第167話 兆し
ーーー閃ーーー
敵…神々が拠点とする中枢に強制転移させられた俺達。俺、灯月、代刃、無華塁、累紅の5人。
状況把握の為に周囲を観察する。禍々しい機械に囲まれた空間。おそらく、俺達の侵入した巨大な建造物の最上階だろう。
そして、俺達を待ち受けていた3柱の神。
【黒姫】【略奪の神】アイシス
【白騎士】【感染の神】イルナード
【黒騎士】【吸収の神】ノイルディラ
アイシスは俺の顔を見るなり笑顔で手を振ってやがる。さっきの言動で強制転移はアイシスが行ったことらしい。無茶苦茶しやがる。
で、残り2柱の男の神。
映像で観た。
こっちを吟味するように見ている野郎。
基汐と黄華さんを苦しめた神…イルナード。
そして、基汐にトドメをさしたノイルディラ。
だが、敵はそれだけではなかった。
俺達の視線の先。
そこに立つ無気味に笑う男。
元 緑龍絶栄…端骨。
『そうか…お前が、端骨か…。』
更に激しくなる頭痛を悟られないよう必死に平静を装いながら質問をする。
『ひひひ。そうです。お噂は予々。手配書でも拝見しましたが直接お会いし会話するのは初めてですね。クロノフィリアの閃さん。』
『………睦美と瀬愛をどうするつもりだ?。』
端骨の後ろには黄緑色の液体に満たされたカプセルが2つ。その中を、魔力も微弱で一糸纏わぬ姿で漂い気を失っている睦美と瀬愛がいた。
カプセルから伸びる複数のコードが端骨の元にあるヘルメット型の装置が設置された椅子に取り付けられていた。
『ひひひ。彼女達は私の実験の被験体に選ばせて頂きました。』
端骨との会話の間も神達への警戒は緩めない。
アイシスは、端骨に興味が無いのか自分の爪を見つめている。
イルナードは俺達の様子を眺めて楽しそうに口元を緩ませニヤニヤと笑う。
ノイルディラは、腕を組み目を閉じた状態で壁にもたれ掛かっている。
『実験?。』
『題してっ!。【能力移植実験】っ!。種族による固有スキルを複合し融合させる実験です。これが成功すれば私は神へと近付けるぅぅぅうううう!。』
狂ったように狂喜乱舞する端骨。
『させっかっ!。』
『おや?。止めていただけますかな?。まだ、会話の途中ですよ?。スキル【呪縛言霊】。汝の動きを封ず。』
『なっ!?。身体が?。』
『こ、これ…徳是苦さんのスキル?。』
端骨の発動したスキルは俺達の身動きを封じた。
累紅の反応から同じギルドの仲間だったメンバーのスキルのようだ。だが、何故…端骨が使える?。
『ひひひ。彼のスキルだけではありませんよ?。【操紙絵巻巻】~。』
今度は巻物のような武器が出現し、端骨の意思で自在に操作されている。
『うそ…多言君のまで…。』
その後も次々に元 緑龍メンバーのスキルを披露する端骨。
『それが…【能力移植】って奴か?。』
『ひひひ。はい。何分、実験の途中段階でしたので彼等からは表面上のスキルしか獲られず、種族による固有スキルまでは奪えませんでした。貴殿方が戦った時の彼等は謂わば出涸らしです。搾り取った後の残りカスでした。ひひひ。まぁ、私の盾となったのですから役には立ちましたがね。ひひひ。』
『酷い…。』
『酷いのは貴女達ですよ。累紅さん?。』
『何がよ!。仲間に酷いことしたのはお前じゃない!。』
『いえいえ。そこなんですよ。私が本当に欲しかった能力を持っていたのが、美緑様と砂羅さん。そして、貴女だったのです。』
『………何、言ってるのよ。』
『はぁ…。それなのにちょうど欲しかった能力を持つ貴女方3人ともクロノフィリアに寝返ってしまった。私は貴女方が欲しかったのに…。』
『…お前…気持ち悪いわよ?。』
『残された女性は空苗さんだけ…。はぁ…。考えてみてください。貴女方が裏切ったから私は心に深い傷を負ったのですよ?。空苗で自分を慰めるしかなかった。』
『っ!?。お前…まさか…空苗ちゃんのこと…。』
『……………。ひひひ。ええ。そうですよ?。もう彼女の身体は弄り尽くしました。知らない箇所がない程に私の玩具になってもらいましたよ?。本来なら貴女方も含めて楽しむつもりだったのに…とても残念でした。』
『最低…。』
『ああ。彼女達も堪能しましたよ?。』
睦美と瀬愛の方を向いて不適に笑う端骨。
コイツ…今…何て言った?。
『生憎と女性としては私の好みでは無かったのでね。主に実験の方で泣き叫んで頂きました。ひひひ。楽しかったぁ~。乙女の柔肌を切り刻む快感~。最初は耐えるんですよ?。けど、一定の痛み以上を与えると…ひひひ。思い出すだけで溜まりませんな!。』
『てめぇっ!。』
『おっと。自力で言霊の呪縛を解きましたか!?。やはり、彼等のスキルは不良品ですね。』
俺は端骨に殴り掛かろうと拳を振り上げた。
『おっと。駄目だぜ?。これからが良いとこなんだしよぉ?。空気読めよな。』
俺の拳はイルナードによって止められた。
『何しやがる。』
『はいはい。まだ戦うのは早いって言ってんのよ?。お分かり?。』
『知らねぇよ!。そんなことっ!。』
『はぁ…うぜぇわコイツ…。てか、どっか調子が悪いのか?。全然拳に力が乗ってねぇぞっと!。』
イルナードは俺の頭を掴むと、そのまま床に叩きつけた。
『ぐぁっ!。』
『閃っ!。』
『お前達も動くな。』
無華塁達の前に立ちはだかるノイルディラ。
くそっ。頭痛で思うように身体が動かせねぇ。
高熱でも出てるのか、視界が霞むし頭がクラクラしやがる。
『さてさて、話の続きでしたな。此方の装置が私の開発した【能力移植装置】です。黄緑色の液体が見えるでしょう?。あれは魔力を吸収する性質がありましてね。あの液体に触れると根こそぎ魔力を奪われてしまうのです。もちろん、所持者の魔力と直結するスキルや種族の性質までもね。』
『なん…だと…。』
じゃあ、睦美達は…。
『ひひひ。良い顔ですね。貴方の想像通りですよ。彼女達はもうすっからかんです。ひひひ。既に彼女達の魔力は底を尽き彼処に入っているのは脱け殻、人間以下のガラクタですよ。ひひひ。』
話しながら端骨が装置に座り、ヘルメットに似た機械を頭に取り付けた。
『さぁ。ここからが実験の最終段階ですよっ!。』
手元にある機械を操作する端骨。
機械は無気味に光だし起動する。睦美達の入れられているカプセルから黄緑色の液体が管を通り流れ出し端骨の被るヘルメット型の装置へと送られていく。
『この液体は魔力吸収に許容量があり、それが臨界を向かえると性質が変化するのです。逆転と言っても良いかもしれません。吸収から放出。他の魔力に触れると混ざり合う。許容量を増やそうとして融合しようとするのです。』
管を伝う液体が端骨の頭に流れていく。
『キタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタ…。ひぃひ。ひひひ。ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。きもちぃぃぃぃぃいいいいい!!!。』
よだれを垂れ流し、目は左右で別々に動く。
頭を振り回し、ジタバタと激しく手足を暴走させる端骨。
機械が激しく点滅し、蒸気と電気を迸らせる。
『きゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!。』
『あぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!。』
『睦美!。瀬愛!。』
同時に、睦美と瀬愛が悲鳴を上げ始めた。
『おお。おお。良い悲鳴じゃん。俺ッチこういうのが好きなんよなぁ。』
『…け…。』
『ん?。何さ?。機械の音が激しくて聞こえないんだけど?。』
『どけぇぇぇえええええ!!!!!。』
『ぶっ!?。』
『わおっ!?。流石、ダーリン。』
『ぬ?。イルナードを?。』
頭痛など知らん。
俺は全力でイルナードを殴り吹っ飛ばした。
『睦美!。瀬愛!。』
俺は一気に跳躍し2人の入るカプセルを叩き割った。
『にぃ様!。』
『閃っ!。』
睦美と瀬愛を抱き締め、抱えたまま端骨と神から距離のある場所に着地した。
驚いた。2人の温もりを全く感じない。これじゃあ…まるで…。
『ぐっ…。』
再び頭痛に襲われる。
『ひひひ。被験体を奪われましたか。まぁ良いでしょう。欲しいものは手に入りました。それらはもう要りません。しかし、残念でしたね。時間切れですよ?。ひひひ。それよりも、イルナード様を殴り飛ばすとは…火事場の馬鹿力というヤツでしょうか?。』
端骨の額には…瀬愛と同じ赤い目が?。
それに…あの炎の翼は…睦美の…。
『ひひひ。ひひひ。これだぁ。これが欲しかったのですぅぅぅううううう。実験は大成功ぉぉぉおおおおお!!!!!。』
全身から糸を出し、炎の翼をバタつかせる端骨。
本当に瀬愛と睦美のスキルを奪ったのか…。
『お…にぃ…ちゃ…ん?。』
『瀬愛!。俺だ!。閃だ!。分かるか?。』
瀬愛が僅かに動き反応する。
見ると、普段は赤い蜘蛛の瞳が全て真っ黒に黒ずんでいた。
『ぅん…わか…る…。やっ…ぱり…おに…ちゃ…ん…たす…けに…きて…くれ…たんだ…ね…。』
『…ああ。当たり前だ。言っただろ?。お前は俺が守るって。』
『ぅん。おに…ちゃ…は…せ…ぁ…の…。』
瀬愛の身体が消えていく。
細かな、とても儚く淡い光の球体になって…。シャボン玉のように…。
『瀬愛っ!。』
俺の叫びも虚しく瀬愛は消えた。
最期に見せてくれた笑顔は嬉しそうだった。
瀬愛を抱き締めていた左腕は最初から、そこに何も無かったように…虚空を掴んでいた。
『せ…あ…。』
『だ…だん…な…さま…。』
睦美の声。
『睦美っ!。』
弱々しく震える手で俺の頬を触る睦美。
その手はあまりにも冷たくて…力無くて。
すぐに落ちてしまう。その手を握り肩を強く抱いた。
『ああ………だん…な…さま…だ…。』
『ああ。遅くなった。ごめん。』
『わ…たし…がんば…り…ま………した。』
睦美も…消える…。消えてしまう…。
手の先から、足の先から、少しずつ…確実に…。
強く、強く握っていた手も気付けば何も無くなっている。
『………だいすき…で…す…。あぁ…もっと…いっしょ…に…。』
『睦美っ!。あ…。ああ…。』
光が天に昇っていく。
睦美が…瀬愛が…昇って…いった。
結局…俺の手の中に残った物は…俺が2人にプレゼントした簪とチョーカーだけだった。
また…助けられなかった。
救えなかった…。
基汐や黄華さんの時も遅かった…。今回も…。
俺は…誰も…救えていない…。助けたいのに…。
ただ…皆で幸せに暮らせる世界を望んでいるだけなのに…。
大切な人との再会は、時の間ほどの時間しか与えられず別れへと変化していった。
『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。』
その瞬間、俺の中で何かが 分かれ た。
全身から溢れ出る異常な魔力の放出は天井を破壊し天高くに放出される。
もちろん、自分の意思ではない。止められない魔力が世界を侵食していく。
『馬鹿な!?。これは…エーテルっ!?。』
誰が言ったのか。その言葉を最後に耳にした直後、意識は深い闇へと堕ちていった。
ーーー
パタン。という音と共に男は立ち上がった。
先程まで読んでいた本をテーブルに置く。
男の姿は非常にラフな浴衣姿であり、その佇まいは縁日にいても何らおかしくない風貌であった。
まぁ、顔は若々しく。男女関係無しに目を奪われてしまうほどの美男子なのだが…。
その足は、窓際まで移動すると立ち止まった。
窓から外を覗く瞳が見つめる眼下の先は、遥か彼方まで続く広大な大地に育まれた自然豊かな下界へと向けられた。
『おんや?。珍しい。普段は読書か宇宙を眺めているお主が立ち上がり下を見るとは…突然どうした?。観察か?。何かあったか?。』
ラウンジで観葉植物や小鳥と戯れながら紅茶を飲んでいた女が尋ねる。
その桃色に輝く長い髪と金色の瞳。
人間とは比較にならないほどの美しさと抜群のプロポーション。身体のラインが強調されている髪と同じ色のドレスを身に纏うその姿は…まさに、美の化身であった。
『待ちわびた存在がついに誕生したようだ。』
『っ!?。そうか…。っ!?。』
『どうした?。』
突然、頭を押さえる女。
『いや、仮想世界へと送っていた妾の魔力が戻って来てな。その情報量に目眩がした。』
『そうか…。』
『ふむ。随分と楽しい日々を過ごしていたようだな。…そうか…。』
『ん?。何処に行く?。』
突然、歩き出し扉の無い部屋から出て行こうとする女。
女がこの部屋を出るのも、また久しく見ていない珍しいこと。
『なぁに。分身体の願いを叶えるだけだ。』
『ほぉ。お前を動かすようなことが起きていたか?。』
『ああ。それにお主が感じた気配。妾にも関係があるようなのでな。』
『どういうことだ?。いや、記憶を見せろ。』
男は女に近付くと女の額に指先を当てる。
『どうだ?。面白いだろ?。』
『成程な。奇跡か偶然か。こんな方法で誕生するとは。』
『妾がしようとしていること…理解できたか?。』
『無論だ。好きにしろ。我の計画にも必要なことだ。』
ゆっくりと指先を離し、再び窓際へ移動する男。
『ふふ。』
『何が可笑しい?。』
『いんや。奇しくも妾との間に子が出来たぞ?。しかも、沢山の嫁持ちだ。義娘も出来たな。父親らしいことをしてやらんのか?。』
『お前こそ、何だ?。あのぎこちなさは?。もっと母親らしく堂々としていれば良かろう?。』
『分身の行動など読めるか!。…まぁ良い。妾にはやることが出来た。暫し留守にする。』
ドカドカと大股で歩き部屋を出ていった女。
その後ろ姿に向け静かに男が言葉を放つ。
『ああ。好きにするが良い。【リスティナ】。』
決して大きい声ではなかった。
既にリスティナの姿はない。
『そのつもりだ。【グァトリュアル】。』
だが、聞こえていたのか…大声での返答があったことに少し驚いた男。
『………。』
1人になったことで訪れた静寂の中、下界の様子を観察する。
そこには、多種多様な種族が織り成す繁栄した世界が広がっていた。
ーーー
ーーーステータスーーー
・睦美
・刻印 No.6(首後ろ)
・種族【転生炎鳥神族】
・スキル
【転炎光】
【炎翼転盾】
【転炎 四方翼陣結界】
・神化 【転輪炎女神化】
・神具 【聖五獣装甲】
・神技 【五聖獣極転炎】
【極炎転輪五獣葬砲】
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