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第154話 略奪の姫

 俺の腕に抱きついている美少女。

 人間離れした美しさを持つ幼い見た目の少女は、小さな口でペロペロとアイスクリームを舐めている。


 何だ?。この状況は?。


 少女の名はアイシス。

 俺達の敵であるクリエイターズの更に上の存在だとリスティナやカナリアから聞いた。

 実際に白蓮との戦いの後に俺達に接触した。

 その時に彼女は何故か俺達に求愛したのだった。

 意味が分からん。てか、何でダーリン?。呼びなんだ?。


『んーーーっ。』


 一口食べるごとにご満悦な表情浮かべているアイシス。

 彼女が 神 でなければ、彼女が 敵 でなければ、彼女が 俺達よりも強く なければ。

 俺は…俺達はここまで警戒することもなかっただろう。


 今朝。コイツは、突然現れた。

 転移か、瞬間移動か、唐突にギルド内に出現した強大な魔力の奔流に俺達は気付き、至急、その魔力の発生源へと向かった。


 そこにコイツがいた。


『お久し振りね。ダーリン。会いたかったわ。』


 優雅に、軽やかに、美しく。コイツはドレスの裾を持ち上げ頭を下げた。


『ダーリン!。デートしましょう!。私に恋を教えて欲しいわ!。』


 そんなことを俺に告げ、始まったのだ。この謎のデートという展開が。


 一先ず、無凱のおっさん達には待避してもらった。

 現時点でコイツが暴れれば止められるのはリスティナだけだ。

 最悪の場合は戦闘になるだろう。

 しかし、ギルド内での戦闘は極力避けたい。

 ここには、レベルの低い者達や能力を持たない者達を多く匿っている。

 この場で戦闘が始まった場合、俺達で全員を守り抜くことは難しい。

 そこで俺はアイシスの提案に乗ることにした。

 彼女は戦いに来たわけではないと言った。

 ただ、デートというものを体験してみたいと。ならば、そのデートを俺が引き受けることで皆の避難する時間を稼ごうと考えたのだ。

 現在、涼達には住人の避難誘導を頼んでいる。

 街の中に居るのはクロノフィリアメンバーだけだ。


 灯月達は無凱のおっさん達と一緒に美緑のスキル【世界樹】の中にある第2拠点で俺とアイシスの様子とギルド周辺の様子の監視をして貰っている。

 そして、残りのメンバーで街の中に潜んで貰った。

 アイシスと俺の手に握られたアイスクリームも商店街のスタッフと入れ替わった春瀬から受け取ったモノだ。


『ダーリン。これ、アイスクリームと呼んでいたかしら?。』

『ああ、そうだ。初めてなんだろ?。どうだ?。味は?。』

『冷たくて、とろけるわ。私、何かを味わって食べるのも初めてなの。生み出されてから数十億年、食事をしなくても問題は起きなかったもの。気まぐれで映画の真似事をしたことがあったのだけど。あんまり興味が湧かなかったの。』

『そうなのか?。旨いもんを食うことは幸せな気分になるんだぞ?。』

『ええ。これは何と言えば良いのかしら?。つい何度も口に運んでしまいたくなる味だわ?。』

『ああ、甘いだ。アイスクリームは冷たくて甘いんだ。』

『甘い…ああ、これが甘いという味なのね。知ってるわ。映画で観たもの。甘いというのが味の1つなのは知っているのだけれど。それがどんな味なのか分からないの。』


 彼女の知識は全て映画から来ているのか?。


『なぁ。お前は普段何をして過ごしているんだ?。』

『映画を観ているわ。』

『ずっとか?。』

『ええ。そうよ。それ以外にやることもないのだもの。』

『どんなジャンルを観てるんだ?。』

『ジャンル?。ジャンルって何かしら?。』

『ジャンルっていうのは種類のことだな。恋愛とか。ホラーとか。』

『全部よ。』

『ぜ、全部…。』

『この世界にある全ての映画を何回も繰り返して観たわ。』


 やべぇ。人間の概念でコイツを見てた。

 そうだった。コイツは神だ。それこそ何億年も生きてるって言ってたしな…。

 そりゃあ、何度も繰り返しを行っているであろう、この世界の過去、現在、未来、そして、別の世界線に誕生した全ての映画を観ることも出来ただろうし…。

 映画だけでも途方もない数があるんだろうな…。


『そ、そうか。なぁ。お前…いや、名前で呼んでも良いか?。』


 手っ取り早く話題を変えよう。


『ええ。私のダーリンだもの。貴方の自由に呼んで良いわ。』

『そうか。ありがとう。アイシス。』

『っ!?。』


 突然、胸を押えるアイシス。


『何かしらね?。この感覚?。ズクンッとしたわ?。名前を呼ばれただけなのに胸が痛い?。これが、映画で語られていた病気というモノなのかしら?。』

『…いや、病気とは違うと思うぞ?。』


 神って病気になるのか?。


『あら?。そうなの?。』


 てか、コイツは本当に俺のことを好きなのか?。

 胸が痛いって…要はドキドキするってことだよな?。

 名前を言われただけで照れたように頬を赤らめて、胸を押えてるし?。


『なぁ?。』

『なぁに?。』

『アイシスは俺のことをあまり知らないよな?。この前会ったばかりだし。』

『そんなことないわよ?。』

『え?。』

『私、ずっと見てたもの。ダーリンのこと。』

『はい?。』


 ずっと見てた?。


『ええ。初めて出会ったあの日からずっとね。』

『もしかして…俺が生活してる姿を?。』

『ええ。もちろん。朝に目覚めるところから夜に寝るまでね。ダーリンは毎日大変そうね。色んな毎日を送ってるたわ。』

『ど、どうやって?。』

『簡単よ。こうするの。』


 アイシスは親指と人差し指で輪っかを作り、それを覗き込んだ。


『こうすれば障害物は透けて見えるわ。ずっとダーリンに固定してたの。それに。』


 今度は耳の周りを手の平で半分囲む。


『これでダーリンの声を聞いていたの。けど、聞こえるだけ。私からは話せないの。寂しくて。もどかしかったわ。』


 俺のプライベート…。

 てか、それだと俺達の作戦とか筒抜けだよな?。

 マズイぞ…これ…デタラメ過ぎる…。


『なぁ。見てたのは俺だけか?。』

『ええ。そうよ。他のには興味ないもの。会話だってダーリンの声しか聞かなかったもの。ダーリンの声を聞いてると安心できるの。何でかしらね?。普段は眠らないのだけど。ダーリンの声を聞いていると眠くなってしまうの。落ち着けるのよね。』

『そ、そうか…。』


 どうやら、作戦や他のメンバーの会話は聞かれてないようだ。

 興味がないだけとか、このアイシスって女は本当に自分の価値観だけで行動しているようだ。

 だが、一先ず安心だ。

 しかし、そんなことが出来るなら、コイツと同じ力を持つ奴等にも聞かれている可能性があるってことだ。

 これはリスティナに相談すべきだな。

 一応、今の俺達の会話は無凱のおっさん達に聞こえてるからな。何かしらの案を考えてくれると良いが…。


ーーー


『ヤバイな…それ。彼等は…神無ちゃんの結界や、機美ちゃんや光歌ちゃんの魔力を遮断する機械もすり抜けて来るってことかい?。』

『そ、そのようだな。アヤツの力を見誤っていたようだ…。』

『念のため。この場所を 箱 で包んでおくよ。』

『妾も結界を展開しておこう。』


 リスティナと無凱が同時にスキルで外部との間に結界を作り出した。


『これで、取り敢えず安心かな?。』

『うむ。随分と軽く言ってくれたな。あの小娘。』

『それでどうするの?。これからは策戦も戦略も立てづらくなったわね。』

『そうだね。黄華さん。まいったよ…。』

『これからは重要な話をする時は妾が結界を張ろう。それで、盗み聞きの心配はあるまい。』

『そうだね。頼むよ。』

『任せておけ。』


ーーー


『ダーリン。あれをして欲しいわ。』

『あれ?。』

『何て言うのかしら?。あの、あ~ん、というのでしょ?。食べさせて欲しいわ。』


 マジか…。まぁ、それくらいなら。良いのか?。下手に機嫌を害われても困るしな…。仕方がない。


『ほら。あ~ん。』

『あ~ん。ん~~~。美味しいわ~。それに胸の痛みが強くなった気がするわ。何なのかしら、けど、嫌じゃない痛みなの。ダーリンは御存知?。』


 んーーー。何と説明すれば良いんだろうか?。神であるコイツと人間の感覚が一緒とは限らないしなぁ…。


『アイシスは、その…男女の関係って分かるか?。』

『男女の関係…。ええ。知っているわ。心を通わせた男型と女型の人間が身体を交わらせることよね。』


 合ってるのか?。


『間違っては…いない…な。』

『それが、どうしたの?。』

『人間の…俺達の場合での話だからアイシスに当てはまるのかは分からないけどな。』

『ええ。それでも教えて欲しいわ。』

『ああ。このシチュエーションだと。それは多分、恋…なんじゃないかと思う。』

『恋…知ってるわ。映画で観たの。好意を寄せた他人のことを想うことよね?。』

『ああ。そうだ。多分…アイシスは俺に好意を寄せているんじゃないかと…思う。』

『…これが…恋…。ええ。そうかもしれないわ!。私はダーリンが好き…愛しているもの!。きっと恋よ!。いいえ。絶対、恋よ!。』


 嬉しそうに俺の腕に抱き付いて来るアイシス。


『そうなのね…。私も…恋が…出来たのね…。』


 自分の胸に両手を当て目を閉じるアイシス。


『ダーリン。ありがとう。貴方に出会ってから色んな初めてと出会えるの。ダーリンと会えて…本当に良かったわ。』


 俺から少し離れたアイシスは優雅に頭を下げた。


『ダーリン。もっと、色んなことを教えて?。デートというモノを体験させて欲しいの。』

『ああ。アイシスが望むなら今この時はアイシスに付き合ってやる。』


 少しでも有益な情報を得られれば良いが。


『ふふ。とても楽しみよ。』


 それから、俺とアイシスは商店街を歩き回った。

 食事処などは煌真や仁さん達が店のスタッフとして対応し、服屋は光歌と豊華さん達。ゲームセンターは機美と裏是流と白達が、俺達を監視しながら警備に当たっていた。


 これは…とんだ爆弾だな…。

 アイシスという名の爆弾を起爆させないよう満足させる。それが、俺達に与えられた緊急クエストだ。失敗すれば、おそらく死人が出る、デンジャラスゲーム。最悪の1日だな。


『ダーリン。良い眺めね。こんな乗り物も初めてよ。』

『それは良かった。デートの定番だからな。』


 俺達は今、観覧車の中にいた。

 遊園地…という程ではないが、小さな子供も沢山いる黄華扇桜には様々な遊具が設置されたフロアがあり、その中の1つに子供達にもカップルのデートスポットにも人気なギルドの全てを見渡せる観覧車がある。


 観覧車なら他に危害が加えられることもないと思い付き情報収集も兼ねて選んだのだ。


『ふふ。そうなのね。好きな殿方と2人きり。確かに、人気がありそうね。映画にも似たようなシーンがいくつもあったわ。』


 子供のような幼さを持つアイシスが周囲の景色を眺めながらはしゃいでいる。


『ねぇ…ダーリン。』

『何だ?。』

『私は、男女の目合というのを経験してみたいわ。』

『ま、まぐわい!?。』


 いきなり何を言い出すんだ?。


『映画で何度も観たわ。男女が全裸で抱き合って愛を確かめ合うのでしょ?。気持ち良さげに演出されていたわ。私も経験してみたいの。』

『いや、流石にそれは…。』

『あら?。何故かしら?。だって、ダーリンはよく女型の人間と肌を重ねていたわ。複数の人間とね?。あの人間達は良くて私は駄目なのかしら?。』


 そ、そうだった。

 コイツは俺を見ていた。つまり、灯月達との関係も丸見えだったわけか…。


『アイツ等は俺の恋人だ。』

『恋人…。互いに恋をした男女がなる関係ね。そうなのね…。ダーリンの恋人達…。何人いるのかしら?。』


 根掘り葉掘り、質問されてる!?。

 どうすりゃ良いんだよ!?。これ!?。


『じゅ…11人だ。』

『あらあら。そんなに?。でも、分かるわ。ダーリンの良さに気付いただけでも、その11体には見る目があるのね。ふふ。少し興味が湧くわ。』


 薄気味悪く笑うアイシスに背筋が凍るような悪寒を感じた。


『俺とアイシスは、まだ知り合って間もない。流石にそういう関係になるのは早すぎると思うんだ。』

『あら?。私の観た映画だと。出会ったその日に関係を持つ個体もいたのだけれど?。』


 映画ぁぁぁぁぁあああああ!!!。


『そ、それは創作物だからな。そういうのは雰囲気や順序、関係性とか各々にペースがあるんだ。俺はアイシスのことをあまり知らないしな。』

『ふふ。そうなのね。ありがとっ。ダーリン。教えてくれて。…けど、ふふ。それは人間の尺度の話よね?。』

『な…に?。』


 アイシスは妖艶な笑みを浮かべ身体を乗り出し俺の膝の上へと上がる。


『ふふ。私は神様だもの。全てが思うがまま。誰も私に逆らえないのよ?。』

『アイ…シス?。』


 アイシスの顔が間近に迫る。

 頭の中を支配されたような、目眩に似た感覚を覚えた。


『私は今、したいの。ダーリンの全てが欲しいわ。この場で抱いて欲しい。全て奪ってあげる。』


 呪文のように耳元で囁かれる言葉。


『ふふ。ダーリン…。』


 アイシスは俺の右手を掴み、そのまま自らの胸に持っていった。

 柔らかな感触が手の平全体に広がり、僅かな力でも形を変えた。


『アイシス…。』

『ふふ。どうかしら?。手の平にぴったり収まるサイズでしょ?。男性はこれくらいの胸の大きさを好ましく思うって映画の中で言っていたの。ダーリンはどうかしら?。』


 グルグルと視界が回り、自分が何をしているのか…されているのか分からない。

 ただ、目の前の少女の美しい瞳に吸い寄せられるような感覚と、手の平の柔らかな感覚が渦巻いているように溶けていく。

 この感覚は…アイシスの能力…なのか?。


『アイシス…。』

『ふふ。そうよ。服は邪魔よね?。良いわよ。ダーリンの好きにしても…。』

『だ…駄目だっ!。』

『きゃっ!?。』


 俺はアイシスの身体に触れていた右手を引き離し、代わりにアイシスの小さな頭を撫でた。

 何とか、雑念を振り払い。自力で正気に戻る。


『はぅ…。』

『すまん。アイシス。俺には恋人がいるんだ。お前とは、そういうことは出来ない。』


 出来るだけアイシスの頭を優しく撫でる。


『あらあら。残念。逃げられちゃったわ。けど…ええ。これも十分気持ちいいわね。ダーリン。もっとしてくれるかしら?。』

『ああ。こんなことで良いならいくらでも。』


 俺は膝の上で体重を預けて来るアイシスの肩を抱き反対の手で頭を撫で続けた。


 そうしている間に観覧車は1周し、俺達は降りる。

 アイシスは気が済んだ様子で、ギルド境界への入り口ゲートまで送るように頼んできた。

 やっと、終わるのか…。

 時刻は16時を過ぎたところ。6時間以上もデートしたんだな…。


『ふふ。今日は楽しかったわ。ありがとっ!。ダーリン!。』

『ああ。満足してくれて良かったよ。』

『ええ。満足よ。ふふ。ダーリンはやっぱり最高だったわ。』


 くるくるとその場で回り小さな身体で目一杯喜びを表現するアイシス。


『ふふ。ふふふ。あはははははははははは…。』

『あ、アイシス?。』


 これで一先ず安心…。そう思ったのも束の間。

 高らかに、それでいて上品に響き渡るアイシスの高笑い。


『ダーリンはやっぱり、私の見込んだ通りの殿方だったわ?。』

『…どういう…ことだ?。』

『そうねぇ~。改めて自己紹介するわ。』


 ドレスの裾を翻し、ポーズをとる。


『【絶対神】グァトリュアル様により創造された【神騎士】が1柱、神力は【略奪】。【白姫】、【略奪の神】アイシスよ。』


 それが、アイシスという神の名。


『りゃく…だつ…?。』

『ええ。ええ。私、今日はずっとダーリンに【神力】をぶつけてたのよ?。』

『神力…。』


 確か…神が確立された結果を設定し、思う通りの結果を得る時に発動する力…だったか?。


『ふふ。ダーリンの心を奪おうとしたのに抗われちゃったわ。私の力が全然効かないのだもの。』

『は?。』


 略奪…の神。

 神の神力は、その神の性質によって結果へと導かれる【過程】が変化するって言ってたが…。


『もしかして…あの観覧車の時の…。』

『ええ。そうよ。心も身体も奪おうとしたのに、ダーリンははね除けてしまったわ。少しショックだったのだけど。あの後に頭を優しく撫でてくれたから嬉しい気持ちが勝ってしまったの!。最高の気分だったわ!。』

『お前…。』

『あら、嫌だ。睨まないで欲しいわ。私は神。欲しいものは思った瞬間に私のモノなのよ?。』

『………。』


 決して忘れていた訳ではない。

 コイツが危険な存在だということは、けど、デートを楽しんでいたコイツを見て…もしかしたら、心を通わせることが出来るのではないか…と思い始めていたんだが…いや、期待したのかもしれない。

 けど…。


『決めたわ。ダーリンの全てを奪い取ってあげる。』


 俺の考えは甘かった…。


『何を言って…。』

『ダーリンの心の支えになっているのは恋人達よね。でないと、私の神力が効かなかったのもアレ等のせい。ふふ。良いことを思い付いたわ。』

『お、おい。』


 一瞬で俺に接近し頬にキスをするアイシス。

 そして、瞬時にゲートの外。ギルドの境界外へ転移した。


『楽しかったわ。ダーリン。素敵な1日をどうも、ありがとっ!。今度、会う時は貴方の全てを奪ってあげる。手始めに、ダーリンの恋人を全員皆殺しにするわ。次に仲間達。最期に残ったのはダーリンだけ。ふふ。心も身体も奪い取って…私と2人で永遠に愛し合いましょうね。』

『なっ!。ちょっと待てっ!。』

『それでは失礼するわね。ばいばい。ダーリン。愛しているわ。』


 不吉な言葉を残し、俺が接近するよりも先に転移したアイシスの姿が掻き消えた。


 急に訪れた静寂。

 アイシスの言葉が脳内に反復される。


『俺の恋人達を殺す…。マズイことになったな…。』


 これは…。

 アイシスを止めないと…。

 俺は、灯月達にアイシスと接触させてはいけない…そう思ったのだった。


『くっ…。念のため、ギルド周辺を見て廻るか…。』


 意味の無いことだとは分かっている。

 だが、動かずにはいられなかった。


ーーー


 その時、電流に似た感覚にリスティナが反応した。


『っ!?。』


 突然、立ち上がるリスティナ。


『ど、どうしましたか?。』

『急に立ち上がった。』


 灯月達も驚いている。


『どうやら…戦闘のつもりは無いようだが…。自ら来るとはな…。』


 リスティナの頬を汗が伝う。


『来た?。誰が?。』

『敵の親玉だ。お主達も以前感じたであろう?。世界を揺るがす強大な魔力を…。』

『あっ…。』

『まさかっ!?。』

『そうだ。女王自らお出ましのようだ。』


 リスティナが感じ取った気配。

 黄華扇桜のギルド内に転移した女王の魔力だ。

 しかし、それは極々僅かな気配。リスティナにだけ分かるように微弱に調整された魔力の放出。そのことからも戦闘の意思は感じられない。


『話し合い…か?。何を企んでおるのか…。』


 リスティナは出口へと歩き出した。


『お主達はここに残れ。相手が女王では妾にしか対応出来ん。もしもの為に備え、他の者達にも至急知らせてやれ。近付くな…ともな。』

『了解だ。そっちのことは任せるよ。リスティナさん。』

『ああ。』


 無凱達に微笑むとリスティナの姿が消えた。


『アイシスって娘に、女王だって?。駄目だな。僕達の用意した防衛策が全く役に立たない。』

『それだけ。神の力が強大ってことよね…。』


 灯月達、黄華も真剣に映像を眺めている。

 映像は2つに分かれリスティナの様子も映し出されている。


『そうだね。僕達は僕達に出来ることをやろう。悔しいけど。現場は閃君とリスティナさんに任せるしかないね…。』

『そうね…。』


ーーー


 リスティナは女王の目の前に転移した。

 罠はない。伏兵もいない。本当に女王は単体でこの場所まで乗り込んで来たのだ。

 疑問と不安、興味と違和感を感じながらリスティナは開口した。


『まさか、お主の方から来るとはな?。女王よ?。』

『迷惑か?。』


 静かに尋ねる女王。

 女王の意図が読めないリスティナは自然と口調が強くなった。


『当たり前だろう?。妾に主達がしたこと忘れたとは言わせんぞ?。』

『そうか…。』


 女王はギルド境界入り口でリスティナを待っていた。

 

『それで?。何の用で妾を呼んだ?。』

『…この世界の現状の報告と提案。』

『何?。』

『【創造の神】よ。妾の意思を知り、自らの手で、この世界から消えよ。』


 女王は高らかに言い放った。

次回の投稿は23日の日曜日を予定しています。

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