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第183話 神の教え

『さあ。来るが良い。強者…そして、獣共。』


 ガズィラムのその一言を合図に、クミシャルナ、ラディガル、月涙…3体の神獣達が飛び出した。

 月涙によって回復したクミシャルナが再び鱗の盾を展開、自身を含む他の2体の周囲にも全ての鱗を使い防御に使う。

 ラディガルは雷を纏い接近。得意の肉弾戦を行うため距離を詰める。

 月涙は2体に間に入り両方の援護に回った。


『らぁっ!。』


 雷の速度で放たれた拳。

 しかし、ガズィラムには届かない。

 エーテルの放出。その噴出する威力だけで拳を止めた。


『はっ!。』


 水を刃に変化させた月涙が背後に回り斬りつける。


『………児戯…だな。』

『っ!。』


 エーテルが月涙が扱う水のように流動しその刃を包み込んだ。同時に液体のような性質を与えられたエーテルが大量に月涙の頭上から押し寄せそのまま地面に叩きつける。水圧にも似た重量に月涙の小さな身体が地面に押し付けられた。


『お前もだ。』

『何っ!?。ぐぶっ!。がぁっ!?。』


 今度はエーテルの性質が雷に変化。周囲に迸る閃光がラディガルを囲み、バスケットボールくらいの大きさに圧縮されたエーテルの塊がラディガルの腹に直撃した。

 そのまま、衝撃で吹き飛ばされたラディガルをクミシャルナが受け止める。


『次はお前だ。』

『っ!?。』


 放出されているエーテルの波動が小さな塊、水の玉のような物体になる。それが複数個作り出され同時にレーザー光線のような圧縮されたエーテルが光速で発射された。

 光線はクミシャルナの盾を意図も容易く貫通しクミシャルナの身体を貫いた。


『いつまで寝ている?。お前も余に近付くことは許さん。』

『ぐっ!?。あぐっ!?。』


 エーテルに押し潰され身動きの取れない月涙を蹴り飛ばしクミシャルナとラディガルにぶつける。


『ぐっ…はぁ…はぁ…ラディガル…月涙…大丈夫ですか?。』

『ああ…つえぇ…。』

『うぐっ…。は、はい。…大丈…夫…です。』


 ガズィラムに触れることすら出来ない3体。


『はぁ…。やはり我慢ならぬ。余が獣ごときの相手をすることになるとは。ちっ。駄目だ。』


 苛立ちを隠そうともしないガズィラム。

 今まで組んでいた腕を解き、手のひらをクミシャルナ達に突き出す。


『消えろ。目障りだ。』


 言葉と同時。躊躇も躊躇いもなく放出されるエーテルの波動。自らの怒り、憎しみを吐き出すように、ぶつけるように放出されたそれは、ギルドを消し去ったあの爆発の威力と同等、いや、それ以上の威力で放たれた。


『っ!。皆!。私の後ろに!。』


 クミシャルナが全身の鱗で作り出した巨大な盾を前面に展開。


『俺も。はっ!。【帯電放雷】』

『私もっ!。こんなところで死ねませんっ!。【水渦流盾】!。』


 クミシャルナの盾に雷が宿り強度を更に上昇。重なるように水の盾も展開された。


 エーテルが盾に当たる。

 

『ぐっ!?。これは…。』

『がぁっ!?。強すぎる…。』


 盾にヒビが入る。


『クミシャルナさん!。植物達よ。お願い!。』

『【砂塵嵐】!』


 美緑と砂羅も防御に加わる。


 いくつもの大木がエーテルに向かって飛び掛かり、砂嵐がエーテルの流れを変える。


 だが…全てが無駄に終わる。

 感情の乗ったガズィラムのエーテルは神獣。クミシャルナ達を【消し去る】為に放たれた【神力】だ。

 神の決定は絶対。神より下の存在である神獣や美緑達に抗う術はない。


『うぐっ…月…涙…貴女…だけでも…。』

『クミシャルナ姉さん?。』


 抵抗も虚しくエーテルの波動はクミシャルナ達3体の神獣を呑み込み直線上にあった全てを消し去った。地平線まで抉れた地面が続いている。


『跡形もなく消し飛んだか。獣共。余の前に立ちはだかったこと悔いるが良い。…さて、余の攻撃に干渉してきたな?。強者達よ?。しかし、今の一連の攻防で理解した筈だ。余とお前達の力の差は歴然。どう足掻いたところで余を倒すことは不可能だろう?。【樹界の神】、【砂塵の神】よ。』


 腕を組み直し宙に戻るガズィラムの言葉。

 確かに、絶対的な力の差。

 【無限】に対し美緑と砂羅が出来ることなど最初から存在しないのかもしれない。


『諦めません。貴女は涼さんを…私の大切な人達の命を奪った。それに…今も何処かで閃さん達が戦ってくれている。ここで私が諦めたら…皆に怒られてしまう。それは…貴方に負ける以上に嫌だ。』

『ふふ。そうですね。私も同じ意見です。閃さん達が頑張っている。それに…皆さんも最後まで戦っていたのですから。私達だけが諦める訳にはいきませんね。』


 再び。樹木の中に同化する美緑。


『【砂化】。』


 自身の身体を砂に変えた砂羅はガズィラムを中心に美緑との反対側に移動。そこは、ガズィラムのエーテルの爆発で砂と石だけになった黄華扇桜のギルド内に降り立った。


『神化。【砂渇塵女神化】。』


 砂羅の神化。砂軍の国の神が顕現する。


『神技っ!。【砂宮神殿】!。』


 出現する砂の宮殿が出現。更に周囲を取り囲むように5つの巨大なピラミッドが集まった砂によって建造された。

 各々のピラミッドの中心。頂点には黄金に輝く球体状の瞳が浮かんでいた。


『美緑ちゃん。行きますよ!。』

『はい!。砂羅!。』


 美緑の植物がうねりを上げ、樹海は1つの生き物のように中心にいるガズィラムへ攻撃を仕掛ける。

 大木は自身の根で動き回る。

 植物の根や蔦は鞭のように打ち付けられ、葉や花びらは鋭い刃になり舞い、ある植物は種を弾丸のように飛ばす。毒を含む花粉を撒き散らすモノまでいた。


 砂羅の方は、5つのピラミッドの中から続々と現れる何千もの数の砂の兵隊がガズィラムへ向かい進行を開始した。

 砂嵐が吹き、ピラミッドの中心にある黄金の輝きがより一層強くなった。


『ふむ。物量作戦と言ったところか。確かに並みの神ならば対応に時間が掛かるだろう。しかし、忘れたか?。余のエーテルが影響を及ぼす範囲はその上を行くぞ?。』

『そんなこと百も承知です!。行きなさい!。』


 砂羅は手にした神具【砂国羽扇】で兵士達に命令を下す。

 対するは最強の神。神を討ち滅ばせ!。と。


『おぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!。』


 何千もの砂の兵士達が怒号にも聞こえる咆哮を上げ突進を開始した。


『あなた達も。行って下さい!。』


 反対側からは、美緑の能力で操られた植物達が進軍する。

 挟み撃ちになるガズィラムだが、この状況ですら余裕をみせていた。


『…それが限界か。ああ。そうか。お前達は仲間…複数人で戦うことを前提に能力を得たのか。能力を見る限り後衛向きなのは明らか。ふむ。ならば、少し酷なことを言ったな。』


 美緑は思う。いや、砂羅も同じ気持ちだったのだろう。

 ガズィラムと相対した瞬間に感じた実力の差。それは例えリスティナの加護があったにせよ覆ることのない絶対的な差だった。

 勝てない。逃げたい。諦めたい。様々な負の感情を押し殺し、震える身体に鞭を打ち…それでも立ち向かおうと自分を鼓舞した。

 だが、そんな空元気にも似た感情は次のガズィラムの行動で完全に崩壊することとなる。


 ガズィラムが片腕を上げエーテルを凝縮させる。


『強者よ。余とお前達の力の差をその目に焼き付けよ。』


 ガズィラムのエーテルが形を為し…それは、巨大な…巨大な…それこそ、美緑の樹海と同じサイズの巨大な5色の炎の鳥が召喚された。


『う…そ…あれは…美鳥さんの…神…技…。』


 炎の鳥は巨大な翼を羽ばたかせ樹海へ飛び込む。炎は一瞬で燃え広がり美緑の森を焼き尽くした。

 

『こんな…簡単に…私の神技が…。』


 同化を解除した美緑が燃え上がる森から脱出し絶望に膝をついた。

 分かっていたこと。理解していたこと。

 それでも前を向いて…未来を勝ち取る為に踏み出した一歩を簡単にあしらわれた。

 閉じ込めていた感情が一気に押し寄せる。

 絶望。恐怖。諦め。悲しみ。孤独。様々な感情が入り乱れ…遂に、美緑は泣き出してしまった。


『どうだ?。諦めはついたか?。』


 既に神化は解除され、普段の状態に戻ってしまった美緑。

 顔を上げた美緑の前に立つ自分を見下ろしているガズィラム。その表情は、穏やかだった。


『美緑ちゃん!。神技!。【王伝威光】!。』


 砂羅の神技。

 5つのピラミッドの頂点に輝いていた黄金の瞳から放たれる極大の魔力砲撃。その輝きは太陽を彷彿とさせる熱量と圧倒的速度で放たれた。


『ほぉ。今のを目の当たりにし、まだ足掻くか?。良かろう。その全力。真正面から受け止めてやる。』

『っ!?。』


 砲撃はガズィラムに命中する前に止められる。いや、突如として出現した【箱】に収納されたのだ。

 回転し圧縮されながら収縮していく【箱】。

 砂羅の渾身の必殺技も小さな点となって消滅した。


『無凱…さんの…スキル…まで…。』

『驚くのはまだ早いぞ?。』


 ガズィラムの身体から薄く速い魔力の波が放出される。


『ほれ。近付いて来い。』

『なっ!?。えっ!?。きゃっ!?。』


 砂羅の身体が美緑に吸い寄せられる。


『うぐっ!?。ご、ごめんなさい。美緑ちゃん…。』

『あぐっ!?。…っ…だ、大丈夫です…。砂羅…。今の…里亜さんの…スキルまで…。』


 ガズィラムは味方のスキル、技を使用した。


『余はお前達、強者に感謝している。』

『…?。』

『余にエーテルの使い方を教えてくれたのだからな。ここまでの多種多様な使い方や工夫を余はお前達から学んだのだ。』


 エーテルの小さな輝きを指先から地面に落とす。すると、そこから小さな植物が顔を出し可憐な黄色の花を咲かせた。


『っ…私の…。』

『ああ。お前の能力だ。余のエーテルは、お前達が扱う魔力の起源となるものだ。お前達が魔力を用いて行うことは、エーテルを扱う余にも可能だ。いや、余の方がより強力な能力となって発現するだろうな。』

『………。』


 自分自身が長い時間を掛けて会得し修練し、ようやく自分のモノとして扱えるようになったスキルを見ただけで、自分達よりも強力なスキルとして扱える存在。


 美緑の心は完全に折れてしまった。


『あ…。………。勝てない…よ…閃…さん…。』

『安心せよ。苦しむことなく排除してやる。余を満足させた礼だ。いや、初めて感じるこの感情は…ああ。確か 敬意 だな。強者であるお前達に余からのせめてもの手向けだ。受け取れ。』

『美緑ちゃん!。』


 砂羅が美緑を抱きしめる。


『砂羅…。私…閃さんの…お役に…立てなかったよぉ…。』

『私もです。けど。一生懸命やりました。閃さんなら褒めてくれますよ。』

『………うん。砂羅。ありがとう。』

『いいえ。最後まで私と一緒に居てくれた美緑ちゃんこそ、どうもありがとうございます。大好きですよ。』

『うん。私も。大好き。』


 抱きしめ合う2人を呑み込むエーテルの波動。文字通り、痛みすらも感じない圧倒的な破壊のエネルギーが美緑と砂羅の身体を一瞬で消し去った。


 僅かに残っていた樹海は枯れ落ち、砂で出来た宮殿とピラミッドは崩れ落ちた。


『礼を言う強き者達よ。余は満足した。』


 荒れた大地…黄華扇桜があった平地を眺めガズィラムはエーテルを放出した。

 美緑のスキルを使い、荒れ果てた大地に緑が生まれる。

 驚異的な速さで緑が息づく。そして、広大な樹海が作り出された。


『素晴らしいな。エーテル…破壊だけではなかった。ははははは。こんな簡単なことに気付かぬとは…余も所詮は造られた存在ということか。』


 この世界でガズィラムは誕生し初めて【学んだ】のだった。


ーーーーー


 周囲を反発し行き場を失った魔力が稲妻のように走り抜けた。

 魔力の影響で漏れ出した魔力の影響で周囲の地面や木々が砂のように次々と崩れていく。


 【静寂の神】リシェルネーラと翡無琥は互いの右手を重ねて能力を使用する。


 触れたモノを砂のように崩すことが出来る能力。


 その実態は、世界の本質を理解し、その根源にある魔力の配列を読み取り干渉し崩壊させる。


 故に彼女達の前では、どんなに硬い金属でも、どんなに頑丈な壁だろうと意味を為さない。それは、魔力・エーテルを基盤にしているモノが対象であり…つまりは世界の全てが彼女達の前では形無き魔力の塊である。


『さぁ。もっと集中してください。力を弱めてしまえば忽ち崩壊してしまいますよ?。』

『うぐっ…あぅ…はぁ…はぁ…はぁ…。』


 翡無琥の虹色に輝く瞳。その目から血が流れる。

 苦しそうに呼吸を乱し膝をついた。


『惜しい。ですよ。さぁ。もう一度です。もっと意識を深く、そして本質を見抜くのです。貴女なら出来ます。』

『はぁ…はぁ…はぁ…。』


 この状態が始まって30分程が経過していた。


『1つ…お聞き…しても…良いですか?。』

『ええ。何でしょうか?。』

『貴女の目的は…いったい何なのですか?。』

『先程も言いましたが貴女に会うことですよ。翡無琥ちゃん。』

『その…理由が分からないのです…この…やり取りに何の意味があるのですか?。』


 翡無琥はリシェルネーラに言われるがままに能力を使用していた。

 彼女には殺気も敵意も無く。ただ、自分に対し嬉しそうに能力の使い方を教えてくれているのだ。


『ああ。ごめんなさい。説明を省き過ぎましたね。突然、初めて出会った女に手解きをされる。確かに、貴女の立場からすれば不気味でしょうね。すみません。』


 深々と頭を下げるリシェルネーラ。

 同時に戸惑う翡無琥。リシェルネーラの行動に何1つ理解が出来ないからだ。


『では、なるべく手短に説明しますね。』


 周囲を見渡してみるリシェルネーラ。

 魔力の影響を受けず辛うじて残った腰を下ろせるくらいの岩を見つけて、そこに座る。

 手招きするリシェルネーラ。


『どうぞ。こちらに。』


 何故か自分の膝をポンポンと叩き翡無琥を誘導するリシェルネーラ。


『座れ…ということですか?。』

『ええ。そのまま座ると服が汚れてしまいますから。それに、翡無琥ちゃんを抱きしめたかったのです。』

『ええ…。』


 リシェルネーラが何を考えているのか分からない翡無琥だったが、リシェルネーラの能力が完全に自分を上回っていることを理解させられてしまった為、大人しく言うことを聞くことしか出来なかった。


『そ、その…失礼します。』

『ええ。どうぞ。』


 リシェルネーラの膝の上に座る翡無琥。

 リシェルネーラが後ろから翡無琥を抱きしめた。


『辛くないですか?。』

『あ…はい。大丈夫です。』

『そうですか。良かった。ふふ。翡無琥ちゃんは柔らかくて温かいですね。』


 満足そうに笑うリシェルネーラ。


『それより…早く教えて下さい!。』

『ああ…そうでしたね。幸せすぎて忘れていました。』

『ええ…。』

『こほん。最初にもうご存知だとは思いますが私は貴女の基となった神です。この仮想世界が誕生し人間が生まれた時、彼等を導く存在として我々、神の本質をコピーした人間が作られました。我々は貴女達のことを【神人】と呼んでいます。』


 翡無琥はリシェルネーラの口から神人について聞かされた。


 閃、無凱、代刃、黄華、矢志路、仁、つつ美、煌真、瀬愛、裏是流、光歌、睦美、灯月

、基汐、無華塁…そして、翡無琥。


 彼等が神人であること。


 その中でも、閃は特殊であり【絶対神】と【創造神】の2柱の性質を持って生まれたこと。


 各々の神には本来、役割があること。

 リシェルネーラ自身の役割。


 神の存在の本当の理由。


 翡無琥達の生まれ育った仮想世界の存在理由。そして、この世界は既に役割を終えていること。


 【絶対神】グァトリュアルの目的。


『それらは…本当なのですか?。』

『信じられませんか?。』

『え、ええ。』

『ふふ。それは仕方がありませんね。急にこんなことを話されて、いきなり信じろと言われる方が無理な話。では、翡無琥ちゃん。目を閉じてください。』


 言われた通りに目を閉じる翡無琥。


『貴女に今、貴女の 目 の本当の使い方を伝授致します。私が貴女に同調し使用しますので感覚で覚えて下さいね。ふふ。緊張しなくても大丈夫ですよ。貴女と私は同一の存在ですから。すぐにコツを掴みますよ。』


 そう言ったリシェルネーラが翡無琥に魔力を流す。


『あ…。っ…。あっ…。あぅ…。』


 翡無琥は 視 る。


 世界の 全て を。………知った。


 理解した。過去も、現在も、未来も…。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』


 翡無琥の全身から汗が滴り、涙が流れている。


『情報量が多すぎたわね。ある程度、削ったのですけど。その 身体 では、限界でしたね。ごめんなさい。』


 膝の上から崩れ落ちた翡無琥を立たせて背中を擦るリシェルネーラ。


『今の…はぁ…が、世界…。』

『ええ。そうです。どうやら成功したようですね。私の目的も理解できましたか?。』

『はい。リシェルネーラさん…本当に良いのですか?。』

『ええ。実は貴女と話したかったのも、それが目的だったの。実際に話してみて貴女になら良いかなぁって思ったわ。ううん。貴女にお願いしたいの。だって、私の可愛い映し身ですから。』

『はぅ…。照れます…。』


 その時、空間が歪んだ。


『【静寂の神】よ。』

『あら?。王。ご満足なされましたか?。』


 空間から姿を現したガズィラム。


『っ!。』


 彼がここに居るということを翡無琥は理解した。

 美緑達が倒されてしまったということを。


『ほぉ。』


 ガズィラムが翡無琥を見て興味が惹かれたのか僅かに笑った。


『リシェルネーラよ。お前はどれだけのモノを誕生させたのか理解しているのか?。』

『ええ。勿論です。』

『ははははは。それは良い!。余の相手をすることを許可する。娘よ。余に挑むが良い!。』

『っ!。』


 ガズィラムから放たれる強大なエーテルの放出に翡無琥が後退る。


『王。如何に貴方様でも、それは許しませんよ?。』


 その瞬間。その一瞬。

 リシェルネーラから放たれた魔力。翡無琥が感じたソレは間違いでなければ【神王】であるガズィラムのエーテルの奔流を凌駕していた。


『ははははは。リシェルネーラよ。ようやく本性を出したな。お前とも心行くまで全力で殺り合いたいな!。』

『ふふふ。お戯れを。』

『ふむ。お前の楽しみを邪魔するのも無粋か。まぁ、良い。今日の余は満足している。拠点の方でも動きがあったようだしな。ここは身を退くとしよう。』

『ええ。その方が宜しいかと。王が興味のありそうな娘がまだ残っていますし。』

『ほぉ。そうか。何やら懐かしい気配を感じたのは其奴のモノか!。ははは。やはり、お前達は余を楽しませてくれる。』


 嬉しそうに笑ったガズィラムが空間の歪みの中に消えた。


『さあ、翡無琥ちゃん。そろそろ最後です。貴女の力を私に示してください。私を認めさせて下さい。』

『………少し待って貰っても良いですか?。』

『ん?。ええ。構いませんよ?。』

『感謝します。』


 翡無琥はある位置に向かう。

 砂の中に埋もれた存在に…。


『月涙ちゃん。』

『けほっ…けほっ…。うぐっ…。翡…無琥…さん…。クミ姉が………庇って…くれて…。』


 満身創痍の月涙を翡無琥が引っ張り出した。

 全身の火傷。身体の一部の消失。見るからに虫の息。

 王のエーテルが如何に強大かが理解できた。

 翡無琥には味方を回復するスキルはない。


『月涙ちゃん…これを持って飛んでください。』

『うっ…これ…は?。』


 月涙の片手に握られたイヤリング。

 それは閃から貰ったプレゼント。隠し機能として閃の持つもう1つのイヤリングと通信が出来る。


『この拠点の状況をお兄ちゃん達に伝えて下さい。』

『了…解…しま…した。』


 月涙が姿を消した。


『お待たせしました。』

『いいえ。構いませんよ。全てを知っても尚仲間を思う意思に感動すらしましたから。…では、始めましょうか。』

『はい。』


 翡無琥が右手を前に手のひらをリシェルネーラへ向ける。

 その手に重なるリシェルネーラの手のひら。


『閃…お兄ちゃん。先に行きます…。神技!。』


 翡無琥は全力で魔力を込めた。

 世界を崩壊させる根源の力を解放する。

 

『【崩脆世界】!。』


 リシェルネーラも同様に【神力】を発動する。

 2つの同質の魔力の衝突。

 互いに反発し合い、周囲を巻き込み崩壊現象が広がっていく。稲妻が迸り、2人を中心に周辺の全てが砂に変わっていった。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。これ程とは…流石は私の愛しい子…。』


 数分後、その場に残っていたのはリシェルネーラだけだった。

 翡無琥の姿は消え、その肉体は光になって消滅した。


『不完全な身でありながら私の腕を消失させるとは…素晴らしいですね。翡無琥ちゃん。』


 右腕を根元まで失ったリシェルネーラが嬉しそうに翡無琥のいた場所を眺めた後、満足気にゲートの中に消えていった。

次回の投稿は3日の木曜日を予定しています。

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