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第148話 玖霧の憂鬱

 私は、玖霧。

 元 六大ギルドの1つ赤蘭煌王の幹部 九大王光の1人。

 仲間達からは参謀やら、まとめ役と呼ばれていたわ。正直、めんどくさかった。自由気ままなギルドメンバーに雑用を押し付けられ、後始末は全部私。

 一緒に手伝ってくれていた知果と燕は今でも親友よ。

 元々、学園でも生徒会長と風紀委員の掛け持ちをしてたから、きっとそういう星の下に生まれてしまったのでしょう…。


 私がこのクロノフィリアに所属するようになり、早いもので半年以上が経過した。

 ここは良い。この2年間の慌ただしさが嘘のようになく、落ち着いた生活を送っている。


 クロノフィリアの方々は凄い人ばかりだ。

 今、私が袖を通している衣服も、この部屋にある家具も内装も。全てがクロノフィリアのメンバーのお手製だ。

 資材提供を黄華扇桜のギルドの協力を得ていることを差し引いても凄い技術を持っていることは変わらない。

 むしろ、それを計算に入れて最初から六大ギルドの1つを味方に付けていた…そう考えると、今までのクロノフィリアの立ち回りも説明がつく。

 黄華さんと無凱さんは、元々夫婦の関係だったと聞いている。

 この2人の繋がりこそが、今のクロノフィリアを形作っているのでしょう。

 少し考えすぎかもしれないけど、最初から今のような状況になることも視野に入れていた?。

 流石にあり得ないかもしれないけど。絶対に無いとは言いきれない。そんな底の見えない深さをクロノフィリアから感じるのよね…。


『まっ。今じゃ私もその一人だけど。』


 クロノフィリアの人達は良い人ばかり。

 見ず知らず、しかも敵対していた私達、元六大ギルドの為に交流の場を作ってくれたり、今じゃ他のギルドでもやらないような…クリスマスやお正月。バレンタインやハロウィンまで。様々なイベントを開催してくれる。

 彼等は自分達が生まれ育った世界の環境をとても大切にしていることが分かる。

 私も、そう…ありたいと願いながらも手が出せなかったことを、こんな世界でも優先的に、且つ、率先的に行うのだ。凄いとしか言いようがない。

 世界の真実。リスティナさんから伝えられた内容。私達は神が作った人工知能のような存在。そして、この世界は高度な技術を持った神によって作られたコンピューターの中…。

 正直、実感がわかない。確かめる術もないのだ。

 しかし、実際にクロノフィリアに敵対し排除しようとしている存在がいる以上、私達は戦うしか道は残されていない。

 結局、その道も2択だったのだ。

 クロノフィリアの一員となり襲い来る強大な神と戦うか。

 神の味方をし道具のように切り捨てられるか。

 今となっては後者は選べない。

 六大ギルドの組織力と戦力だけでは、神にもクロノフィリアにも太刀打ち出来ないことが白聖の白蓮が証明した。

 そして、神による洗礼を受けた者の末路を見てしまった。【バグ修正プログラム】。自我を失いクロノフィリアを殺すことだけが目的の人形になってしまう。あんな姿は、ごめんよ…。

 

 私はクロノフィリアに入ったことを後悔していない。いいえ、むしろ逆…入って良かったと思っている。それは…あの赤皇(バカ)も、知果も燕も同じ。

 だから、これからはクロノフィリアの一員として全力で私の力を使うわ。

 

『はぁ…。』


 けど、憂鬱は憂鬱なのよね。

 今日、この後に控えているイベントを考えるだけで溜め息が出るわ。


『念のために戦闘の準備もしないとね…。』


 リスティナさんに強化して貰ったステータス。レベルは150。スキルもより実戦的なモノに作り替えた。来るべき全面戦争の為に。

 もちろん、どんなに強力な力も使いこなせなければ意味はない。知果と一緒に日々の鍛練も欠かさない。

 

『あのバカは、ちゃんと考えているのかしらね…。』


 まあ。やる時はやる奴だから心配はしてないけど。

 はぁ…考えていても仕方がないわね…。


『行きますか…。』


 気合いを入れても、入れた側から抜けていく感じ…。はぁ…憂鬱。何で厄介ごとばっかり…。


『あっ。玖霧ちゃん。』

『やっぽー。玖霧~。』


 廊下に出ると知果と燕が私を待っていてくれた。ああ、2人も神具を装備済みか…。やっぱり、最悪の事態を想定してるのね。


『行きましょうか。』

『うん。』

『おー。』


 私達は とある場所 に向かって歩き始めた。


ーーー


 黄華扇桜のギルド。その支配領域内にある関係者以外の立ち入り禁止区域。

 そこには、危険な思想や危険な行動をする人物達が収容されている。っと言っても人数はそんなにいない。現時点では1人だ。大抵の場合はギルド敷地内からの強制退去が行われるので普段はあまり使われてない。

 実際の話、現在はクロノフィリアメンバーが24時間体制で見回りを行っており、光歌姉様や機美姉様、神無姉様などが侵入者を防ぐための装置やスキルを張り巡らしている。


 私を含めた3人はそこに向かっているのだ。


 コンクリートに囲まれた薄気味悪い建物が森林の中に佇んでいる。

 重たい扉を開き、埃っぽい廊下を歩いていくと明かりの点いた部屋へたどり着いた。


『おっす。玖霧。知果も燕も一緒か?。』

『ええ。』

『よっし。揃ったな。じゃあ、始めるか?。なぁ?。火車よ?。』


 部屋の奥には、かつての仲間の火車がいた。


ーーー


 火車。

 元 赤蘭煌王のギルドのNo.2。…と言っても単純な戦闘能力で見た話。強さに対して固執し常にNo.1を目指していた野心家。プライドが高く、人の話を聞かない馬鹿。


『へっ…赤皇さんよぉ?。こんなに俺をグルグル巻きに縛り上げやがって。そんなに俺が怖いか?。』


 現在の火車の様子。

 それは手足を鎖で拘束され、更に柱に括り付けられている状態。


『いや、お前が暴れるからだ。こうでもしねぇと話聞かねぇだろ?。』

『はっ。負け惜しみにしか聞こえねぇな。』


 …何に対しての負け惜しみなのかしら?。


 クロノフィリアと白聖連団との戦いで、白聖に加担した赤蘭。赤皇が抜けた後の赤蘭のギルドマスターを務め、戦いの中、つつ美さんと戦い拘束された。

 早々にクロノフィリア側の実力を見定めた赤皇。彼はギルドの幹部にクロノフィリア側につくことを告げる。クロノフィリア側につくか、赤蘭として白聖側につくかを自由意思で選択させた結果、火車は赤蘭に残った。彼の目的は赤蘭に残ることで赤皇の座、ギルドマスターによる恩恵を獲得すること。ギルドマスターになればステータスが大幅に強化される恩恵が与えられる。強さを追い求める彼にとっては簡単に強さを手に入れられる絶好の機会が訪れた瞬間だったのでしょう。他のメンバーも適当なことを言って唆し残るように誘導する、最終的に赤皇や私達をギルドの裏切り者という形で利用し他のメンバーから自分への信頼を勝ち取ったのだ。

 

 頭が良いのか…悪いのか…。自分に都合の良いことだけズル賢く頭の回転が早くなる…そんなタイプの男ね。


『はぁ…。負けても性格は変わらないか…。』


 あ…。しまった。口に出ちゃった。


『へぇ。生意気なこと言う奴が居ると思ったら玖霧ちゃんじゃねぇか?。久し振りだなぁ~。それに、知果に燕も。ひゅ~。綺麗所が勢揃いじゃねぇか?。』

『ひっ…。』

『ふんっ。』


 顔、首、胸、腹、腰、足…と舐め回すように視線を這わせる火車。

 その視線に怯えた知果は私の後ろに隠れ、燕はそっぽを向いた。

 はぁ…。ギルドマスターになって少しは成長したかと淡い期待をした私が愚かだったわ…何も成長していない。


『んひぃ。相変わらず良い身体してんなぁ。玖霧ちゃんよぉ。なぁ。もう一度あの格好になってくれよ!。戦闘服のチャイナ服!。あの姿のお前を見る度に俺、興奮してたんだぜ?。』


 はぁ…。頭の中は幼稚なガキのままね。

 溜め息しか出ないわ…。


『綺麗所のお前らが居なくなって残った女なんて夢伽のガキ1人だろ?。ガキには興味ねぇしよ?。ギルドにいた構成メンバーの女を手当たり次第に俺のモノにしようと思ったら逃げていく始末だ。ギルドマスターの女になれるなんて名誉なことなのにな?。やっぱ馬鹿しかいねぇのよ。…なぁ。俺の女になれよ?。もちろん、知果と燕も一緒によぉ?。天国に連れてってやるぜ?。』

『ひっ…い、嫌です。』

『きもっ。』


 怯える知果と汚物を見るような視線を送る燕。


『おい。火車。』

『ん?。何だ?。赤皇?。』

『俺の女達だ。勝手に手を出すなら黙ってねぇぞ?。』


 珍しくあの馬鹿が怒ってる。

 私達の為に?。ふふ。ちょっと嬉しいじゃない。


『え?。はっ?。…へぇ。何だ。赤皇。赤蘭を抜けたと思ったら玖霧達を上手いことたらし込んだのか?。へぇ。やるねぇ。なぁ。一晩で良いからよ。玖霧を貸してくれよ?。どうせ、散々楽しんでんだろ?。知果でも、燕でも良いからさ。』

『ねぇ。話が進まないわ。』


 気持ち悪い男。結局、こういう話になるだろうとは想像してたけど…実際に気色の悪い厭らしい目を向けられると鳥肌が立つわ。

 私達が赤蘭にいた頃から何も変わらない。この男にとって女性は替えのきく都合の良い玩具なのだ。話していてとても腹が立つ。不愉快。

 結局、無理矢理話の方向を変えて本題を持ってくるしかないのよね…いつもそうだったわ…。


『だな。おい。下らねぇ話は終わりだ。火車。本題に入るぞ?。』

『へっ。真面目な顔しちまってよ?。らしくねぇな?。』

『良いから。聞きなさい。』


 私は、私達の…いえ、クロノフィリアの現状を火車に説明した。

 私達はクロノフィリアに所属していること。

 リスティナさんに教わった世界の真実を簡単に、このバカでも理解できるように説明する。


『成る程ねぇ~。』

『分かったかしら?。』

『それで?。それを聞かせて俺をどうするつもりだ?。』

『貴方には選んで貰うわ。私達、クロノフィリアの仲間として神と戦うか。一人で生きていくかよ。』

『はっ!。話を聞く限り、お前達の状況は絶望的じゃねぇか?。白蓮でも恐れた奴等がお前達を狙ってるんだろ?。今は、そいつ等が攻めて来るのを首を洗って待ってるとこなんだろ?。なら、答えは1つだ。俺は1人で生きていく。お前等と心中なんてごめんだ。』

『確かに敵は未知の力を有しているわ。けど、クロノフィリアも負けてない。リスティナさんを中心に確実に準備を進めているわ。』

『お前が何と言おうが俺の意思は変わらねぇよ。俺の力を当てにしたのなら諦めな。』


 何、勘違いしてんの?。

 私達は、あくまでも昔の仲間だから情けをかけてあげてるだけなのよ?。


『あんたの力なんて期待してないわよ。現に、あんた、戦いで負けたから今ここに居るんじゃない。』

『俺は負けてねぇ!。あの女が色仕掛けなんか仕掛けてくるから油断しただけだ!。真っ向勝負なら俺の圧勝よ!。』


 どこまで自分に都合の良い妄想しかしないのかしら?。


『はぁ…。気付いてないかもしれないから教えてあげるけど。あんた…もの凄く手加減されてたのよ?。』

『は?。馬鹿言うなよ?。俺の力はギルドマスターになったことで強化された。白蓮と並ぶ…いや、それ以上の力を手に入れたんだぜ?。真正面から戦えば、あんな女に負けねぇよ!。』

『………。』


 堂々と言い切る火車に呆れてしまう。

 この期に及んで戦力も実力も見極められないなんて…。


『白蓮は全戦力を持って、クロノフィリアに負けたわ?。つまり、クロノフィリアは白蓮の上を行っている。それは理解できてるの?。』

『ああ。白蓮が弱かっただけだろ?。俺をはめた女みたいな奴がいるギルドだ。白蓮も罠にはまったんだろうぜ。じゃなきゃ、俺より弱いとは言え、俺に近い力を持った白蓮が負ける筈ねぇし。』


 駄目だ…。通じない。


『クロノフィリアのメンバーは全員がレベル150って話したわよね?。レベル120のあんたじゃ勝負にならないくらい理解できてる?。』

『それが胡散臭いんだよ。神の力だ?。この世界が機械によって作られた仮想世界だ?。誰がそれを証明できるんだ?。仮に提示されたとしてそれが本物だと言えるのか?。』

『それは、貴方自身が決めることよ。私達は話を聞き、各々が自分で決断してこの場にいる。実際にクロノフィリアの人達と話して神に挑むことを選んだわ。』


 私の言葉に知果と燕が首を縦に振る。


『はっ。全員が自殺願望者かよ?。洗脳でもされてるんじゃねぇか?。』

『神に利用された人達を見たでしょ?。自我を破壊されゾンビのようにクロノフィリアを倒すだけの存在に成り下がるのよ?。それでも、私達と行動出来ないの?。』


 これは、最後のチャンス。これで駄目なら。好きにすれば良いわ。もう、貴方を仲間だとは思わない。


『俺は1人で生きていくぜ?。現に緑龍の端骨って奴は自我を失わずに神の側についてるんだろ?。なら、俺もよ。もしもの時は奴等の仲間になるだけよ!。』

『つまり、もしもの時が来たら私達の敵になるということ?。』

『立場的にはそうなるな。けど安心しろよ。昔からの馴染みだ。良い感じに逃がしてやるよ。』


 その視線は再び私の身体に向けられる。

 はぁ…ここまでか。まぁ…良いわ。元々、コイツを仲間にするのは反対だったし。コイツがどうなろうと知ったこっちゃないわ。


『赤皇。あんたも何かないの?。』

『まぁ。無くは無いが…。』


 赤皇が椅子から立ち上がり火車へと近付いていく。そして、彼の身体を拘束している鎖を指先で摘まんだ。


『はっ!。止めとけよ。俺が暴れても千切れなかった鎖だぞ?。お前がどうこう出来るわけないだろ?。』

『あ?。この程度でか?。』

『は!?。』


 バキッ。と音を立てて鎖は指先2本で破壊される。


『お前は自由だ。何処にでも行くが良いさ。ただし、俺達とはもう仲間でも何でもねぇ。もし、敵として出会ったなら…その時は…。』


 赤皇から溢れ出る魔力。

 赤蘭にいた時とは比べ物にならない…いえ、別物といって良い魔力が放出される。


『全力で潰すからな。』

『へ…へっ!。馬鹿力だけは上がったようだな?。だが、それだけと見たぜ?。力だけじゃ戦いに勝てねぇだろ?。俺のように力も速さも兼ね備えた一流の戦士には所詮通じねぇよ。』

『もう、良いだろ?。お前との会話は終わりだ。とっととここを去れ。』


 赤皇は火車から背中を向けて歩き出す。


『ああ。それと、今のお前はこの部屋の中で一番弱ぇぞ。かつては俺達のNo.2だったお前だけどな。今じゃ知果や燕の方が圧倒的に上の実力だ。変な真似すんじゃねぇぞ?。』


 その言葉には、流石の火車も頭に血が上ったようね。一瞬で武装を展開した火車。…だったのだが…。


『なっ!?。』

『だから…言ったろ?。』


 燕は火車の顔面に蹴りを放って寸止め。

 知果は火車の額に銃を突き付け引き金に指を掛けている。

 私も、両手に持つ柄の部分が鎖で繋がれた双剣を火車の首に当てた。

 気付いたときには、私達に神具を突き付けられている状況に火車は動けないでいる。


『お、お前等…。』

『これで分かったでしょ?。貴方じゃクロノフィリアにも、私達にさえ勝てないのよ。』

『くっ。』


 その後、疑わしいほど大人しくなった火車をギルド支配エリア境界へ連れていく。


『じゃあな。もう会うことはないかもしれないが、共に戦ったゲーム時代は…楽しかったぜ。』

『…ふん。』


 赤皇が火車に言う。その通りだ。エンパシスウィザメントがまだゲームだった頃は楽しかったんだ。

 互いの素性なんて知らない。ただ、ゲームの中のキャラクターになりきって楽しんでいた。

 赤皇を中心に、私…知果…燕。群叢、火車、夢伽ちゃん、獅炎、塊陸、儀童君。

 皆が揃ってのギルド 赤蘭煌王 だったんだ。

 力を合わせて様々なギルドに戦いを挑み、様々なクエストに挑戦した。やがて、六大ギルドに名を連ねて…。

 けど、もうあの頃には戻れない。皆が死んだ。人間の本性をさらけ出して…。


『私達は ゲーム だからこそ結束することが出来た…のね…。』


 結局、この2年間は皆バラバラ…。私達のギルド崩壊は最初から目に見えていたのかもしれない。

 遠退いていく火車の後ろ姿を眺めながらそう呟いた。

 これで…良かったのかしらね…。


ーーー


 ギルド境界から少し離れた森の中。

 

『くそっ!。くそっ!。くそっ!。』


 俺は悔しさと苛立ちから小石を蹴り上げた。

 放物線を描き木に当たった小石は跳ね返り俺の頭に直撃する。


『いてっ!?。くっ…小石まで俺を馬鹿にしやがって…。』


 1人で生きていく。

 そう息巻いて宣言したが、正直…当てはない。ギルドも消失。仲間もいねぇ。

 女どもに舐められたことが悔しくて頭に血が上っただけだ。

 俺ともあろう男が冷静じゃなかった。


『ちっ…これから、どうしたもんか…。』


 その時だった。俺の脳裏に、ある閃きが!。


『そうだ。奴等の情報を敵の…敵対している神とか言う奴等に流せば俺も操られることなく仲間にしてもらえんじゃねぇか?。いや、俺程の実力者だ。奴等も欲しいに決まっている。もしかしたら…この世界の神にでもなれるんじゃねぇか?。』


 名案…いや、これは天啓だ!。

 神が俺に授けた運命なのかもしれねぇな!。

 ははは。


『そうと決まれば…って、何処行きゃ良いんだ?。神って奴等は何処に居るんだよ?。』


 とっとと、探さねぇといけねぇのに手掛かりが皆無だ。


『ひひ。なかなか面白い考えの御方ですねぇ~。』


 その時、俺に話し掛けた白衣の男。

 歪んだ空間から姿を現したソイツには見覚えがあった。


『お、お前は…確か、緑龍の…。』

『端骨です。元 赤蘭煌王の火車君ですね?。クロノフィリアとの戦い以来ですね。お元気そうで何よりです。』

『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。』


 端骨と共に空間から出現した人型の謎の生物。確か…白蓮の野郎が大量に作ってた…。人形だ。


『ひひ。どうですか?。私と手を組みませんか?。』

『は?。え?。』

『クロノフィリアの方々の情報を持っているのでしょ?。それを提供していただければ、私は貴方を神の居る場所まで案内してあげますよ?。』

『おっ!?。マジかよ!。』

『ええ。マジです。どうです?。貴方にとっては、とても良いお話だと思いますが?。』

『へへ。もちろんOKだ。』

『ひひ。よろしくお願いしますよ。色々と…ね。』


ーーー


『はぁ…。やっと終わった…。』


 赤皇や燕、知果と別れ喫茶店へ赴いた。

 甘いものを非常に、至急に、迅速に摂取したい気分よ。


『あら?。玖霧ちゃん。こんにちは。』

『こんにちは~。どう~?。彼は~?。』


 喫茶店に入った私を見付けて手を振る2人。つつ美姉様と黄華姉様。2人とも、相変わらず綺麗…抜群のプロポーションに優雅な佇まい。同じ女性の私から見ても目を奪われるわ…。2人とも子供を産んだ母親とは思えないほど若々しく美しい…。

 テーブルに並ぶショートケーキと紅茶。2人はお茶の時間のようね。

 つつ美姉様も、黄華姉様も私がここに来てからとてもお世話になった人達。

 クロノフィリアのことも、私達と他の元六大ギルドとのことでも分からなかったり、困っていたことをアドバイスしてくれたり、助けてくれたり。何かと気に掛けてくれていた。


『こんにちは。案の定でした。こっちの話は聞く耳を持たない。自分の力が周囲に通用すると本気で考えている。何の成長もしていませんでしたよ。』

『そっか~。』

『私達と仲間にはならないようでしたので、ギルドからの追放。という形でエリア外へ送り届けました。けど…良かったのでしょうか?。私達に変に噛みついて来たりしないかが心配です。』


 つつ美姉様は、火車の処遇を私達に委ねてくれた。もし、反旗を翻すなら容赦なく殺すことも許可されていた。けど…かつては肩を並べて戦っていた間柄。クロノフィリアへの加入も拒否されたのなら、追放という形でも構わないと言ってくれたのだ。


『貴女達が悩んだ故に決断したことですもの~。その決断に~。文句は無いわ~。けど~。難しいとこよね~。このままここに置いておくのも問題が起きそうだし~。彼…給仕にした娘達を片っ端から口説くのよぉ~。給仕係の娘達が嫌がって、結局、男性にお願いして料理を運んで貰ったのよ~。』


 つまり、女の敵ね。はぁ…。あのクズは…。

 やっぱり殺しておくべきだったかしら?。 


『彼の精気って強いけど~。美味しくないのよ~。私の植物も~。彼の精気を吸い続けてたら~。枯れちゃったのよ~。』


 もう性欲の権化ね…。


『私達も殺すのは後味が悪いし~。野放しにする方法が今のところ一番かなぁ~。って思ったのよ~。無凱君や~。仁君とも~。一応相談したの~。彼の力なら私達の驚異にはならないから~。ってね~。』

『そうですね…。確かにそうですが…。』


 つつ美姉様は私達のことも考えた上で彼を逃がす提案をしてくれたんだ。それは、感謝している。けど…。


『一応彼の身体には~。私の種を仕込んでおいたの~。種を通じて居場所は分かるし~。私の意思で 発芽 も出来るからね~。現に今も彼の居場所は種を通じて分かるわ~。』


 つつ美さんは、私達が火車を逃がしたゲートの方角を指差す。


『そうですわ!。玖霧さん!。仮に何かしてきても私の聖剣でぶった斬ってやりますわ!。』

『会ちょ…いえ…春瀬さん。』


 そこに、ウエイトレス姿の春瀬姉様が注文表を持ってやってきた。

 春瀬姉様と私は同じ中学と高校。中高一貫校のお嬢様学校で、春瀬姉様が3年生の会長の時に1年の私が副会長を務めた。先輩と後輩の関係だ。

 因みに、1つ年下に睦美さんが在籍していました。


『春瀬姉様…はい!。心強いです。』

『ええ!。貴女方が選んだ選択はこれからの私達が歩む道の光になることを祈りましょう。大丈夫ですわ!。何か大事があったとしても!。力ずくで正しい道へ修正するだけですから!。』


 大きな胸を叩いて胸を反る春瀬姉様。


『ははは…そうですね。』

『そうよ~。皆で乗り切りましょうね~。』

『つつ美姉様…。』

『そうです。私達はもう同じギルドに所属する仲間…いえ。家族なのだから。問題は貴女だけで抱え込むことは無いわよ?。』

『黄華姉様…。はい。ありがとうございます。』


 私はクロノフィリアに入って本当に良かった。赤蘭にいた頃にはなかった、温かさがここにはあるんだから。家族…その言葉は、私達に仲間以上の繋がりをくれる魔法の言葉だ。

 崩壊した世界で失ってしまった日常。皆少なからず家族や恋人との別れを経験した。

 そして、集まった仲間達…こんな世界だからこそ、生まれる絆は強い結束になるのだ。


 私は春瀬姉様に注文したチョコレートケーキと砂糖たっぷりの紅茶を御姉様方と一緒に楽しんだ。


ーー


『あ…。あら~。あら?。』

『どうしました?。』


 他愛の無い雑談に華を咲かせていた中。

 突然、つつ美姉様が反応した。


『今ね~。火車君に埋め込んでいた種の気配が消えたわ~。』

『え?。』

『は?。』


 火車の身体につつ美姉様が仕込んでおいたスキルの種。


『気付かれて取り除かれた…ということでしょうか?。』

『いいえ~。種は心臓に直接埋め込んだの~。取り除くのは不可能~。気配が消えた理由で~。考えられるのは~。対象の心臓が消失したか~。種が役目を終えて自分で発芽したかよ~。』

『つまり?。』


 もしかして…。あのクズは…。

 さっき別れたばかりなのに?。何が起きているの?。


『火車君は~。死んだわ~。』

次回の投稿は30日の木曜日を予定しています。

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