番外編 クロノフィリアの夏休み
番外編です。
本編より少し未来の話になります。
若干のネタバレがあります。
照りつける太陽。何処までも続く、熱く白く輝く砂浜。風に乗って運ばれる潮の香り。
そして…一面に広がる青。大海!。大空!。
そう、俺達は今、海に来ていた。
『あちぃ…。』
滴る汗を拭う。
滲み出る汗で服が湿気っていた。
『はぁ…でも、気持ちいいな。』
リスティールの海も俺達がいた世界と変わらない。
敢えて違うところを挙げるなら…船が見当たらず、遠くの方でドラゴンらしき生き物が飛んでいることくらいか。
今日はクロノフィリアメンバー貸し切り…ではなく。単純に拠点の近くにあるから外部の者が近付けないだけなんだが…。
『季節が夏っぽいし、皆で海に行こうか?。』
無凱のおっさんのその一言から始まった今回の企画。
リスティールにも四季…っぽいのがあり、今は夏真っ只中のような気候だ。
様々な欲望と陰謀が渦巻く海水浴が始まろうとしていた。
『良い天気だなぁ…。』
強烈な日差しを広げたパラソルの下で凌ぎながら、俺は目の前にある広大な海を眺め海風を全身で満喫していた。
大きなパラソルを5本。レジャーシートを5枚敷き詰めて、巨大な浮き輪も用意した。
『閃君は水着に着替えないのかい?。』
お手製のクーラーボックスを携えた無凱のおっさんが俺を見て聞いてきた。
おっさんは、ダサいアロハシャツを羽織り既に海パン姿だ。サングラスとサンダルも装着済み。
対する俺はまだ普通の夏服。まぁ、サンダルではあるのだが…着替えてはいない。
『灯月達が着替えてる間は、ここで待っていて欲しいって言われたんだ。何でも…皆の水着の感想を聞きたいとか。』
『おお。いいね。皆スタイルが良いからおじさん楽しみだよ。けど、男の閃君ならこの待ち時間の間に、ここで着替えちゃっても良いんじゃない?。』
『俺もそうしようと思ったんだが、灯月が俺の海パンを用意するからって荷物ごと持ってっちまったんだ。』
『ああ、そういうことか。だから場所の用意だけして物思いにふけっていた訳か。』
『自然を満喫していると言ってくれ。』
ふと、遠くの方を見ると既に泳いでいる奴等がいるな。あれは…赤皇達か、涼達もいるな。
因みに、矢志路は留守番だ。こんな炎天下の中に来たら数秒で消えちまうしな。で、黒璃、聖愛、暗は付き添いだ。まぁ、暗くなる頃に来るとは言っていたが。
『おう!。旦那!。何か食べたいものがあったら言ってくれ!。何でも作ってやるぜ!。』
少し離れたところに屋台が建てられていた。
そこで煌真が焼きそばを作っている。ソースの香ばしい香りが漂っている。
『お前は何をしているんだ?。』
『海と言えば屋台だろ!。男の見せ場だ!。焼きそば、かき氷、ラーメン、カレー。腹が減ったら言ってくれ!。腕に縒りを掛けて作ってやるぜ!。』
タンクトップとハチマキ姿で生き生きしている煌真。まぁ、アイツが良ければ良いんだが…。
『主様。どうぞ。メロンソーダです。』
『ん?。あっ。神無か。お前はまた…何してんだ?。』
黒いビキニな水着にエプロン。結構すごい格好じゃないか?。それ?。見る角度によっては裸にエプロンだ。
『お給仕です。仁さんに頼まれまして。あの煌真が乗り気なもので…巻き込まれました。』
『そ、そうか…機美姉は?。』
『姉さんは…あれです…。』
遠くの海を指差す神無。微かに見えるパラソル付き、ボート型の浮き輪とそれに乗る人影…って、めっちゃ遠くね?。水平線に近いんだが?。
『携帯ゲームに夢中のようです。自分が流されていることにも気付いていません。ですが、安心してください。塩の流れを計算していますので、6時間くらいすれば近くまで戻って来ますので。そこで回収します。』
『ああ…そう。』
俺は神無からメロンソーダを受け取り喉の渇きを潤す。
はぁ…うめぇ…。火照った身体にキンキンの飲み物が染み渡るぅ~。
『それでは、何かありましたら呼んでください。私は他の方にも飲み物を配ってきますので。』
『ああ。あっ…神無。ちょっと待って。』
『はい?。』
屋台に戻ろうとしている神無を呼び止める。
『如何、致しましたか?。』
『その水着似合ってるぞ。ちょっとエプロンと合わせると要らぬ想像をしてしまうが、鍛えた身体とマッチして健康的で凄く綺麗だ。』
『っ!。勿体無いお言葉です…。失礼します…。』
すっ…と残像を残して去っていく神無。
『旦那ぁぁぁあああ!。神無は俺の女だぞぉぉぉおおおおお!。ぶべっ!?。』
屋台からの煌真の声と魔力が消えた…。
『よっ、閃。隣良いか?。』
『騒がしいね。あれ。けど、煌真がやる気なのは珍しい。』
『おう!。基汐と裏是流か。良いぜ。アイツ祭りとか結構好きだからな。』
既に海パンに着替えた基汐と裏是流が腰を下ろす。
『2人も女子待ちか?。』
『そうだ。灯月達と一緒に向かった。』
『水着の感想言えって白に脅されたよ…。』
白は随分積極的になったな。
やっぱ恋人が出来ると変わるんだな…いや、抑えていた想いが出てきただけか?。
『ははは。女性の人数が多いから時間が掛かってるね。』
『そういう、おっさんもだろ?。』
『そ、黄華さんと柚羽さんと水鏡さん。灯月ちゃん達と一緒だよ。』
『てか、その人数が一度に着替えられる場所があるのか?。』
ざっと数えても20人越えてるんだが?。
『もちろん。おじさん頑張ったよ。』
『え?。』
何に?。
『ああ。閃は知らねぇのか?。あそこの丘の裏手に旅館があるんだ。そこの横にある小屋が更衣室になってる。』
基汐が指差す方を見ると丘の奥に僅かに屋根が見えた。
『旅館っ!?。おっさんが建てたのか!?。』
『そ、着替える場所が欲しい。シャワーが出る場所が欲しい。お風呂入りたい。そのまま寝たい。等々の要望を叶えた結果。じゃあ、いっそのこと皆で宿泊できる旅館を作ろうってさ。おじさん。本気。出しちゃいました。』
『………。』
『ああ。因みに仁や賢磨達が今、そっちで準備してるよ。』
ああ。だから、煌真が張り切ってんのか。
本来なら仁さんが屋台をやりそうだしな、旅館の方があるから煌真に頼んだんだろう。
『部屋の数も、全員が余裕で入れるし、トイレも大浴場も複数設置したよ。』
あれからクロノフィリアは大所帯となった。
初期の頃に比べて3倍以上だ。
『裏是流。お待たせッス。先輩方もこんにちわッス!。』
『おう!。白。』
『着替え終わったんだな。』
『はいッス!。基汐さん。後で一緒に遊ぶッス!。』
『ああ。光歌も喜ぶ。』
『ししし。』
そんな話をしていたら、いつの間にか白が近付いてきていた。
俺達に挨拶を終え裏是流の手を引っ張った。
足が露出しているので水着への着替えは済んでいるようだが何故かパーカーを着ている。
『すみませんッス。先輩方。裏是流をお借りするッス。』
『え?。どこに連れてかれるの?。』
『白達の水着の感想を言って貰うッス!。』
『えっ!?。ここでやれば良いじゃん?。』
『先輩達がいる前で恥ずかしいからッス!。』
『ええ~。』
裏是流は鋭いようで鈍感だからな。白達の気持ちに気付いてないようだ。
『裏是流。耳貸せ。』
『え?。あ…はい?。何?。閃さん。』
俺は裏是流に耳打ちする。
「白達は、お前に一番最初に自分達の水着姿を見て欲しいから言ってるに決まってんだろ。」
「はっ!?。そうか…そうだね。」
「頑張って水着を選んだんだろ。沢山褒めてやれ。」
「うん。ありがとう。閃さん。」
座っていた裏是流は立ち上がり白に抱きついた。
『きゃっ!?。裏是流?。急にどうしたッスか?。』
『白。ありがとう。僕のために水着を選んでくれて凄く嬉しい。』
『え?。あっ…。なっ?。え?。』
チラリと俺を見た白。
余計なお世話だったか?。取り敢えず親指でも立てておくか。
『っ!?。先輩…。ありがとうッス!。』
顔を真っ赤にした白が裏是流を引きずりながら去っていった。
『ふっ…青春だな…。』
『何を黄昏てんだ?。それより暑くないのか?。その格好。』
俺の格好を見た基汐が心配する。
俺だけ。海パンに着替えてないからな。しかも、この陽射し。軽く死ねるぜ。
『暑いに決まってんだろ。神無が用意してくれた飲み物とこのパラソルがなければ倒れてるところだ。』
『灯月ちゃん達はそろそろ来ると思うけどねぇ。』
『黄華さん達も遅いな。』
『きっと着替えを手伝っているんだろうね。女性を待つのは男の特権さ。ゆっくり待とう。』
『そうだな…だが…暑い。俺もとっとと着替えたいぜ。上だけでも脱ぐか?。』
『良いんじゃねぇか?。どうせ、海パンに着替えたら脱ぐんだし。』
『だな。』
俺が上着を脱ごうとした、その時…。
『閃。お待たせ。暑い?。』
周囲の気温が一気に下がった。
『いや、寒い。』
脱ぐ前で良かった。
『そう。ちょっと大きく作り過ぎちゃった。』
『ああ。やりすぎだ…氷姫…。消してくれ。』
俺が用意したパラソルとシートをかまくらのように包み込んでいる氷の壁。相当分厚く作ったのか太陽の光も感じないぞ?。
『うん。わかった。』
氷の壁に氷姫が触れる。
すると壁は粉々に砕け小さな氷の粒になって俺達に降り注いだ。
『つめてぇ…。』
『涼しくなった?。』
『ああ。氷の粒が太陽で溶けて服がずぶ濡れだがな。』
『うん。解決。』
満足そうに笑う氷姫。
突然の登場で良く見てなかったが水着に着替えたようだな。
氷姫の水着はワンピース型だが身体のラインがハッキリ分かるようになっている。胸と腰の部分を紐状のリボンで結んでいる。…が身体の中心には布がない。胸から腹が丸見えだ。所々にあしらわれたレースが女性らしさを演出している。
『氷姫。』
『何?。』
『水着似合ってるな。氷姫はスタイルが良いから大胆さが良い感じにイメージにマッチしてるぞ。大人の色気と子供の可愛らしさが絶妙だ。レースが大人らしさを引き立ててるし、スカート部分のフリルが女の子の可憐さを感じさせてる。クールなイメージの氷姫だが、部分部分で女の子の幼さが出て非常に魅力的だ。』
『…ぅん…ありがと…。閃…。』
自分の水着をペタペタと触りながら真っ白な顔を赤く染めて微笑んでくる氷姫。
『ああ。笑うと、一層、可愛らしさが増すな。』
『んーーーーーーーーーー。』
氷姫の頭を撫でる。
恥ずかしかったのか、俺の顔を見ないように胸に顔を埋めた氷姫の頭は凄くひんやりしていた。
『もう!。氷ぃちゃん早いよぉ~。まだ、浮き輪に空気入れてないよぉ…って、何で閃ちゃんに抱き付いてるの?。』
『智ぃちゃん…。』
次は水着に着替えた智鳴がやってきた。
手には空気の入ってない狐型の浮き輪を持っている。空気の入り口が開いていることから空気を入れようとしていたところのようだ。
『しかも、顔真っ赤だし…氷ぃちゃんは元々真っ白だから赤くなると本当に真っ赤だね…。』
『智ぃちゃんも。多分。こうなるよ?。』
『え?。』
『智鳴。』
『うん?。何?。閃ちゃん。』
俺の呼び声に智鳴と視線が合う。
『その水着似合ってるな。』
『え?。あっ…ありがとう。閃ちゃん。』
『特にジーパン風のショートパンツは良いと思う。智鳴はヒップのラインが綺麗だから形がハッキリと出ている水着は智鳴の良さをハッキリとアピールできてると思う。色合いも狐の耳と尻尾に合わせてあるんだろ?。互いの色を引き立てるよ。バストの方もホルターネックなのが良いな。健康的で動きやすそうだ。元気な智鳴にはぴったりだ。可愛いぞ。』
ぼふんっ!。と音が聞こえそうなほど一瞬で赤くなった智鳴がへなへなと座り込む。
『その浮き輪、大きいから智鳴じゃ膨らませるの大変だろ?。貸してみろ。』
『あっ…。』
俺は一気に空気を送り込み浮き輪を膨らませる。萎んでいた狐の姿に形が形成された。
『ほら。出来たぞ。』
『ぅん…ありがと…。閃ちゃん…間接キスだよぉ…。私、さっき…膨らませようといっぱい口を付けたんだよ?。』
『ん?。ははは。今更キスぐらいで赤くなるのか?。可愛いな。ほら。』
『っ!?。』
赤くなり上目遣いで俺を見ていた智鳴の顎を優しく持ち上げ唇を重ねる。
『はぁ…。これで満足か?。』
『んーーーーーーーーーー。』
氷姫と並んで俺に抱きついた智鳴。
な…何なんだ?。これは…。
取り敢えず、氷姫と同じように頭を撫でておく。
『なぁ、無凱さん。』
『何だい?。基汐君。いや…言わなくても分かるよ。』
『閃の奴、ナチュラルに女を褒めるよな。』
『しかも、至って自然な流れでね…。』
2人の頭を撫でていると氷姫が顔を上げた。
『閃。私も。』
『ああ。良いぞ。』
氷姫とも唇を重ねる。
『智鳴の唇はぷにぷにで柔らかくて、氷姫の唇はひんやりしてて気持ちいいな。』
『閃のも気持ちいい。』
『ぅん。恥ずかしいね。でも…嬉しい。』
『ははは。俺もだ。』
何となく、基汐とおっさんの視線が気になったが…まぁ、良いか。
『お待たせ。無凱。閃君。基汐君。』
『お待たせしました。』
『皆さん、お待たせしました。』
黄華さん。柚羽。水鏡さんの3人が着替え終わったようだ。
『黄華さん。柚羽。水鏡さん。こんにちは。』
『どもッス。』
俺と基汐が挨拶。
『黄華さん。』
『え…何よ…無凱…。』
立ち上がり黄華さんの両肩を掴み歩み寄るおっさん。おいおい…黄華さんも困惑して引いてるぞ…。
『キスしよう。』
『は?。』
『キスしよう。』
何故、2回言った?。
俺に触発されらのか?。てか、色々順序があるだろう…。おっさん…。
『そう言えば、閃。』
『何だ?。』
小声で基汐が質問してきた。
『黄華さん達には褒め言葉を言わないのか?。この2人みたいに?。』
俺の横でおっさん達の成り行きを見守っている智鳴と氷姫を指して言う。
『何言ってんだ?。黄華さん達の水着は、おっさんの為に選んだモノだろ?。おっさんに喜んで欲しいって3人の顔に書いてあるじゃねぇか?。なら、ここはおっさんがあの3人に水着の感想を言うのが正しい流れさ。俺や黄汐が言って良いのは、おっさんが言って彼女達が喜んだ後に然り気無く感想を言うくらいだ。』
『確かに…流石がだな。ハーレムキング。』
『誰だよ、それ?。』
『お前だ。』
ええ…。
『そういうことを迫る前にっ!。もっと他に言うことがあるでしょっ!。』
『ぶぎゃっ!?。』
そんな話をしていると黄華さんの拳がおっさんを捉えていた。顔面を殴られ俺の足元に飛んでくる、おっさんに耳打ちをする。
『おっさん。アホか。順番が違ぇよ!。折角、水着を着てんだから褒めてやれよ…。何をいきなりキスを迫ってんだ?。』
『はっ!。そうか!。すまん。少し焦ってたみたいだ。』
おっさん…黄華さんのことになるとダメ男になるのは何でなんだ?。普段は尊敬できるくらい凄い男なのに…。
『ついでに、黄華さんの爪を褒めてあげなよ。いつもと違う香りがする。多分、ネイルを変えたんだと思うから。』
黄華さんに気付かれないようにアドバイス。
『ありがとう。閃君。』
無凱のおっさんは立ち上がり黄華さんへ近付いていく。
『黄華さん…。』
『な…何よ…。』
『水着…姿…綺麗だね…。見惚れちゃったな…。』
『っ…い、言うのが遅いわよ。』
『あと、ネイル変えたのかな?。いい匂いがするね。』
『っ!?。気付…て…くれ…た?。』
『ごめんね。あんまり上手く言葉に出来なくて。でも…見惚れちゃうくらい綺麗だよ…。』
『な…何恥ずかしいこと言ってるのよっ!。ほら、まだ、準備が終わってないんだから行くわよっ!。』
おっさんの腕を掴んで引っ張っていく黄華さん。後ろ姿で表情は確認できなかったが耳が真っ赤だった。
おっさんと黄華さんの様子を見ていた柚羽と水鏡さんがくすくすと2人を微笑ましく笑い、こっちに頭を下げて後を追っていった。
『ダーリンっ!。お待たせだしぃ~。』
『おっと!?。』
基汐に抱き付く光歌。
ビキニタイプの水着の上に基汐のシャツを着ている。基汐のシャツは大きいからな。片方の肩が露出している。
『ははは。光歌。全然待ってないよ。結構楽しかったからな。』
『そっ。なら良かったし。』
光歌は基汐の足の間に座ると俺を見た。
『閃。皆の準備が出来たから1人ずつ感想を言ってあげるし。』
『おっ。そうなのか?。って、もしかしてお前…。』
『気付いちゃった?。気付いちゃった?。当たり~。今回の水着も私と豊華姉の力作揃いだしっ!。』
『ああ…そう…。』
『ああ。因みにまだ来てない娘達は後で合流するって。』
『そうか…。』
毎回のことだ。
こういうイベントで行われるファッションショー。光歌と豊華さんの欲望と願望と性癖が一心に込められた衣服に身を包んだ恋人たちに感想を伝えるという流れ。俺が、感想を言う癖がついてしまった原因だ。
『じゃあ。始めるしー。エントリーNo.~1番~。睦美~。』
『え!?。ワシ?。何故、ワシがトップバッターなのじゃ!?。最後の方で良いと言っておいたじゃろうが!。』
物陰から感じる複数の気配。
皆着替え終わって集まってきたのか?。
『うるさいし!。順番は私の独断と偏見だし!。』
『ええ…。きゃっ!?。これっ!。灯月押すな!。まだ心の準備が!。にゃーーー!?!?。』
灯月に押されたのか、バランスを崩した睦美が姿を現した。
『だ、だ、だ、旦那…様…。そ、その…ど、どう…ですか?。私の…水着…。』
和服の…着物を…無理矢理ビキニタイプの水着に改造した水着姿で現れた睦美に俺は見惚れてしまった…。
何だ…このマスコットのような可愛らしさは…。
ーーーつづくーーー
少し時間が進み、ファッションショーが終了した後のこと。
『にぃ様。こちらのスポーツバックの中に、にぃ様用の水着をいくつか用意しました。好きなデザインをお選びください。』
…っと、言って手渡されたスポーツバック。
『あちらに更衣室がありますのでお使いください。』
物陰を指差す灯月。
『男だし、そこの木の陰でも全然問題ないんだが?。』
『いいえ。更衣室で着替えてください。』
『ええ…。』
頑なに更衣室を勧める灯月。
渡されたバッグからはずっしりとした重さを感じる。重くね?。重いよな?。海パン…だよね?。何種類入ってんだよ?。
『男の海パンにそんなに種類いらないだろ…。』
いや…待てよ。
灯月…いや、光歌のことだ。普通の海パンと見せ掛けてピッチリとして股間が浮き上がるブーメランパンツの可能性もあるか…。流石に嫌だな…。絶対、俺だけ浮くじゃん…。しかも女性の割合が多いし…一部獣もいるし…身の危険しか感じないぞ?。
はぁ…でも、折角用意してくれたんだしなぁ…。
覚悟を決めるか。
幸い…複数着用意してくれてるみたいだし。
普通の短パン型もあるだろうさ。
俺は何気なくバックを開いた。
『……………。』
思考の停止。
そして、目の前の物体によって戻される現実。
俺は、全てを理解し大声で叫んだ。
ーーー
海岸から波に揺られ流されること1時間30分。
機美は携帯ゲームに熱中していた。
ぽかぽか陽気と、潮の香り。パラソルで出来た日陰で海風を感じながらリゾート気分を満喫していた。
陰キャの私がリゾート気分を満喫とか、パラソルの下でサングラスを掛けて炭酸飲料を一口。ひひひ…これ、もう絶対リア充じゃない?。そうだよね?。脱陰キャまでもう少しってか?。
そんな考えに支配されながら手元の携帯ゲームにはステージ8ー1と表示されていた。大昔に流行った超難関レトロゲーム。鬼畜な難易度のゲームで今、自己最高記録を更新し、いざ、最終ステージへ…と進もうとした。
その時だった。
『何で 女物 のきわどい水着ばっかりなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!。』
『え!?。閃ちゃん!?。』
遠くの遥か彼方から微かに聞こえた閃の声に反応した機美。そして、ふと…自身がおかれている状況に気が付いた。
『って!?。ここ何処!?。』
おそらく、皆が居るであろう砂浜は遥か彼方に霞んでいる。周囲は一面…海っ!。海っ!。海っ!。青っ!。青っ!。青っ!。
『うそ…でも、さっきまで…神無ちゃんが…。』
機美が流されているのに気が付かなくても仕方がない。
それは、サングラスも、飲み物も神無に頼んで持ってきて貰ったのだ。言えばその都度、神無が届けてくれるものだったので、機美は安心してゲームに熱中していたのだった。
『まぁ…でも、いっか!。だって私リア充だしぃ~。』
全てを忘れ再びゲームを始める機美。
機美が皆のいる砂浜に戻ることが出来たのは日が沈みかけた頃だった。