが、私の腕の中にすっぱりと収まってケーキを頬張ってる。

 ずっと…こうしていたい。この子を守りたいという感情が湧き上がってくる。


『ふふふ。可愛らしい閃さんですね。きっと、リスティナさんアタリの仕業でしょう。私達のことも覚えていないようですし…。一先ず、私達と行動を共にした方が良いかもしれませんね。』

『だね。これが閃君の子供の時かぁ。可愛すぎるね。美緑ちゃん。私にも抱っこさせて。』

『………嫌です。』

『え………。』

『あらあら。』


 私はケーキを食べ終わり、うとうとと眠そうに私の服を小さな手で握っている閃さんを腕で包む。


『この子は…離しません。私が…お部屋で寝かせます。』

『砂羅さん…美緑ちゃんって…。』

『ふふ。独占欲かしらね。珍しい。美緑ちゃんは元々他人にあまり興味を持たなかったけれど仲間になった人達には極端に甘くなってたから、もしかしたらって思ってたんだけどね。』

『閃君に出会って変わったと思っていましたが…。』

『ふふ。もし子供が生まれたら。美緑ちゃんはこうなるのね。』

『………。』


 2人の視線を感じますが。

 既に寝息を立てている閃さんの頭を優しく撫で、その無垢な寝顔につい慈しんでしまいました。

次回の投稿は17日の木曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ