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番外編 閃のホワイトデー③

 自由を奪われた身体で浮遊感を感じながら階段を下りていく。

 俺の身体に巻き付いているこの布は対象の魔力を吸収し身体の自由を封じることが出来る。つつ美母さんの神具だ。

 

『待ってたわ~。』


 のんびりと間延びした声で俺の身体を受け止める母さん。

 俺の顔は、母さんのふくよかな胸に包まれそのまま抱き締められた。


『はぁはん。ほれ、ほんふぁどうひょうふぁ?。』


 母さん。これ、どんな状況だ?。


 大きな柔らかい胸に包まれた圧迫感から上手く言葉が出ない。てか、呼吸も…ぐるじぃ…。


『あらあら~。久しぶりに~。母と~。息子が~。再会したのよ~。抱き締めるのは~。当然じゃない~。』

『ふぁっがっばがば。ばふぁく、ふぁふぁいって…。ひうぅ…。』


 分かったから。早く、離して…。死ぬぅ…。


『あらあら~。それは~。たいへん~。』

『ぷはっ!。』


 凶器から顔が解放され新鮮な空気が肺を満たした。何てことだ。こんな身近に一番恐ろしいモノが隠されていたなんて。俺を殺すのに能力はいらないということか…。


『で?。急に拉致られた訳だが?。どうしたんだ?。』

『ふふふ~。息子の~。気配を感じたからよ~。それ以外の理由なんてないわ~。愛しの息子の~。気配を感じたら~。無意識に引き寄せちゃうの~。これも母の愛よ~。』


 何て…迷惑な無意識だ。


『まぁ。良いや。俺も母さんに会いたかったし。』

『え!?。本当~?。』

『ああ。後で探しに行こうと思ってたんだ。けど、母さんの方から来てくれたからな。ある意味助かった。』

『あらあら~。ついに~。私にも~。チャンスが~?。』


 チャンス?。何の?。まぁ良いか。


『これ。母さんに作ったんだ。バレンタインのお返しな。』


 プレゼント包装した箱を渡す。


『あらあら~。嬉しいわ~。ふふ。閃ちゃんは~。昔から~。こういうところが~。しっかりしてるのよね~。いい子~。』

『わっ!?。ふぁわぁふぁおっ!。』


 またかよっ!。


 再び、抱き付かれ頭は胸の中に…。


『ぷはっ!。母さん。それより、開けてみてくれよ。』

『ふふふ~。そうね~。楽しみ~。』


 綺麗に包装を解き、包み紙は綺麗に折り畳まれていく。それをアイテムBOXに入れた。


『包装紙のゴミくらい。そこのゴミ箱に捨てればいいだろ?。』

『ふふ~。違うわ~。ゴミなんかじゃないの~。この紙も~。リボンも~。箱も~。全部が~。閃ちゃんのプレゼントなんだよ~。だから~。ゴミなんかじゃないのよ~。大切にするわ~。』


 つつ美母さんとの会話は、何か調子が狂うな。


『あらあら~。これ~。ネックレスね~。綺麗な石ね~。ずっと眺めていたくなるわ~。』


 母さんにプレゼントしたのは、俺が持っていたアイテムを合成して作った小さな宝石をペンダントトップにしたネックレスだ。


『ああ。特別な魔力を帯びた宝石だ。持ってるだけで、心を穏やかに落ち着かせてくれるんだ。』

『あらあら~。良いの~?。こんなに~。凄いもの~。貰っちゃって~。』

『当たり前だろ?。母さんの為に作ったんだ。貰ってくれないとへこむぞ。』

『ふふ。それはたいへん~。』

『母さんは良く他の連中の悩みとかを聞いてるだろ?。悩みを打ち明ける方の心は母さんに聞いて貰えて…アドバイスを貰えて軽くなるだろう?。けど、聞いてばかりの母さんの方は、やっぱり疲れると思ったからさ。少しでも、気持ちが楽になれば良いと思って作ったんだ。遠慮なく使って欲しい。』

『………。』

『おわっ!?。』


 無言になった母さんが突然、がばっ!。っと、飛びついてきた。その初動の速さは俺ですら反応できず成す術も訳も分からず母さんは俺に馬乗りになった。


『決めたわ。』

『な…何を?。って、何で種族衣装になってんだよっ!?。』


 馬乗りになった母さんは種族衣装。つまり、母さんの種族は【聖淫魔神族】…サキュバスだ。その衣装と言えば、光歌の奴が嬉々として作っていたあの…布面積が極端に少なく、全身に謎の模様が浮かび上がった姿。小さなコウモリのような翼が飛び出し、艶かしい魔力に包まれた。端的にいうと、めちゃくちゃエロい格好になったってことだ。

 抜群のプロポーションを持つ母さん。こんな姿で迫られたら男でも女でも関係なく忽ち堕とされてしまうだろう。


『閃ちゃん。』

『はい?。』


 間延びした喋り方はどうした?。


『私。貴方のママを辞めるわっ!。』

『何、言ってんねんっ!?。』


 突然、何を言い出すんだ?。この人。


『ふふ。私達は血の繋がってない男女よ?。しかも、家族であって家族ではない。リスティナちゃんによって偶然作られた偽りの家族。そんな曖昧な家族じゃ納得いかないじゃない?。じゅるりっ!。』


 おい…何言って…じゅるりって…ヨダレを垂らすな、拭くな…。


『こんな素敵なプレゼントを用意してくれて…それも、私のことを想って手作りしてくれたのよ?。もう、息子としてなんて見れないわっ!。』

『ええ…。』


 いや、息子なんだが…。

 どうして、暴走してるんだ…。


『閃ちゃん。私と結婚しましょう。他の娘達じゃ満足できないでしょ?。だから、私の全てをあげるわっ!。心も!身体も!。閃ちゃんの自由にして良いの。ずっ~と愛し合いましょう。朝も昼も晩も深夜も翌朝も。ずっと一緒よ。』


 目が…目が怖い…。

 瞳に映る何重にも重なったハートマークがクルクル回ってる…。


『私の魔力は男性を骨抜きにするわ。けどね。人生でたった一人。心から愛すると決めた人に対してのみ極上の快楽と共に極楽浄土へ連れて行ってあげられるわ。そこで、未来永劫2人きりで快楽に溺れましょう。』

『チョップ!。』

『はうちっ!?。』


 俺のチョップが母さんの額に直撃。

 母さんは仰け反りその場に倒れた。


 そうだった…忘れてたぜ…灯月暴走癖は、母さんから受け継いでいたことを…。

 

『酷いわ~。閃ちゃん~。私のこと嫌い~?。』

『好きに決まってんだろ。』

『あらあら~。そんなハッキリ言われると照れるわね~。』

『もちろん。家族としてな。』

『むぅ~。一人の女として見てくれないの~?。』


 上目遣い。指を唇で咥える仕草。

 男心を擽る動作を極めてやがる。


『母さんは俺にとっても、灯月にとっても母さんなんだ。それ以外の関係になるのは躊躇いがある。』

『妹の灯月ちゃんとは~。恋人になったのに私とはなってくれないの~?。』


 痛いところをついてくる。


『俺の中では、貴女は母さんなんだ。血が繋がってなくても俺を育ててくれたことに感謝してるし、家族として本当に愛している。』

『………。』

『だから、これからも母さんでいて欲しい。』

『………。はぁ~。分かったわ~。今まで通り家族でいましょう。』

『ああ。よろし…。『今はね~。』く?。』


 今何て言った?。今は?。今はねって言ったのか?。


『母さん?。どういう?。』

『ふふ。』


 不敵に笑う母さん。

 スキルで肉体を操作し、灯月と同じくらいの年齢へ姿を変えた。


『な…何してるんだ?。』

『決まってるじゃない?。』


 見た目は灯月の外見と似ている。やっぱり親子だな。スタイルの良さは灯月以上。背は灯月よりも高く、着ている種族衣装のせいか大人びて見える。


『ふふ。私、決めたわ。』

『何を?。って、その格好で抱き付くな…。』


 胸どころか身体全体で纏わりつくように抱き付いてくる母さん。頬にキスをし耳を舐める。

 ゾクゾクとした感覚が全身を走った。


『いいえ。止めないわ。閃ちゃん。』

『何だよ…。』

『覚悟してね。』


 何の覚悟やねん!?。


『私は閃ちゃんを絶対落としてみせるわ。』

『ええ…。』

『必ず貴方と結婚する。貴方が私を母親としてしか見られないのなら、私は妻になるために貴方を私に夢中にさせてみせるわっ!。』


 駄目だ。母さんが止まらない。


『だから、覚悟してね。閃ちゃん。』


 ゆっくり身体を離すと蠱惑的な笑みで俺を見る母さん。


『今日の閃ちゃんは忙しそうだから退いてあげるわ。けど、忘れないでね。私が本気になったら私を貴方の女にしてみせる。絶対にね。』

『何で勝手に盛り上がってるんだよ…。』

『じゃあね。閃ちゃん。ネックレスありがとう。大切にするね。あっ…ふふ。今度は指輪が欲しいなぁ。』


 人の話を聞いてねぇ。

 てか、言動が灯月じゃん!?。同じこと言ってるし…。


 スキップで去っていく母さん後ろ姿を眺めながら、俺は溜め息をした。


ーーー


『それは、妾の魔力の影響が出ておるな。』

『そうなのか?。』


 次に訪れたのはリスティナの部屋。

 先程の母さんとの出来事を話してみたところだ。

 因みに部屋に入った途端に抱き付かれ、そのまま中に引き込まれた。

 またこのパターンかっ!?。…っと一瞬思ったんだが、リスティナはソファーに座ると俺に寝転がれと誘導し、現在、俺はリスティナに膝枕されている状態だ。

 何でも、『この方が息子の顔を良く見えるだろう?。おや、しまった…胸が邪魔で顔が半分しか見えんっ!?。いや、だが、お主に胸を見られていると考えると悪くないかもしれん。閃よ。妾のおっぱいが欲しくなったらいつでも言って良いぞ!。』と、意味分からないことを言っていたな。俺は聞かなかったことにし、つつ美母さんのことを話したという流れだ。


『妾の魔力がお主達に及ぼした影響は、なにも能力が使えるようになっただけではないのだ。』

『…というと?。』

『お主を中心に魔力は広がっていく。その条件は心を通わせること。簡単な話し友達になるということだ。その効力で、お主達クロノフィリアのメンバーは集まっている。』

『へぇ。じゃあ、能力者全員がそうなのか?。』

『そうではない。能力者が受けた妾の魔力の影響は世界全体に及ぼしたモノ。妾が最初に流し込んだ魔力の影響だ。お主を媒体にした魔力とは違うモノ。』

『へぇ。世界に2種類の魔力を流したってことか?。』

『そうだ。お主を中心に心を通わせたモノ。それは今のクロノフィリアのメンバーが仲良くなったモノにも影響が及び、次第に拡散されていく。奴等がバグと呼ぶのも、ウィルスのように拡大することに起因するんだ。そして、魔力の影響を受けたモノ達には妾の加護が発動し限界突破2のスキルが獲得できるようになるのだ。』

『へぇ。で?。それと母さんとの話がどう繋がるんだ?。』

『心を通わせると言ったであろう?。極端な話し、お主との距離が近ければ近い程その影響は大きくなる。まぁ、個人差にもよるがな。同姓なら親友に、異性なら好意を待たれる。』

『ふむふむ。』

『しかし、それは閃の人間性に惹かれた者に限定されるのだ。灯月があの様にお主に夢中になっているのは、閃を心の底から好きな気持ちに、今までの人生で最もお主と共にいた時間が長かった故に魔力の影響を受けた結果…だろうな。』

『そうなのか…。じゃあ、母さんは?。』

『お主の人生で2番目に近くにいた存在は誰だ?。』


 もちろん、母親の母さんだ。家族だからな。そういうことか…。


『今まで 母親 としての意識が強かったのだろうな。女としての想いを抑え込む程に。つつ美はメンバーの心のケアを頻繁に行っていたと聞く。獲得しているスキルを見ても分かる。人の心に敏感で共感しやすいのだろう。その誰よりも優しい性格から来るものの反動だろうな。』

『つまり、俺からのプレゼントが切っ掛けで、本来、自分の中に仕舞い込んでいた想いが溢れ出たってことか?。』

『プレゼントというより、プレゼントに込めたお主の想いに触れたことが切っ掛けだな。』

『そうか。』


 俺は仲間達の悩みを聞いている母さんにも、きっと悩みや抱えている 何か があると思ってネックレスを作った。母さんへの負担が少しでも和らぐようにと。その思いを受けて…か。はっ!。


『ということは、あのエロさもリスティナの魔力の影響か!。』

『いや…あれは、つつ美の持つ本来の性格と本質だ。性質と言っても良いか。』

『ああ…そう…。』

『お主達に与えられた種族は、その者が持つ性質に合うものが選ばれていた。つつ美の種族は【聖淫魔神族】…まぁ、そういうことだ。』


 母さん…。


『何にせよ。つつ美の想いに応えるのはお主だ。男の見せ所だぞ!。』


 キラキラとしら瞳で見下ろしてくるリスティナ。期待しているのか、面白がっているだけなのか…。


『して、妾の部屋に来た理由はつつ美のことを聞く為か?。』

『ああ…いや、違う。別の理由で来たんだ。』

『そうか。時に閃よ。昨晩は良く眠れたか?。』

『ん?。ああ。忙しかったせいか朝までぐっすりだった。』

『そうか。そうか。では、ベッドや掛け布団から妾の匂いを感じたか?。妾に包まれているような感覚を覚えなかったか?。』

『いや、全然。』

『ガーーーーーーーーーーン!。』

『けど、良い匂いはしたな。』

『なぬっ!?。それは、どんな?。』

『俺がいない間、部屋やベッドを掃除してくれてたのは灯月だったんだろ?。あれは灯月の匂いだったな。』

『なん…だと…。アヤツ…まさか上書きを…。』

『上書き?。』

『はっ!?。いや、何でもない。』


 コロコロと表情が変わるリスティナ。

 どんな顔をしても美人に見えるんだから神様ってすげぇよな…。


『して、それなら何用でここに?。』

『もちろん、リスティナに会いに来たんだ。』

『へ?。』


 急激に顔が赤くなるリスティナ。


『その…何だ…そう率直に言われると…顔が熱くなるな…。』

『よっと。』

『あ…。』


 俺が上半身を起こし、座ったままリスティナに向き合う。

 何処か名残惜しそうに俺の頭のあった膝を撫でるリスティナ。


『これを渡したかったんだ。』


 アイテムBOXから取り出す小さな箱。


『これは?。』


 俺の持つ箱を見ながら不思議そうに首を傾げるリスティナ。

 きょとんとした顔も可愛いとか…神様どうなってんだ?。


『開ける…な。』


 俺は箱を開けた。

 中から取り出したのは、色鮮やかな花が咲くブリザードフラワー。しかも、特殊な加工を施したモノだ。

 長期間長持ちするブリザードフラワーにも美しい状態で観賞できる期間は決まっている。しかし、この特製品は魔力を込めれば再び色鮮やかに咲き誇るのだ。つまり、魔力を込めれば永遠に楽しめる代物さ。


『花の色は、込める魔力量によって変えられる。好みの色で飾ることが出来るんだ。』

『それを…妾の為に?。』

『リスティナは知らないと思うが、バレンタインの時にチョコレートをくれただろ?。今日はそのお返しをする日。ホワイトデーって言うんだ。』

『ホワイトデー…。』

『そして…。こほんっ。』


 少し恥ずかしいが…。


『母さん…。出会って数ヶ月しか経っていないが、母さんが俺達を本当に大切に思っていてくれていることは伝わってる。ありがとう。これからも宜しくな。』

『………。』


 そう言って俺はリスティナにプレゼントを手渡した。


『…かぁさん…と…呼んで…くれた…のか?。』

『ああ。慣れないから恥ずかしいな。これ…。』

『妾…お主を…作って…いや…違う…閃と…出会って…本当に…良かった…。』


 リスティナは俺を抱き締めると…泣いた。その瞳から零れ落ちる涙の1粒1粒に喜びと嬉しさを感じた。

次回の投稿は16日の木曜日を予定しています。

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