表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/425

第166話 絶望

ーーー無凱ーーー


 【箱】を利用しての転移先へと飛んだ。

 広範囲に展開した【箱】で、この巨大な建造物を包み込んだ時に内部の状況を把握した。

 やっぱり、睦美ちゃんと瀬愛ちゃんはこの建物の中にいる。周囲には複数の大きな気配も感じることから神々も同じ場所に居るようだ。

 2人の魔力が極端に小さくなっていることから、自体は一刻を争うところまで来てしまっているんだろう。

 マッピングした紙に彼女達の居場所を記入する。これで後は閃君に彼女達の居場所を伝えれば良いのだけど…どうやら、向こうもピンチのようだね。

 僕は彼女達の盾になる位置取りで転移をした。


『『無凱さんっ!。』』

 

 背中を斬られた痛みを知覚する。

 けど、そんなことはどうでも良い。

 彼女達を…僕の腕の中で泣いている2人を助けられたのなら。


 2人の身体はボロボロだ。

 刀で斬られた傷口が痛々しい。黄華さんの時と同様に傷口から光となって消えていっている。

 これが【バグ修正】の効果か。

 一度でも身体に傷を付けられると肉体が崩壊し、最期は光となって消えてしまう。

 神々が言う。この世界からの 排除 ということなのだろう。しかも、この傷は治癒が出来ない。

 問答無用の一撃必殺なのだ。

 

 僕もガズィラムの攻撃で光の侵食が始まっている。もう助からないだろう。

 3人共…死が確定してしまった。

 ならば、この娘達を一刻も早くこの場から逃がし仲間達の場所まで転移させる。

 最期まで戦場には居させたくない。最期くらい皆で…。


『2人共、時間がない。僕の箱に飛び込むんだ。この場から逃げる!。』

『はい。』

『分かりました。』


 僕の登場に安心した表情で頷く2人。

 ごめんね。こんなことに巻き込んでしまって。


『神具!。』


 【箱】を作り出し、目的地…閃君達のいる洞窟に繋げようとした…その時…。


『なっ!?。【箱】がっ!?。』


 破壊された!?。


『無凱よ。余を置き去りとは大きく出たではないか?。その上、転移で逃げようなどとは…余が許すと思ったか?。』

『ばか…な…。』


 ガズィラムが追ってきた。

 もちろん、それは計算に入っていた。だが、思惑よりも速すぎる。

 それに…僕の【箱】と同じスキルを使っての転移…。まさか、あの戦いで使えるようになったのか…。


『我が王。失礼ながら申し上げます。この者達への最期の手向けは、どうか私に…。』

『駄目だ。』

『っ!?。畏まりました。』


 リシェルネーラがガズィラムの後ろに下がる。


『ごめん。2人共…万策尽きたみたいだ。こんなことに巻き込んで…すまない。』

『いいえ。最期を貴方と迎えられるだけで…幸せです。』

『私もです。死ぬのは…怖いですけど。無凱さんと一緒なら…。』


 片腕を失っている僕は2人を同時に抱き締めることは出来ない。けど、2人は僕の身体を包み込むように抱き締めてくれた。

 

 本当に僕は駄目だな。

 肝心なところで失敗する。彼女達も守れなかった。

 最期まで彼女達に助けられて…。残される仲間達に全て丸投げだ。

 リーダー失格だな…。


『安心せよ。無凱よ。余をここまで楽しませた礼だ。苦しまぬよう一瞬で消し去ってやろう。』


 ガズィラムの全身から溢れるエーテル。


『【神力】。【苦痛無き死】。手向けに受け取れ。』


 全てを無に帰すエーテルの放射。球体状に広がり触れたモノを破壊していく。


 殺意の塊。


 殺意が迫る中。

 身体にしがみつく2人の温もりを感じは、迫り来る殺意を消し恐怖を打ち消してくれた。

 ああ。この2人も…頭が上がらないな…。


 黄華さん…ごめん。僕はここまでみたいだ。


 ここで僕の 人 生 は終わりを迎えることとなった。


ーーー


 無凱、柚羽、水鏡がエーテルの放射により跡形も無く消え去った後、周囲の状況を確認しながらガズィラムは満足気に腕を組んでいた。


『解放してやったぞ。無凱よ。この世界は貴様には、さぞ窮屈だったろうよ。』


 圧倒的エーテルの放出で階層の壁は吹き飛んでしまったが、柱や床には、目立った傷は見られなかった。


『余のエーテルですら破壊できぬ素材か。あの人間の技術にも驚かされる。良くもまぁ、こんな面白いものを作れたものだな。神々ですら不可能だろうに…。人間の可能性は興味深い。流石は【神に最も近い生物】だ。』

『我が王。これからどうなさいますか?。』

『ふむ。無凱…。いや、今し方。余が滅ぼした【虚空の神】の仲間…。その居場所は分かるか?。』

『はい。現在、【女王】自ら【神兵】を率いて向かっているようです。【女王】の気配を辿れば彼等の拠点とする場所に行けるかと。』

『ほぉ。【虚空の神】が率いていた連中だ。さぞ、余を楽しませてくれるに違いない。』


 身を翻し空間を歪める。


『ははははは。楽しみだ。行くぞ。リシェルネーラ。』


 【無限の神】ガズィラムが向かう先。


 それは…クロノフィリア拠点。


ーーー


ーーークロノフィリア拠点ーーー


ーーー仁ーーー


『っ!?。無凱…。』

『パパ?。』

『……ああ。君も感じたのかい?。仁。』

『賢磨もか?。』

『私も…です。仁。可能性として予想していたとはいえ、現実を突き付けられた気がして嫌ですね。』

『叶もか…。…ああ。そして、事態は最悪な状況になった。』


 敵は無凱ですら倒す強さか…。


『ねぇ。さっきから何を言ってるし?。』


 光歌なら察しているかもしれないが…。

 伝えるのが辛いな…。


『おそらく…だけど。無凱が…死んだ。』

『っ!?。ガ…ガチ?。』

『ああ。虫の知らせ…に似た感覚があった。』

『それを、皆で感じたし?。』


 頷く、賢磨と叶。

 

『そんな…おじさんまで…。じゃあ、柚羽と水鏡も…。』

『…考えたくは無いが…。その可能性が…高  い…。』


 バンッ!。と、扉を開く音に全員の目が集まる。


『仁さんっ!。』


 息を切らし、慌てた様子で入ってきた涼君。

 後ろには、里亜ちゃんと威神君。美鳥ちゃん、楓ちゃん、月夜ちゃん達が涼君の後ろを追ってきていた。


『信じられないかもしれないが。柚羽の気配が消えたんだ!。もちろん俺にそんなスキルは無いが…。分かったんだ。柚羽が…。』


 涼君が悔しそうに泣き始めた。

 そうか…涼君がそう感じたのなら。やっぱり、無凱も…。


『仁様…あれを?。』

『ん?。これは!?。』


 春瀬君が指差す方を見ると歪められた空間に無凱の【箱】が出現した。

 手に取ると、【箱】は光の粒子となって霧散し、残ったのは1枚の紙。

 その紙には…。


『………そうか。無凱…。君は…最期まで…ギルドマスターだったよ…。』

『パパ?。』

『仁。何て書かれていたんだ?。』


 僕は紙をテーブルに置いた。


『無凱が最期に残したメッセージだ。』

『そんな…無凱さんも…。』


 涼君達もこっちの事情を把握したようだ。


『敵のリーダーの名前…【無限の神】ガズィラム。【女王】の対の存在で2柱の【神王】の1柱…能力は無限にエーテルを体内で生み出し放出する。』

『無限…。』

『ガズィラムか…。ソイツがおじさんを…。』

『柚羽と水鏡さんを殺ったのか…。』

『彼等が使用する【バグ修正】は、僕達の身体に命中すると、傷口周辺の組織が消滅し光の粒子となって広がっていく。やがて全身に回り死ぬ…か。』

『何それ。一撃必殺じゃん。ダーリンの身体が光になって消えちゃったのはそれが原因ってこと!?。』

『そのようだね。このことは全員に通達しよう。美緑ちゃん聞こえるかい?。』


 地面から伸びた木の根に向かって話す。

 

『はい。今までの会話は全て【世界樹】の根を通じてギルド内部にいる全員に聞こえています。』

『そうか。ありがとう。』

 

 ギルド内に張り巡らされた【世界樹】の根を使った連絡網。根がある場所なら何処でも会話が出来る。だが、美緑ちゃんが【世界樹】に居なければ機能しないけど。


『聞いた通りだ皆。無凱が命を懸けで入手した情報だ。これから攻めてくるであろう神々と対峙した時、くれぐれも注意してくれ。』


 根の向こう側から煌真君達の声が聞こえる。

 皆で無事に生き残りたい。

 無凱…。無茶したな…。


『さぁてとっ。仁君。後は。任せるわ。』

『つつ美さん?。何処に?。』


 ドアを開け外に出ていこうとするつつ美さん。

 その声は普段のお淑やかな雰囲気は鳴りを潜め、真剣さが伝わってきた。


『ちょっと用事が出来たの。出掛けてくるわ。』

『つつ美さん…もしかして。』

『ええ。ママですもの。あの子達を守らないと。』

『…そうか。気を付けて…。無事に帰ってきてくれ。』

『ええ。その時は、最高のお酒、飲ませてね。』

『約束するよ。』


 ドアに手を掛けたつつ美さんが再び振り返る。

 その瞳は部屋の隅で、無言で座っているリスティナさんへと向けられている。


『リスティナちゃん。』

『ん?。つつ美か。どうしたのだ?。』

『いいえ。何も無いわ。けど、一言言っておこうかなぁ~って思ってね。』

『?。』

『リスティナちゃんが考えている以上に皆、貴女のことが好きよ。もちろん。私もね。だから、私は貴女を信じるわ。必ず成功させてね。』

『っ!?。つつ美…お前…。』

『貴女の気持ちも分かるわ。貴女が私達をどれだけ大切に思っているのかもね。言えないわよね…変に希望を持たせたくなかったのでしょう?。失敗する可能性もあるから。』

『………。』

『大丈夫。貴女なら出来るわ。何せ私達の神様だもの。だから、私は貴女に賭ける。』

『つつ美には敵わんな…。』

『ふふ。ママ歴は私の方が上よ。じゃあね。いつか、また会いましょう。』


 つつ美さんはスッキリした様子でリスティナさんに手を振った後、外へと出ていった。

 2人の会話…良く分からなかったが…リスティナさんが何かを隠しているという話は無凱から聞いている。

 その後で、無凱はリスティナさんを信じてあげて欲しいと言ってきた。

 ならば、そうするしかない。リーダーがそう決めたのだ。その意思に従おう。


『皆さん!。気を付けて下さい!。』


 その時だった。

 根から聞こえた美緑ちゃんの慌てる声。

 その瞬間、周囲に掛かる重圧。

 これは前に体験したことがある…【神】が来たんだ。

 

『バカな…早すぎる!。』


 リスティナさんも慌てた様子で外に出ていった。

 僕達も後を追うように外へ。


ーーー


ーーーメリクリアーーー


『メリクリア様。報告です。ガズィラム様が此方に向かっているそうです。』


 レジェスタの報告を受けた僕は焦りを覚えた。


『…ほぉ。真か?。』

『はい。ガズィラム様、リシェルネーラ様の2柱。ゲートを潜ったと連絡がありました。』


 ええっ!?。もう来るの?。早いよっ!。

 アイツ…何考えてるんだよぉ。

 こっちはまだ準備の途中だったのに…。


『そうか…仕方がない。アレがここに現れれば計画が台無しになる可能性が生まれてしまう。少し早いが始めるとしよう。』

『はっ!。』


 はぁ。リスティナちゃんに嘘ついたことになっちゃうなぁ。友達になりそうだったのに…嫌われちゃうかな…。

 僕は転移でクロノフィリアが住まう彼等の拠点へと転移した。


『妾に抗う者達よ。』


 僕の出現に気付いたみたいだ。

 クロノフィリアの皆が彼方此方から僕を見ている。うぅ…緊張するなぁ~。


『この世界に貴様等は不要の産物。直ちにその命を妾に捧げ、人間の輪廻の輪から外れるがいい。自ら命を絶つことを許す。さぁ、自害するがいい。』

『……………。』


 恥ずかしい…。

 この世界で必死に生きている彼等が自分から死ぬわけないじゃん!。何言わせるんだよぉ~。レジェスタ奴ぅ~。


 はぁ。もうやだぁ。

 僕は杖を出し宇宙(そら)に掲げる。


『返答はなしか。ならば仕方がない。妾自らの手で排除してやろう。【神力】発動。』


 選択する結果は【都市崩壊】。

 範囲は彼等の住む拠点とその周辺。


 僕は【宇宙の神】。

 僕が行使する【神力】は、宇宙により聞き届けられた。


 天空より捧げられるプレゼントは星を彩る隕石群となって降り注ぐ。


ーーー


ーーー仁ーーー


『マズイッ!?。皆!。避難をっ!。』


 【女王】が【神力】を発動した。

 同時に、強大な魔力が解き放たれた。

 空に…天空に…宇宙に…それは黄華扇桜のギルドに標準を合わせるように展開されたのだった。

 

 最初は光の軌跡が空に見えた。

 次第に光の線は増えていき、近付くにつれ巨大な岩の塊を肉眼で捉えることが出来た。


『何て…規格外な…。』


 隕石を呼んだ、だって?。

 魔力の桁が違いすぎる…。

 これが…無凱の残したメッセージに記されていた【エーテル】…星そのものが生み出すエネルギーか…。


 耳の鼓膜が破れる程の途轍もない轟音と、瞳が焼き切れると錯覚するような閃光が徐々に近付いて来た。

 やがて、それは遠くの方に見える巨大な【世界樹】へと命中した。

 隕石はその速度と高温で【世界樹】を貫通し地面へ直撃。木々と地面を吹き飛ばし土砂を空中に巻き上げた。周辺の草木は燃え上がり炎は周囲に燃え移り広がっていく。

 隕石が貫通した【世界樹】も巨大な身体を赤い炎に焼かれ燃え上がった。


『美緑ちゃん!。』


 彼女は彼処にいた。無事だろうか?。


 バキッ。ミキッ。と弾けるような音。隕石が貫通した箇所から真っ二つに折れた。

 倒れ、崩れ落ちる【世界樹】。

 多くの木々を薙ぎ倒しながら轟音と共に燃えた。


『パパっ!。まだ来るっ!。逃げないと!。』


 【世界樹】に気を取られていた僕に光歌が叫ぶ。

 そうだ。危機的状況は変わっていない。


 次々に降り注ぐ閃光。轟く爆音。

 建物を貫き、道路や池、橋などを破壊し尽くしていく。町並に炎が燃え移り、黄華扇桜のギルドメンバー達が逃げ惑う。

 僕らが造り出した町並みや、思い出の場所が次々に瓦礫の山へと変えられていく。

 

『皆!。自分の身を守ることだけ考えろっ!。必ず生き残るんだっ!。』


 叫ぶ。叫び。叫んだ。


~~~

 

 数十分後、静けさが戻った。


 周囲に静寂が訪れた頃。


 僕の身体は爆発でかなりの距離を飛ばされたようだ。

 今は瓦礫と瓦礫の間に奇跡的にできた隙間の中に入り込んでいる。

 隙間から覗いた景色は倒壊した建物が巻き上げた土煙や埃で視界が遮られていた。

 

 僕は無傷だな。…皆は?。


 自分の上に重なっているコンクリートの塊を退かし立ち上がる。

 普通の人間だったら死んでいただろうな。


『これは…。』


 その光景は…悲惨を極めた。

 いつだったか…。戦争の映画で見たことがあった。

 爆弾を落とされた後の光景。

 灼熱と衝撃、轟音と爆風で全てが吹き飛んだ瓦礫の町。辛うじて残る建物の骨組みに使われていた鉄骨。

 そんな光景だった。


『ちっ…。何なんだ。これは…。【従者部隊召喚】。』


 スキルで従者達を呼ぶ。


『ここに。』

『今すぐギルド内全ての状況確認、人命救助、情報伝達に取り掛かれ。メンバーには緊急時に作成したマニュアル通りの行動を…絶対に1人での行動は避けるようにと伝えろ。』

『はっ!。』


 従者達が散開。


『皆っ!。無事かっ!。』

『パパっ!。』


 愛しい愛娘はどうやら無事だったようだ。

 土煙で顔が黒くなっているが怪我はしてないようだ。


『けほっ。けほっ。もうっ!。目茶苦茶ですわっ!。』

『春瀬君っ!。』

『あら?。仁様。ご無事で。いったい全体何が起きたのでしょうか?。』


 春瀬君も無事だな。

 現状の理解は出来ていないようだけど。


『2人とも皆を探そう。それと、一般の人達の救助だ。涼君達が無事なら避難を進めてくれている筈だから。それにまだ神が近くにいる可能性がある注意しろ。』

『うん。パパ。っ!。待ってっ!。』


 走り出そうとした僕を止める光歌。


『どうした?。』

『あれ…見て…。』


 あれ?。光歌が指差す方に目をやると、土煙が晴れた場所に2人の影が現れた。

 あれは…まさか…。そんなことって…。


『リスティナ…。』


 そう。

 目の前の光景に目を見開いた。

 そこにいたのは、リスティナと【女王】。


『な…に…。』


 僕が見たのは…。


 【女王】の持つ杖が、リスティナの胸を貫いている


 場面だった。

 次の瞬間、杖は胸から引き抜かれ大量に飛び散る血。その場に倒れるリスティナ。

 女王は身を翻し転移した。

 残され倒れているリスティナは一切動かず、その身体は黄華さん達と同じように光の粒子となって消えてしまった。


 リスティナさんが死んだ?。

 僕達の切り札が?。


 駄目だ。混乱するな。冷静にこれからの事を考えろ。

 だが、黄華さんが…無凱が死に、リスティナさんまで消えてしまった。

 どうすれば…。


 しかし、現状は更に悪化していく。


 新たな気配。


 辛うじて崩壊を免れた最も高い建物の上に神の1柱が現れた。


『【同調の神】キーリュナ。【神力】を行使するわ。結果は、【バグの影響を受けていない存在の自我喪失とバグ喰らい】。さぁ、私の支配の元に集え!。バグ達を殲滅なさいっ!。』


 【神力】発動と同時に放たれた魔力。

 そして、何処から途もなく放射された魔力の波が空を覆い尽くした。

 この規模は…どれだけ広範囲に…。

 日本中…いや、世界全体の可能性も…。


『いったい…何を…。』


 周囲から聞こえる謎の雄叫び。

 特に大きく聞こえる方角が…。


『保護施設の方か…。』

『仁様。至急お知らせしたいことが。』

『メルティ?。どうした。』

『はい。このギルド内にいる全ての無能力者達が豹変。自我を失い我々、クロノフィリアメンバーに襲い掛かって来ています。』

『何?。』

『涼様達が事態の対応に追われています。現状の報告を求めています。』

『おそらく、神の持つ【神力】の力だ。各自、自分達の身の安全を優先するように、と伝令を頼む。』

『畏まりました。』


 メルティの姿が消える。

 

『………。』

『パパ…。』

『仁様…。』


 神が攻めてきた。

 【女王】の狙い。大規模な範囲攻撃。だが、僕らを倒すための攻撃ではない…。1つ1つの攻撃が小さすぎる。

 ならば本当の狙いは戦力の分断か。

 そして、能力を持たない人々の暴走。

 これも【バグ修正】や、今までギルド境界で度々報告されていた小競り合いで襲ってきていた奴等に関係があるのか…もし、そうなら全てが神の仕業だったってことになる。

 

『2人とも僕から離れるなよ。』

『うん。』

『はい。』

『早速、お出座しのようだ。』


 神が次に動くとすれば、分断した戦力に対する各個撃破だ。


『初めまして。私共の宿敵、クロノフィリア。私は【万能の神】レジェスタ。この世界を本来の形に戻すため君達を排除させて頂く。』


 各地で各々の戦いが始まろうとしていた。


ーーー


ーーー神々の拠点 周辺ーーー


ーーー閃ーーー


『あれが敵の拠点か…。』

『間近で見ると大きいね。』


 無凱のおっさんから受け取った地図を頼りに神の野郎共が居る高く聳える拠点へと向かう。

 あそこに睦美と瀬愛が居る。

 待っていてくれ、すぐに助けに行くから。


『にぃ様。頭痛は大丈夫でしょうか?。』

『何とかな。痛いけど。今はそんなこと二の次だ。一刻も早く睦美達を助けに行かないと。』


 草木を掻き分けた先に見えたのは砂。

 ここから奴等の拠点まで砂漠…荒地のような荒野になっていた。


『それにしても、ここまで何も無いね。敵も居ないし。』

『でも。敵は居る。』

『だね。無凱さん達を倒した相手だって居るだろうし。』

『【無限の神】…ガズィラム…。私が。倒す。』

『くれぐれも先走るなよ?。無華塁。』

『うん。でも。私が相手する。』

『油断だけはするなよ?。おっさんが残してくれたメモに書いてあった【バグ修正】の攻撃は俺達にとって1発でも致命傷だ。敵の攻撃は喰らうなよ?。』

『うん。』


 心配だな。

 だが、神に父も母も殺されたんだ。

 普段、感情の起伏が少ない無華塁だって怒って当然。

 しかし、相手はおっさんすら倒してしまう神だ。無華塁だけでは勝てない。


『皆で協力しよう。』

『はい。』

『うん。』


 灯月、代刃、智鳴、氷姫、累紅。全員が頷く。

 ここはもう敵の眼前だ。

 何が出てくるか分からないからな。

 各々が【神具】を取り出し警戒を強めながら前進する。


『入り口が見えたよ。』


 約100m先に見える神々の拠点。そして、一際大きな入り口の扉。


『よし、行くぞ。』


 俺は決意を固め一歩を踏み出そうとしたが…。


『にぃ様っ!。』

『閃っ!。』


 灯月と代刃に呼び止められた。


『どうした?。』

『閃ちゃんっ!。あれ見て!。』

『何!?。』


 皆の見つめる視線の先。

 智鳴が指差す方を見る。

 

 この巨大な建造物の天辺。

 遠くからじゃ分からなかったが尖端に何か緑色の宝玉が埋め込まれている。

 それが輝きを放ち始め点灯していた。


『何だ?。あれ…うぐっ!?。』


 激しく強烈な頭痛に再び襲われた。


『にぃ様!?。』


 立っていられず、踞る俺の身体を支える灯月。

 何だ!?。さっきまでと比べ物にならない痛みが…。


 俺が突然強烈になった頭痛に混乱している間も、宝玉の輝きは強く、そして広く拡散していく。


『あの光。多分。エーテル。』


 無華塁が呟いた。


『あ…れ…が…。』


 おっさんの残した紙に書いてあった星自体の持つエネルギー。

 エーテルは空を波のように広がっていき次第に空全体を覆い尽くした。


『何…なんだ?。ぐっ…。』

『閃君っ!。気を付けてっ!。地面から何か出てきた。』

『っ!?。』


 俺達を取り囲むように地面の中から這い出てきた存在。それは、ゾンビのような呻き声を上げ次から次に増えていく人々だった。


『コイツ等は…。』

『この人達…見覚えがある。』


 帯立たしく蠢く彼等を見て累紅が驚いている。


『累紅?。』

『この人達…緑龍の市民達だ…。能力を持たなかった…。』

『っ!?。』


 緑龍で保護していた無能力の人々。

 それがゾンビのような姿になって現れた?。


『閃。アイツ等。襲ってくる。』


 数えられる数を有に越えたゾンビ達は、一斉に俺達へ襲い掛かっていきた。

 自我を完全に失った生ける屍とでも言うのか?。


『数が多すぎる。ちっ…。こんな時に頭痛が酷く…。』


 この頭痛もあのエーテルが原因なのか?。

 集中力が乱れ、拳に上手く力が乗らない。


『智ぃちゃん。』

『うん。氷ぃちゃん。』

『【硬重氷壁】。』

『【炎舞 炎華舞台】っ!。』

『智鳴…。氷姫…。』


 炎と氷で出来た道が入り口まで伸びる。


『ここは任せて。』

『うん。閃達。睦美と瀬愛。救出。』


 群がり飛び掛かってくるゾンビ達を迎撃しながら俺達に背中を向ける2人。


『ありがとう。後で必ず合流しよう。』


『うん。皆で帰る。』

『うん。また後でね。』


 俺達は2人に任せて入り口の中へと飛び込んだ。


『急ごう。あの数のゾンビ相手じゃ氷姫達も長くは持たない。』

『はい。にぃ様。』


 俺達は建物内を散策。途轍もなく広い上に、上階へ続く階段は1つしかないらしい。地図を頼りに探し歩き、やっと階段を見つけることが出来た。


『広すぎるね。ここ。』

『おっさん達が3日掛かる訳だ…。』


 地図に記載されていた通り敵はいない。

 外にあんな伏兵を潜伏させておいて建物内にはこれといった罠が見当たらない。

 もしかしたら、自分達がいる拠点には罠などいらないとか余裕で思ってるとかか?。


『結構、上がって来たね。』

『ああ、今で38階だ。』

『何もない。』


 確かに何もない。

 だが、階を上がるに連れて頭痛はどんどん激しさを増していく。


『待ってっ!。皆っ!。足元!。』


 代刃の声に全員が立ち止まり。

 足元の異変に気付いた。


『魔方陣!?。』

『これっ!。転移のっ!?。』


 突然、現れた魔方陣により強制的に飛ばされた俺達。

 敵の罠。そう頭を過った瞬間、周囲の景色は広い空間へと移り変わった。

 灯月達も一緒だ。戦力を分散されたかとも思ったがそうではないらしい。


『ここは?。』


 周囲を見渡す。

 薄暗いが所々輝く光によって視界に問題はない。学園の体育館くらいの広さがあるな。


『ふふ。あんまり遅いから強制的に喚ばせて貰ったわ。お久しぶりね。ダーリン。』


 少し離れた位置で軽やかにお辞儀をするアイシス。

 その横に2人の男。


『へぇ~。あれが姫ッチのお気に入りかよ?。あんまりパッとしねぇな?。』


 赤い髪を逆立てたつり目の男。

 刀と銃を腰に携えたその姿には見覚えがあった。


『イルナード…。』


 無華塁が歯を食い縛りながら【神具】を構える。

 アイツが基汐と黄華さんを死に追いやった神。

 【白騎士】【感染の神】イルナード


『あれ?。俺ッチの名前知ってんの?。ん?。お前の顔何か見覚えが…。ああ。この前のしつこい女に似てんだわ。無駄なのに最期まで足掻いてボロクソになったあの女だ。何?。あれのガキか何かか?。』

『ママをっ!。』

『マジか。しかも、コイツも【神人】かよ…。うぜぇ。』

『絶対。殺す。』

『待てっ!。無華塁っ!。』


 俺の制止の声も届かず無華塁がイルナードへと斬り掛かる。


『良いねぇ!。親の元に送ってやるよっ!。』

『よせ。会話の途中だ。』

『っ!?。』


 横にいた男が巨大な大剣で無華塁の一撃を防いだ。しかも片手で!?。


『無華塁!。離れろ!。』

『…ぅん。』


 跳躍し、俺の横に戻る無華塁。

 怒りに任せた無華塁一撃を片手で止めた男。

 奴も映像に映っていた…確か…。


 【黒騎士】【吸収の神】ノイルディラ


 基汐にトドメをさした神。

 つまり、この場には【神騎士】が3柱いる。


『お前達は仲間を助けに来たのだろう?。ならば、まずはその元凶と話をするが良い。』


 イノルディラが大剣を切先を向けた方角。

 そこにいたのは…。


『っ!。睦美っ!。瀬愛っ!。』


 黄緑色の液体の入ったカプセル。

 その中に漂う2人の姿だった。

 気を失っている?。俺の声に反応はない。


『ひひひ。この度は私の実験にご来訪頂き誠にありがとうございます。クロノフィリアの皆さん。私は端骨と申します。』

『端骨…。』


 小さな怒りの籠った累紅の声が静かに響いた。


ーーー


ーーーステータスーーー


無凱(ムガイ)

  ・刻印   No.1(額)

  ・種族  【虚空間神族】

  ・スキル

   【真理眼】

   【魔力放出】

   【空間認識(極)】

  ・神化  【虚空界神皇化】

  ・神具  【虚空神庫空間】

  ・神技  【極虚空神無量点】


柚羽(ユズハ)

  ・刻印   No.2(左目)

  ・種族  【自然界神族】

  ・スキル

   【魔力噴射】

   【魔力感知】

   【魔力放出(極)】

   【放魔纏神翼】

   【放魔外装】

   【放魔集束】

  ・神化  【自然界女神化】

  ・神具  【神源吸槍】

  ・神技  【放魔神撃槍】


水鏡(ミキョウ)

  ・刻印   No.3(右太股)

  ・種族  【水魔神族】

  ・スキル

   【水針】

   【水縛牢網】

   【水槍】

   【水中呼吸】

   【水玉】

   【水塊爆】

   【水圧刃】

  ・神化  【水魔女神化】

  ・神具  【粘水宝珠】

  ・神技  【水球真珠 水神激流瀑布】

次回の投稿は4日の日曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ