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第16話 六大会議 開幕

 長い通路を歩く。

…ここには何度出向いても、この雰囲気…慣れないわ…何で私…ギルドマスターになっちゃったんだろう…。

 …ゲーム時代は良かった。気楽にプレイ出来て仲間の娘たちと楽しく冒険したり、イベントに行ったり。

 1度だけ、無凱のバカに連れられてラスボスに挑んでしまったせいで限界突破も獲得。

 いつの間にかレベル120のベテランプレイヤー扱い。

 正直、荷が重すぎるよぉ。


『ふぅ…』


 誰にも聞こえない様に小さく溜め息をついた。

 私こと、黄華扇桜のギルドマスターを務める黄華は、正直な話、内心緊張でいっぱいいっぱいだった。

 だって、もうね。無理よ。無理。

 周りは実力者揃いで国のほぼトップ。そんな中に中身一般人が入るのよ?

 意味分からないわ。


『くすっ。』

『っ!?』


 私の背後に控えていた人物の声が聞こえ横目で覗き見た。

 クロノ・フィリア所属 No.11 (カナメ)神父が笑った様な気がした。

 神父服と片目の眼鏡が特徴の長身、長髪の細目のイケメン。出会った頃からの裏がありそうな笑みは私の緊張に拍車を掛ける。


 もしかして溜め息を聞かれた?


 おそらく当たりだろう。彼の笑い声も私にしか聞こえないように発せられたみたいだし。

 もう、何なのでしょうね。

 黄華扇桜のギルドメンバーは、あまり戦闘が得意ではない娘たちばかりだから、無凱に護衛が必要だと言って彼が連れてきた人物がこの2人。

 ニコニコ笑顔で今も尚私を見ている叶神父。それと…

 クロノ・フィリア所属 No.13 翡無琥(ヒナコ)さん。

 てっきり、閃君や灯月さんが来ると思ってたのに一度も絡んだことがないどころか初対面の2人が来るなんて想像だにしていなかった。

 普通は気を利かせて選んで来ないものかな?。

 無凱のバカ。


『まあ、考えていても仕方がありませんか。』


 私は意を決して大広間への扉をくぐる。

 入った途端、美緑さんと黒璃さんが一触即発の雰囲気を出していたので大人のお姉さんムーブで事無きを得た。

 ギルドマスターの私は『できる女』を頑張って演じるしかない。

 そうじゃないと絶対ボロが出るから。

 

 私はできる女 私はできる女 私はできる女

 私はできる女 私はできる女 私はできる女


 良し!頑張るぞーー。はぁ…。

 溜めた気合いは溜め息と共に吐き捨てられた。

 表情は崩さず微笑み状態で自身の為に用意された席につく。

 途中、赤皇がいつもの軽口を叩いて来たがやんわりと躱す。

 いつもならもっと食い下がるのに今回に限っては赤皇を含め、この場にいた全員が叶神父と翡無琥さんに興味津々のようですね。

 無口で無愛想な青嵐も僅かに反応してますし。


『…強いね。』『ああ、強ぇわ。』


 各ギルドマスターたちも2人の隠していても隠しきれない程の異質さを感じ取っているようですね。

 それはそうですよ。だって、彼はクロノ・フィリアのメンバーですよ?貴方たちより30もレベルが上なんですから。


『何処で捕まえやがった?』

『お友達ですよ。』


 私の方が色々知りたいし、2人とは初対面だし。

 名前以外何にも知りませんけど!。

 赤皇の質問に自分でも良く分かってない返答をした。


『ぐっ…。』


 そうこうしていると、突然何人かがフラつきながら膝をついた。

 ああ、やっちゃいましたね。

 叶神父の情報でも盗み見ようとしたのでしょう。彼の薄気味悪い笑いもそのせいかもしれませんね。


『お前に襲いかかったら嫌でも戦えるっか?』


 ええええ!、何言ってるのこの人。

 馬鹿なの?馬鹿なの?

 脳筋にも程があるでしょ。


『野蛮人ですね。』


 もう、なるようになるでしょう。

 私、諦めます。


『騒がしいですね。』


 その時、白聖連団のギルドマスターでこの会議の主催者 白蓮 が入室してきた。

 ナイスタイミングです。この筋肉馬鹿を止めるのは貴方が最適、普段は余り好きではありませんが今だけは好ましく思います。

 心の中で私は安堵に震え、ガッツポーズで踊ります。


『さて、それでは始めようか。…六大会議を。』


 こうして、六大会議が始まりました。


ーーーーーーーーーーーーーーー


『で、白ぃの。この会議は何の集会だ?』

『そうだね。長々と話していても仕方がないし単刀直入に言うとクロノ・フィリアについてかな。』

『クロノ・フィリアねぇ。』

『私アイツ等キライーー。』

『…ふん…』

『…』

『…あらあら…』


 五者五様の反応を見せ、それを見た白蓮がクスリと笑う。


『皆も何かしら痛い思い出があるようだね。』

『まあな。』

『ウチなんてギルド崩壊の危機に晒されたんだからね!。』

『脅威。その一言で片付く。』

『そう彼等は強い。このような秩序が崩壊した世界であっても彼等は度々、我々の前に立ちはだかった。』

『うむ。だが、白ぃの。正直な話、俺はソイツ等の全貌をよく知らん。俺自身がゲーム時代以外で対面したことが無いんでな。』

『ええ?そうなの。赤ちゃん?』

『ああ、ゲーム時代であれば争った記憶があるのだが、あの頃の記憶で止まっている。部下の報告では俺のギルドの末端に接触したと聞いているがな。』

『全貌か。悔しいが我が白聖でも彼らの全てを把握している訳ではないよ。…そうだね。今日は各々が知っているクロノフィリアの情報共有から話し合おうか。』

『しかし、そんなことをしてどうするのだ?奴等に戦争でも仕掛けるのか?』

『んん。最終的にはそうなる…可能性がある。とだけ言っておこうか。』

『何!?』

『それは本当か!?』

『マジで!?』

『え…!?』

『何ですって!?』

『まあ、あくまで話し合いの結果、君たちの意思次第だよ。…では、始めようか。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 会議が始まる。


 対クロノ・フィリアを想定した情報共有。


 私は、その内容に驚きを隠せないでいた。

 何とか表情や仕草に表れるのを耐えチラリと叶神父と翡無琥さんの様子を窺った。

 翡無琥さんは目を隠しているので表情が読めない。

 叶神父は相変わらず爽やかな胡散臭い笑顔を振り撒いている。

 だめだー。何考えてるか分からないよー。


 私のギルド 黄華扇桜 は裏でクロノ・フィリアと繋がっている。

 これは決して他のギルドに知られるわけにはいかないこと。

 もし、情報が漏れてしまったのなら黄華扇桜は…あっという間に潰されてしまうでしょう。

 護衛に付いてきてくれた2人の実力を疑うわけではないですが、せめて私が面識のある人を寄越しなさいよね無凱のバカ。

 ぅう。緊張でお腹いたいよぉ。


『さて、まずは現時点で把握されているクロノ・フィリアの実態についてだが。これは、皆も知っていると思う。』


 円卓の中央に大きな六面のスクリーンが現れ、更に私たちの目の前にも小型の電子モニターが出現した。


『クロノ・フィリアはゲーム時代、我々のような大手ギルドですら相手にならない程の力を持った少数ギルドだ。ギルド人数はゲーム最終日に確認した限りでは23人。我々大手ギルドは当時でも最低で500から5000人のギルドメンバーで構成されていたことを考えると驚異の少なさだ。』

『確かにな。今は無所属だったプレイヤーを引き込んで更に勢力を拡大している俺たちだ。手っ取り早く人数を増やすのがギルド自体の力の底上げに繋がるからな。』

『そうだね。そして、その23人にはギルド内で更にグループ分けがされているらしい。』

『グループ分け?』

『ああ、おそらくスキルの特性や種族相性による部隊化であると推測している。』

『なるほどねぇ。確かに表立って行動してた奴等に偏りがあったように思えたな。』

『そう言えばそうだね。私の時もそんな感じだったよ。』

『…手配書が発行されている10人、ソイツらが実行部隊なのだろう?』

『ああ、僕はそう考えているよ。また、クロノ・フィリアメンバーの証である証明として身体の何処かに数字が刻印されているということが確認されている。』

『へえ。じゃあその数字を探せばクロノ・フィリアかどうか分かるんだ。』

『全員の刻印が同じ位置にあるとは限らないのだろう?』

『ああ、現に判明しているメンバーも刻印の位置はバラバラだと記憶している。』

『なるほど。』

『でだ。これが、現在把握されているクロノ・フィリアメンバーのデータだ。皆、目を通してくれ。』


 私も小型のモニターを見る。

 モニターには、右側に閃君の顔写真と左側に過去のデータを元に予想と予測を踏まえた情報が記載されていた。

 ページ数は10。つまり、10人のメンバーの情報しか知られていないということ。

 で、後ろの2人の情報は当然ながら載っていないと。


『まずは彼だ。クロノ・フィリアで最も強いとされる人物だ。』

『おお、あるある。コイツと殺り合ったことあるぞ俺。コイツは強かったな。』

『そうなの?私は無いなぁ。赤ちゃんは勝てたの?』

『惨敗よ。相手にすらならなかった。だが、コイツの戦闘スタイルは覚えてるぜ。』

『俺も無いな。』

『私もありません。』

『私も。』

『正直、僕も会ったことは無いんだよ。この現実世界でも彼は何も行動を起こしていないようで情報は得られていない。』

『何だ?会ったことあるのは俺だけか?』

『そうなるね。対面した者の話を元にスキルなどを予測したデータが左側に載っている。後は、赤皇に話を聞きたいな。彼はどんなタイプのプレイヤーだったんだい?』

『ああ、あれは…種族は人族だな。種族ガチャの一番の外れだ。』

『ぷぷ。人族とか可哀想。』

『俺も最初は雑魚かと思って舐めて掛かったのよ。だが、奴が構えた瞬間悟ったね。コイツを舐めてると負けるってな。俺が当時持っていたスキル【直感】が危険信号上げてやがった。』

『武器などは使っていたかい?』

『武器と言えるか分からないが手にグローブをはめて戦う徒手空拳スタイルだったな。』


 赤皇の話を聞きながら白蓮が情報を入力していく。

 それに連動し私の前にあるモニターに写っている閃君のデータも更新されていった。


『赤皇、他に気になることはあったかい?スキルを使っていたとか。』

『スキルねぇ。よく分からねぇ。』

『…と言うと?』

『奴の危険性を感じ取った俺は後手に回ると不味いと思ってよ。なら先手必勝だって思って全オーラを込めた拳で殴りつけたのよ。』

『殴りつけた、ということは当たったのかい?』

『ああ、当たった…手応えはあったんだが気が付いたら俺の方が仰向けで倒れてたのよ。顎にダメージがあったからソコを狙われたんだと思うんだけどよ。殴られた記憶もなくただ倒れてたわけよ、はははは。』

『攻撃を当てたのに倒れていたのは君だったと。カウンターのようなスキルかな。しかも、急所をピンポイントで狙える正確さと速さを持った。』

『俺の知っている奴の情報はこんなとこだ。』

『有り難う。参考になったよ。』

『1つ良いですか?』

『ああ、良いよ。美緑君。』

『なぜ、彼が最も危険視されているんです?』

『情報の少なさと矛盾していると?』

『はい。』

『それは、彼が個人成績の獲得スコアでゲームトップクリアした者だからさ。』

『ああ、そういうことですか。納得です。』


 個人成績獲得スコアとは。

 プレイヤーのアバターが生成された時点から与えられるいわゆる経験値ゲージのようなもので、プレイヤーの行った行動に比例してスコアが増えていく。

 このスコアが高いほどイベントなどで与えられる特典が多くなったり、獲得するスキルが強力になったりとゲームを有利に進められた。


『個人成績獲得スコアは上位23人は全てクロノ・フィリアで埋め尽くされていたな。』

『ああ、我々…各ギルドマスターでさえ25位から30位だ。彼等の有利性は明らかだよ。』

『アイツら実力あるクセに豪華な特典まで貰えてズルいよね。』

『実力があったからの結果だ。ソコは素直に認めよう。』

『で、その閃って人の分かってることってこれだけなの?』

『ああ、一部の噂では、現在のクロノ・フィリアメンバーはほぼ彼が集めた、それくらいだ。』

『強い上に相手の潜在能力を見抜く眼力まであるってことか?すげぇな。』

『彼には単独で挑むのは止めた方が良いね。出会ってしまったら撤退が正解かもしれない。では、次だ。』


 こうして、クロノ・フィリアメンバーの名前や予測された能力が話し合われた。

 閃君に始まり、無凱、基汐君の名前が順に上がる。この3人は私も会ったことがある。

 無凱は、自分を隠すのが上手いのかデータは閃君以上に知られていなかった。唯一分かるのはクロノ・フィリアのリーダーであることだけ。

 基汐君も、閃君と同じで自身の肉体を強化するタイプと結論付けられた。

 次のページからは私も会ったことのない人たちばかりだった。


『では、次のメンバーだ。』


 画面には、角の生えた小柄な少女。

 名前は (ハク)さん。

 見た目から鬼人族かな?宙に浮かぶ刀が4本と腰の後ろに短刀が1本の系5本が確認できる。武器は間違いなくコレだろう。

 この娘には、私以外の全員が会ったことがあるらしい。

 彼女は、いつも3人で行動していたらしく残り2人のこともデータベースに載っていた。

 もう1人は、金髪と碧眼、鎧と剣というオーソドックスな騎士の少女だった。

 名前は 春瀬(ハルセ)さん。

 尖った耳は精霊人族かな?この娘も武器は持っている剣が主体だと思う。

 3人目は、代刃(シラハ)君という青年。閃君と同い年くらいかな?

 外見で分かる種族の特徴は確認できない。

 ということは人族?


『この代刃という男がリーダーで常に3人で行動していて、一部ではクロノ・フィリア 裏組 と呼ばれているらしい。この裏組にゲーム時代の我々のギルドはかなりの痛手を負わされたのは皆も覚えていることだろう。』

『女2人も侍らせてさぁ。この男、ムカつくね。イケメンなだけに余計に腹立つ。』

『彼の情報は特に統一性が無く戦う度に違う武器を使用していたという話だ。』

『武器の装備枠は基本的に同系統の武器一種類だろう?』

『ああ、これはゲーム自体のルールであるからスキルなどで変更する事は出来ない。』

『彼が使った武器は?』

『確認されているモノで言うと刀、剣、弓、爪、水晶、鎌くらいかな。』

『凄いバラバラ。』

『おそらく変形するタイプや粘土のように自在に形を変えることのできる武器かな?。どのようなスキルか分からないがここまで武器の種類が多いと戦略が立てられないな。』

『やっぱ化け物しかいねぇなぁ。』

『この世界でも彼等3人は我々の前に度々現れては幾つもの拠点を潰している。かなり好戦的な部類だ。皆も気を付けてくれ。』


 私は画面の3人を見る。

 クロノ・フィリアとは長い付き合いだけど私の知らないことが多いことを改めて認識した。

 無凱のバカは何も教えてくれないし。

 今度、会ったら絶対愚痴ってやる。


『次は、悪組と呼ばれている者たちだ。』

『悪組とは、なかなか不穏な響きだな。』

『彼等はそうだな。黒璃君のギルドに近いかな。』

『はいはい。私のギルドを壊滅寸前に追いやったのコイツらですぅ。ああ。もう!思い出すと腹立つ。コイツら殺したいぃ!。』

『ははは。先にちょっかい出したのは君たちだって聞いてるけど?』

『五月蝿い。言っとくけど私はお前たち白聖もコイツらと同じくらい嫌いなんだからねっ!。』

『やれやれ。まあ、黒璃君のことは置いといて話を進めよう。』

『こら!てめぇ!置いとくな!。』


 六大会議は続いていく。

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