第168話 覚醒
ーーー氷姫ーーー
次から次に湧いて出てくるゾンビ達を一度に凍らせる。
『切りがない。』
ゾンビ…いや、緑龍絶栄の住人だった彼等は思考することがなく、ただ私達に這い寄って食べようとしてくる。
本当にゾンビみたいになってる。
しかも、何体いるのか…。凍らせても、凍らせても何処から途もなく増えてる。
『氷ぃちゃん!。大丈夫?。』
『余裕。』
智ぃちゃんが火柱を上げ大量のゾンビを消し炭に変えると私の元まで跳躍、背中合わせで心配してくれた。
『この人達。身体中。傷だらけ。』
『うん。何かの実験に使われちゃったみたい。特に女の人の損傷が酷いよ…。』
『………。うん。弄ばれたみたいになってる。』
過去に自分にあった虐待の傷。
それに似た傷が女性のゾンビに多く見られる。
『普通の人間なら絶対死んでるくらいボロボロ…。』
彼等の肉体の損傷は激しい。
死んでから操られているのか、操るために殺されたのか…。
ゾンビ1体1体の強さは大したことない。ただただ数が多いんだ。
けど、私も智ぃちゃんも範囲攻撃が得意。
今も余裕なのは、私達の周りに作った氷の壁にゾンビ達が進行を阻まれている間に、智ぃちゃんの炎の分身と狐達がゾンビ達を食い止めてくれているからだ。
『っ!?。』
『氷ぃちゃん…気付いた?。』
私達は異変に気付いた。
閃達が侵入した巨大な建造物。
その天辺から今まで感じたこともない強大な魔力を感じた。智ぃちゃんも同じく視線を向けてる。
『なっ!?。』
大量の魔力の放出が建造物の天井を突き破り空へと飛び出した。けど、何…この違和感…。
『氷ぃちゃん…あれ、多分…魔力じゃない。魔力よりも強いエネルギーだ。』
『魔力よりも…強い…。じゃあ、おじさんのメモに書いてあった。』
『【エーテル】っていうのかもしれない。』
『けど、何でいきなり?。しかも、この感じ…閃?。』
『みたいだよね…閃ちゃんの魔力と同じ感じがする。けど…。』
智ぃちゃんの言おうとしていることは分かる。
あのエーテルからは閃の魔力と同じ波動を感じる。けど、同時に凄く不安を煽る。
いったい…彼処で何が起きているの?。
『あれ…何?。』
『わからない…。』
空へと放出されたエーテル。
雲を押し退け、それは大気と混ざり合うように溶け込んで広がっていった。
そして、それが現れた。
『目…だ。』
『怖い…。』
空よりも高い場所。宇宙の遥か彼方から見下ろしているような巨大な…巨大すぎる【目】。
地球よりも…いや、太陽系よりも大きい目が出現したんだ。
ーーー
ーーー同時刻 クロノフィリア拠点跡地ーーー
ーーーガズィラムーーー
『っ!?。』
クロノフィリア。なかなかどうして余を楽しませてくれる連中だ。
無凱が意思を託した者達。その者達の心には強い絆と意思が備わっている。
余と現在対峙している者もそうだ。涼と里亜と言ったか。余のエーテルにも一切臆すること無く挑み続ける強き心。感心する他ない。
しかし、その時だ。余の楽しみ遮るように天高く放出されたエーテルを感じたのは。…誰のモノだ?。余とは違う。半身のモノでもない。
『っ!。ほぉ。この感じ…。そうか。やはり彼の者等の中にいたか。ははは。出現したではないか!。【絶対なる神】よ!。悠久の時をさ迷い続けた甲斐があったなっ!。』
余が王眼で見つめる先。
天空よりも遥か彼方から地上を見下ろす巨大な目。
『【絶対の神】と対を為す存在の顕現か!。まさか、この世界で発生するとはな。ははは。ははははは。』
ーーー
ーーー神の拠点ーーー
ーーー代刃ーーー
閃の腕の中で睦美と瀬愛が死んだ。光の粒子になって…。
僕は見ていることしか出来なかった。僕等が動けば神が動く。僕達の行動を妨げるように立ちはだかる神達の圧力に身動きが取れなかったんだ。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。』
閃が悲痛な叫び声を上げる。
助けたかった恋人が腕の中で死んだんだ。
無理もないよ…。僕だって悔しい…辛い…。今まで一緒に過ごしてきた仲間であり家族、同じ人を好きになったライバルであり友人だ。
怒りと恨みで目の前の神へなりふり構わず特攻したい気分だ。
けど、それが出来ない…それだけ神と僕達の力は圧倒的だった。
話には聞いていた。黄華さんや基汐と戦っている映像も視せてもらった。何よりも、僕達の中で閃の次に強かった無凱さんを倒したんだ。
神達の強さは分かっていたつもりだった。
頭では理解していた。けど、実際にこの目で神達を目の当たりにした時、 強さ の根底にあるものが違うことを否が応でも理解させられた。
僕達じゃ…神達には…勝てない。存在が違う…。
だから、僕は動けなかった。
仲間が最後の悲鳴を上げて、その悲痛な声を聞いても身体が動いてくれなかったんだ。
だけど、閃は動いた。
そして、腕の中で大切な人が消えた。
僕なんかよりも閃はもっと傷付いたんだ。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…。』
閃が泣いている。
閃にとって睦美と瀬愛、それに灯月はとても大切な人なんだ。
閃は皆を平等に愛してくれていた。皆のことを考えて皆が幸せになれるように一生懸命に頑張って考えていてくれた。
皆が閃の気持ちを理解していて…皆、その気持ちが嬉しかったんだ。
けど、ふとした時に見せる刹那の表情。
言葉にすると難しいけど。心の底…もっと深い部分で感じてる感情。
愛おしい っていう一瞬の表情を向けていたのは睦美と瀬愛と灯月にだけだったんだ。
きっと無意識だったんだろうけどね。
特に睦美に対しては誰よりもその表情を見せていた。
だって、唯一…閃から告白した娘だったから…睦美は閃にとって、とても特別だったんだ。
今、思うと凄く焦っていたんだと思う。
睦美達が拐われた時、真っ先に助けに向かおうとしてたし、無凱さんの連絡を待っている間も頭痛でうなされながらも寝ている間中、睦美と瀬愛の名前を呼んでいたんだ。
『閃…。』
今は現状のことを考えなきゃ。
僕達の目的はあくまでも睦美と瀬愛の救出。
それが失敗した以上、敵の拠点ど真ん中に居る必要はない。
全員が無事生き残り拠点に帰還する。
それが…僕達が今する最適な行動じゃないか?。
そんな考えの中、事態は急変した。
『せ、閃っ!?。』
『にぃ様っ!?』
叫び声を上げていた閃の身体から今までに感じたこともない強大な魔力が放出されたんだ。
放出のエネルギーだけで天井を破壊し空に向かって放射され続けた。
しかも…これ…って…。
『魔力…じゃ…ない?。』
魔力よりも強力なエネルギーだ。
そう、リスティナが【創造】に使っていたような…。
『馬鹿な!?。これは…エーテルっ!?。』
神のノイルディラも困惑してる?。
『いちち…。おいおいおいおい。雑魚の中にエーテル使う奴がいるとか俺ッチ聞いてねぇんだけど?。』
『ダーリン…。これって…。私達と同じ…神の…。いいえ。私達よりも…上ね。私達にすら知らされていないことがあったのね。』
イルナード、アイシスも驚愕しているようだ。
この状況は神達ですら予測していなかった不測の事態ということ?。
『あっ…ぅ…。』
神達が【エーテル】と呼んでいたエネルギーの放出が治まった途端、閃がその場に倒れ込んだ。
『閃!。』
『にぃ様!。』
『閃っ!。』
『閃君っ!。』
僕達は倒れた閃に駆け寄った。
途中、神達の攻撃を警戒したけど神達は何もしなかった。
いや、出来なかったのか。
閃の身体から発生した異常な魔力。この状況に流石の神達でも迂闊に動けないんだ。
『ひひひ。ひひひ。何でしょうか?。今のエネルギーは?。まるで【神王】様方が持つエネルギーの強さと同等…いえ、それ以上のエーテルは!?。それに、なんですかぁぁぁあああああ!?!?。あの天から我々を見下ろしている巨大な 目 はぁぁぁあああああ!?!?。可笑しいですね?。神と同等の力を手に入れた私よりも凄いことが起きていますよぉぉぉおおおおお!?!?。』
半狂乱状態で興奮する端骨が放った言葉に全員が破壊された天井…突き破られた赤黒い空に目線を向けた。
『こ…れは…。』
そこには、遥か上空…いや、もっと上かな?。宇宙すらも見渡せるくらい大きな 目 があった。
『知らない。知らないぜ?。俺ッチは?。』
『私もよ。聞いていないわ。こんな存在が居るなんて…。』
『同じく…。』
神々も知らない現象。
あの 目 は閃が出したの?。
『にぃ様!。にぃ様!。起きてください!。』
気を失っている閃を抱き抱える灯月。
無華塁も累紅も声を掛けるけど反応がない。
何が…どうなってるの?。
『閃…。』
泣きながら閃を呼ぶ灯月。
僕は閃の手を握りながら灯月の背中を擦る。
閃…起きて…閃が起きないと皆が心配するんだよ…。
そんな…お想いが通じたのか、ゆっくりとした動作で閃が立ち上がった。
『閃っ!?。良かった!。大丈夫なの!?。』
『………。』
『閃?。』
『にぃ様?。』
僕の呼び掛けにも、皆の呼び掛けにも無反応な閃。俯いて、前髪で隠れた瞳には生気を感じない。
『はぁぁぁぁぁ……………。』
『っ!?。』
突然のことだった。
閃の身体から噴き出した魔力の波動で僕達は1メートルくらい後退させられた。
いったい、閃に…何が起きてるんだ?。
放出された魔力の色は黒。
霧のような、雲のような。モヤとなって閃の顔や手足、身体に纏わりつき鎧のように覆い被さった。
『閃…それ…。』
更に、いつの間に出したのか。
両手に握られている神具…。
右手には、時間を停止させる【刻斬ノ太刀】。
左手には、あらゆるモノを絶ち斬る【時刻ノ絶刀】。
…が、出現していた。
閃の顔は霧のような魔力に覆われて見えない。…けど、隙間から覗く赤い眼光が1つ。周囲を様子を確認するようにキョロキョロと動き回っている。
『に…ぃ…さま?。』
灯月は魔力の放出で吹き飛ばされなかったみたいだ。その場で座り込んでいた。女の子座りの灯月がそんな閃の姿を目を見開いた状態で呆然と見つめている。
今の呼び掛けも無意識だったに違いない。
だが、その声が世話しなく動いていた閃の赤い眼光を停止させた。
一点を見つめた赤い眼光。
感情の読み取れない赤い光が灯月を見つめ…ゆっくりと左手に持つ刀…認識したモノを絶ち斬る【時刻ノ絶刀】が持ち上げられた。
『お兄…ちゃん?。なん…で?。私…灯月…だよ?。なん…で?。刀…私に…向けてる…の?。』
閃の行動に理解の追い付いていない灯月。
信じられない。理解できない。そんな灯月の思いが伝わってくるみたいだ。
振り上げられた刀をただ見ているだけしか出来ない灯月。
何で閃が自分に神具を向け、攻撃しようとしているのか…分からない。
次の瞬間、刀は灯月に向かって振り下ろされた。
『灯月!。』
僕は飛び込んだ。
庇うように、勢い任せに、灯月の身体を抱き抱えて振り下ろされる刀の軌道から灯月を退かせた。
『っ!?。』
振り抜かれた刀の斬撃が直線上にあった全てを絶ち斬った。対象の硬度など関係ない。全てが切断されたんだ。
結果としての話。
灯月がいた場所からは明確に離れた位置を刃が走った。
僕は見た。
刀が振り下ろされる瞬間、右腕に持っていた【刻斬ノ太刀】の柄で左腕を突いたんだ。
『……………。』
『まだ、やる気なの!?。』
再び持ち上げられた刀。
今の僕は灯月を抱えている。体勢も悪い。
灯月は閃に斬り掛かられたショックで完全に茫然自失状態だ。…無理もない。心の底から尊敬している大好きな人に殺されそうになったんだから。
『はは…これは…逃げられないかな…。』
けど、刀が振り下ろされることはなかった。
いや、振り下ろされた。だけど、その瞬間。左手に持っていた【刻斬ノ太刀】が右腕を斬り落としたんだ。【時刻ノ絶刀】を持ったまま転がっていく腕と、噴き出した閃の血で真っ赤に染まった地面。
間違いない。
【時刻ノ絶刀】は僕達を殺そうとしている。
【刻斬ノ太刀】は僕達を守ろうとしている。
『君は…閃じゃないよね?。誰なの?。』
僕は黒い霧を纏う目の前の 何か に尋ねた。
『………。』
失った部位と転がった腕を交互に往き来する赤い眼光。
すると黒い霧が転がる腕まで伸びていき自分の元まで引き寄せた。切断面を補助するように霧が腕を取り囲むと何事もなかったかのように腕が元に戻ったんだ。
『っ!。』
閃が僕の目の前に移動した。
見えなかった。動きの全てが…。そうか…。
『時を止めたんだね。』
守ってくれる行為にも限界があるのか。
見ると右腕に刺し傷があり、【時刻ノ絶刀】の刃には閃の血がついていた。
まるで、無理矢理言うことを聞かせる為に斬りつけたみたいだ。
僕と目が合う。僕の問い掛けを理解している?。
無華塁も、累紅も動けない。僕達じゃ…【時刻ノ絶刀】の切断能力を防げない。下手に動けば標的にされてしまう。
『………。』
『………。』
刀の刃が持ち上がる。
ゆっくりと。確実に僕達を仕留める為に。
『ひひひ。時を止める力、全てを絶つ力?。欲しい。欲しい。欲しいぃぃぃいいい!。スキル【万能蟲糸】【鋼糸縛】。』
端骨が瀬愛のスキルで閃を拘束した。
決して切れない糸が閃の身体を締め上げる。
『ひひひ。どうです?。動けないでしょう?。私よりも目立ったこと許しません!。罰を与えましょう!。自らの恋人の能力で締め上げられる感想は如何ですか?。苦しいですか?。痛いですか?。』
『………。』
端骨の問い掛けにも無反応。
けど、動けなければ切断能力も使えない。今の内に少し離れないと。
『無華塁。累紅。灯月を運ぶの手伝って。』
『分かった。』
『はい。』
心ここにあらず。灯月はただ一点。閃を見つめたまま動かない。
こんな灯月は初めて見たよ…よっぽどショックだったんだ。こんな時、つつ美さんが居れば良いんだけど。
壁際、神と閃の両方が見える位置まで移動した僕達。
『貴方の大切な彼女達のスキルを取り込んだ際に記憶の一部も頂きました。随分と好かれていたのですね。羨ましい限りです。そして、同時に妬ましくも感じました。何ですか?。貴方の恵まれた環境は?。大切な仲間達に囲まれ強力な力を与えられ…神の恩恵までも手にした。私が苦悩と絶望を味わっている中…何と言う幸せな日常を送っていたのでしょうねぇ~。』
『……………。』
『ですが、結果はこの通りです。貴方の大切な者は私の素晴らしい実験の一部となり、その能力で貴方は身動きを封じられている。神々を見てみなさい。自分達が手を出す必要すら無しと傍観を決めている。』
神達の様子を見る。
確かに端骨の言う通り傍観に徹している。
けど、言う程余裕があるようには見えない。
警戒。
未知の存在。閃の情報を少しでも得ようと観察しているみたいだ。
『……………。』
『はぁ…。反応無し…ですか?。良いでしょう。ならば、貴方の恋人の武器と能力で引導を渡して上げましょう。神具発動。【聖五獣装甲】【蟲神紅玉】。』
あれは、睦美と瀬愛の神具。
スキルだけじゃなく神具まで奪ったの?。
『さぁ。身動きの取れない貴方はこの攻撃を防げません。私の実験の成果を試すモルモットとなりなさいぃぃぃぃぃいいいいい!神技【五聖獣極転炎】!!!。』
睦美の神技が閃に向け放たれた。
5色の光。5つの炎が閃光となって閃の身体を呑み込み、無抵抗の閃は見えなくなった。
『ひひひ。どうですかぁ?。直撃ですね。塵1つ残っていないかもしれませんねぇ。』
勝ち誇る端骨。
けど、神達の表情は驚きに、視線は端骨の後ろを見据えていた。
僕達も見ていた。
端骨の後ろに移動した閃の姿を。
『……………。』
端骨は気付いていなかった。
無慈悲に、無感情に振り下ろされた刀が自分の背中を斬りつけるまで。
『ぎゃっ!?。』
背中を斬られ倒れた端骨。傷は深くない。
『な、何が?。直撃したはず…なのに、何故、貴方は無傷なのですかぁ!?。』
『………。』
『あり得ない。身動きは完全に封じていた筈…時を止めての移動は理解できます。ですが、どうやって糸の呪縛から抜け出したのですか!?。』
そうだ。【時刻ノ絶刀】は振り抜かないと効果を発揮できない。腕は完全に巻き付かれた糸で動けない筈だったんだ。どうやって、閃は糸から抜け出したんだ?。
『マジか…。』
『そう…らしいわ…。ダーリン…。』
『我々より…上か…。』
神達は閃の行動を理解出来たみたいだ。
けど、様子が…焦ってる?。
『で、ででででですが!。この程度の傷は不死鳥の能力で簡単に癒えるのですよ!。【転炎光】!。』
斬られた傷がみるみる内に治癒していく。
睦美の回復力まで…。
『……………。』
『ひひひ。ひひひ。理解出来ましたか?。貴方がどんなに強くても私は再生できるのです。貴方の恋人の身体で実験し回復速度や条件は既に把握しています。よって私を倒すことは不可能なのですよぉ!。』
『……………。』
『ぎゃっ!?。』
今度は身体の正面を斬られる。
『ひひひ。何度やっても…無駄ですよぉぉぉおおお!?!?。はえ?。うぎゃぁっ!?。』
癒える傷。
けど、閃はまた端骨の背後に瞬間移動。
そして、端骨の身体を突き貫く。
『……………。』
『はぁ…はぁ…。無駄だと言っているでしょう?。』
再生。
背後からの一刺し。
再生。
一刺し。
再生。一刺し。再生。一刺し。再生。一刺し。再生。一刺し。再生。一刺し。再生…。
『はぁ…。はぁ…。はぁ…。はぁ…。はぁ…。無駄です…。はぁ…。無駄無駄無駄むじゃがっ!?。』
心臓を一刺し。
『無駄だって言ってんだよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!。』
負傷と再生の繰り返し。
どんな箇所、部位を貫かれても直ぐ様再生してしまう。
けど、斬られた直後の痛みまでは消せない。
再生には魔力も消費する。再生する度に身体に疲労感と倦怠感が溜まっていく。精神が削れていくんだ。
『しつこいんだよぉぉぉぉぉおおおおお!!!。神技!。【蟲神糸集毒槍】!。』
瀬愛の神技。全身から出した硬質の糸を束ねて放つ毒の槍。
糸で貫かれた者は毒におかされ、糸の内部に産み付けられた卵から孵った魔蟲蜘蛛に身体の内側から食い破られる。
至近距離からの神技。
本来なら確実に命中する距離だったが、閃は時間を止められる。あの距離でも余裕で回避してしまう。
『時間を止めても無駄ですよ!。既に硬質の糸で両手両足を縛っています。いくら止めても避けないぃぃぃぃぃいいいいい!!!。』
抜け目ない端骨の叫び声。
閃に槍切っ先が当たる!。
僕は…いや、この場にいた全員がそう思った。
『は?。』
なのに…。槍は…。
『すり抜けた!?。』
閃の身体に接触することなくそのまま奥の壁に突き刺さった。
しかも、手足を縛っていた糸も、いつの間にか地面に落ちてしまっていた。
『……………。』
自由になった腕。【時刻ノ絶刀】の一振で全ての糸が断ち切られる。
『どういうことだ?。何が起きてる!?。何故、私の糸が奴をすり抜けるのだ!?。』
『………。』
閃が端骨に近付く。
『ひっ!?。来るな!。来るな!。来るな!。来るなぁぁぁぁぁあああああ!!!。【糸弾】【糸弾】【糸弾】んんんんん!!!。』
糸が集まった弾丸。
けど…あれも…。
『当たらない!?。当たらない!?。何故すり抜けるのだぁぁぁぁぁあああああ!?。』
端骨の叫びも虚しく【時刻ノ絶刀】の刃が振り抜かれた。
『あれ?。あれ?。糸が出ない?。』
【時刻ノ絶刀】は認識した対象を絶つ。
それは物体など形あるモノはもちろん、スキルや能力など実体の無いモノまで断ち斬る。糸のスキルを絶った。
『…………。』
そこからは、閃にとっての 作業 だった。
何度も刀は振るわれ続けた。
糸のスキル。蟲神のスキル。瀬愛の種族スキル。最後に瀬愛から奪い取った全てが剥ぎ取られ、蜘蛛の証の赤い目が端骨から消えた。
『私のスキルが!?。やっと手に入れたスキルがぁぁぁあああ。貴様ぁぁぁあああ!うぐぁ!?。』
端骨の身体に突き立てられた【刻斬ノ太刀】。
『ぐふっ。ひ…ひひひ。だが…まだですよぉ。私の不死鳥の能力はまだ生きて…。』
端骨の傷は再生しなかった。
『ま、まさか…既に…。』
僕は端骨のステータスを視た。
『あっ…。』
端骨のステータスにはスキルが一切記載されていなかった。
瀬愛のスキルも、睦美のスキルも…端骨自身が持っていたスキルも。
『ひひひ。ひひひ。これが私の最期?。こんなのが?。こんなあっさり?。やっと得た力も全て失い為す術もなく死ぬ?。』
ドンドン。ドンドン。
端骨が絶望の眼差しを閃に向けたと同時に4発の弾丸が放たれた…のだが、閃の身体をすり抜けるだけに終わる。
『…ちっ。やっぱそうか。一応【命中】の結果を込めたんだがな。打ち消されちまった。』
銃口から上る煙を吹いたイルナードがため息混じりにぼやく。
『イルナード様、助けて下さい!。コイツを殺して下さい!。お願いします!。』
『………。』
イルナードは、端骨の懇願を無視し閃を睨む。
『イルナード様!。イルナード様!。』
【神力】…。【存在の否定】…。
その声は、閃のモノではなかった。
閃の赤い眼光が黒いモヤの中に消えた瞬間。
端骨の身体が完全に消失したんだ。
『アイシス様!。ノイルディラ様ぁぁぁ!。助け…。』
端骨の懇願は最期まで神に聞き届けられることはなかった。
『……………。』
閃の赤い眼光は再び灯り、今度は神々へと向けられる。
『おい。アイシス。お前、あれに勝てるか?。』
『勝てないわ。それにあれはダーリンじゃないもの。私は興味無いわ。』
『しかし、奴は我々を標的にしたようだぞ。』
閃が神達へ近付いて行く。
『ちっ!。殺るしかねぇか?。』
『暫し待て。イルナード。』
『!?。』
閃と神達の中間に出現した空間の歪み。
現れた【女王】メリクリアが閃を見る。
『女王…。』
イルナード達、3柱の【神騎士】が跪く。
『やはり、そうであったか。宇宙に出現した【目】を見て、もしやと思ったが…。まさか…閃く…【創造神】と【主】の【神人】から誕生するとは…。』
女王を初めて見た。
僕と似た魔力の波動。この神が僕の元になった存在…。
『【神に最も近い存在】から誕生する神…【観測神】か…。』
ーーー
ーーーステータスーーー
・瀬愛
・刻印 No.15(左肩)
・種族 【女王蜘蛛神族】
・スキル
【蟲神跳躍】
【蟲神糸翔】
【万能蟲糸】
【蟲神糸硬壁】
【鋼糸縛】
【肉体年齢操作】
【蟲神糸砡盾】
【眷族召喚 魔蟲蜘蛛】
【蟲神蜘蛛糸庭園】
【蟲神鋼牢】
【蟲神毒糸束呪縛】
【魔網絡縛糸陣】
【糸弾】
・神化 【蜘蛛蟲女神化】
・神具 【蟲神紅玉】
・神技 【蟲神糸集毒槍】
次回の投稿は11日の日曜日を予定しています。