第176話 流動の神
障害物の少ない拓けた場所…というのには語弊がある。幾度となく放たれた重力波により建物の残骸などが押し潰され平地になった結果だ。
その場所で繰り広げられている戦いがあった。
指先から魔力砲撃を連発する女性。クロノ・フィリア 豊華である。
様々な性質の魔弾を放つも目の前の敵は微動だにせず砲撃の嵐を躱していく…いや、敵は何もしていない。その場から動いてすらいないのだ。
ただ、指先で適当な方角を指差すだけ。
そんなことで豊華の魔弾はその方角に勝手に逸れてしまう。
『ちぃ。厄介だな。神の能力という奴は!。第5の魔弾っ!。』
巨大な魔弾すら指先1つで届く前に地面に吸い寄せられ落下する。
『何度やっても無駄。僕にそれは当たらない。僕。神の中でも。結構。強い。』
少年の姿の神。
【流動の神】コルン
【流動】動く流れを操作する神の能力によって攻撃の全てが方向を変えられてしまいあらぬ方向へ飛んでいく。
『豊華さん。下がって。』
『無駄。左に逸らす。』
豊華と入れ替わるように【重力刀】で斬り掛かる賢磨だが斬撃の軌道まで容易に変えられてしまった。
『むっ…これでも駄目か。』
地面に誘導され突き刺さった重力刀の重さによって地面が裂ける。
追撃は無駄と悟り後退する賢磨。
『貴方達じゃ。僕には勝てない。諦めて排除されて。能力の相性が悪すぎるよ。』
『断るっ!。ウチは諦めんっ!。【第四の魔弾】っ!。』
『直線の砲撃は駄目だよ。そのまま反射する。』
『反射っ!?。そんなことも出来るのか!?。【第九の魔弾】っ!。』
反射された魔弾を盾で防ぐ。
『くっ!?。強いな。だが、これくらいで諦めてたまるか!。』
『だ、そうだよ。僕の妻がそう言うんだ。もう少し粘らせて貰うよ。』
『結果は変わらないのに…。』
戦闘が始まって30分。
賢磨は幾度も【重力場】を作り出しコルンへ攻撃するも重力すら方向を変えてしまうコルンに悉く防がれてしまっていた。
『はぁ…。じゃあ、少し本気ね。貴方の能力、真似るよ。』
『な…にっ!?。がっ!?。』
『ぐっ!?。急に身体が重くなったぞ!?。』
『この貴方の身体を流れる動き。血液、空気、あらゆる流れを下に向けた。重いでしょ?。どう?。自分と似たような技で身動きが取れなくなるのは?。悔しい?。』
『ぐっ!。』
『あれ?。何で立てるの?。』
『鍛え方が違う。この程度の重さ。特訓で慣れているさ。』
賢磨が豊華へ触れる。すると、身体に掛かっていた圧を正常に戻した。
『無効化された?。』
『【重力結界】の応用だよ。』
不貞腐れるコルン。
『すまん。賢磨。助かった。しかし、どうする。ウチの魔弾では奴にダメージを負わせられんぞ?。』
『さて…どうしましょうかね。僕の重力も方向を変えられてしまうから攻撃のしようがありません。』
『僕、これでも手加減してるんだよ?。本当なら貴方達の血液の流れを逆流させたり、体内に入った空気の流れを変えるだけで終わらせられるんだ。』
『『………。』』
『けど、久し振りに能力を存分に使えるって言われたから 戦ってる だけ。けど、受けるだけなのも飽きてきたから、そろそろ動くね。』
動く流れを操作し加速。
『っ!?。豊華さんっ!。』
『なっ!?。速っ!?。』
一瞬で豊華の懐まで移動したコルン。
指を構える暇も、魔弾を作る余裕もなくコルンの掌打が豊華の腹部にめり込んだ。
『流れを操る。体内に走った衝撃は螺旋を描き内臓を抉り背中を抜ける。』
『がふっ!?。』
妖精神族の種族特有の弱点。攻撃に対する防御力が極端に低い。
螺旋状の魔力が衝撃と同時に豊華の身体を貫通。吐血した豊華がその場に崩れた。
『まだ。倒れるの。早いよ?。』
『ぐふっ!?。』
倒れ込む豊華の顎を蹴り上げ、浮いた身体の流れを真下に向け地面に叩き付けた。
『豊華さんっ!。てめぇ!。俺の嫁に何しやがるっ!。』
『無駄。僕の前で 動く ということが全て能力の発動条件。腕の動きを螺旋状に、曲がれ。』
拳を繰り出した賢磨の腕が独りでにねじ曲がる。骨も肉も歪み腕全体が破壊された。
『がぁぁぁあああああ!?。』
『どう?。諦める?。』
『くっ!。まだっ!。』
負けじと蹴りを放つも…。
『何度やっても同じだよ。下へ。』
『っ!?。』
方向を変えられた蹴りは地面に向かう。渾身の力を込めた蹴りでさへ何食わぬ顔でいなしてしまった。
『理解した?。』
横たわる賢磨の肩を踏みつけるコルン。
そして、先程と同じ流れを操り賢磨に圧力をかける。
『ぐあっ…。』
『そろそろ排除するね。まぁ、僕の流れの影響を受けた時点で【バグ修正】は君達に撃ち込まれてるんだけどね。だから、もう君達は終わってるんだ。』
『そのせいか…身体に違和感を感じたのは…。』
『もう勝負はついてるんだけど、君達が必死だったから付き合ってあげたんだよ?。』
手を広げたコルン。手のひらに空気が集まっていく。それは空気の流れを操るのとで作られた空気を圧縮した塊。弾ければ強烈な衝撃と爆風で周囲のモノを破壊するだろう。
『空気の爆弾。これでトドメね。』
『さ…せん!。【第十の魔弾】!。』
『ん?。まだ。意識が?。』
豊華の切り札。最大威力、極大の砲撃がコルンに放たれた。
『驚いた。凄い威力…僕の【流動】で動かし切れなかった。少しだけ動かせたけど、右腕…もってかれちゃった。』
コルンの手のひらに作られていた空気の塊は魔力砲に呑み込まれ消滅。同時にコルンの右腕は魔弾によって黒く焼き焦げていた。
『安心するにはまだ早いぞ!。ウチ等は諦めが悪いんだっ!。ウチの集めたアイテムBOXの中身だ!。全部持ってけっ!。』
『ナイスだ!。豊華さんっ!。スキル【重力結界空間】。』
豊華のアイテムBOXから解き放たれた【大きな石】と【普通の石】。カンストした数量は空を埋め尽くし、賢磨が発生させた重力の影響を直に受け、上空から加速し降り注ぐ。
『は!?。嘘っ!?。何でそんなの持ってるのっ!?。っ!?。お前っ!。』
流石のコルンも予想外だった。
逃げようとするも賢磨に足を握られ即座に動けない。
『本当にウザいっ!。自爆覚悟でやること!?。』
全ての石が落ち終わる。
空に手を掲げたコルン。大量の石はコルンを避けるように周囲に落ちていた。
『そうだ。君の 流動 の能力は認識していないと発動しない。だから、能力を使用した直後のこのタイミングなら…。』
『っ!?。ぶっ!?。』
賢磨の拳がコルンの顔面を捉えた。
少年の小さな身体は残された全魔力で強化された賢磨の渾身の左ストレートに数十メートル吹き飛んだ。
『ふっ…どうだ。はぁ…はぁ…。』
『一矢報いたね。』
ーーーーー
再び神の拠点へと侵入した代刃達が長く続く階段を登っていく。
現在、50層…半分の階層まで到着したが未だに神との接触はない。
1度目は強制転移で最上階まで移動させられたが今回はそうではなかったらしい。神の気まぐれか、それとも閃への対処に追われているのか…。
代刃達の考えでは、【神兵】【神騎士】【神王】の12柱全員が拠点へ戻って来ている。そう…最悪の場合を想定して行動している。
代刃を除くと5人しか残っていないクロノ・フィリアメンバー、最低でも1人2柱の神を相手することを想定していた。
そして…80階層に到着し広い空間に出た代刃達の前に奴等が現れた。
『ははははは。やっと来たぜ。待ってた。待ってた。特にあの青い髪の女。俺ッチ等に特大の光線ぶっこみやがって。痛かったぜぇ?。』
『あれには驚いた。まさか我々が全く抵抗も許されない攻撃があろうとは…。』
『っ!。イルナード…。ノイルディラ…。』
【神騎士】、【感染の神】イルナード。【吸収の神】ノイルディラが上階へと続く階段の前で代刃達を待ち構えていた。
だが、その風貌は万全という状態ではないようで、イルナードは左腕と持っていた銃と刀を、ノイルディラは右腕と漆黒の大剣を失っているようだった。
『ん?。ああ。俺ッチ等のこの有り様か?。はぁ…あの化け物に手酷くやられてよ。間一髪逃げて来たって訳よ。目の前にいると消されちまうからな。』
『化け物…閃のこと?。』
『閃…そうだ。お前達が助けに来た化け物だ。ありゃ俺ッチ等じゃ太刀打ち出来んわ。強さの…いや、存在の格が違いすぎる。』
閃は今どうなっているのか、心配する代刃達だが今は目の前の2柱をどうするかが問題だ。
『イルナード…ママの…。』
『無華塁ちゃん。』
『………。何?。智鳴?。』
黄華の仇であるイルナードへ闘争心を燃え上がらせる無華塁を制止させる智鳴。
『氷ぃちゃん。』
『ん。了解。』
智鳴は氷姫に目配せし、その意図を汲み氷姫は魔力を高め周囲の気温を低下させながら前に出た。
『無華塁ちゃんは強いから。戦うべき相手はイルナードじゃないと思うの。』
『………。勘?。』
『そう。勘。』
『そう。分かった。パパの仇を倒す。』
殺気を抑え後ろに下がる無華塁。
『代刃ちゃん。灯月ちゃん。累紅ちゃん。ここは、私と氷ぃちゃんに任せて。先に行って。』
『智鳴…。氷姫…。』
『閃のこと…任せた。絶対助けて。』
『………分かった。皆行こう。』
『智鳴ねぇ様…。氷姫ねぇ様…。』
『灯月ちゃん。閃ちゃんをお願いね。』
『累紅も。』
『…はい。お2人共…ご無事で…。』
走り出す代刃達。
『へえ?。俺ッチ等無視して上に行こうってか?。』
『笑える冗談だ。』
『させないよっ!。【炎舞 炎華舞台】。』
『させない。【氷獄氷柱】。』
『っ!?。ッチ!。』
2柱の間を突破し上階へ続く階段を突破しようと走り抜ける代刃達を阻もうとイルナードが感染魔力を広げた…が、直前で炎と氷の壁に打ち消された。
『神化【天狐炎神化】。』
『神化【華氷獄姫神化】。』
同時に神化をし代刃達へ道を作った智鳴と氷姫。
『氷の神と炎の神か…。』
『ふむ。【向こう側】の世界でも強敵だったと記憶している。』
『ははは。だが、俺ッチ達に敵うわけねぇのによっ!。』
『そんなことやってみなければ分からないよっ!。』
『その通り。』
同時に攻撃を仕掛ける智鳴と氷姫。
『【炎舞 炎狐】っ!。』
『【氷獄華斬】っ!。』
『はっ!。炎でも氷でも関係ぇねぇ。俺ッチの感染魔力で侵し尽くしてやるぜぇ!。』
『ふっ…。グライラード無しで戦うのは何臆年ぶりか…。見せてやる。俺の本当の【吸収】を。』
天炎女神、氷獄女神、感染神、吸収神。
4柱による神戦が始まった。
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