第180話 神に抗う③
全身からのエーテル放出を止め、地面に着地したガズィラム。
『はぁ…。はぁ…。はぁ…。強…過ぎる…。』
辛うじて立っている涼。里亜、威神、美鳥、楓、月夜の5人は壁にもたれ掛かっている。
ガズィラムはエーテルを放出しただけ、その圧倒的な量と密度、勢いに全員が押し流され壁に叩き付けられたのだ。
『ふむ。期待していたが…この程度か?。もう少し足掻かねば…この場所をお前達に託した無凱が浮かばれんだろう?。』
何度も攻め、何度もスキルを使用し全力で挑んだ。だが、ガズィラムは腕を組んだままエーテルの放出だけで涼達を寄せ付けなかった。
『くっそ…。』
震える膝に鞭打ち何とか構えを取る。
『皆…まだ、やれるか?。』
『はい。涼君。いけます。』
『ああ。問題ない。』
『私達もです。』
涼の言葉に全員が頷く。
『『『『『『【空間闘神化】【磁界女神化】【外武装神化】【鳥人精霊女神化】【植精霊女神化】【月光夜女神化】!。』』』』』』
涼達の魔力の増大。
6柱の神の顕現に今まで、つまらなそうにしていたガズィラムの表情が笑みへと変わった。
『そうだ!。それを待っていた!。お前達の底力!。余に見せよ!。』
エーテルを解放し再び宙へ浮かぶガズィラム。
『【月光斬】…。』
ガズィラムが宙へ舞い戻る最中、月夜がその背後に回り込み斬り掛かっていた。
『むっ!?。』
斬撃は僅かにガズィラムの首を掠める。
『速いな。月夜の女神とは…。これまた珍しい種族だ。』
至近距離からエーテルを放出し月夜に向け放つも、そこにいた月夜は傀儡であり既に闇に姿を隠した後。
『【月光残影】。』
『ははははは!。実に面白い!。余を速さで翻弄するか?。』
『神技!。【五色属精鳥】!。』
美鳥の神技。エーテルを放出し続けるガズィラムには通常の単発攻撃は効かないと判断し、最初から全力で最大威力の技を放つ。5つの属性に分かれた巨大な鳥がガズィラムへ突進する。
『鳥人の神か。生物の神は自然界に存在する神よりも性能が低くなると聞くが…これはなかなかなモノではないか?。』
巨大な鳥にエーテルをぶつけ相殺させる。
『この衝撃を貰うっ!。』
『っ!。そうだ。お前のその能力。一際異質。余を持ってしても…その能力は珍しいと言えるだろう。』
美鳥の神技とガズィラムのエーテルの衝突で発生したエネルギーが一瞬で消失する。
その一瞬。僅かな時間。ガズィラムのエーテルがその身を再び包む前に小さな…ガズィラムの身体に触れることの出来る 穴 が形成された。
『やったわ!。触った!。』
『何を企んでいる?。ぐっ!?。これは!?。』
里亜がガズィラムに触れた。里亜に気付き瞬時にエーテルを放出するが、その身体は地面へと叩き付けられた。
『威神君!。』
『ああ。今がチャンスだな!。神技!。【外装闘纏破撃】!。』
神具である巨大な鉄球【鉄鋼装球】が無数のパーツに分解。鎧となって全身に装備される。
その全身が鎧に包まれた身体での突撃。
魔力を纒い全身が1つの隕石のように発火した威神の神技が地面へと叩き付けられたガズィラムへ追い討ちを掛けた。
衝突と同時に発生する爆発。巻き上がる地面。涼達の連携が炸裂した。
『やったの?。』
『……………いや…。駄目…みたいだ。』
土煙がエーテルによってかき消された。
そして、腕を組んだまま無傷のガズィラムは浮遊する。
『威神さん!?。』
『威神兄!?。』
『お兄さん!?。』
倒れたままの威神に反応はない。
『呼び掛けても無駄だ。良いモノを見せて貰った礼として痛みなく排除させて貰った。』
『馬鹿なっ!?…それは…無凱さんの…。』
ガズィラムの肩の上辺り。
四方形の【箱】が浮かんでいた。中には…おそらく、威神の心臓が収納されて…。一点に圧縮され消滅した。
『ふむ。やはりコントロールが難しい。無凱の技術…驚嘆する。』
『うそ…いやっ!。威神さん!。』
『お兄さん!。お兄さん!。』
反応のない威神を抱き寄せる美鳥と月夜。
俯せに倒れていた威神が仰向けになる。胸…ちょうど心臓の位置から血が流れ出ているのが確認できた。
無凱の能力をガズィラムが使用できる。
その事が、圧倒的な実力差のある自分達とガズィラムとの強さの距離を更に遠ざけた。
『威神兄…。お前…お前がぁっ!。殺したっ!。』
『だめ!。楓っ!。』
『神技!。【植毒樹海】!。』
楓を中心に生物を捕食する植物の群れが召喚された。一斉にガズィラムに向かい蔓や根、本体である葉の牙や溶解液を撒き散らせながらガズィラムへ飛び掛かった。
『ふん…。毒樹海の神が余に挑むか?。良いぞ!。ならば、これを受けてみるが良い!。』
渦を巻くように集まるエーテル。
次第に回転は速くなり削岩機を彷彿とさせる螺旋を描き楓の肉体を貫いた。
『ぐがっ!?。』
ガズィラムに飛び掛かった植物達もエーテルの余波だけで消し飛ばされた。
エーテルの影響で無惨にも回転しながら地面に沈む楓。…即死だ。その身体が光の粒子になるのに10秒も掛からなかった。
『楓…ちゃん…。楓ちゃぁぁぁあああん!。』
『姉さん…。』
泣き崩れる美鳥。
月夜はガズィラムを睨んだ。
『無凱は今のを耐えたのだがな。ふむ…。神の写し身…いや。【神人】と言っていたな。やはり、神人以外では強者止まりか。』
『貴様っ!。』
『ああ。お前の能力は実に興味深い。』
『神技!。【衝撃累積爆】っ!。』
涼の神技が炸裂した。
『面白い。衝撃を空間に固定。自身の意思で解放できる能力か。しかも、衝撃の移動と累積で威力を高めることも可能…と。先の余の衝撃を固定していたな。防御も備えた良いスキルだ…が。』
高められたエーテルが衝撃をかき消した。
違う。エーテルの量が余りにも多く桁外れな為、涼が蓄積した衝撃波ですら吸収されてしまった。
『出力を引き上げれば関係ない。』
『くっ…。強さの…次元が違う…。』
『涼君っ!。【陰右手・陽左手】!。』
ガズィラムに近付いた涼の身体を引き寄せる里亜。
『女。お前の対象を【磁力化】する能力。なかなかに器用に使う。余に対し接触を試みたのも余の身体に磁力を宿すことが目的であったようだな。しかし…。』
『っ!?。あっ…あぐぁっ!?。くぅ…。』
『その両手が能力の発動する起点だろう?。斬り落としてしまえば何も出来まい?。』
エーテルの刃が里亜の両手を切断する。
『里亜!。』
『涼…君…ごめんなさい。』
里亜を抱き抱えた涼が歯を食い縛る。
『神技…【月光・静夜一刀】。』
『自ら闇を生み出し気配無く敵を一刀両断する技か。だが、エーテルは気配、皮膚感触のように知覚出来る。お前の動きなど手に取るように分かるぞ?。』
『っ!。』
『ここで…。』
エーテルの波動が月夜に向け集束する。
『消えろ。』
『させないっ!。月夜ちゃんまで殺させないっ!。【翼鋼壁】!。』
一点集中したエーテルの放射。
間一髪で翼を鋼化した美鳥が壁となり月夜を庇う。
『ああああああああああ………。』
しかし、美鳥の翼はエーテルの放射に耐えられず消し飛ばされた。翼が腕である美鳥の両腕が焼き消されてしまう。
飛ぶことが出来なくなり月夜共々地面に落下した。
『私の…最大磁力!。【磁力のエレメント】よ。力を貸して…。神技!。【極・磁幻界】!。』
『むっ!?。両腕を失ってまだ能力を発動できるのか?。いや…そうか。精霊の加護…か。そんな能力者までいたとは…ははは。まったく飽きさせん連中だ!。』
里亜がこれまでに触れた全ての物質、結界内で認識した全てのモノがガズィラムに吸い寄せられ集まっていく。
『余を押し潰すか?。だが、無駄だ。余のエーテルは全てを消し去る。』
吸い寄せられた物体がガズィラム本体に届く前に消滅していく。
石や岩、土、コンクリートや鉄骨、廃材、樹木など。ありとあらゆるモノがガズィラムに消されてしまう。
『こんなモノか?。少しがっかりだが。余以外のモノならば圧死していただろう。そう考えれば恐ろしい技ではあるが…。』
『まだ…終わりじゃ…ない!。』
『ん!。エーテルが乱れる?。』
『計8箇所。等間隔で設置した【磁界】に【極引力】を発動し、同時に中心にいる貴方の身体に対し磁界に反発する【極斥力】を使用しその場に固定した!。磁界に吸い寄せられるのはエーテルだけ…。』
乱れたエーテルの波。
その僅かな隙間から…。
『エーテルの衝撃を全て返す!。【固定化解放】!。』
『っ!?。余のエーテルを抜けたか!。』
エーテルの衝撃全て乗せた涼の拳がガズィラムの顔を殴り付け、その身体が磁界による拘束を破壊し地面に衝突した。
全力で殴った涼もまた地面に落下する。
『はぁ…はぁ…はぁ…。ここまでやって…やっと…一発…。』
『涼…君…。』
『ああ…あれじゃあ…倒せて…ない…。』
『涼さん…。』
『……………。』
全員がガズィラムの落下した位置を見る。
『!?。』
エーテルが空に…天に立ち上った。放出は絶えず続き巨大な球状の塊へと形を為していく。
『こ…これは…何て密度のエネルギー…。』
『はははははははははは………。お前達を侮っていた。許せ。強者達よ!。余に一撃を与えた褒美だ!。余の力の一端をその身に刻んでやろう!。』
宙に浮かぶガズィラムの頭上に形成された極大のエーテル塊。
『そん…な…。あんなの…勝てる訳がない…。』
『神…の…本気か…。』
『姉さん…怖い…。』
『…黄華…さん…威神…さん…。』
エーテルの塊が落下を始める。
『なぁに。痛みはない。苦しみもない。一瞬で蒸発するだろう。楽しかったぞ。強者達よ。』
エーテル塊が地面に接触した瞬間。
エーテルの爆発が、破壊の衝撃となって一気に広がった。
爆心地にいた涼達は一瞬で消滅。
爆発の規模は 森林地帯 を残し黄華扇桜のギルド、及びクロノ・フィリアの拠点が地図から…日本から消滅した。
ーーーーー
豊華のアイテムBOXに収納されていた大量の石が賢の重力によって加速し落下する。
その数は…横たわる賢磨、そして、その賢磨を足蹴にしている【流動の神】コルンの目には、空が見えず、頭上を覆い隠す程の…数え切れない量だった。
全部ただの石なのに、何でこれだけの石を持っているのか?。
様々な疑問がコルンの頭の中を過るがそんな場合ではない。
賢磨により足を掴まれ即座に逃げることの出来ないコルン。
このままだと、自分自身も大量の石の下敷きになってしまうというのに賢磨はコルンの足を決して離さない。
落下してくる石の雨の襲われる僅かな時間でコルンが取った行動、それは自身の持つ【流動】の力により大量の石の軌道を変えることだった。
次々に落下してくる石の雨。様々な大きさ。大きいものだと直径5メートル…10メートルのモノまである。それが大量に加速して落ちてきたのだ。流石のコルンでも焦りが露になった。
『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』
自身の周囲に四方八方へ逸れる流動を作り石の軌道を変える。コルン、賢磨のいる場所以外、周囲は石で埋もれることとなった。
『ぶっ!?。』
安心した僅かな隙を見逃さず賢磨の拳がコルンの顔面を捉えた。
めり込む拳。ふっ飛び石に激突するコルン。
『はぁ…。一矢…報いたね…。』
『はぁ…。はぁ…。ああ。ウチ達を…はぁ…。舐めるからだ。』
右腕が完全に破壊され、肩を押さえながら立ち上がる賢磨。
地面に叩き付けられたことで鼻と顎、口から血を流している豊華。
互いに満身創痍だが、コルンの弱点を見つけたことに笑みを浮かべている。
コルンの【流動】は認識している対象にしか効果が現れないこと。認識の外にある不意打ちに対しては発動が遅れる。
つまりは、同時の別方向、他方向からの攻撃なら勝てる可能性があるということだ。
『くっそ。殴られた。僕が?。痛いなぁ。』
『………。そう…甘くはないか…。』
利き手ではなかったとはいえ全力で殴った。
しかし、思った程のダメージを受けていないコルン。彼は殴られた直後、認識した瞬間に【流動】を発動し衝撃を別方向に逃がしたのだ。
『神の名は…伊達ではないな…。』
コルンの…神の技量に驚愕の言葉を漏らす賢磨。
攻める方法を見つけた。勝つ手段が分かった。だが、今の攻撃は眠れる獅子を起こしてしまったかもしれない。そう賢磨は考える。
『もう。許さない!。絶対!。』
地面を何度も踏みつけるコルン。
その小さな衝撃の方向を操り手のひらに集めていく。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。
一定の方向ではない。様々な、内の潜り込むような軌道。外に逃げるような軌道。弧を描く軌道。1つとして同じ流れがない衝撃の塊が完成する。1つ1つは小さな衝撃だが、集束し、1つになったことで触れたものを即座に削り剃る球体となった。
『これで。お前達。殺す。』
怒りの形相で賢磨と豊華を睨み付けるコルン。
接近するコルンを迎え撃つために2人が構えた…その時だった。
『『『っ!?。』』』
爆音と共にエーテルの塊が巨大化し全てを呑み込んでいくのが確認できた。
『あれはっ!?。』
『王の!?。くっ。これだから【王】はダメなんだ。計画が狂うじゃないか!。』
『豊華さん!。』
エーテルは黄華扇桜の端に位置する場所で戦闘で行っていた賢磨達の所まで一瞬で広がり破壊し消し飛ばした。
そして、数秒後。
全てを消し去ったエーテルの放出が収まった。
『賢磨?。おいっ!?。賢磨!?。』
倒れている廃材を背に座り込む豊華。
豊華が胸に抱きしめているのは、呼び掛けに反応しない賢磨だった。
豊華を庇い、自分の身体を盾にし迫るエーテルの壁の外まで豊華を押し出した賢磨だったが…下半身はエーテルの波動に巻き込まれ腰から下を失い、その背中は大きく削られ背骨を含め内蔵が焼かれ消滅。…死んでいた。
『おい…。賢磨っ!。冗談はよせ…おま…お前まで……ったら…ウチ……さすが…に…笑えん…ぞ…。』
大粒の涙が抱きしめている賢磨の頬へ落ちるも反応は返ってこない。
賢磨の肉体の消滅は死んだことで加速し数秒で消滅してしまった。
『…うぐっ!?。……はぁ。……はぁ。安心しろ…ウチも…すぐ…いく…から…。』
廃材にもたれ掛かる豊華。
その指先が僅かにエーテルの壁に当たったようだ。元々受けてしまっていた【バグ修正】との相乗効果で消滅が急速に早まっていく。
『なぁ…賢磨。…今度は……今度…生まれ変わったら…ウチとの子供…つくろ…な…。ウチの伴侶は…お前だけ…なんだ…。だから…。また…。一緒に………。』
虚空の賢磨を強く抱き締めながら独り静かに消滅する豊華だった…。
『くっそ。くっそ。【王】の奴。僕のこのイライラは何処にぶつければ良いんだよぉ。これじゃあ、奴等は全滅だし…下手に動いて【神騎士】の奴等に会うのも嫌だし!。くっそ!。…………………………帰ろ。』
1人戦場だった場所に残ったコルン。
【流動】の力を使い自分に迫るエーテルの流れを全て賢磨達の方角へ送りつけた。
よって無傷。対戦相手が消えてしまったことで、やり場のない怒りを無理矢理抑え込んだ。
ゲートを開き戦場から離脱するコルン。
結果として【神王】が全てを持っていってしまった。
ーーーーー
『これは…そうですか。これが貴方方の切り札ですかっ!。』
【音響の神】ハールレンが奏でる曲を変更する。
曲はラスボスとの戦闘で流れるBGM。
曲調は疾走感、力強いテンポの良いリズム。
聞いているだけで身体が反応するような激しく壮大さを感じさせる。
つまりは、レベル120へ至った者達が一度は耳にしたことのある曲。VSクティナの戦闘曲である。
兵隊、騎兵、司祭、騎士の他。
自軍の兵の能力を強化し、自身も広範囲魔法攻撃を行える女王。
自軍の指揮を高め、自らも前線に立つ最強の王が召喚され一斉に襲い掛かった。
しかし、叶と幽鈴が【幽体同化】によって融合したことで誕生した【聖幽界神】に悉く斬り伏せられていく。
『くっ!?。これでも駄目ですか!?。』
更に激しくなる曲。
直ぐ様、復活を遂げる自軍の駒だが、焼け石に水。【聖幽界神】の持つ黄金の神剣の前には無意味に終わる。
『無駄です!。』
一振で複数の幽体を薙ぎ払い一気に距離を詰める【聖幽界神】だった。
神剣を構えハールレンを間合いに入れた。
その時…。
『っ!。まさか!?。王のエーテル!?。敵味方問わずですか!?。』
『これは!?。ぐっ!?。マズイ!?。』
エーテルの爆発。
巨大な球体状のエーテルの波動が急速に迫ってきた。
【神王】ガズィラムのエーテルの奔流がハールレン、【聖幽界神】の両者を巻き込んだ。
この出来事がガズィラムにより実行されたことにいち早く気付いたハールレン。
【聖幽界神】は、その事を知る由もないまま呑み込まれた。
数秒後。エーテルの奔流が鎮まる。
持ち得る全ての幽体を壁にしエーテルの爆発を凌いだハールレン。しかし、幽体の全てが消失。楽団も崩壊。魔力も底を尽いた。生きているのが不思議なくらいの満身創痍で立ち上がる。
『叶…。』
全てが削られ、抉られ、吹き飛んだ跡地。周囲の地面は捲れ上がり土と石だけの巨大なクレーターになっていた。視界に映る全部が平らな平地になってしまったような。
何もない大地に独り残され座り込む幽鈴。
叶の姿は見当たらない。
エーテルの爆発に襲われる瞬間、幽鈴の幽体を叶がその身を犠牲に守りきったのだ。必然、叶の肉体、幽体は完全に消滅。塵1つ残さず消えてしまった。
『ばか…。何で…自分を大事に…しないのよぉ…。叶…。』
地面に両手をつき、静かに涙を流す幽鈴。
普段は冷静で優雅な雰囲気を持つ幽鈴だが、今は少女のような儚さで俯いたまま動かない。
身を挺して守られた時。幽鈴に流れ込んできた叶のお想いを感じた。
それは、叶が自分に対して想っていた深い愛情だった。自分がどれだけ愛されていたのか。どれだけ深く強く想われていたのかを改めて知ったのだ。
最期の最期まで叶の中には自分がいた。
嬉しくて、辛い。別れの…感謝の言葉すら言えなかったのだから。
『我が身を挺して愛する者を守りましたか。素晴らしい方ですね。敵ですが。感服致します。』
『……………。』
幽鈴が顔を上げると目の前にハールレンが立っていた。
右手に長刀を握り、左手で右肩を押さえている。左足を引き摺り、神であっても今のエーテルの奔流が規格外の威力だったことが窺える。
『貴女はもう少しで消えます。』
『ええ。そうね…。確実に仕留めたいのでしょう?。ええ。良いわ。叶のいない世界には興味ないもの。一思いにお願いね。』
自ら胸を差し出す幽鈴。
『本当に彼を愛していたのですね。神である私には理解しがたい感情の筈なのですが…その互いを思いやる行動を美しいと感じてしまう。』
ハールレンの持つ長刀が幽鈴の心臓を貫く。
僅かに苦悶の表情を浮かべた後、幽鈴は静かに消滅した。
『………何とも後味が悪い。あのまま戦っていれば私が負けていたことは確実。ですが、王がそれを許さなかった…ということでしょうか…。』
更地となった風景を見ながら溜め息を漏らすハールレン。ゲートを開きその場から離脱した。
ーーーーー
『……………。』
虚ろな眼差し。
無表情のまま。感情のない表情で座り込む累紅。
【略奪の神】アイシスの能力によって生命としての活動以外の全てを奪われた。最早、自分が誰で何者なのかも理解していない。いや、そんなことを考える思考力も奪われている。生きているだけの人形に成り果てていた。
『そう…これが…貴女達が思い願う… 幸せ なのね。とても…温かいわね。何て言うのかしら…自分の居場所が確かに存在して…そのことを実感できている。大切な人。友人。仲間。色んな人達に囲まれて…そうね。喜びを…感情を共有する。…ええ。理解したわ。』
累紅の記憶に触れ、彼女の人生を共有したアイシス。
彼女自身が未だに理解できなかった人間という生物の思考、考え方、思い方などを累紅から学んでいた。
アイシスは、座る累紅の頭に軽く触れた。
『ふふ。ダーリンとの幸せな一時…羨ましいわね。…ええ。もう十分よ。返すわ。』
【略奪】した累紅の 全て を変換するアイシス。
『っ!?。かっ!?。はぁ…はぁ…はぁ…。いったい…何が…。』
『貴女の記憶を見させて貰ったわ。どうもありがとう。累紅。』
『っ!?。』
記憶を取り戻した累紅が眼前のアイシスに気付き距離を取る。
『ふふ。そう慌てないで。言ったでしょ?。戦う気は無いの。少しお話ししない?。』
『何?。』
『貴女の記憶を見せて貰ったお礼。私の…私達の記憶を見せて上げる。』
アイシスの提案。
とてもではないが信用できない。そう思う累紅だったが。先の一連の戦闘…いや、戦闘にすらならなかった。
仕掛けた初撃を完全に見切られ、躱された挙句の頭を掴まれ記憶を奪われた。
僅かな…一瞬の交錯で力の差を見せつけられてしまった。
『………。』
構えを解き神具を鞘に納める累紅を確認したアイシスは嬉しそうに笑った。
『良い娘ね。じゃあ、こちらに座って貰えるかしら?。』
『………。』
頷きアイシスの横に腰をおろす累紅。
『じゃあ、目を閉じて。安心して私の記憶を見せるだけ。貴女には何もしないわ。』
累紅の額に自分の額を重ねるアイシス。
同時に頭の中に自分のモノでない映像が、映画の早送りのように流れ込んできた。
凄く長い時間の記憶が次々に流れ込み、その情報量の多さに累紅は混乱する。
『あらあら。ごめんなさい。いらない部分は消しておくわね。』
処理が追い付かず、苦しげな表情の累紅に気付いたアイシス。
その言葉と同時に必要最低限の情報のみが送られてくるようになった。
暫くして、頭の中の映像に自分自身が登場し現実の時間とリンクする。映像がリアルに追い付いたのだ。
『これで、終了よ?。』
『どう?。私の考えも一緒に流したのだけど。感想を聞かせて貰っても良いかしら?。』
『………。』
累紅は神の記憶、アイシスの考えに触れた。
【絶対神】の行動と目的。この仮想世界の意義。そこから導き出される神と人間との関係性。
『人間は神の為に存在しているわけではなく…。神こそが【神人】の為に創られた存在?。』
『そう…貴女もその考えに同意してくれるのね。ええ。スッキリしたわ。どうもありがとう。』
アイシスが立ち上がり3歩距離を取った。
『私達が行き着いた結論はあくまでも可能性。主様の本当のお考えは分からない。けど、きっとこの仮想世界は既に 役割を終えた わ。』
アイシスの意図を察した累紅が神具を構える。
『さあ。来なさい。私に貴女達の可能性を見せて。認めさせなさい!。』
『はい。全力で行きます。神化っ!。【歪曲空間女神化】!。』
累紅の【神化】が発動する。
空間を歪めねじ曲げる神へ。
『神技っ!【運命歪曲波突】!。』
結果としてアイシスと累紅の勝負は1秒に満たずに終わる。いや、勝負にすらならなかった。
アイシスは累紅から全てを奪った際に、彼女の能力、スキル、身体能力は勿論のこと動きの癖、技、技の弱点を全て知っていた。
当然、神技がどの様なモノかも理解し攻略法も知っていたのだ。
螺旋状の魔力を纏う槍もアイシスは流れるように躱し交差する瞬間に同じく螺旋状の魔力を纏う手刀で累紅の心臓を貫いたのだ。
『今までお疲れ様。ゆっくり眠りなさい。』
累紅の血がついた自身の手を舐め、空に浮かぶ巨大な目を見るアイシス。
『この世界の終わりが近いわ…。』
そう呟き…暫くの間、空を眺めていた。
ーーー
ーーーステータスーーー
・賢磨
・刻印 No.5(左手甲)
・種族 【地心核神族】
・スキル
【接近黒点】
【重力操作】
【重過武装】
【重過圧障壁】
【重力場】
【重力結界】
・神化 【重核神化】
・神具 【重力刀】
・神技 【極重圧崩壊神黒穴】
・豊華
・刻印 No.12(右腹)
・種族【妖精神族】
・スキル
【千里眼】
【射手の魔弾】
【自動回復】
【精霊力変換】
【遠隔補助】
・神化 【妖精砲霊女神化】
・神具 【十の円環】
・神技 【妖精霊極大砲】
・叶
・刻印 No.11(右手首)
・種族 【聖神信仰神族】
・スキル
【断罪の聖剣】
【救済の福音】
【共感幽視】
【幽体生転】
【聖天光鎖】
【聖光剣断絶壁】
【断罪聖剣】
【断罪神光】
【断罪光】
・神化 【聖信仰神化】
・神具 【聖天光庭教会】
・神技 【断罪の神剣】
・幽鈴
・刻印 No.21(右目)
・種族 【聖幽霊体神族】
・スキル
【浮遊】
【透過】
【実体干渉】
【念動操作】
【聖光壁】
【幽撃】
【霊幻身体】
【天輪光幕】
【断罪の神光】
【邪心金縛】
【幽体同化】
・神化 【幽聖霊女神化】
・神具 【聖教祝福鐘】
・神技 【聖光鐘幽閃界】
・涼
・刻印 No.20(右腕)
・種族 【空間支配闘神族】
・スキル
【空間固定】
【衝撃固定】
【固定化解放】
【衝撃記憶】
【衝撃集束】
【累積結界】
【累積強化】
・神化 【空間闘神化】
・神具 【積重籠手】
・神技 【衝撃累積爆】
・威神
・刻印 No.8(左胸)
・種族 【外部装甲機神族】
・スキル
【不屈精神心堅】
【周辺物質収集】
【装甲強化】
【剛力】
【身体硬化】
【部分装甲】
【装甲解除】
・神化 【外武装神化】
・神具 【鉄鋼装球】
・神技 【外装闘纏破撃】
・里亜
・刻印 No.7(下腹部)
・種族 【磁界幻神族】
・スキル
【磁界結界】
【陰右手・陽左手】
【極引力・極斥力】
【磁力砲】
【磁界壁】
【磁界移動】
・神化 【磁界女神化】
・神具 【対極磁界輪】
・神技 【極・磁幻界】
・美鳥
・刻印 No.10(胸元)
・種族 【鳥人精霊神族】
・スキル
【共感念話】
【堕落の粘液】
【魅惑の体香】
【接触支配】
【高速飛行】
【羽斬】
【翼鋼羽弾】
【翼鋼壁】
【精霊鳥召喚】
【鳥爪狩】
【鳥言語】
・神化 【鳥人精霊女神化】
・神具 【鳥紅石爪】
・神技 【五色属精鳥】
・楓
・刻印 No.12(右腹)
・種族 【食生植物精霊神族】
・スキル
【共感念話】
【痛快の粘液】
【淫楽の体香】
【食生植物の森】
【食生植物召喚】
【植物同化】
【誘惑香樹】
【眷族召喚】
・神化 【植精霊女神化】
・神具 【精霊緑ノ宝玉】
・神技 【植毒樹海】
・月夜
・刻印 No.17(右下乳)
・種族 【月光夜神族】
・スキル
【共感念話】
【快感の粘液】
【悦楽の体香】
【月光癒鈴】
【月夜隠蓑】
【月光分身】
【月光斬】
【月光残影】
・神化 【月光夜女神化】
・神具 【月刀】
・神技 【月光・静夜一刀】
・累紅
・刻印 No.13(背中)
・種族 【歪曲空間神族】
・スキル
【空間歪曲】
【歪曲転移】
【歪曲波動】
【歪曲魔力纏装】
【念極浮遊】
【歪曲結界】
・神化 【歪曲空間女神化】
・神具 【双歪華乱槍刀】
・神技 【運命歪曲波突】
次回の投稿は23日の日曜日を予定しています。