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第157話 挿話③

 コンコン。

 俺はドアをノックした。

 案の定、ドアの向こう側からの反応はない。


『予想通りか…まったく…。』


 ノックへの反応はないが…部屋の中からは気配を感じる。

 そっとしておけ、ってことかよ。

 本当に昔から変わらないな。


『ほっとける訳ないだろうがっ!。』


 俺は勢い良くドアを開けた。

 カーテンが閉め切られ明かりはついていない。真っ暗な部屋の中には、すすり泣く声だけが静かに聞こえていた。


『智鳴。』

『っ!?。』


 部屋の中にあるベッド。

 その上に布団を被って丸まっている影が、俺の呼び掛けにピクリと反応する。


『邪魔するぞ。』


 智鳴の横に座る俺に体重を預けてくる布団のお化け。


『閃ちゃん…。何で…。来たの?。』

『お前が心配だからに決まってんだろ?。』

『………。』

『予想通りに泣いてたしな。』

『………。』

『ほら、顔出せ。』

『いや…涙でぐちゃぐちゃだから…恥ずかしい…。』

『良いからっ!。ほらっ!。』

『はぅ…。』


 頭から被っていた布団を剥ぎ取りベッドの下に捨てる。

 智鳴は俯いたまま困った表情でチラチラと俺の顔を窺っていた。


『はぁ…。目が腫れてるじゃねぇか。どんだけ泣いてたんだよ…。』


 ポケットからハンカチを取り出し頬の涙が流れた跡と、まだ目に溜まっている涙を拭う。


『あの、会議の後から…ずっと…。』

『そうか…。』


 あれから3時間くらいか。

 ずっと泣いてたってことか…。


『智鳴。ほら。来い。』

『………。』


 智鳴の肩を引き寄せ抱きしめる。


『ごめんな。もっと早く来るべきだった。』

『ううん。ちゃんと閃ちゃんは来てくれたから…。嬉しい…。』


 震える肩を抱き寄せ背中を擦る。


『不安か?。』

『うん。嫌な、感じがね…ずっとするの。悪い予感。…胸騒ぎかな?。落ち着かない感じで…楽しかった思い出とか嬉しかった記憶とか…。皆が集まってる今とか…全部壊れて失くなっちゃうんじゃないかって。』

『………。』

『私…今の皆がいる生活が好きなの…。閃ちゃんがいて、クラブの皆とワイワイやって。クロノフィリアの皆で活動して…。』

『………。』

『幸せ…だったの…。』

『そうか…。』


 俺もだ。

 俺達は今を生きている。そして、充実感と幸福感を感じている。

 

 そして、同時に未知の力を持つ敵に対し恐怖と不安を感じている。


 皆がいる生活。失ったモノは多く、日常が形を変えた世界で、それでも集まった信頼できる仲間達。

 新たな仲間も加わり、関係も変化した。

 友になり、恋人となり。絆はより深く繋がった。


『私達…沢山、人を殺しちゃったから…罰が当たっちゃうのかなって…。人を殺しても前みたいに眠れなくなることは無くなったし…。こんな私でも敵って認識すれば殺せてしまうの…。だから、神様が怒ったのかな?。』

『それは…違う。俺達は生き残るために戦った。その結果、人を殺してしまった。何人…何十人と襲って来て…仕方がなく殺してしまったんだ。理由無く殺している訳じゃない。殺らなければ殺られる世界だったんだ。この2年間は…。だから、お前だけが悩む必要はないよ。』

『…閃ちゃん…。』

『仮に罰を受けることになるのなら、俺達皆で受けるさ。俺はお前を独りになんかさせない。…恋人だからな。』

『………へへ。閃ちゃん…途中から恥ずかしくなったでしょ?。顔ちょっと赤いよ。』

『うるせぇ。』

『へへ…。でも…ありがと。閃ちゃん。ちょっと元気出たよ。』

『そうか…。なら良かった。』

『ねぇ。閃ちゃん。キスして良い?。』

『ああ。良いぞ。いや、俺からする。』

『ん!?。』


 智鳴の唇を奪う。

 智鳴の勘は良く当たる。その智鳴が悪い予感がすると言った。

 これから何が起きるのか。俺には分からない。

 けど、何も失わない為に今まで戦ってきたんだ。


『神なんかに…負けねぇよ。俺達は…。』


 神達との戦い。

 それが俺達に何をもたらそうとクロノフィリアの結束は負けない。俺はそう信じている。


ーーー


 扉越しに話を聞いていた氷姫。

 静かに扉から離れ自室へと戻っていく。


『ありがと。閃。智ぃちゃん。励ましてくれて。』


 親友の心配を取り除いてくれた恋人に感謝し氷姫は笑った。


ーーー


『で…何だ…この状況は?。』


 場所は俺の部屋。

 部屋の中は恋人達+αで溢れていた。


 理由は決まっている。

 皆、不安なのだ。

 1人でいると色々考えちまうからな…。だが…これは…。


『ふふ。閃ちゃん。はい。あ~ん、して。』

『何をしている!。つつ美よっ!。それは妾がするのだっ!。どけっ!。』

『退くのは貴女方です!。そのクッキーを作ったのは私です。わ、た、し、がっ!。旦那様の為に作ったのですから!。その権利は私にありますっ!。』

『そうですっ!。私も一緒に作ったのですよっ!。年増のお二人様は部屋の隅でオセロでもしていてくださいっ!。』


 俺の目の前をクッキーが行ったり来たり。

 永遠に俺の口には入らないようだ。

 …と思った矢先に。


『ふふ。隙ありです。閃さん。』

『あむっ。モグモグ。旨い。』

『あっ!。美緑ちゃん!。抜け駆けです!。』

『美緑…お主…お部屋デートの後から随分と積極的になったのじゃ…。』

『あらあら。美緑ちゃん。ズルいです。お兄様。お口をお開けください。』

『あ~ん。モグモグ。旨い。』


 続けて口に放り込まれるクッキーを頬張る。

 クルミ割り人形ってこんな気持ちなのかな?。


『砂羅ちゃんまで!?。』

『抜け駆けだ~。閃。僕のクッキーも食べて良いんだよ?。』

『だから、私が旦那様の為に作ったんですって!。』

『私もです!。代刃ねぇ様は見てただけじゃないですかっ!。』


 何故か。彼女達の間で あ~ん という行為で争う理由があるらしい。

 別にそんなことしなくても自分で食べられるんだが…。


『せ、閃君っ!。その…隙ありっ!。』

『んっ!?。』

『なっ!?。』

『うそっ…。』

『やりおった…。』

『口移しっ!?。』

『ふふふ。恋も戦い。累紅。勝ち。』

『はい。師匠!。恥ずかしいけど、優越感が凄いです!。』


 いつから無華塁は累紅の師匠になったんだ?。


『あ、あのお兄ちゃん。私も…したいです。』

『ん?。翡無琥?。ああ。良いぞ。ほれ、あ~ん。』

『え?。あれ?。違っ…くないです。あ~ん。モグモグ。美味しい。』

『そうか。』


 翡無琥の頭を撫でる。


『まさかのされる側…。』

『くっ…その手が…。』


 どの手だよ…。十分自由にしてただろう…。


『ズルい!。お兄ちゃん!。瀬愛も瀬愛も。んーーーっ!。』


 瀬愛が口にクッキーを咥えて突き出してきた。


『瀬愛。どこで教わったんだ。それ。』

『んーーー。んーー。ん。んーーー。』

『何言ってるか分からん。あ~ん。』

『んっ!。ちゅっ。』


 瀬愛にキスされた。


『なっ…。口付けじゃとっ!?。』

『瀬愛ちゃんが…大人に…。』


 本当にどこで教わった?。


『おいっ!。つつ美っ!。角を取るなっ!。』

『あらあら。そんなに角が好きなの?。エッチね~。』

『何の話だぁ~。ああ~。全部真っ黒に…。』


 ああ。普通にオセロしてる奴等もいるし。


『くすくす。楽しいね。閃ちゃん。皆…幸せそう。』


 後ろにいた智鳴が笑う。


『皆。閃が好き。仲間が好き。一緒だから笑う。』


 その隣で氷姫が言う。


『そうだね。氷ぃちゃん。』

『うん。皆、一緒。』

『ああ。皆で力を合わせて生き残ろう。そして、クロノフィリア皆で 日常 を取り戻そう。』

『『うん。』』


 改めて、誓う。

 全員で未来を勝ち取る為に。


 しかし、現実は無情にも突き付けられる。


 突然、訪れることとなった運命の日は…この誓いの日から2日後のことだった。


ーーーーーーーーーー


 数人のクロノフィリアメンバーが、15人の子供達を引き連れて、大浴場へと向かう為に施設から出てきた。

 時刻は15時を回った頃だ。


 その中の1人。

 基汐はいつも通り子供達の遊び相手と差し入れを届けに来ていた。

 基汐が子供達の所に行くと、そこには既に黄華と瀬愛が子供達と一緒に遊んでいる場面だった。

 暫く、3人が子供達と遊んでいると、睦美がお手製のシュークリームを子供達の為に持って来た。

 おやつの時間。

 黄華が用意した紅茶と、睦美のシュークリームで一時の安らぎを満喫した面々は、子供達を連れ大浴場に行くことに決めた。


『睦美のお菓子は相変わらず旨いな。』

『瀬愛も美味しかったよっ!。』

『そうね。子供達も喜んでいたわ。ねっ?。皆?。』


 外の生地はパリパリ。中は生クリームとカスタードクリームが溢れんばかりに、たっぷりと詰まっていた。

 歯ごたえのあるサクサクとした食感の生地とふわふわとした甘い2種類のクリームが口の中で交わり幸福感で満たしてくれる。


『うん!。すっごく美味しかった~。』

『もっと食べたかった~。』

『ふわふわで甘々だったよ~。』


 子供達が嬉しそうにお菓子の感想を話す。


『ふふ。閃の胃袋を掴む為に日夜努力を惜しまずこなしてきた。よもや、ワシに作れぬものは何もないぞ。』


 自信満々に胸を張る睦美。


『また、作ってね。』

『もっといっぱい食べたい!。』

『瀬愛も~。』

『分かった分かった。シュークリームだけじゃなく色んな菓子を作って持ってきてやる。楽しみにしとれ。』


 子供達の笑顔に満更でもない表情で約束を交わす睦美。


『ふふ。嬉しそうね。睦美ちゃん。』

『元々、面倒見の良い性格ですからね。ゲームの時からそうでした。』


 睦美と瀬愛、子供達のやり取りに愛おしさを感じる黄華と基汐。


 こんな時間がいつまでも続くと良いなぁ。


 そう思った直後…運命の歯車が動き出す。


『っ!?。皆。止まれ。』

『え?。』

『あっ…。あの人…。』

『…アヤツは…。』


 基汐が放った静止の声。

 そして、黄華達が気付く。目の前に現れた人物に。


『ひひ。お久し振りですね。クロノフィリアの皆さん。』


 薄気味悪い笑みを浮かべた男。

 その視線は睦美と瀬愛に注がれている。


『端骨と…申します。』


 端骨が再び現れた。

 何よりも基汐や黄華を驚かせたのは、端骨が現れた方法。

 歪んだ空間。門の様に開いた歪みから現れるその様は、映像で観た…神達が使う移動手段とまったく同じ方法だったからである。


『ひひ。目的の人物が同時にいる所に出くわすとは…本当に私は、運が良いぃ~。ひひ。ひひひひひひひひひひ。』

次回の投稿は4日の木曜日を予定しています。

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