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番外編 閃のホワイトデー②

以前に投稿した番外編の続きです。

本編より少し前の話しになります。

ーーー閃ーーー


 バレンタインが終わり、1週間が経過した頃。俺は準備を始めた。

 形はどうあれ、皆、俺のために気持ちのこもったチョコレートを用意してくれたんだ。

 その想いに応えたくて行動に移した。

 期限は1ヶ月を切っている。目標はホワイトデーまでに全員分のプレゼントを用意するというモノだ。

 睦美 灯月 氷姫 瀬愛 智鳴 代刃 無華塁 翡無琥 美緑 砂羅 累紅  クティナ。

 そして、何故か紛れていた…つつ美母さんとリスティナの2人。いや、大事に想ってくれているのには嬉しいんだが…どうも2人の場合は他のメンツとの気持ちのベクトルが違うというか…正直、対応に困る。

 だが、まあ、気持ちは嬉しかったし…お返しだけでも渡したいからな…。

 人数が多いが幸いなことに俺にはスキル【全能】があり、素材さえ用意できれば大抵の物は作ることが出来る。

 あとは、素材集めと時間との勝負。10人以上の女性へのプレゼントを手作りするんだ時間が惜しい。


 こうして、始まったプレゼント作り。

 体力と集中力と時間を削りながら、早いものでもう3週間が過ぎようとしている。


 そして、本番当日。ようやく全員分のプレゼントを用意し、明日の本番【ホワイトデー】に、間に合わせることが出来た。

 各々のプレゼントをアイテムBOXに入れ、その前に黄華さんの所に向かう。

 今回の件で、色々とアドバイスを貰ったからな。お礼の意味も込めて黄華さんにもちょっとしたプレゼントを作ったのだ。それを渡しに行く。

 今は23時を過ぎた頃。この時間なら黄華さんは…多分、喫茶店の方かな?。

 静寂に包まれている深夜の廊下を進んでいく。すると、扉の向こうから僅かに明かりが漏れていた。

 カランコロン…。

 静かに扉を開けるとカウンターには、いつも通り仁さんがいた。


『おや?久し振りだね。閃君。こんな夜更けにどうしたのかな?。』

『こんばんは、仁さん。ちょっと黄華さんに用事があって。』

『あら?私?。』


 カウンター席に座り、酒を飲んでいる無凱のおっさんの横にいる黄華に視線を向けた。


『閃君がここに来たってことは、準備が出来たのかい?。』


 顔だけ上げてこっちを向くおっさん。


『まあね。何とか間に合った。』

『そうなんだ。良かった。私の花が役に立って。』

『ああ、今回は黄華さんに色々手伝って貰ったからな。ありがとう。』

『良いのよ。閃君が、あの娘達を想ってやってくれたことですもの。それに無華塁ちゃんもいるしね。』

『そっか~。閃君が僕の可愛い愛娘の彼氏なんだよね~。ということはアレやった方が良いかな?。』

『アレ?。』

『俺の娘が欲しければ俺を倒していけ!そうすれば認めてやるっ!ってヤツ。』

『おっ!良いのか?おっさん?じゃあ遠慮無く。神具…【時刻ノ絶刀】。』

『ストップ!ストップ!それマジで僕死ぬから!?。』

『冗談だって。』


 神具を消すのを確認したおっさんが改めて口を開いた。


『まあ、僕は閃君を認めてるからね。無華塁ちゃんが望むなら、閃君に委ねるよ。いつでもパパか義父さんって呼んでくれて良いからね。』

『それは…何か躊躇いがあるな…。』

『是非、女の子の姿でパパって呼んでくれるとぶべっ!?。』


 おっさんの顔へ横から右ストレートが炸裂した。


『まったく。すぐ調子に乗るんだから。』

『痛いよ…黄華さん…レベル150になったんだからもう少し手加減してほしいな?。』

『わざと当たってる癖に良く言うわ…。』


 2人のやり取りを見ながら俺はスキル【女性化】を発動。女の姿に変わりおっさんに近付いていく。確か…こんな感じ迫れば良いって光歌が言ってたような…。

 胸の谷間を強調し、上目遣いで…恥じらう感じに…。


『パパ…。』

『って!?閃君!?何やってるのよ!?。』

『おお!ついに閃君が僕の娘に!?。』

『パパ~。パパが戸棚の奥に隠してるレアアイテム~【魔境の神酒】が~欲しいのぉ~。ちょうだい~。』

『うんうん。良いよ良いよ。閃ちゃんの為ならこれくらい安いものさ!。』


 鼻の下を伸ばしたおっさんが、カウンターの横にある棚から1本の一升瓶を取り出し俺に手渡してくる。


『えへへ…ありがとう。パパ~。』

『ズッキューーーーーーーーン!!!。』


 ウインクと投げキッスで、おっさんは目をハートにして気を失った。


『成程な…これが、パパ活ってやつか…。』

『…閃君…どこでそんなの知ったのよ?。』

『光歌の奴が最近はまってる漫画に載ってたんだ。最初はこんなのに騙される男なんているのか?って思って半信半疑だったんだが…。』


 床に倒れるおっさんを溜め息を吐きながら仁さんが掃除していった。


『あっ…バカなことやってる時間じゃなかったな。黄華さん。今回は色々ありがとう。これ、迷惑かけたお詫びに作ったんだ受け取ってくれ。』


 男の姿に戻り、アイテムBOXを開く。

 その中から黄華さんへプレゼント用に包装された包みを手渡す。


『あらら、気にしなくても良いのに。でも、ありがとっ。開けても良い?。』

『ああ。』


 黄華さんが丁寧に包装を解いていく。


『これは…花…造花ね。』


 黄華さんへのプレゼントは造花の置物だ。

 手のひらより少し大きめの幅15センチの土台に白い花が乗っている。


『これは、黄華さんの種族に合わせて作ったんだ。この花に黄華さんの身体から生成した香りを流すと、その魔力を吸収し同じ香りを発するようになるんだ。しかも、香りの保存まで出来るから、一度記憶させれば好きな香りをいつでも楽しむことが出来る。』

『へえ!凄いね!でも、こんなに凄いの貰っちゃって良いの?。』

『黄華さんの事を想って作ったんだ。受け取って欲しい。』

『………。』

『ん?どうした?やっぱ迷惑だったか?。』


 突然、目を見開き黙ってしまう黄華さんの反応に焦る。何か、間違ったか?。


『閃君…が、あの娘達に好かれる理由を改めて確信したわ…。恐ろしい人ね…。』

『は?。』

『何でもないわ…ナチュラルに告白してくるなんてね…マジ、一瞬…ドキッとしたわ…。』


 何やら、ぶつぶつと呟いている黄華さんだったが、大事そうに渡したプレゼントを持っているところを見ると気に入ってくれたことが分かる。


『そうそう。あの娘達の事なんだけど。閃君に会えなくて寂しがってたよ。事情は理解してるけど、あんまり悲しませちゃ駄目よ。』

『…そうですね…はい。今度からは気を付けます。』

『うん。皆…閃君と一緒に居るだけで嬉しいんだからね。』

『はい。色々ありがとうございました。』

『はーい。お役に立てたようで良かったわ。お休み。これ大事にするわね。ありがとう。』

『お休みなさい。』


 こうして俺は喫茶店を後にし部屋に戻る。途中、灯月の部屋の前を通ったが明かりが点いていなかったので、もう眠ったのだろう。

 灯月にしては随分早いが…まあ、明日だな。お休み灯月。

 そのまま、床につく。

 シーツ、布団、枕などが綺麗に…いや、新しくなっていた。灯月か?。しかも、何やら良い香りが…。

 何から何まで世話になるな…明日は目一杯喜んで貰おう。


ーーー


 朝、目覚めた俺は早速全員分のプレゼントを確認する。


『よし、全部あるな。早速渡しに行こうか。』


 最初に出会ったのは…。って目の前に居たな。部屋を出ると廊下を浮遊しながら寝ているクティナがいた。プレゼントを作っている間、クティナには俺の中から出ていてもらったが…まさかこんな放浪状態で寝ているとは…。


『クティナ。おーい。クティナ。起きろー。』

『んー。あれ?。閃の声?。』


 俺の声に反応したクティナ。

 眠気眼を擦りながら俺と視線が合う。


『あ…。閃~。戻ってきた。』


 すーーーっと。流れるように俺に抱き付いてくるクティナを優しく受け止める。


『どこ行ってたの?。寂しかった。』

『すまんな。色々準備してたんだ。』

『準備?。』

『そ。先月にクティナ。俺にチョコレートをくれただろ?。』

『うん。バレンタイン。頑張った。』

『これは、そのお返しだ。』


 俺は数多く用意したプレゼントの中からクティナ用に作ったモノを取り出した。


『わぁー。これ。柔らかい。』

『睡眠用の抱き枕だ。クティナのサイズに合わせてあるぞ。』


 クティナに作ったプレゼントは抱き枕。


『低反発で形状記憶。睡眠時にリラックス出来る香りを出してくれる。クティナの好きな香りを設定することも可能だ。枕にするも良しっ!。敷き布団にするも良しっ!。クティナの身体や姿勢に合わせて包み込んでくれるぞ。』

『ふかふか。もふもふ。良い匂い。好きな匂い…閃の匂いに出来る?。』

『お、俺のか?。ま、まあ、設定すればな。』

『じゃあ。する。』


 匂いも記憶して登録出来る為。その匂いを持つ対象が枕に触れれば簡単なのだ。

 俺は枕に軽く抱き付く。


『これで、良いぞ?。』

『んーーーーー。閃の匂い…。落ち着く。』

『そりゃあ。良かった。一応、花の匂いとかお菓子の匂いとか設定しといたんだがな…。』

『閃の匂いが良い。』

『お、おう。ありがとう?。』

『閃。ありがとう!。大好き。』

『ああ。俺もだ。』


 クティナの頭を撫でると俺の中に入っていった。

 どうやら、満足してくれたようだ。自分が作ったプレゼントが喜ばれるのは、少しむず痒い感覚と嬉しさが一緒に来る感じがするな。


『さて、次は…っと。』

『閃。』

『おっと。』


 不意に背中に温かさを感じた。

 振り返るとそこには無華塁がピタリと背中に張り付いている。


『閃。どこ行ってた?。寂しかった。忙しかった?。』

『まぁな。すまん。ちょっとゴタゴタしてたんだ。もう、済んだからまたランニングしような。』

『うん。する。でも。何してた?。言ってくれたら手伝った。』

『ありがとう。けど、これは俺がやらないといけないことだったからな。っということで、はい。無華塁にはこれだ。』

『ん?。わっ!?。』


 無華塁の頭にタオルを被せる。


『スポーツタオル?。』

『そうだ。バレンタインのお返しだ。』

『ああ。ホワイトデー。』


 無華塁はタオルを抱き締めて顔を埋める。


『良い匂い。』

『だろ?。無華塁は良く鍛えてるからな。沢山汗をかくだろう?。このタオルは汗を即座に吸収分解してフローラルな香りに変換してくれるんだ。』

『凄い。』

『シャワーで汗を流せない時も汗臭くならないんだ。しかも、魔力を通せば即座に綺麗になるから洗濯不要だぞ。』

『貰って良いの?。』

『ああ。使ってくれると嬉しい。』

『うん。ありがとう。閃。大切に使う。』


 そう言った無華塁はタオルを抱き締めたまま俺の胸に顔を埋め…。


『何か。あったら。言って。手伝う。』

『ああ。今度は言うよ。』


 胸の中に収まった無華塁を抱き軽くキスをすると満足したのかトレーニングルームへ入っていった。


 ふむ。黄華さんの言った通りだったな。

 今度からはサプライズする時の方法を考えないとな…。


 コンコン…。

 扉をノック。しかし、反応はない。

 コンコン…。

 再度、ノック。またしても、反応はない。


『お~い。智鳴~。居ないのか~。』


 俺は智鳴の部屋の前に居た。

 何となく部屋から気配はするから中には居るんだろうが…。掃除でもしてて気付かないのか?。

 確認の為に声を掛けると…。


 ドゴッ!。ガラガラッ!。バラバラッ!。ドゴゴゴゴゴッ!。ドザァァァアアアアアッ!。


 いったい…中で何が起きているんだ…。

 全てが崩れ、崩壊したような音が…。


 ガチャンッ!!!。


『せせせせせせせせせせ閃ちゃぁぁぁぁぁあああああん!!!。』

『ごふっ!?。』


 勢い良く開いたドア。そして、同時に飛び出し抱き付いてきた智鳴。

 あまりの突進力にそのまま倒れ込んでしまった。


『閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。閃ちゃん!。』


 狐の尻尾をぐるんっぐるんっ回し胸に顔を擦り付ける智鳴。

 ああ。これは…全員このパターンかもな…。

 数日会えないだけでこの反応。黄華さん…どうやら、俺は大変なことをしてしまったらしい。黄華さんの言う通りだったな…。


『智鳴。すまない。数日留守にした。』

『すーはー。すーはー。すーはー。』


 き、聞いてねー。胸に顔を埋め匂いを嗅いでる?。


『お、おい。智鳴…。』

『はぁぁぁあああああ。閃ちゃんの匂いだぁ~。』

『お~い。』

『すーはー。すーはー。すーはー。』


 駄目だ。止まらん。止められん。

 俺は諦めて智鳴が満足するまでそのままの体勢で固まっていた。

 智鳴が落ち着いたのはそれから20分経過した頃だった。


『満足したか?。』

『うん。閃ちゃん。戻って来たんだね。寂しかったよ~。』


 今、俺達は智鳴の部屋のソファーの上に並んで座っている。

 まぁ、智鳴は俺に寄り掛かっている感じだが…。


『すまない。色々準備をしてたんだ。人数が人数だけに時間が必要だったんでな。』

『準備?。』

『ああ。これ。智鳴にプレゼントだ。バレンタインのお返しな。』

『え!?。ああ。ホワイトデーだね。しかも、プレゼント!?。私…30点…。』

『いや、作ってくれたことは嬉しかったからな。そのお礼だ。受け取ってくれ。』


 綺麗に包装した箱を手渡す。


『うん…ありがとう。閃ちゃん。開けても良い?。』

『ああ。もちろんだ。』


 智鳴は恐る恐るといった感じで包装を解いていく。


『あ…これ…ブラシ…。と…リング?。』

『ああ。智鳴言ってたろ?。尻尾のブラッシングが大変だって言ってただろう?。この世界じゃペットショップなんて無くなっちまったし。だから、智鳴へのプレゼントは俺特製のブラシにしたんだ。』

『閃ちゃぁぁぁん!。ありがとう。』


 喜んでくれて良かった。

 もっと女の子らしい物が良いか悩んだんだが、普段使う物の方を優先したんだよな。


『ねぇ。閃ちゃん。この輪っかは何?。』

『ああ。それはな。ちょっと貸してくれ。』


 智鳴の手からブラシと一緒に入れておいたリングを受け取る。

 

『これは、尻尾の付け根に取り付けるんだ。失礼するぞ?。』

『ひゃん!?。』


 智鳴のお尻…いや、尻尾の付け根にリングをはめる。リングは尻尾の太さに自動で合わさり動かすのに邪魔にならないようにしている。


『ちょっと魔力を流してくれるか?。』

『う、うん。』


 智鳴がリングに魔力を流す。すると、リングに埋め込まれた9つの宝石が光を放ち、尻尾全体が包まれる。


『これって?。』

『この魔力が有る限り尻尾が汚れることは無くなるんだ。まぁ、簡易的なバリアみたいなもんだな。智鳴は掃除が好きだろ?。良く尻尾に埃が付いて洗うのが大変だって言ってたからな。魔力を通す必要はあるが、尻尾を汚さないで済むように作ったんだ。』

『閃ちゃん…。』

『でっ、こっちのブラシにも秘密があってな。』


 今度はブラシを受け取り、智鳴の尻尾に宛がう。根元から先っぽまでブラシを走らせていく。


『ひゃぁぁぁあああああ。すっごい気持ちいいね。』

『だろ?。魔力を通すと振動するんだ。軽い力で毛並みを揃えることが出来るし、尻尾のツボを刺激してマッサージにもなる。』

『ふぁっ…。これ…。凄いね…。』


 とろんっ。と目を細めて尻尾からの刺激を受け入れている智鳴。


『軽く水洗いした後に魔力を流せば洗浄も簡単に出来るからな。ついでに、ここを取り外せば同じ効果を持つ櫛にもなる。髪を梳かすのにも使えるぞ。』


 今度は軽い力で髪に櫛を通した。

 すぅぅーーーっと、櫛が走るサラサラな智鳴の髪。頭皮のマッサージも行える自信作だ。

 自分でも試したが、これはクセになる気持ち良さがある。


『どうだ?。気に入ってくれたか?。』

『ぅん。ねぇ。閃ちゃん。』

『ん?。何だ?。』


 僅かに赤くなった頬と、潤んだ瞳。上目遣いで見つめてくる智鳴。色っぽい雰囲気が伝わってくる。


『もっと…して?。』

『ははは。ああ。良いぞ。』


 この後、30分程。智鳴をブラッシングしてやった。

 心地よかったのか、いつの間にか眠っていた智鳴をベッドへ運び静かに部屋を出たのだった。

 なんにせよ。成功だったな。


『さて、次は隣だ。』


 隣の部屋は氷姫。

 

 コンコン。


 …っとドアをノックした次の瞬間。


『うおっ!?。』


 途轍もない速さでドアが開き、物凄い勢いで腕を引っ張られ部屋の中に連れ込まれた。

 餌が罠に掛かるのをひたすら待ち続け、獲物が罠に掛かるやいなや目にも止まらぬ速さで捕食する。そんな昔観た生物の映像が脳裏に流れたね。

 ああ。俺、喰われる側の人間だったんだと気付かされたよ。

 勢いを殺さないまま、俺の身体は宙を舞いベッドの上に落下する。ボフンッと音を立てたベッドが跳ねた。

 そのまま、仰向けで横たわる俺の身体に股がる氷姫…って…。


『何で裸よ…。』


 俺を見下ろす氷姫の姿は下着。真っ白な髪に、真っ白な睫毛と眉毛。真っ白な肌と真っ白な下着。金色の瞳以外真っ白で染まった氷姫。おい、服はどうした?。


『暑かった。』

『お前…リスティナに【熱耐性】のスキル貰ったって言ってただろう…。』

『うん。便利。お風呂も入れるようになった。皆と一緒。』

『それは良かったな…。で?。何でお前は俺に股がっているんだ?。てか、目のやり場に困るから服を着てくれ。』

『気にしなくて良い。むしろ見て。この身体は全部閃のモノ。閃の好きにすれば良い。』

『気にするわっ!。で?。この状況の説明は?。』

『閃。智ぃちゃんの方に先に行った。私。会えなくて寂しかったのに。』

『まぁ。寂しい思いをさせたのは、すまなかった。だが、智鳴の部屋に先に行ったのは智鳴の部屋が手前にあったからだ。他意はない。』

『しかも。智ぃちゃんの部屋から。20分も部屋の前で抱き合って、30分も部屋から出てこなかった。お楽しみしてた。絶対してた。』

『お楽しみって何さ?。』

『私の口からは恥ずかしくて言えない。男女の肉体関係。とは言えない。』

『言ってる。言ってる。だが、俺は無実だ。ただ、押し倒されて匂いを嗅がれた後に智鳴の尻尾をブラッシングしてやってただけだ。』

『私と閃の間に嘘はいらない。30分もあれば閃なら余裕で智ぃちゃんを満足させられる。』

『人の話を聞いてくれ。』

『だから。私は。服を脱いで待ってた。カモン。閃。』

『いや、カモンとか言われてもお前が上にいたら動けない。』

『成程。今の閃は私のモノ。何しても良い?。』

『良くない。って!?。服を脱がそうとするなっ!。』


 その後、氷姫との戦闘は続き。ボロボロになりながらも氷姫に服を着させることに成功する。

 また、30分が経ってしまった。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。ほら。バレンタインのお礼だ。受け取ってくれ。』


 小さな箱を氷姫に渡す。


『ありがとう。でも、貰いぱなしじゃ悪いから閃には私の身体を…。』

『お礼って言ったよな?。』

『むぅ。開けて良い?。』

『ああ。良いぞ。』


 箱の中から出てきたモノは…。


『あ、押し花の栞。』


 氷姫へのプレゼントは押し花をあしらった栞だ。氷姫は読書が好きだから本関係のプレゼントにしようと思い栞にした。


『全部で10枚ある。押し花に使った花の香りがするんだ。ああ。けど、本には香りが移らないようになってるから安心しろよ?。で、極めつけは、この栞を挟んでいる本を中心に3メートル以内になる全ての本の劣化を抑える効果があるんだ。』

『………。』

『どうだ?。凄いだろ?。』

『閃。やっぱり、抱いて。』

『感極まっているところ悪いが、さっきの戦いで時間切れだ。他の奴の所にも行かなきゃならん。』

『むぅ。しくじった。』

『また、今度時間を作るから。その…。』

『ん?。』

『お前がしたいことは、その時な。』

『っ!?。うん。閃。大好き。栞。ありがとう。』


 氷姫の部屋を後にした俺。

 順調に渡せている。反応も上々。作った甲斐があったぜ。めっちゃ頑張ったからな。喜んで貰えると本当に嬉しい。


『次は…っと。』

『やっ!。はっ!。たっ!。』


 道場の中から聞こえる累紅の声。今日も、稽古に励んでいるようだ。


『累紅。』

『え?。あっ!。閃君っ!。』


 声を掛け、俺に気付いた累紅が犬のように笑顔で走って来た。


『どこ行ってたんですか!。全然会えなくて…寂しかったんですよ!。』

『わりぃな。色々と準備してたら忙しくてな。』

『準備?。』

『今、一人か?。』

『あ、はい。そうですけど?。』

『なら、ちょうど良いな。これ。バレンタインのお返し。受け取って欲しい。』

『え?。あっ…ホワイトデー。』


 包装紙にくるまれた箱を受け取り、じっと見つめている累紅。


『これを作る為に?。もしかして、皆に?。』

『ああ。一人一人のことを考えて別々のモノを作ってたら全然暇が出来なくてな。奔走の日々だった。』

『………。閃君…。あ、りが…と…。』


 急に泣き出す累紅。


『お、おい。どうした?。』

『私達の…こと…考えて…くれて…頑張って…くれて…。嬉しくて…。』

『ははは。そんなことか?。俺がお前達のことが好きだから頑張ったんだ。気にするな。』

『…わぁぁぁぁぁあああああん!。閃君!。大好きぃぃぃぃぃいいいいい!!!。』

『だから、泣くなって。いや、泣くのはせめてプレゼント開けてからにしてくれ。』

『ぐすっ。ぐすっ。…うん。開けて良いですか?。』

『ああ。もちろんだ。』


 涙を拭ってから、包装紙を丁寧に剥がしていく累紅。


『あっ…ブレスレット…です。きれい…。』

『ああ。俺が累紅に似合うと思ってデザインした手作りなんだ。気に入ってくれると良いんだが。』

『閃君が…これを?。』

『ああ。』


 累紅へのプレゼントはブレスレット。

 青、緑、黄の三色に輝く3つの宝石が埋め込んである。


『3つの宝石が埋め込んであるだろう?。特別な宝石でな。僅かに魔力を発していて持ち主の魔力、体力、精神力を少しずつ回復させる効果があるんだ。累紅は身体を動かすことが多いからな。邪魔にならないようにブレスレットにした。腕の細さに合わせて自動で調節されるから動きを阻害することはないと思う。』

『…ぐすっ…。閃君…。あり…がと…。大事にします…。』

『ああ。使ってくれると嬉しい。』

『あ、あの…閃君…。』

『ん?。』

『わがままを言っても…良いですか?。』

『ああ。良いぞ。』

『キスして…欲しいです…。』

『お安いご用だ。』


 俺は累紅の身体を引き寄せ軽く顎を上げ唇を重ねた。時間の経過と共に自然に離れた唇。俺は更に腰に手を回し累紅を抱き寄せ再びキスをした。


『閃君。大胆です。けど、嬉しいです。』


 道場を後にし、次の人物を探す。

 アイツは多分…部屋かな?。


 コンコン。


『は~い。』


 部屋の前に行き扉をノックすると、すぐに反応が戻ってきた。


『どちら様ですか…。あっ…。』

『よっ。砂羅。久し振りだな。』

『閃さん…。』


 砂羅は何も言わずに抱き付いてくる。

 勢いはなく、そっと触れるように身体をくっつけて来る感じだ。俺はその身体を受け止め背中に腕を回し片手で頭を撫でる。

 暫く、撫で続けていると砂羅の方から離れ照れた表情ではにかんだ。


『部屋の中にどうぞ。』

『ああ。邪魔するな。』


 砂羅に案内され部屋の中に。

 砂羅の部屋は大人のような落ち着いた雰囲気なのだが、部屋のそこかしこに可愛らしいぬいぐるみが飾られてある。ベッドなんかはズラリと様々な動物が並べられていた。


『こちらにどうぞ。』


 砂羅は俺をベッドに座らすと、対面の位置で床に座る。俺を見上げる形になった。

 砂羅と一緒の時は、いつもこんな感じだ。


『閃さん。何処に行ってた…の?。』


 普段の砂羅は、美緑や累紅の世話を焼くお姉さん的なキャラなのだが、俺と2人きりになると途端に甘えん坊になる。この状態になると兎に角スキンシップと頭を撫でてという要求が増える。

 まぁ、大人な雰囲気の外見で子供のように甘えてくるギャップにやられた俺なのだった。


『ん。ああ。バレンタインのお礼を作ってたんだ。貰った人数分のプレゼントを用意するのに手間取ってな。まるまる1ヶ月くらい掛かっちまった。』

『バレンタイン…ああ。ホワイトデーだぁ。』

『砂羅にはこれだ。受け取って欲しい。』


 一際大きな袋。赤い袋に桃色のリボン。


『わぁ。大きいね。開けても良いぃ?。』

『ああ。良いぞ。』


 砂羅が開けた袋から出てきたのは極大サイズのウサギのぬいぐるみ。


『ウサギさんっ!。凄い。これ何処で?。売ってないよね…今の世界じゃ?。』

『ああ。手作りなんだ。気に入ってくれたか?。』

『うん。とっても。大きいし可愛いね。』


 可愛いモノ好きな砂羅へのプレゼントは砂羅の身体よりも大きなウサギのぬいぐるみ。

 そのぬいぐるみに抱き付いている砂羅の方が襲われているように見える。


『これ抱き付いたまま寝れるね。』

『ああ。しかも、このぬいぐるみには隠し機能が備わっておるんだ。』

『隠し機能?。』

『ああ。ぬいぐるみに背中を向けて並んで立ってみろ。』

『う、うん。』


 言われた通りにぬいぐるみに背中を向ける。


『さぁ!。【装着】と叫ぶんだ!。』

『装着っ!!!。えっ!?。きゃっ!?。』


 次の瞬間、ぬいぐるみの瞳が光。前部が開き砂羅の身体はぬいぐるみの中に呑み込まれた。

 ぬいぐるみの口が開くと中から砂羅の顔が現れる。


『どうだ?。題して 着れるぬいぐるみ だ。軽い素材で作ってあるからな。そのまま動いても大丈夫だぞ。』

『わぁ。中がモフモフ。私…ウサギになった。』


 完全に着ぐるみ状態の砂羅が楽しそうにベッドの上をゴロゴロと転がっている。…可愛い…。


『凄いね。これ、物も掴める。』

『ああ。特殊な素材で作ってある。手のひらから物に吸い付く性質を持った魔力が出るんだ。装着者の意思で自由に掴んだり離したり出きるぞ。』

『ふふふ。ありがとう。閃さん。私、凄く気に入りました。ずっと大事にします。いえ、宝物にします!。』

『ああ。気に入ってくれて良かった。ああ。ホ因みに、脱ぐときは【キャストオフ】って叫んでくれ。』

『うん。キャストオフ!。』


 その言葉に反応し、ぬいぐるみの前部が再び開き砂羅が出てくる。

 

『閃さん!。ありがとう。』


 嬉しそうに抱き付いてくる砂羅。

 初めて出会った時とは、印象が違うけど。素の子供のような姿も彼女の魅力の1つだろう。

 まぁ、彼女には口止めされているが…。


『ああ。砂羅。おいで。』

『…うん。』


 砂羅を抱き寄せ軽く触れるか触れないかのキスをする。唇が離れると、砂羅が頭を向けて来たのでその意図を察して優しく撫でた。

 目を細め、撫でられることを堪能している砂羅。その愛らしい表情に俺はもう一度キスをした。


『また、来るよ。』

『うん。待ってるね。』


 最後は着ぐるみを装着した砂羅が見送ってくれた。


『満足してくれたみたいで良かったな。ただのぬいぐるみにするか結構悩んだが、選択は正解だったみたいだ。』


 砂羅の部屋を出て次に向かうのは…。

 順当な流れで言えば美緑か。部屋も隣だしな。

 俺は美緑の部屋の扉をノックしようとした。…その時だった。

 一瞬にして身体に巻き付いた布に自由を奪われる。

 こ、これ…母さんの神具!?。


 つつ美母さんの神具。

 【束縛封魔吸布】

 魔力を吸い対象の動きを封じる長い布。


 布に巻き付かれた身体は抵抗の自由も奪われ何処かへ連れ去られた。

次回の投稿は12日の日曜日になる予定です。

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