第17話 六大会議 続
『以上が現在確認されている10名のクロノ・フィリアメンバーのデータだ。君たちの体験談で更に情報が増えた。礼を言う。』
クロノ・フィリアメンバーの情報共有が終わる。
閃君 無凱 基汐君 の3人以外…特によく私のギルドに遊びに来ている瀬愛ちゃんや灯月さん、智鳴ちゃん、氷姫ちゃんたちの名前が無かったことにほっとする。
『はぁ。改めて確認しても化け物揃いだな。』
『何とかしたいよねぇ。アイツらが介入してきたら私が楽しめないじゃん。』
『それで白蓮。この規格外の連中に戦争を仕掛ける。みたいなことを話の前に言っていたな?』
『ああ、そうだよ。』
『それは、具体的にどのようにですか?彼等のデータを確認した今、私たちギルドマスターが数人がかりでも戦力的に厳しいと思われますが。』
『美緑君の心配も最もだ。その為に様々な研究を行って来たわけなんだが…そうだな…まずは、これを見て貰う。銀。頼む。』
『はい。』
白蓮が銀に指示を出すと1枚のディスクを取り出し手元にある機械に挿入する。
すると、画面に とある映像 が流れ始めた。
『これは…。』
『ば…ばか…な!?』
映像が流れ始めた瞬間、美緑さんの後ろにいる男性…確か…端骨さんといったかな?彼が驚愕と絶望の両方を含んだような表情で床に崩れ落ちた。
私は、驚きを隠しながら映像を注視する。
そこには、4人の人物が映っていた。
これ、基汐君だよね。誰かと戦ってる?
映像には、体格のいい男が基汐君に一撃で倒されるシーンが流れていた。
ガタッ。と音がした。
咄嗟に音の出所を見ると、目を見開き驚いた表情で立ち上がり画面を凝視する美緑さんだった。
『そんな。何故…私のギルドのメンバーが?』
『申し訳ございません!。美緑様!。』
美緑さんの後ろで崩れた端骨さんが土下座で謝罪の言葉を繋げた。
『は…端骨?どういうことですか?』
『くっ…。』
端骨さんが悔しそうに唇を噛み、白蓮を睨み付ける。
それを、見た白蓮が微笑を浮かべ説明に入る。
『これは数日前に録画された映像でね。とあるギルドが深夜にクロノ・フィリアの拠点だと推測される場所に数百の人員で潜入作戦を結構した時の映像なんだ。』
『…それは…本当なのですか?端骨?』
『………はい。』
『私はそのようなことを命令した記憶はありませんよ?』
『わ、私の独断です。』
『…どの部隊を送ったのですか?』
『…私の管轄する。第2軍 2から6小隊です。』
『っ!涼さんたちの小隊ですか。では、200人程の人数ですね。』
『はい…。』
美緑さんは一旦、荒くなった呼吸を整え最後の質問をした。
『部隊はどうなりましたか?』
『………』
『端骨!答えなさい!。』
『ぜ…全滅です。2時間程で部隊との連絡が完全に途絶えました。』
『っ!』
美緑さんは、唇を血が出るまで噛みしめ今度は白蓮の方を向く。
『端骨。』
『はっ、はい!。』
『貴方には色々確認しなければならないことがあります。ギルドに戻り次第、私の所まで来なさい。』
『…はい…仰せのままに。』
美緑さんは白蓮を見据えたまま端骨との会話を打ち切った。
『それで、何故、貴方がこのような映像を持っているんです?白蓮。』
『うん。冷静だね。そういう所が美緑君の素敵なところなんだろうね。』
『質問に答えなさい。』
『現在、この国を実質的に支配しているのは誰だい?それが理解できない君ではないだろう?』
『…私たちの行動も貴方の手のひらの上だと?』
『そういうことさ。僕が理解できない危険因子はクロノ・フィリアだけだよ。』
『…。』
白蓮は事実、この日本だった国の頂点に君臨している最強のプレイヤーだ。
今の言葉は、美緑さんだけに放った言葉ではない。
この場にいる全ての人間に対する認識の改めと警告なのだろう。他のギルドマスターたちもも白蓮を睨んでいた。
美緑さんは何も言わずに椅子に座り直す。
『さて、話が逸れたかな?でだ。クロノ・フィリアに奇襲が効かないことも証明されたわけなんだが、もう一つこの映像も見てくれ。』
今度の映像には四方に何もない薄暗い部屋の中に1人の男性が体育座りで顔を伏せているものだった。
『これは?』
『私のギルド内にある研究施設の1つだ。そして、映っているのは数ヵ月前に捕らえたクロノ・フィリアメンバーの1人だ。』
『え?何それ?クロノ・フィリアメンバー捕まえたの?』
『………。』
『正確には 自ら出頭して来た が正しいね。』
『なるほど。我がギルドの情報も筒抜けということか。』
『ああ、分かってくれたかい?。』
『無論だ。元より我ら青法詩典は白聖と敵対するつもりは今のところ無い。』
『今のところね。まあ、いいさ。それで、囚われのクロノ・フィリアの情報は入手できたのかい?』
『正直に言えば…何も得られてはいない。』
『何も得られてないとは、どういうことだ?青ぃの?捕らえたんだから色々拷問やら尋問やらをしたんだろう?』
『……。』
『青ちゃんが困るくらいの男なの?』
『白蓮。これを。』
青嵐が白蓮にディスクを渡す。
白蓮は最初から理解していたようにディスクを読み込んだ。
『彼の名は、矢志路。クロノ・フィリアメンバーのNo.18…だそうだ。』
追加で再生された映像には、椅子に座らされた矢志路という男に複数の人間が攻撃を放っているシーンが映された。
『見ての通りだ。』
攻撃が止み、舞っていた埃や煙が消える。
そこには、まるで何事も無かったかのように椅子に座る矢志路がボーッと男たちを眺めていた。
その瞳に覇気はなく、ただされるがままにソコにいる。そんな感じに見える。
『うっそ。あれで無傷なの?』
『なぁ、青ぃの。ヤツは拘束しなくても良かったのか?見たところただ椅子に座っているだけのようだが?』
『次の映像を見ろ。』
『ん?』
次に映ったのは椅子に座わらされた矢志路に研究員が注射器を刺す場面だった。
『なっ!?』
全員が驚く。
無機物の注射針がまるで意思を持つような動きで矢志路を避けるように曲がったのだ。
『次はこれだ。これは矢志路が急にトイレに行きたいと言い出し監獄を出て行った映像だ。』
『これは…これは…』
矢志路が通り抜けた鉄格子や壁など、ありとあらゆるモノが矢志路を避けるように動き歪んでいた。
『我々の実験はこれで終了した。この後、何をしても奴に傷一つ付けることは出来なかった。』
『自身に対する外部干渉を歪める能力かな?まだ何かありそうだけど映像からだと、こう推測出来るね。』
『こんな不気味な奴までいんのかよ。』
『ええ?そう。私、結構好みなんだけど?ていうかタイプかも。』
『マジか!?黒ぃの?それは男としてってことか?』
『ええ、もちろん!青ちゃん。この人に会いに行っても良い?』
『ああ、別に構わん。』
『やった!。後で場所教えてね。』
そんなやり取りの後、軽く咳払いした白蓮に一同が注目する。
『銀。例のモノを皆に。』
『はい。』
その言葉に、銀さんは私たちの前に小さなケースを置いていきます。
これは…錠剤?
小さなガムのような白い固形物が入ったケース。
『行き渡ったかい?』
『白ぃの。これは何だ?』
『何かの薬か?』
『怪しいね。』
『これは、何ですか?』
一粒の錠剤を取り出した白蓮。
『これは我が白聖が作り上げたレベルの上限を20上げる薬だ。』
『レベルの上限を!?』
『何、それ?本当なの?』
『ほう。』
『やべぇな!それ!』
『これは、美緑君の緑龍にある研究チームと裏共同で開発し完成したモノだ。効果は10分。その間は、レベルが20上昇する。ただし、経験値獲得による新しいスキルなどは得られない。だが、現在獲得しているスキル、武装、ステータスはレベルに比例して強化される。一時的な強化だ。ドーピングのようなモノと考えてくれていい。その分、身体への負担が大きいから続けての服用はしないでくれ。』
説明を終え、椅子に座り直す。
全員が与えられた錠剤を見つめ言葉を失っている。
『皆様のお手元にある薬の名は、【リヒト】。数は各々に20錠づつお渡しします。白蓮様が説明された通り身体への負担が相当激しくございます。これは、対クロノ・フィリア用にお使い下さい。また、現在製造に成功しているモノは皆様にお渡ししたモノと我々が保管している数個しか御座いませんので大切にお使いください。』
『かぁ!いつの間にこんなモン作りやがった?面白れぇじゃねぇか!』
『これでアイツ等にお仕置きできるね!。』
『これは、我が神もお喜びになられる。』
『………』
『これは…。』
これは、私の手に余るよぉ。無凱に相談しないと。
『これがあれば此方からクロノ・フィリアに仕掛けることが出来るということか。』
『その通りだ。青嵐。彼らのレベルが120だとしても薬の効果で140になれば敵ではないだろう。万が一、奴らが想定外のことをしてきても複数人で当たれば撃破も難しくないだろうしね。』
『へぇ。俺ならタイマンでも十分いけるけどなぁ!。』
『油断は禁物だよ。赤皇。奴等は底を見せていないのだから。』
『そう言って、何か企んでるんでしょ?白ちゃん。』
『ああ。今度こんなのを開催しようと思ってね。』
画面が切り替わり今度は何らかの告知画像が映る。
『…能力者限定バトル大会?』
画像は、能力を使った戦闘大会 の開催告知だった。
参加者は能力者限定。
対戦は1対1で行われる。スキル、武装、全てが自由。限られたリング内で相手を戦闘不能にするか、降参させることで勝利することが出来る。また、相手を死に追いやった場合はその時点で失格。
そして、優勝者には…。
『おお。これは。』
『今日は驚かされる。』
『白ちゃん本気?』
『これで、クロノ・フィリアを釣るということですか。』
『思い切りましたね。』
優勝の景品として呈示されたモノ。
それは…
【クティナの宝核玉】
効果・・・宝核玉との融合。
全ステータスの大幅アップ。
クティナのスキルの獲得。
専用武装を使用可能。
種族変更 滅界神族へ。
『これは、ゲーム時代にラスボスのクティナを最も多く倒したギルドに与えられた神具だ。クロノ・フィリアですら入手していない究極のアイテムだよ。』
『確かにゲーマーならば是非手にしたい代物だな。』
『これを囮にし、表面上、我々ギルドが優秀な人材を探し出し戦力向上を目的とした大会…と思わせる。その実、裏の作戦としてクロノ・フィリアメンバーを誘き寄せデータ収集、あわよくば我々で捕らえる、もしくは殺害を目的としている。』
『その表面上も我々にとって都合が良いということか。』
『そう。強さを求める者にとってこの宝玉は喉から手が出るほど入手したいアイテムだろう。そして、まだ、どこのギルドにも所属していない手練れがいるかもしれないからね。』
『俺や俺たちの幹部も参加して良いのか?』
『ああ、構わない。むしろ大会は盛り上げて欲しい。勿論、赤皇、君が優勝すれば宝核玉を差し上げよう。』
『オッケイだ!その話乗った!』
『他の皆も同様の条件だ。参加は自由なのでいい腕試しになるんじゃないかな。』
『白蓮。お前は出るのか?』
『いいや、出ないよ。青嵐。私は主催者として大会を運営する側に回るつもりだ。我が白聖からは、この銀の他に白聖十二騎士団のメンバーを何人か投入しようと思っている。』
『了解した。』
『それで、クロノ・フィリアのメンバーが参加してきた場合についてだ。銀。』
『はい。こちらが当日の会場内の地図になります。』
『中央にあるのが決闘場だ。観客席がこの周りにある。私たち運営側の特等席は全てが見渡せるここ。こっちが選手たちのフリールームだ。当日は、我が騎士団を会場内の見回りに付ける。』
『結構本格的じゃねぇか。燃えてきた。』
『私は大会参加する気ないけど。』
『大会に参加の意志があるものは参加者の中にクロノ・フィリアメンバーらしき者がいないか探って欲しい。で、大会に出ない方は、私と一緒にVIPルームでの観戦だ。その場合はギルドメンバーに会場内にクロノ・フィリアが潜入していないかの調査をする人員の提供をお願いすることになる。』
『VIPルーム!いい響き。良いわ。これは退屈しなさそうね。私のギルドも協力するわ。』
『それで、仮にクロノ・フィリアメンバーが参加していた場合は?』
『その場合は、様子見だね。』
『様子見?』
『クロノ・フィリアは未知数な部分が多い。だが、大会に参加している以上戦いからは避けられない。だから、クロノ・フィリアと思わしき人物が試合を始めたら情報収集に徹して欲しい。』
『いつ仕掛ける?』
『決勝戦に近ければ近いほど。むしろクロノ・フィリアメンバーに優勝して貰った方が狙いやすいね。』
『1つ宜しいでしょうか?』
『珍しいね。黄華君が話を挟むなんて。』
『いえ、少し気になったのですが、クロノ・フィリアともあろうギルドがこんな見え見えの疑似餌が吊るされたような大会に自ら参加をするのでしょうか?』
『うーん。そうだね。僕としては今回の大会で仮にクロノ・フィリアが出なくても良いと思っている。』
『えー。何か話が違くなーい?』
『仮に、さ。今回がダメでも。何度も違うアプローチをかけていくつもりだよ。』
『要は、接触の切っ掛けを待っている。と?』
『そうだ。彼等が何を目的として行動しているのかが分からない以上使える手は全て使う。』
『そして、奴等が餌に飛び付いたタイミングで捕らえると。』
『ああ、皆も分かってきたね。この国にクロノ・フィリアは邪魔なんだ。強大な敵を倒すには皆の協力が必要なんだよ。』
『私は手を貸して上げるよ。アイツら嫌いだし。アイツらを倒すまでは協力してあげる。でもその後は、お前だから覚悟しなよ?白蓮。』
『ああ、それで良い。心強いよ。』
『俺も力を貸すぜ!何より俺がアイツ等と戦いてぇ。』
『ははは。理由は何でも良いさ。さて、質問の答えはこんな感じだよ黄華君。』
『理解しました。ありがとう御座います。私も微力ながらお力になりますわ。』
背中に冷や汗を流しながら完璧な笑顔で応対する。
この場はこう言うしかないんですよーーー。
分かっている癖に、背中に叶神父からの圧を感じるよー。
『青嵐と美緑君は協力してくれるかい?』
『無論だ。奴等は神に背いている。その時点で青法詩典の敵だ。』
『私はサポートに回ります。戦闘はあまり…ギルドのメンバーには極力危険なことはさせたくありませんので。』
『ありがとう。もちろん、それでも歓迎するよ。後は、クロノ・フィリアの出方次第だね。参加してくれれば良いのだけど。』
その時だった。
『ああ、その心配はしなくても大丈夫だと思いますねぇ。』
『『『『『『!?』』』』』』
『何分、我々も一枚岩ではないもので何人かは出場しちゃうんじゃないかなぁ?』
聞き覚えのない声が円卓中央から響き渡った。




