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第150話 1日お部屋デート 睦美の場合①

 トントントントン…。トントントントン…。

 ジューーー…。ジューーー…。

 カッカッカッカッ…。カッカッカッカッ…。

 ジャーーー…。ジャーーー…。


 忙しなく台所から響く料理の音。


 私、睦美は現在、料理の最中真っ只中。

 淀みなく動かす手にミスはない。実家で散々叩き込まれたのだ。もう、目を閉じていたって出来る…は、言い過ぎ…かもしれないです。

 だし巻き玉子や、焼き魚は明日の朝でも大丈夫。煮物等は今のうちに下ごしらえをしておきます。旦那様に満足して頂く為に、まずは料理の下ごしらえです。用意するのは旦那様の好物ばかり。


 明日は、待ちに待った。旦那様との1日デート。


 沢山ご奉仕して旦那様に幸せになってもらうんです。

 ご奉仕…ご奉仕…ご奉仕…。旦那様の笑顔を思い浮かべるだけで…。えへへ…じゅるり…あっ、涎が…。はしたない…。緊張感が足りませんでした。


『さて、後は明日の朝にやりましょう。』


 身体を清め、着替えを済ませた私は床についた。

 時刻は17時でした。


ーーー


 4時起床。目覚めは、ばっちりです。

 旦那様をおもてなす用意をしましょう。


 寝ていた布団を片付け、空気の入れ替え。

 着物に着替えて割烹着を装着。頭には埃避けに三角巾を。


 サッサッサッ…。サッサッサッ…。

 軽く床を掃き。埃溜まりがないかを確認。

 窓枠や高い場所など見落としがないよう素早く丁寧に。

 こういう時、飛べる種族で良かったと改めて思います。私は背がそんなに高くないので…。翼で飛べば高い位置も簡単です。


 キュッキュッキュッ…。キュッキュッキュッ…。

 雑巾で隅々まで拭き、掃除は一通り終了です。普段から、こまめに行っているので大きな汚れなどはありません。


 掃除は、一段落し最後に仕上げに取り掛かります。


 旦那様専用に無凱に作って貰った座椅子を上座に置いて。和室に大きな木製のテーブル。

 旦那様が座椅子に座って私に色々なお願いをしてくるのです。

 はぁ…最高です。夢にまで見た新婚さんみたいです。想像しただけで…。はぁ~。ご飯3杯は食べれます。

 灯月のこと言えませんね…。


 部屋一帯を見渡した出来映えに満足し、今度は旦那様を御迎えするために身仕度を始めます。


 うっすらと化粧をし、明るい色合いの…桃色の口紅を…。落ち着いた色と柄の着物に着替え直し、髪を結っていきます。そして…バレンタインのお返しで、旦那様から頂戴したかんざしで髪を留めて…。


 最後に旦那様にリラックスしていただけるように黄華にお願いして調合して貰った花の香りが出る置物を用意しました。


 時刻は6時を過ぎた頃。

 コンコンとドアから控え目なノックする音が聞こえました。

 事前に旦那様には5時以降ならいつでも来て頂いて大丈夫ですと伝えてありました。


 ついに。旦那様との新婚生か…もとい…1日デートの開始ですっ!。


『どうぞ。』

『おはよう。睦…って、うおっ!?。』


 座礼でお出迎えした私の姿に驚いた旦那様。

 はぁ~。反応が可愛いです。年上ですけど、行動の1つ1つに胸がキュンキュンします。


『おはようございます。旦那様。本日は1日、宜しくお願い致します。』

『あ、ああ。早く来過ぎたかと思ったが問題なさそうだな。』

『はい。旦那様をおもてなす準備は出来ております。ごゆっくりお寛ぎ下さい。』

『なぁ。デートだよな?。旅館じゃないよな?。』

『はい。デートです。私、ずっと待ち焦がれておりました。』


 自分の両胸に手を当てるとドキドキしている心臓の音を確認出来る。


『では、こちらへ。』

『あ、ああ。』


 旦那様を部屋の中へ案内します。

 もう何度も来て頂いているので見慣れていると思いましたが、キョロキョロと部屋の中を確認している旦那様。あれ?。何かお気に召さないことでもありましたか?。


『だ、旦那様?。』


 旦那様をいきなり不快にさせてしまった!?。


『ん?。ああ。すまん。何度来ても睦美の部屋は落ち着くなって思って。この部屋の匂いも今までにはなかった感じだけど。リラックス出来て良い香りだな。』

『え!?。ああ。はい。旦那様にお寛ぎ頂きたいと思い用意しました。』

『そっか。ありがとう。睦美。』

『は、はぃ~。』


 旦那様の笑顔のお礼。

 私、それだけで幸せです。


『この1日はお前だけが俺の恋人だ。だから、お前も自分のことだけを考えて俺を彼氏として扱って欲しい。』


 その言葉は、私の胸にゾクゾクという感情を与え、胸一杯に幸せを運んできてくれます。


『はい。旦那様。不束ものですが何卒宜しくお願い致します。』


 座礼と言葉で精一杯の気持ちを伝えました。


『あっ。そうだ。睦美。』

『はい?。っ!?。』


 顔を上げた私に旦那様からの接吻が…。頭が真っ白になって柔らかくて力強い感触だけが全身を駆け巡るような感覚がぁ~。

 はぁ…旦那様ぁ~。私の…私だけの旦那様…。


『今日は、宜しくな。』

『はぃ…。こちら…こそ…。旦那様…。』


ーーー


『こちらにお掛け下さい。』

『ああ。おっ?。座椅子だ。今まで見たことなかったけど、どうしたんだ?。これ。』

『旦那様の専用に無凱に作って貰いました。』

『ああ…そういうことか。だから…おっさん…。』

『ん?。如何なさいましたか?。お気に召しませんか?。』


 まさか、気に入らないことが!?。

 そんなことになれば、至急に新しいモノを新調しなくてはなりません…。

 

『いや、そんなことないよ。色々気を使わせちまって悪いな。』

『いいえ。旦那様の喜びが私の喜びですので。』

『あ…そう…。』


 旦那様は座椅子に腰を下ろしました。


『おお。柔らかいけど適度な弾力だ。腰や足への負担もないし…凄いな。』

『はい。僭越ながら様々な状況を考慮し、旦那様の普段の姿勢や体勢を視野に入れ、極力身体に掛かる負担を最低限にした作りになっております。』

『それは、睦美が?。』

『はい。設計図を作り無凱に渡しました。』

『すげぇな…。』

『凄くないです…凄いのは旦那様です。』


 私達、クラブメンバー全員へ各々に別のプレゼントを用意するのですから…。


『ははは。俺は凄くないよ。けど、ありがとう。睦美に負けないように頑張るよ。』

『旦那様は…凄いですよ…。』


 私なんて、とても敵いません。


『はいはい。あっ。それと…。』

『はい?。あっ。』

『これ、使ってくれてありがとな。大事にしてくれてるみたいで嬉しいよ。』


 私の頭を優しく撫でてくれる旦那様…。

 その手が私の髪を留めているかんざしをなぞる。旦那様がプレゼントしてくれたかんざしを…。


『私の宝物です。旦那様より頂いた大切な贈り物ですから。』

『そうか…。頑張った甲斐があったよ。』


 大好きって感情が溢れそうです。


『お茶を用意しました。朝食をお持ちしますので少々御待ちください。』

『ああ。なぁ、睦美?。』

『はい。何でしょう?。』

『最初に聞いておきたいことがあるんだが。』

『はい。』


 旦那様が真剣な表情で私を見つめてくるので、旦那様の横へ近付き正座します。

 どうしたのでしょう?。不満なことがあれば仰っていただければ即座に直しますのに。


『睦美は、俺に何をして欲しい?。』

『え?。』


 旦那様に?。どういうことでしょう?。


『いや、恥ずかしい話なんだが。俺は睦美に普段から色んなことをして貰ってるだろう?。』

『………。』

『俺から睦美にしてやれることが想像できなくてな。もちろん。恋人として愛しているし恋人同士がすることも俺は睦美としたい訳なんだが…。それ以外で睦美がして欲しいことが思い付かなかったんだ。てか、大抵のことを普段からしてしまってるからな。特別に 何か と考えると難しくてな。』

『そうですか。納得です。』


 どうやら、旦那様を困らせてしまったようです。

 普段…いえ、日常で既に私と旦那様は恋人…いえ、夫婦のような関係で過ごしている気がします。なので、私は旦那様が何を望んでいるかが何となく分かりますし、旦那様も私が今何をして欲しいのかが何となく分かってしまう。

 今日という恋人として過ごす1日を 特別 なモノにしたいのに、やりたいことは既にしてしまっている。特別感が出ることが思い付かない。旦那様はそう仰っているのですね。


『ありがとうございます。旦那様…。』

『は?。いや、お礼を言われることはしていないぞ?。むしろ彼氏として彼女を理解していないことに情けなさを感じているくらいだ。』

『いいえ。旦那様が私のことを考えてくれているだけで幸せなんです。』

『そう…なのか?。』

『はい。そうですね…。もし、宜しければ…なのですが。今日1日。私のお願いを聞いていただくと言うのはどうですか?。』

『ふむ?。具体的には?。』

『私は旦那様にご奉仕したいのです。私の全てを旦那様に捧げ癒してあげたい。それが私の望みです。』

『………。』

『なので、今日1日は私の思うままにさせて頂きたいのです。』

『つまり、睦美のご奉仕フルコースを堪能しろと?。』

『はいっ!。』

『めっちゃ良い返事やん!?。はぁ…彼氏としては何かしてやりたいんだが…まぁ、分かった。睦美に任せるよ。ああ。けど、ちょっと確認なんだが?。』

『はい?。何でしょうか?。』

 

 ちょいちょいと手招きする旦那様へ更に近付く。


『俺が我慢できなくなったら、抱きついたりキスしたりして良いか?。』


 耳元でそんなことを呟く旦那様。

 もうっ!。そんなこと聞かなくても決まっているじゃないですか!。


『もちろん…です…。私はいつでも…ウエルカム…。』

『そうか…。なら、今日1日任せるよ。』

『はいっ!。』


 こうして本格的にご奉仕デートが始まりました。


『お待たせしました。』

『ああ。ありがとう。すげェ美味しそうだな。』

『腕によりをかけました。旦那様の好みの味付けにしてありますので御堪能下さい。』


 朝食のメニューは、炊きたての白米。旬の焼き魚。甘めのだし巻き玉子。豆腐とワカメのお味噌汁。納豆。里芋と白菜の煮物。


『では、僭越ながら…あ~ん。』

『マジか?。』

『はい。ご奉仕。させて下さいね。』

『あ、ああ。俺、お前にはもう勝てない気がする…色んな意味で…。』

『何を仰るのですか?。沢山勝っていますよ。今までも…これからも…。ふふ。』


 そうです。私は旦那様がいるから頑張れるのです。だから、旦那様は私にずっと勝ってるんです。


『あ~ん。』

『はぁ…分かった。覚悟を決めたよ。あ~ん。もぐもぐ…もぐもぐ…。うまっ!?。』

『ふふ。ありがとうございます。沢山、食べて下さいね。あ~ん。』

『ああ。美味しいな。いくらでも食べられるぞ。あ~ん。もぐもぐ。』


 はぁ~。旦那様が私の料理を美味しそうに食べてくれています。可愛い…。大好きです~。


 旦那様はあっという間に食べ終わりました。


『ありがとう。睦美。美味しくて食べるのに夢中になっちまった。』


 旦那様の前に新しく淹れたお茶を置く。


『ふふ。ありがとうございます。喜んで貰えて良かったです。私は、洗い物を済ませますね。暫く御待ちください。』

『それくらい。俺がやるぞ?。』

『お気持ちだけで。旦那様はトイレ等の用事以外でその座椅子から動かないで下さい。』

『え…。』

『あっ…失礼しました。トイレも付き添いましょうか?。』

『もうそれは奉仕じゃなくて介護だろ…。』

『ですね。ふふ。けど、大丈夫ですよ。旦那様はいっそのことドカッとふんぞり返って私に命令してください。おい。とか、お前。とか。顎で私を使っていただいて結構ですよ?。』

『それ…恋人じゃないだろ…。』


 もう、この会話だけで幸せですよぉ~。


『旦那様。お待たせしました。』

『ああ。これからどうする?。』

『旦那様は何かして欲しいことはありますか?。』

『んー。そうだなぁ。ちょっと早いがこれ渡すか。』

『これ?。』


 旦那様がアイテムBOXから取り出した包装された紙袋。


『プレゼントだ。』

『えっ!?。あの…今日何かのお祝いの日でしたか?。私…忘れてましたか?。すみません…プレゼント…用意してなくて…。』


 何かの記念日?。旦那様に失礼なことをしてしまいました!?。


『ぐずっ…。』


 どうしましょう…泣けてきました…。


『いやいや、何で泣くんだよ。』

『だっで…旦那様に…プレゼントを頂戴されるような…ことが…思い出せなくて…。私…。旦那様に失礼を…。』

『はぁ。そんなことで泣いたのか?。これは彼氏から彼女に渡すデートでのプレゼントだ。まぁ、記念日と言えば記念日になるのか?。俺と睦美の初デートの記念日だ。世界がこんなんじゃなければ、高級店の宝石とかのプレゼントや豪華なディナーにでも連れてってやりたかったんだがな。今の俺にはこれが精一杯だ。毎度のことで、すまないが手作りだ。受け取って欲しい。』

『旦那様…。開けても良いですか?。』

『ああ。』


 私は包装を丁寧に外し、紙袋の中身を取り出した。


『ああ…可愛い…。』


 中にはレースがあしらわれたオフショルダーのブラウスと可愛い鳥のイラストが入ったハーフパンツが入っていた。


『光歌と豊華さんに作り方を教わったらはまっちまってな。睦美に似合うと思って…いや、違うな。睦美が着ているところを見たくて作ったんだ。』

『旦那様が…私の為に…。』


 旦那様…。私の為にこんなに素敵なプレゼントを…。

 ドキドキする胸を隠すようにプレゼントされた洋服を抱きしめる。


『着てみてくれないか?。』

『はい。旦那様…嬉しいです。ありがとうございます。』


 私は、洋服を抱きしめたまま脱衣室へ入っりました。


~~~~~


『あの…旦那様…着替えが終わりました。』

『ああ。見せて欲しい。』

『はい。』


 私は恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちの両方を抱きながら脱衣室から出て旦那様の前に立つ。


『どうですか?。旦那様のお気に召しましたでしょうか?。』


 こんなに可愛い服を頂いても、私に似合ってなければ旦那様ががっかりしてしまう…。

 うぅ…。緊張します。旦那様の視線が私の全身を見つめているのです~~~。


『可愛すぎる…。』

『ほえ?。』

『想像以上だ。サイズもぴったりだし。睦美の清楚な外見のイメージを崩すことなく、しかし、決して静か過ぎない明るい雰囲気が可愛らしさを引き立てている。』

『そうですか…良かったです…。』


 どうやら、旦那様満足していただいたようですね。そうですよ。旦那様が私の為に作ってくれたんです!。私に似合わない訳ありません。


『ふふ。旦那様。』

『何だ?。』

『ありがとうございます。こんなに素敵なプレゼント。私、大切にしますね。宝物がまた1つ増えました。永久保存です。』

『いや、部屋着として作ったんだ。せめて、俺と一緒にいる時は、たまに着て欲しい。』

『はい。旦那様が喜んでくれるならいくらでも!。』


 くるくると旦那様の前で回ってみる。

 所々にあしらわれたレースがふわっと靡く。

 動きやすいです。肩から背中、翼を出す位置に邪魔になる布がない。問題なく飛べます。

 ハーフパンツも膝まで隠れているので、あまり露出が得意じゃない私でも問題ありません。

 本当に私の為に旦那様が作られたお洋服…。

 

『旦那様…。』

『ん?。』

『ごめんなさい。こんな素晴らしいプレゼントを頂いたのに…私…お返しできるモノを何も用意してなくて…。』

『そんなこと気にするな。お前は俺に沢山大切なモノをくれてるよ。』

『え?。そうですか?。私…何も…。』

『来いっ!。』

『ひゃう!?。』


 旦那様が私の腰に手を当てて引き寄せる。

 勢いのままに私の身体は座っている旦那様の足の間にすっぽりと収まりました。お姫様抱っこ座りバージョンです。

 はわぁ~。旦那様の凛々しいお顔が目の前に…。胸の鼓動も添えている手から伝わってきます。どうしましょう。私…ドキドキで死んじゃうかも…。


『俺はもうお前無しじゃ生きられない身体になっちまったみたいだ。』

『え?。』

『ホワイトデーのプレゼントを用意していた時な。睦美の顔がチラついた。』

『………。』

『久し振りに会った時、俺を見て睦美は泣いてくれただろう?。』

『はぃ…。恥ずかしいので、あまり思い出したくないのですが…。』

『ははは。実はな。俺結構嬉しかったんだぜ?。』

『え?。』

『睦美は俺にとって少し特別だってことさ。何せ、俺から告白したんだぞ?。大好きな気持ちなら睦美が俺に対して思っている感情より絶対勝っている自信ある。』

『特別…。』

『それに、睦美の料理は美味しいからな。胃袋を完全に捕まえられちまった。』


 私にとって旦那様に尽くすのは当然のこと。

 何も特別なことはありません。

 けど…。


『私も…旦那様…。』


 旦那様の気持ちを知った今…私はとてもズルいことを考えてしまった。


『今になって思うんです。私は旦那様にゲームの時から恋心を抱いていました。けど、言い出せませんでした。』

『………。』

『灯月…は、まぁ…見ての通りでしたが…智鳴や氷姫、私と同じく必死に隠していましたがバレバレな代刃の気持ちを知っていましたからね。あの頃の現実では、リアルで旦那様に会うことなど決して出来ないと思っていましたし。』

『そうだな。俺も あの時 に睦美から言われるまで睦美の気持ちを知らなかったからな。』

『ですが、今は違います。もう我慢することもありません。旦那様から想いを告げられた、あの日から私の心も身体も旦那様に捧げました。』

『ははは。大袈裟だよ。それは…。』

『いいえ。それだけは譲れません。大袈裟でも何でもない…真実です。しかし、私は欲深いのです。とても、ズルいのです。』

『ズルい?。』


 私は…自分の気持ちを素直に話す。

 少し恋しいですが、旦那様の腕の中から離れます。


『皆の気持ちを知っていた。私も想いを告げました。だから、ゲームの時に灯月から伝えられた旦那様のハーレム計画を勧めました。けれど…。』


 この気持ちは、私のわがままで…ズルい気持ち。あり得なかった現在の私の無い物ねだり。


『今は…少し後悔しています。旦那様の…唯一の恋人になりたかった。』

『そうか。ごめんな。それは…もう…出来ない。』

『…はい。知っています。ごめんなさい。困らせてしまいました。けど、どうしても言いたかったんです。』

『ああ。お前の想い通じたよ。』

『…ありがとうございます。昼食の用意を始めますので少々御待ち下さい。』


 私はそのまま台所へ向かう。


『睦美。』

『はい?。』


 そんな私を呼び止める旦那様。


『今日1日は俺の恋人はお前だけだからな。』

『っ!?。』


 そうでした。

 今日だけは、私の夢と理想を叶えられる日。

 私の気持ちを理解した上で改めて確認させてくれる。

 今日だけはお前だけが特別なのだと。


『…はい。本日は、心行くまでご奉仕させていただきます。ふふ。』

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