第158話 偽りの平和の終わり
ーーー黄華ーーー
突如として目の前に現れた男。
元 緑龍絶栄の2代目ギルドマスター 端骨。
彼の登場は映像で観た…神々の移動方法、転移と非常に酷似…いや、全く同じモノだった。
つまり、誰にも気付かれずにギルド内に突然現れたということ。
まだ、機美ちゃんや光歌ちゃんの侵入者防衛システムが修復していない今、彼等の侵入を防ぐ手立てはない。
だが…神でもない普通の人間である端骨がどうして…。
『お姉ちゃん…。』
『怖いよぉ。』
子供達が端骨の異様性に気付いて泣き始めた。
『皆。あの施設の柱の陰に隠れてて。』
近くにある建物の柱。
そこを指差す。私の指示に子供達は頷き柱の陰へ。
『うん。良い子。』
一先ず、安心かな?。
さて、どうしましょうか…。
『ひひ。安心してください。そこの無能力者達には興味ありませんので。彼等の研究は既に終えているので。』
『酷いこと。言うわね。貴方も同じ人間じゃない。』
『いえいえ。私は神に選ばれたのですよ?。』
『神に…選ばれた?。』
『そうです。神は私の研究成果に興味を持たれたようでしてね。私を神々の傘下に加えて下さったのです。』
『研究…。』
神って…私達の敵のことよね?。
彼等がコイツに手を貸しているってこと?。
『なぁ、端骨さん。もう良いか?。暴れたくて仕方ねぇんだが?。』
『っ!?。』
『お、お前は…。』
端骨が出現した空間の歪みから新たに現れた存在。その人物には見覚えがあった。
『アヤツ…確か、赤蘭にいた奴じゃな?。』
『瀬愛も知ってる。捕まってた人。』
『ああ。火車だ。赤皇達が逃がしたって言ってたが…。』
『ええ。その後、魔力が消失したから…てっきり死んだものだと思っていたのだけど…。まさか、彼と一緒にいたなんて。』
火車。
元 赤蘭煌王の2代目ギルドマスター。
つい先日、拘束を解かれ逃がされた男。
けど、何故かしら…彼からは魔力を感じない。僅かに体外に流れる微量の魔力すらも…。
これじゃあ、まるで…無能力者みたいじゃない?。
『ひひ。ええ。随分とお待たせしましたね。貴方のデータの収集も今回の目的の1つです。存分に暴れてください。』
『はっ。そう来なくちゃな!。』
『 対象 は生かして連れ帰ります。殺さない様にお願いしますよ。』
『おっけい。じゃあ、殺るぜぇぇぇえええええ!!!。』
突然、火車の肉体が膨れ上がり肥大化する。筋肉が膨張し脈動を開始した。身長も一回り巨大化。
これは…閃君達に聞いた。【完成された人間】に酷似している。
『はぁぁぁ……………。』
『どうですか?。その姿は?。身体に馴染みますか?。』
『ああ。最高だ。今まで能力やスキルに頼っていたのが馬鹿らしく思えてならねぇ。最初からこうなっていればって思うね。』
『それは良かった。存分に楽しんで下さい。さて…。』
私達の方に顔を向ける端骨。
『ひひ。御待たせ致しました。ひひ。では、始めましょうか。』
来るっ!。
『しゃっ!。オラッ!。行くぞぉぉぉおおおおおお!!!。』
巨体が地面に深々と足跡を残して踏み出した。その、見た目からは想像できない程の速さで私達…私、基汐君、瀬愛ちゃん、睦美ちゃんへと距離を詰めた。
『任せろ!。』
『らっ!』
基汐君が間に入り火車と両手を握り合わせた押し合い。
『コイツ…力が…。』
嘘でしょ…。何も能力を持たない火車が基汐君を押してる?。
『基汐君っ!。神具!【魔香鉄扇】!。』
リスティナさんとの契約で神具へと昇華した私の装備。
『スキル【魔香陣】。続けて【強化魔香】!。』
【魔香陣】
私の魔力で作り出す結界。この中で発生した私の生成した香りの効果、持続時間、範囲を強化する。
【強化魔香】
自身が選んだ対象に嗅がせることでステータスを強化させる香り。
『さんきゅ!。黄華さん!。おらっ!。』
『ぐっお!?。』
強化された基汐君が火車を地面に叩き付けた。
『いってぇ~。けど、こんなもんかよ?。クロノフィリアの実力っていうのは?。』
『何?。』
『正直、期待外れだぜ。なぁ、端骨さん。本当にコイツらを連れ帰るのか?。』
『いいえ。私の目的は、そこにいる子供と着物の少女の2人だけです。彼と後ろの女性には用はありませんので殺して結構ですよ。』
『そうか。だとよ?。お二人さん。良かったな。この場で殺されるのは、そこの2人だけらしいぜ?。』
端骨の目的は瀬愛ちゃんと睦美ちゃん?。
『ワシ等に用とはな。じゃが、生憎と此方には何も無い。お主の思い通りにはいかないと思うぞ?。』
『瀬愛も!。おじさん気持ち悪い!。』
『ひひ。それは困りますね。短い時間ですが共に行動する仲になるのですから。ひひ。』
『なぁ、話は後で良いだろ?。早く続きをヤらせてくれよ?。』
『これは失礼でしたね。火車君。どうぞご自由に。』
『はっ!。待ってたぜ!。』
火車の右拳からの大振り。
速い。けど、基汐君なら簡単に見切れる。
『そんな見え見えの拳が当たるかよ!。』
『なら、爆風で吹き飛びな。』
『っ!?。皆っ!。避けろ!。』
『っ!?。』
その言葉に飛び退いた。
基汐君に躱され空を切った拳はそのまま地面にめり込んだ。
そして、発生した衝撃は周囲のコンクリートの地面を深く抉り、建物の施設を粉々に吹き飛ばす破壊力を見せたのだ。
『ははは。どうよ?。ただの拳の一撃でクレーターが出来上がったぜ?。まともに喰らえばただじゃ済まねぇよなぁ?。』
建物は衝撃波だけで半壊していた。
けど、住民はまだ居ない建物なのが幸いしたわね。
って…子供達は!?。
私は辛うじて爆風を避けることに成功する。
周囲を見渡すと…。
『けほけほっ。滅茶苦茶じゃ。無事か?。瀬愛よ?。』
『うん。びっくりしたぁ~。』
どうやら、睦美ちゃんのお陰で瀬愛ちゃんは空中に逃げれたみたい。
『危なかったな。ガキ共無事か?。』
『うん!。大丈夫だよ!。』
『お兄ちゃん!。ありがとう。』
巨大な竜の姿へと【神化】した基汐君に子供達は守られていた。
ほっ…良かった…。
『へへへ。ガキ共を守るとか余裕じゃねぇか?。だがな?。そんなんじゃ俺の攻撃を防ぎ切れねぇぜ?。』
『はぁ…。さっきから聞いていれば、如何にも三下みたいな言葉ばかりよね?。貴方は…。』
『何?。』
『基汐君、子供達をお願い。睦美ちゃん。瀬愛ちゃん。援護をお願い出来る?。』
『ああ。分かった。だが、大丈夫か?。黄華さん?。』
『ええ。これ以上、子供達を巻き込みたくないもの。だから、私に任せて。』
『ああ。』
『ワシ等も異論無い。』
『瀬愛も頑張る。』
『ええ。ありがとう。』
端骨の目的が瀬愛ちゃんと睦美ちゃんなら彼女達を前戦に立たせるのは危険。
ならば、私でこの場を乗り切るしかない。
『何だ?。随分と美人な女が出てきたな?。お前1人で俺と戦うのか?。』
『ええ。そうよ?。文句ある?。』
『いや?。むしろ嬉しいねぇ。この身体になってから性欲と食欲が融合しちまったみたいでな。女を食べれば両方満たせるんだ。特に、あんたみたいな綺麗な女を生きたまま少しずつ食べるんだ。悲鳴や絶叫を聞きながらな。それが最高の美味くて幸せでよぉ~。満たされんのよぉ。』
『下種ね…。良いわ。来なさい。坊や。大人の女性の怖さ。教えてあげる。』
『はっ!。ますます泣かせたくなったぜ!。』
火車の突進。
巨体と分厚い筋肉にモノをいわせた物量攻撃。
『しねぇぇぇぇぇえええええ!!!。』
『単純すぎ。』
『はっ?。ぐっえっ!?。』
突進した火車の身体が宙に浮き上がりそのまま地面に激突した。
自分の突進力がそのまま衝撃になって跳ね返ってきたのだ。
『いってぇな!。』
『単調よ。』
今度は這いつくばった状態から殴り掛かって来た。
鉄扇で腕の軌道を逸らし懐へ。無防備な頭を持って地面に叩き付ける。
『ぐばっ!?。』
『どう?。少しは懲りた?。』
『な?。何が?。』
『いつまで寝転がってるのよ?。』
腕は太すぎて掴めないから指を掴む。そのまま後ろに回り鉄扇で膝と腰を突く。
『は?。何だ?。勝手に立ち上がって?。』
『ほら。ボケッとしない。』
指を捻りながら巨体の下へ潜り込む。体勢を低くし指を持ったまま身体を回転させ再び地面に叩き付けた。
『ぐあっ!?。何が起きている!?。』
『掴んで投げただけよ?。どう目が覚めたかしら?。』
『ぎぃぃぃいいいいい!。黙れぇぇぇえええええ!。』
腕を伸ばして掴み掛かろうとする火車の指を掴み上げ身体を回転させる。すると火車の身体が浮き上がった。
『何でこんな華奢な女に俺が投げ飛ばされているんだよぉぉぉおおおおお!?。』
『何言ってるのよ。貴方が勝手に飛び上がってるのよ?。』
『は?。』
『で、次は少し力を入れるわね。』
そのまま自分の身体を支点にし火車の身体を頭からクレーターの中に放り込んだ。
『ぐぁっ!?。ぶっ!?。』
自分で開けたクレーターの底へ叩き付けられた火車の後頭部目掛けて両足で踏みつける。
『どう?。女だからって舐めんじゃないわよ?。』
その様子を見ていた基汐、瀬愛、睦美が驚愕している。
3人は黄華が戦う姿を見るのは始めてだった。
端から見れば火車の身体が黄華に投げられ続け、何度も叩き付けられていた。まるでゴム毬の様に何度も…何度も…。女性らしい肉体の細くしなやかな黄華が自分の何倍も太く膨れ上がった筋肉を持つ火車を容易く投げ飛ばしている様は異様だった。
『ママ。凄い!。』
『ふむ…黄華…が、まさかここまで強いとはのぉ…。能力すら使っていないようじゃったが…。』
『そう言えば前に無凱さんが言ってたな…。僕の接近戦の技術は若い頃に黄華さんに仕込まれたって…。』
『ああ…じゃから、無凱に似ているのか。いや、無凱が黄華に似たというべきじゃな。』
援護を頼まれた瀬愛と睦美だったが、黄華が圧倒的過ぎて何も出来なかったのだった。
『はぁ…はぁ…。どうなってやがる?。何で俺が地面に寝てんだよぉ。』
『簡単よ。貴方が弱いから。』
『うぜぇ!。なっ?。消え?。』
激昂に任せた無造作な腕振りをいなし、死角から背後に回る。
『後ろよ。』
『な!?。に!?。いつの間に?。』
『スキル【崩墜砕破点】。』
マイ エンジェルの片翼。翡無琥ちゃんと同じスキル。一点に集中させた魔力を乗せた掌打。身体の内部から破壊するスキル。
『がぁぁぁぁぁあああああばばばばばばばばばばばばばばばあっ………。』
『筋組織を破壊したわ。内蔵にもダメージを与えた。閃君の話では凄い回復力なんでしょ?。けど、暫くは動けないと思うわよ?。』
ドサッ。…と、倒れ込む火車。
私は彼を戦闘不能と見なし皆の場所まで戻る。
『さぁ?。どうするのかしら?。次は貴方?。』
端骨に向かって問う。
しかし、端骨からは焦りを感じない。
余裕な感じで薄気味悪い笑みを浮かべている。
『ひひ。私の番は当分先ですよ?。』
『あら?。どういうことかしら?。』
『ひひひひ。私の研究成果の1つを侮ってはいけませんよ。』
すると、端骨は懐から何か液体の入った硝子の瓶を取り出した。先端は注射針のような形状の針が付いていて、それを火車へ投げた。
『ひひひひ。ここからが私の研究成果ですよ。』
ぷすりっ。
倒れている火車に謎の液体が注入された。
『ぎゃゃゃぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
断末魔にも似た叫び声を上げ起き上がる火車。だが、明らかに先程までとは様子が違う。
『がぁぁぁぁぁあああああ!!!。殺してやるぅぅぅううううう!!!。』
私は目を離していなかった。
僅かな時間。瞬きをした一瞬で火車の姿は目の前から消えた。
『えっ!?。消えっ…。』
『黄華っ!後ろじゃ!。』
『っ!。』
睦美ちゃんの声に反応し振り返った時には更に筋肉が肥大化した火車が巨大な拳を振り上げているところだった。
『死ねっ!。』
『させないよっ!。【鋼糸縛】!。』
『ぐっ!?。何だ?。この糸は?。動けん。』
周囲に張り巡らされた鋼の糸が火車の身体に巻き付く。
『無駄だよ!。どんなことをしても切れない鋼の糸だもん。動けないよ!。』
『瀬愛ちゃん。ありがとう。』
『うん!。ママを守るよっ!。』
『瀬愛!。糸を!。』
『うん。』
糸の先端を受け取った基汐君が竜となっている巨体で糸ごと巻き付いている火車を投げ飛ばした。
『がぁぁぁぁぁあああああ!?。』
地面に叩き付けられても暴れる火車。
『無駄だよ。瀬愛の糸はそこにも仕掛けたもん。動けば動くだけ絡まるんだよ!。』
『隙だらけじゃ。』
銀色の鎧を身に纏った睦美ちゃんが転げ回る火車に斬り掛かり…。
『っ!。』
身動きの取れない火車の腕を斬り飛ばした。
『やったっ!。』
あっ…これ、戦場で言っちゃいけないヤツかも…。
『いや、まだだ。』
ほら、やっぱりぃ!。
『うぅ…いでぇなぁ。この糸は邪魔だ。』
次の瞬間。火車は驚くべき行動を起こした。
それは、膨張した全身の筋肉が身体中に巻き付いている糸を肉の間に取り込み始めたのだ。
『わわわ。瀬愛の糸…。』
『何をしておるのじゃ…あれは…。』
『わからねぇ。けど…。』
『何かをしているのは確かね。』
糸が肉の中に吸収された。
すると、今度は全身の筋肉が赤く光始める。
『おぉ…おぉ…。覚えたぞ。この糸の仕組み。俺の腕…。』
睦美ちゃんが斬り落とした腕を拾い自ら食べ始めた。…と、同時に失った腕が急速に再生していく。
『化け物ね…。』
『怖い…。ママ…。』
瀬愛ちゃんを庇うように後ろに下げる。
『次だ。いくぞぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』
怒号にも似た雄叫びを上げながら突進してくる筋肉の塊。並みの速さではない。
『来ないで!。【鋼糸縛】!。』
『覚えていると言ったぞ!。』
瀬愛ちゃんの目に見えない細い糸を掴み、手繰り寄せる火車。
『まだだよ!。【万能糸 斬糸】!。』
細くて斬れるピアノ線のような糸が火車の身体を斬り裂く。しかし、筋肉が硬質化したのか糸は僅かに表面にかすり傷を残すだけだった。
『ワシもいるぞ!。【転炎斬火】!。』
炎を宿した斬撃を放つ睦美ちゃん。
『がぁぁぁぁぁあああああ!?。熱い…熱い…熱い…。ぐぉぉぉおおおおお!!!。』
『馬鹿な…。』
斬撃は効かなかった。
先程は腕を斬り飛ばせていた筈なのに、今度は弾かれた。纏った炎だけが火車の身体を燃やすも、その箇所に筋肉が覆い被さることで消されてしまった。
『なら、潰してやる!。』
基汐君の竜の腕を振り落とす。
『っ!?。』
『なっ!?。受け止めやがった!?。』
『瀬愛!。』
『うん。お姉ちゃん!。』
基汐君の腕を防いだことで両腕の上がった火車に睦美ちゃんと瀬愛ちゃんが攻撃を仕掛けるも…。
『ダメじゃ!。硬すぎる!?。』
『この人、どんどん強くなってる。』
相手への適応力が尋常じゃない。
もの凄い速さで成長してる。
『小賢しい!。』
ただ拳を振り回しただけで周囲のモノを吹き飛ばす怪力。
『避けれまい。』
『ちっ!?。ごぉばぁっ!。』
尻尾で取り囲むように子供達を守っている基汐君の胴体に火車の拳がめり込んだ。
身動きが取れない基汐の竜の鱗や筋肉を破壊する一撃が直撃し、その身体が僅かに宙へ浮いた。
『基汐!。』
『お兄ちゃん!。』
『もう一撃だ。』
『させない。』
私は基汐君と火車の間に割り込み鉄扇で腕の軌道を変え地面へと誘導する。
『ば、馬鹿力ね…。』
地面に穴を開けた衝撃で睦美ちゃんと瀬愛ちゃんが吹き飛んだ。
睦美ちゃんが翼を広げ飛翔し空中で瀬愛ちゃんを受け止める。
『ちぃ。まだだ。』
軌道を逸らしただけなのに私の腕が痺れてる。
再び、振り抜かれた左腕の拳が私の顔面を捉えた。…と、錯覚したようね。
『【幻惑魔香】。』
私の居ない。全くの別方向へ攻撃を繰り返す火車。
『隙だらけよ。【崩墜砕破点】。』
さっきと同じ箇所へ内部破壊の一撃を加えた。
『ごぶぉぉぉおおおおお!!!???。』
ゴロゴロと地面を何度も跳ね、転がる火車。
子供達と基汐君から離すことに成功する。
『睦美ちゃん。基汐君を!。』
『了解じゃ。【転炎光】。』
あの怪力を真面に喰らったのだ。いくら基汐君でも相当なダメージを負った筈。睦美ちゃんが居てくれて良かった。
『がぁぁぁ…。』
『瀬愛ちゃん!。』
『うん!。【魔網絡縛糸陣】!。』
瀬愛ちゃんのスキルで火車の行動範囲を制限。
『舐めるなぁ!。こんなもの、もう覚えているわっ!。ぐっ!?。これは、さっきまでと違う!?。』
『そうだよ!。いっぱい魔力を込めたからね!。そう簡単には切れないよ!。』
『切れねぇでも、関係ねぇわ!。』
『っ!?。この人、無理矢理…。』
大丈夫。それでも動きはさっきより制限されているわ。
『スキル【花香聖霊女神化】!。』
リスティナの力で王族から神族へと変化し手に入れた切り札【神化】。
私は香りを司る神へとなり、様々な効果を持つ香りを周囲へ自在に放つことが出来るようになる。
『【弱体魔香】。』
一時的に対象の身体能力を低下させる香り。
臭いって言われるのは心外だけど。
『ぬっ…臭い…。』
『今よ!。睦美ちゃん!。』
飛び掛かる睦美ちゃん。
『くっ!。【転炎光】!。これで強化前に戻るのじゃ!。』
『ぐぁぁぁあああああ!。腕がっ!。』
睦美ちゃんの戻す能力が火車の腕に命中。
彼の腕が徐々に細くなっていく。
『ぐっ!。こんなものっ!。』
『なっ!?。コヤツ、自分の腕を!?。』
細くなった腕を自ら引き千切りスキルの効果を防いだ。
『はぁっ!。』
即座に失った腕が根元から生え替わり元に戻る。
回復速度も上がってる!?。
『それも…覚えたぁぁぁあああ!。』
『回復が速すぎるぞ!?。』
腕を振りかぶる火車。
まずい。睦美ちゃんに直撃する。
『させねぇっ!。』
睦美ちゃんを守るように腕で拳をガードした基汐君。間一髪のタイミングで睦美ちゃんと火車の間に腕を割り込ませることに成功するも…。
『消し飛ばすっ!。』
『ぐぁっ!。コイツ…さっきまでと力がっ!?。』
鋼鉄以上の硬度を持つ竜の腕が火車の拳で変形し千切れ吹き飛ばされた。
『がぁぁぁあああああ!?!?。』
『基汐!?。』
『くっ!。何してくれてんのよっ!。』
相手の重心、体重、動作を利用して技にはめる私の技術。
攻撃直後の動きの癖。一瞬、硬直した火車の懐へと潜り込み。
顎下へ一撃を加える。
『ぐぉっ!。』
『まだよ!。』
そのまま後ろへ倒れ込む彼の重心を利用し私の体重もおまけに乗せ頭から地面へと叩き付けた。
『がっ!。』
もちろん、これじゃあ倒せない。
だから!。
『神技っ!。【絶香芳神舞花】!。』
『これは!?。』
魔力は花弁の形を模し、周囲に様々な香りを放出し続ける。神具から巻き上げられた鉄扇によって発生させた風によって混ぜ合わされた魔力香の結界の渦。
『貴方の肉体が人間をベースに強化されたモノで良かった。』
『な…に…。っ!?。身体が!?!?。』
『強烈な痺れと、激痛を感じるでしょ?。筋肉組織を内部から破壊する毒の香りよ。呼吸する生物なら香りの攻撃は防げないでしょ?。今、貴方の周りは私の魔力で作り出した魔香で取り囲んでいる。複数の香りを混ぜ合わせた特製の神の香り。堪能しなさい。』
『がぁぁぁぁぁあああああ!?。いてぇ…身体中がいてぇ!?。…けどな…。』
『っ!?。』
『まだ、お前を殺すには十分なんだだよっ!。』
『ぐっ!?。』
毒の香りで脆くなった腕で殴りかかってきた。
『無駄よ。この距離なら私の技の方が上っ!。』
『それは、もう!。覚えてんだよ!。』
『なっ!?。フェイント!?。』
軌道を変えようとした腕が一瞬止まりタイミングをずらされた。
『はぁぁぁあああああっ!。』
『ぐあっ…。』
火車の拳がお腹に…。こ、呼吸が…。
『ははっ!。』
バランスを崩した私に追い討ち。
身体を地面に叩き付けられた。仰向けに倒れた私の目に映ったのは…。
『あがっ…。』
『トドメだ。』
顔面を潰す一撃が振るわれる。
『どう?。束の間の優越感、楽しめたかしら?。』
『はっ?。っ!?。がぁばぁぁぁぁああああああああああ!?!?。』
全身の筋肉の隙間から爆炎が上がる。
内部からの爆発。流石の化け物でもこれなら、ただじゃ済まないでしょう?。
『スキル【爆炎魔香】。』
『がぁぁぁぁぁあああああ…。』
倒れる火車。
『けほっ。けほっ。』
うぅ…お腹痛いわ…。
『ママっ!。大丈夫っ!?。』
『黄華っ!。今治すっ!。じっとしておれ。』
私に駆け寄る2人。
パチパチパチパチパチパチ。
『流石ですね。クロノフィリアの皆さん。まさか、私の傑作の1つを倒すとは。』
胡散臭い笑みを浮かべ拍手をする端骨。
『そ、それで?。これからどうするのかしら?。』
『ひひ。貴女の能力もなかなか素晴らしいですね。しかし、癖が強く使い勝手は良くないようだ。神の方々にも効果は薄そうですね。』
『失礼ね…。』
『ひひ。やはり、睦美さん。瀬愛さん…のお二方。』
『っ…ママ…あの人、何か…嫌…。』
『ワシ等に何の用だ?。』
身構える2人。
『いえいえ。そう大したことではありませんよ。』
『ん?。』
『どうですか?。私の研究を手伝って頂けませんか?。』
『研究?。』
『ええ。名付けて、【能力移植技術】の実験です。ひひ。名前はそのままですがね?。』
『能力…移植…?。』
『ええ。私は貴女方2人の能力が欲しいのです。どうですか?。一緒に来ていただければこれ以上この場での戦闘は控えますよ?。』
『行くわけなかろうっ!。』
『瀬愛も、嫌っ!。』
『そうですか。なら…。』
端骨がパチンッ!。…と指を鳴らした瞬間。
『死ねぇぇぇぇぇえええええ!!!。』
『っ!?。』
『なっ!?。』
なっ!?。コイツ…まだ、動っ…!?。
突然、動き出した火車。
『力ずくで、連れて行きましょうか。それと。』
ドンッ!。………。
『え…!?。』
復活し背後から拳を振り上げていた火車に気を取られた一瞬…。
『ママっ!。』
『黄華っ!。』
『黄華さん!。』
別方向から微かに聞こえた銃声と、焦り声を上げる瀬愛ちゃん達の声。
自分に何が起きたのかも理解できないまま。
次の瞬間、私の全身から力が抜けた。
同時に感じた腹部の重い痛みと違和感と共に…口の中に広がる血の味。
視界いっぱいに地面が近付いた。
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