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第144話 カナリア

 その日の朝はいつもと違った。

 早朝ランニング終え、汗を流して着替え終わった。

 そのタイミングで突然、部屋に押し寄せて来たリスティナに連れられ黄華扇桜の支配エリア境界に来ていた。

 リスティナが部屋に飛び込んだと同時に感じた途轍もなく巨大で人ではない気配。

 その正体が、今、目の前に居る2人の男女だ。いや、この気配の持ち主は女の方だ。

 それに隣で女に身体を支えられ気絶している男には見覚えがあった。


『さて、いきなりの訪問だね?。君は誰だい?。』


 俺よりも先に駆け付けていた無凱のおっさんが女に質問をする。

 女の異様な気配に駆け付けたこの場にいるメンバーは、無凱のおっさん、俺、神無、無華塁、つつ美母さん、そして、リスティナだ。


『あなた達がクロノフィリアの人達で合ってる?。』

『そうだね。それを知っている君は?。気配からして只者じゃないよね?。あと、そこでボロボロになって気絶してるのは…確か、青嵐君だね。』


 そうだ。六大ギルドの1つ。青法詩典のギルドマスター 青嵐。何故、奴がボロボロになって気絶しているのか?。


『ああ。自己紹介だね。私はカナリア。君達で言うところの神様だよ。』


 その時、俺の身体の中からラディガルが飛び出した。


『おいっ!?。急にどうした!?。』

『主様。気を付けろ。コイツ…俺を操っていた連中と同じ匂いがする。』


 全身に雷を纏い威嚇するラディガル。

 ラディガルを操っていた連中といえば…。


『クリエイターズか。』


 俺の言葉に仲間達に緊張が走る。

 全員が臨戦態勢に移行した。


『ははは…。そうだよ…。私は 元 クリエイターズなんだよ。』

『元?。』

『そっ。絶賛裏切り中なので…。』


 頭を掻きながら溜め息をするカナリア。

 何か訳ありか?。


『リスティナ。アイツは本当にクリエイターズなのか?。』

『間違いない。妾の本体から受け継いだ記憶にもアヤツの存在を確認できる。』


 リスティナが言うなら間違いないのか。


『青嵐…。彼はどうして気絶してるのですか?。そんなボロボロになって…片腕まで失ってるようですが?。』


 どうやら、他の奴等も集まって来たようだ。

 時雨、裏是流、白、基汐、光歌、仁さん、賢磨さん、叶さん、幽鈴さん。


『彼は私を助けてくれたんだ。追手に追われてるところをね。』

『ねぇ。もしかして。神様?。』

『ん?。あ、無華塁ちゃんじゃん。やっほー。久し振り~。』


 無華塁の存在に気付いたカナリアが手を振っている。


『知り合いか?。』

『うん。リスティナの宝石のこと。大会が開かれること。色々教えてくれた。鳥さんと同じ声。神様。』

『ああ。言ってたな。そんなこと。じゃあ、アイツがお前に色々助言をしてくれてた奴なのか?。』

『うん。』


 無華塁が言うなら確定だな。


『ピンポーン。正解です。』

『それで、何の用でここに来た?。』

『………。私達のこと。君達にこれから起こること。私が知っている全てを伝えるために…。』


 今まで浮かべていた笑みが消え真剣な表情を作るカナリア。


ーーー


 一応、危害はないと判断した俺達は喫茶店にカナリアを連れていった。他の主要メンバーも呼びクロノフィリア全員が集合した形となった。

 傷を負い気絶していた青嵐は別室で寝かせてある。傷の方は睦美のスキルで癒したのだが体力の回復には時間が掛かるようだ。


『なぁ。旦那。本当にアイツが敵の1人なのか?。』

『元…らしいがな。今は仲間を裏切って逃走。俺達に助言をするために逃げてきたらしい。』

『へぇ…。確かに俺が戦ったアイツと似た魔力を感じるな。』

『ええ。アイツの仲間だった神の1人。主様。決して油断しませんように。』

『ああ。ありがとう。神無。大丈夫だ。敵意は感じない。』


 現在、カナリアを囲む形で俺達は座っている。

 リスティナ曰く、クリエイターズレベルならば妾で抑えられると言っていたので、すぐ横にリスティナ配置した。


『えっと…話しても良いかな?。』

『ああ。だが、少しでも怪しい動きを見せたら分かってるな?。』

『うん。分かってるよ。最初から私は君達と争うつもりはないしね。こほん。』


 小さく咳払いをするカナリア。

 ついに…敵の全貌が明らかになるのか…。


『まずは改めて自己紹介するね。私はカナリア。エンパシスウィザメントを作ったクリエイターズの1人だよ。証拠を提示するね。』


 すると、カナリアは立ち上がり突然歌い始めた。

 綺麗な透き通る歌声が喫茶店に響く。


『にぃ様…これって…。』


 灯月を含めた全員が驚いた。


『ああ。エンパシスウィザメントのオープニングテーマだ…。しかも…。』

『本物…。』

『ふふ。』


 歌うカナリアが灯月を一瞬見たような気がしたが…気のせいか?。


 忘れる訳がない。

 アーティスト不明の人気曲。ランキングでは、様々な人気アーティストを抜き去り1位を独占した。その人気はゲーム人気に拍車を掛け、ゲームプレイヤーを急激に増加させた要因の1つでもある。

 誰が歌っているのかも分からない。しかし、歌声は、まるで神や天使が歌っているのではないかと噂されるほど人々の心を釘付けにしたのだった。


『文字通り 神 が歌ってたわけだ…。』

『はい。そうなのです!。私はエンパシスウィザメントの主題歌と挿入歌、エンディング曲担当、【言霊の神】。カナリア。惑星に寄生して、そこに住む生命を奪う神 【グァトリュアル】が生み出した【神兵】が一柱だよ。』


 【神兵】は分かる。以前にリスティナから聞いたからな。クリエイターズと呼ばれている8体の神。そいつらを呼称する言葉だ。だが…。


『グァトリュアル?。』

『この世界の宇宙で最初に誕生した絶対神。全ての星を生み出した神だよ。』

『絶対神…。』


 その言葉には聞き覚えがある。

 神兵と同じくリスティナの説明にあった名だ。その絶対神の名前か…。


『私達は…。いえ、違う。あの方は、数多くの星を生み出した存在。そこにいるリスティナさんの星も、本を正せばグァトリュアル様が創造したの。』


 つまりは、そいつが全ての始まり。


『グァトリュアル様の命令で私達クリエイターズは、このバーチャル世界を作り出した。』


 バーチャル世界。

 クリエイターズからすれば、この世界は創作物に過ぎない。この世界の豊かな自然も満天の星空も川も海も大地も…俺達人間も…。彼等にとってデータでしかない。

 しかし、現実にこの世界で生きている俺達にすれば、この世界こそが全てなんだ。カナリアの言う言葉には僅かながらに苛立ちを覚える。


『その絶対神は何故この世界を創るように命令したんだ?。』

『それは、私達にも分からない。あの方の考えは私達には教えられないの。神兵はそういう存在。上の存在の命令を速やかに遂行する駒でしかないの。』

『上と…いうのは、あのドレスを着た女も含まれるのか?。』

『ドレス…ああ、アイシス様だね。うん。私達の上には【絶対神】のグァトリュアル様を頂点に【神王】と【神騎士】が存在するのアイシス様は神騎士の一柱。』

『アイシスか…。ソイツ等は、リスティナの話しに出ていた7体の男女と8つの脳の奴で合っているのか?。』

『ああ。リスティナさんはそこも話してくれたんだね。説明する手間が省けるよ。』

『ふむ。なかなか強烈な場面だったからな。あれは忘れん。』

『ははは…。うん。その8つの脳が私達クリエイターズ。肉体を与えられてない存在。』

『与えられて…ない?。』

『そ、グァトリュアル様が正式な部下として生み出したのが2体の【神王】と4体の【神騎士】。私達はただの雑用係なんだ。都合の良い時だけ仮初の肉体を与えられて…任務が終われば再び身体を失う。それが私達。』

『………。』


 何か…辛くね?。その話?。

 一気に責め立てようとしたんだが…クリエイターズ連中の存在理由を聞いた今…何とも言えない空気が流れてるんだが?。


『リスティナさんに色々聞いてるなら一気に本題に入っちゃうね。君達も知っていると思うけど。この世界は、誕生から終焉を繰り返すだけの偽りの世界。既に数億を越える回数の誕生と終焉を繰り返してるんだ。そう創られてるからね。』

『目的は…分からないんだよな?。』

『うん。創れと命じられた私達にはね。ただ、人間という仮想種族の成長と進化を、記録と記憶するシステムで動いているの。それで、現在は、その数億回の繰り返しの中で初めてイレギュラーが発生してしまった世界でもある。』

『リスティナの魔力か…。』

『うん。リスティナさんの魔力の影響を受けてしまった。これは、計画そのものが破綻しうる可能性を持つイレギュラー。人間という存在が人間でなくなってしまうから。』


 追い詰められ苦し紛れの嫌がらせ。

 リスティナにとっては、そんな感情で起こしたこと。しかし、彼女達にとっては、絶対神からの命令が進行できなくなる事態だった。

 そこに彼等は焦った。


『私のバーチャル世界での役割は人の感情のバランスを保って安定した社会を作ること。』

『1つ、質問良いかな?。』


 ここで無凱おっさんが質問する。


『うん。どうぞ。』

『君が僕達に手を貸してくれる理由を先に聞いてもいいかい?。』


 確かに、そこは最初に知っておきたいところだ。真実にしろ、嘘にしろ…カナリアの目的が不鮮明のままだと信用出来ない。


『そうだね。先に理由を話しておくね。ちょうど説明しようと思ってたところだよ。ちょっと長いけど我慢して聞いててね。』


 カナリアはリスティナの顔を見る。


『私達がリスティナさんの魔力が世界に侵入したことを知ったのは、クロノフィリアの方々がゲームを…ゲーム内にいたリスティナさんを倒した後だった。』


 リスティナは完全に雲隠れしており、カナリア達にも居場所が分からなかったのだという。

 カナリア達の目を盗み、俺達を鍛えてくれていたのだから。


『クティナちゃんを倒したところまでは、クロノフィリアの皆さんを私達は追跡できていた。けれど、突然私達の索敵から外れてしまったの。』

『妾が編み出した空間だ。そう簡単に見つけられんぞ!。』

『うん。結局、最後まで私達は君達を見付けることが出来なかった。そして、この世界はリスティナさんの魔力に侵食されたの。』


 この世界が、奴等にとって途轍もなく重大なモノだということは分かった。絶対神はこの世界で何をしようとしていたのか…。


『この世界の住民である人間に、エンパシスウィザメントで使っていた肉体のデータが反映されてしまった。それは、リスティナさんの魔力が侵入したことによる影響。』

『お前達にとってリスティナの魔力はどんな危険があるんだ?。』

『この世界の人間は数億回のシュミレーションを繰り返す度に性能を微調整していたの。感情、肉体能力、頭脳とか色々ね。今回の調整は今までで一番上手くいっていた。大きな戦争も数えるくらいしか発生しなかったし、大量殺戮兵器も作られなかった。』


 大量殺戮兵器?。

 耳に馴染みのない単語。いや、ドラマや小説、アニメなどの媒体では度々登場してたフィクションの武器だ。エンパシスウィザメントには、広範囲の相手を一度に倒すスキルが人気だった。豊華さんの指輪のように。だが、あくまでもフィクション、創作だ。そんな兵器はこの世界に存在しない。


『科学レベルは、今までの歴史と遜色なかった。一番の成果は、科学の向上を戦争の引き金にしなかったこと、武器としての運用がされなかったことなんだ。』

『確かに、戦争自体が稀だった。歴史を紐解けば国同士の大きな戦争は10回にも満たない。』


 もちろん、小さな争いは多い。

 歴史でも部族・民族間、宗教間などの戦いは行われていたし、大きな戦争といっても使用された武器は、銃や刀剣、精々が爆弾や地雷だ。物語の中のような核兵器や毒ガスなどは登場しない。


『繰り返したシュミレーションの中で、人間を最も多く滅亡へと陥れたこと。それが、人間同士の争いなの。核戦争の勃発は良い例だね。宇宙に進出しても戦争を止めない時もあった。宇宙人に滅ぼされた世界もあったしね。』

『つまり、君達は人間という種族が滅びない世界を模索していた。そういうことかい?。』

『そう!。正解だよ!。人間という種族が永遠の時を、争わず…幸せに暮らせる世界を模擬実験で創り出せ。少しでも長い時を…平和な世界を…。って言われてシュミレーションは開始したんだ。』

『それは…。』


 つまり、彼等…いや、絶対神が求めたのは争いのない平和な世界?。

 だが、彼等はリスティナの星を侵略し、他の惑星…リスティナの姉妹を滅ぼしたのだ。

 

『何がしたいんだ?。』

『私達が他の星を侵略する理由だね。それは、グァトリュアル様が生み出した全ての星は私達の餌として生み出されたからだよ。』

『餌…。』

『独自の進化を遂げて生命を宿す星もあったけどね。星は私達の技術に必要な素材を確保するためと、安定した環境で実験する場所の確保を理由に生み出されたの。』

『じゃ、じゃあ、妾達は…最初から 喰われる という目的を持って創られた…そういう…ことか?。』

『そう。そこに貴女の意思は関係ない。そういう存在、それがリスティナさんを含めた星の神に与えられた使命と宿命なの。』

『………。』


 この全ての世界は絶対神の生み出したサイクルで回っているということか?。


『それで、今の説明では君が僕達に手を貸す理由が分からないままだよ?。』

『あっ!。ごめん。ちょっと話がずれちゃったよ。えっと…簡単な話…私があなた達人間を好きになっちゃったから…かな?。えへへ。』


 頬を赤く染めてカナリアが言う。


『こほん…えー。リスティナさんの魔力が、この世界に及ぼした影響は、皆も知っての通りエンパシスウィザメントの能力が使えるようになったこと。それは、争いの火種になりかねない事柄だった。』


 スキルとは、その殆どがエンパシスウィザメントの中で モンスターと戦う為の手段 として俺達に与えられたモノだ。つまり、戦闘に用いる最善の手段としてクリエイターズが与えたもの…。


『それに気付いた私は何とかリスティナさんの魔力を取り除かないと…と、焦ったんだよね。魔力の性質すら理解できてない状態で…。人間という種族を管理していたシステムに対して、外部から侵入したウィルスを撤去してと命令してしまった。』 


 カナリアは人間の感情を管理していた…。


『結果は能力を使用した争いの加速。ウィルスを撤去するために様々な理由で発生する無差別の破壊衝動。今までなら我慢出来ていたことでも、感情の高まりが抑えられなくなって相手を攻撃してしまうようになってしまった。』


 最初は小さな火種だった。

 しかし、その火種も集まれば瞬く間に燃え広がり世界中に拡大していった。


『一度、爆発した人間の感情は止まることを知らない。それが分かった時…既にこの世界は取り返しのつかない惨状に成り果てていたの。それはシステムでも抑えられない程に…暴走…うん。制御を外れた暴走状態に陥ってしまったんだ。あっ…この時に暴走した人間のデータを集めて改造したのが【バグ修正プログラム】なの。』


 ははは…と渇いた笑いの後、この世界は終わったんだ。…っと…カナリアは悲しい表情を見せた。


『本当に今のこの世界は上手くいっていたんだ。今までにないくらいね。人々は小さな争いはするけど、心には常に相手に対する優しさや思いやりを持っていたし、人を傷つけることを嫌う人が多かった。人々の笑顔や様々な愛の形、私では手に入れられないものをいっぱい見せてくれた人間を…私は好きになったの。それが例えデータ。私達が作り出した神工知能だったとしてもね。何度も繰り返して学んで、成長して…ああ、やっとここまで育ったんだなぁって嬉しかったんだ。…けど、私が全部…台無しにしちゃったんだ…。』

『…それは…妾のせいではないか?。妾が原因であろうが?。』

『ううん。違うよ。私は他のメンバーより多くの人間を見てきたから知ってた。生命の感情は星の神である貴女も一緒、いえ、生み出した神が持っているモノだからこそ、生み出した生命に宿るモノなんだよ。生命は神に似るってね。リスティナさんが生み出した生命達は…皆生きることに必死だった。そこには仲間を思いやる優しさや、勇敢さ。心に宿る力強さがあった。私が理想とした形の命がね。だから、リスティナさんが必死に私達に抗っていたことも理解できるの。自らが生み出した生命を守るためにね。』


 カナリアを含む神達は絶対神の作り出した、謂わば食物連鎖の頂点だ。そこに感情の入る余地はない。ただ、自分の食事の為に生み出したモノを食べていただけ。

 そして、リスティナは生きる為に捕食者に抗っただけ。

 俺達もだ。襲い掛かってくる敵がいる。殺されたくない。生きていたい。普通の生活を望んでいるから戦っているだけ。


 全員に罪はない。


『話を戻すね。この世界を仮にリセットさせるとするでしょ?。』

『リセット?。』

『データを初期化するってこと、この中の住民視点で言えば世界の崩壊だね。星、いえ宇宙が消滅し、また ビッグバン からやり直すの。それをこの世界は数億回繰り返してるんだよ。』

『それを人為的…いや、神為的に起こすということか?。』

『そっ。あ、仮にだよ?。この場で起こすとするでしょ?。けど、その場合でもリスティナさんの魔力は消えないの。』

『リスティナの魔力が消えない…つまり、また能力者が生まれるってことか?。』

『そう。当たり。それは結局何の解決にもなってないの。また争いが発生する。いいえ。むしろ今回の世界よりも酷いことになるかもしれない。それをクリエイターズは解決するために今まで動いていたの。』


 奴等が俺達を排除しようとしている理由か。


『この世界からリスティナさんの魔力を取り除く方法は1つ。媒体となった人間と増殖して感染したデータを持つ人間を修正プログラムが打ち込まれたモノで殺すこと。』

『っ!?。』


 全員が息を飲む。


『媒体となった人間…は、俺だよな。』

『うん。閃君だったよね?。君がリスティナさんの魔力をこの世界に散布している元凶だよ。』

『だよなぁ…。で、その感染した奴っていうのが…。』


 俺は全員を見渡した。


『そう。クロノフィリアの皆さんです。』

『………。』


 言葉を失う面々。静寂が訪れた店内。


『これから、残りのクリエイターズ、六柱は全力であなた達を排除しに来る。まだ、少し時間はあると思うけど…私に出来るのは彼等の能力を教えることだけ…いいえ。その為に私はここに来たの。』


 力強く俺達を見つめるカナリア。その瞳は俺達を守りたいという意志が感じられた。


『クリエイターズは、何故本格的に攻めて来ないんだ?。いや、今まで来なかったんだ?。』

『それは、リスティナさんの力を得たクロノフィリアの皆さんが予想を越える強さを持っていたから。』

『神であるクリエイターズが躊躇したってことか?。』

『うん。そうだなぁ…。レベルで言えば君達は150でしょ?。』

『ああ。』

『私達は当時、レベルで言えば120程度の力しか持っていなかったの。てか、それ以上の力を想定していなかったって感じだね。』


 俺達はリスティナの加護を得てレベルは150。クリエイターズよりも強い力を手に入れていたことで手出しできなかったということか。


『この世界の人間は、設定上レベル120が最大値で作られていたの。それ以上のレベルはデータの許容量の範囲を越えてしまう。【バグ修正プログラム】で人格が崩壊するのはそれが原因なんだよ。本来なら、レベル150なんてあり得ないことだから。無理矢理容量を詰め込もうとして壊れちゃうんだよ。』


 リスティナの魔力の影響はクリエイターズの想像を遥かに超えていたのか。


『この現象を情報を集めて調べる。そして、解析と分析を繰り返す時間が必要だった。君達を排除するためにね。その為に、他の能力者や白蓮君達を利用したんだ。そして、少し前の君達と白蓮君との戦いで全てのデータが揃ったの。』

『それってつまり…。』

『うん。君達を排除する準備段階は終了した。あとは、残りのクリエイターズのメンバーがこの世界への干渉率を上げれば…。攻めてくるよ…。本格的にね。』

『なぁ。その干渉率って何だ?。俺が戦った黒いコートの男も似たようなことを言ってたが?。』


 煌真がカナリアに問う。


『ああ。その説明がまだだったね。話すことがありすぎて順番が滅茶苦茶になりそうだよ。ははは…。』


 カナリアが煌真を見る。 


『もう説明した通り、この世界はデータなんだよ。つまり、現実世界の私を含めたクリエイターズの肉体…ああ、違う。本体の脳は、今もリスティナさんの星にある。意識だけをデータ化して仮想の肉体に送信するのは結構大変なの。それを受け取って仮想の肉体を本来の力に近づけることを干渉率って言ってるだけだよ。』

『へぇ。成程ねぇー。』

『彼等の準備は干渉率100%になった時点で終了する。出来ればそれまでに戦力を整えて対策を練って欲しいんだ。』


 100%でない状態でも煌真と神無を圧倒したと聞く。ソイツ等が数人で襲って来るのか…。


『今はアイシス様もいる。彼等の戦力は確実に上がってるよ。』


 アイシス。クリエイターズを率いる【神騎士】の少女。


『アイシス様の力はクリエイターズ全員でも傷1つ付けられない強さ。絶対1人で挑んじゃダメだよ?。』


 クリエイターズは全部で8体。

 1体でも煌真と神無を圧倒しているのに、その8体でも相手にならないのか?。もうソイツがバグだろう…。


『けど、悲観的にならないで。こっちにはリスティナさんがいる。』


 全員の視線がリスティナに集中する。


『ふっ。ついに妾が動く時が来たか!。』


 胸をはるリスティナ。


『リスティナさんの力なら、今の分身体の状態でも、仮に100%の干渉率になったアイシス様も倒せる。』


 それは心強いな。俺達では手も足も出ない存在が相手でもリスティナなら突破出来るってことだ。


『けど、そんなことは彼等も承知の事実。絶対対策をしてくるはず…だから、油断だけはしないで…。』

『ああ。心しておくよ。』

『うん。お願いね。』


 ニコリと笑うカナリア。

 ふと、何かを思い出したかのように表情が曇る。


『私は君達に死んでほしくない。私が引いてしまった引き金の代償は今話したことを君達に伝えることしかないと思ったの。だから、出来得る限り手助けをした。けど、すぐに他のクリエイターズ…仲間にバレちゃったからさ。バレないように隠れ潜んで情報を集めながら無華塁ちゃんや、代刃ちゃん達に接触したの。』

『え!?。僕達…。』

『もしかして…代刃ッチが会ったって言ってた機械ッスか?。』

『ああ。リスティナさんの宝石の在処を教えてくれた方ですわね。』

『そう。だよ?。直接動けば仲間達に見つかっちゃうからね。機械を使って間接的且つ短時間の接触を繰り返したんだ。リスティナさんの宝石は魔力が強すぎて私達は直接触れられなかったから君達に伝えることを優先したの。』


 カナリアは俺達に情報を伝える為だけに仲間を裏切って追われていたのか…。


『私がここに来る前…最後にしたのは、青嵐君達にリスティナさんのことを伝えること。彼等はリスティナさんを信仰していたのは調べていて知っていたからね。白蓮君がクリエイターズと手を組むことを話した時、真っ先に袂を別ったのも彼等だったから。彼等にとってリスティナさんは本当に神様なんだよ。』


 すげぇな。だから、白聖との戦いの時に青法だけ居なかったのか…。


『君達には少しでも戦力を増やして欲しかったからね。彼等にリスティナさんが顕現したことと居場所。クロノフィリアとの関係を話したらすぐに向かってくれたよ。』

『だが、それならどうして青嵐は傷だらけなんだ?。他のメンバーは?。』

『青嵐君達に接触して別れた後、私達はアイシス様に見つかっちゃったんだよね…。実は私のお兄ちゃん…ナリヤっていう私と同時期に作られた同じクリエイターズが居たんだけど、私をここに来させる為にアイシス様の相手を引き受けてくれたの。けど、アイシス様には時間稼ぎにもならなかった。そこに青嵐君達が戻ってきて援護してくれたんだ。何とか、足場を崩してアイシス様の足止めする事に成功したんだけど、私は一番近くにいた青嵐君しか救えなかった…他の人達は…きっと…。』


 殺された…んだろうな…。


『じゃあ。俺達の敵は残りのクリエイターズ6体と、アイシスって女か?。』

『そういうこと。じゃあ。彼等の能力について教えてあげるね。』


 その後、カナリアの口からクリエイターズの連中の能力が語られた。


ーーー


『本当に行くのか?。俺達の仲間になってくれても良いんだぞ?。』


 全ての説明が終わった後、カナリアと俺達は外にいた。

 もう私に出来ることは全てやったからこの場を離れると言い出したのだった。


『ううん。私は追われてるからね。現状で君達を彼等に接触させる訳にはいかないから。』


 俺達の誘いを断ったカナリアは軽く微笑むと走り出し夜の闇に消えていった。


『ばいばい。クロノフィリアの皆さん。どうか、死なないで…幸せな未来を掴み取ってね。』


 それが、カナリアの別れの言葉。

 その言葉には、俺達への愛情に似た感情が隠っているように感じた。

 彼女にとって人間は自分の子供そのものなのかもしれないな。


ーーー


『ふぅ…これで、私の出来ることは終わりかな?。』

『ええ。お勤めご苦労様。貴女の役割はここで終わりよ。』

『ぐっ!?。』


 胸を襲う急な激痛。

 大量の血液の噴出と、風穴の開いた胸元。ちょうど人間でいう心臓の部分。神である証【神核】が抉り取られた。


『はぁ…はぁ…カナ…リア…様…。』


 全身の力が抜け、近くにあった大木に背中を預けてそのまま座り込んだ。目の前には美しい満月を背にし、此方を見下ろす美しい少女。右手には私の神核が握られている。

 そして、左手には。


『感謝して欲しいわ。これ、この世界だと光になって消えてしまうのね。私の魔力で包んで消えないようにしておいたわ。』


 これ と呼ばれたモノが私に投げ渡される。


『あ、ああ…ナ…リ…ヤ…。』


 ナリヤ…私をかばってくれたお兄ちゃんの変わり果てた頭部だった。

 渡され腕の中に納まった瞬間、アイシス様の魔力が消失。光の粒子となり消滅が始まった。


『貴女はアレ等を裏切ったのでしょう?。これは報い。と、私なりのお情けよ。精々、残りの時間を兄妹で過ごすと良いわ。』


 そう言い残しアイシス様の姿は消えた。


『けほっ…。けほっ…。』


 口の中に広がる血の味。


『お…兄ちゃ…ごめ…ね…。わた…の…がまま…に…つき…せちゃ…て…。でも……たし……でき…こと…ぜん…きた…よ…。』


 手足の先から徐々に感覚が消えていく。

 私の身体も光になって消え始めてるんだ。

 感覚が失くなる前にナリヤの頭を強く抱き締める。

 お兄ちゃん…。私…頑張った…よ…。


『…ほ…めて…ほし…な…。』


 もう…身体に力が入らないや…。

 綺麗で美しい月も見えない…少し五月蝿かった虫の声も聞こえない。暗闇の中を浮かんでる感覚…。


 沈んでゆく意識の中、最後に思い出される少女の顔…。灯月ちゃんか…。

 私のデータを基に作られた神工知能。

 私が真っ先に探した少女。閃君…お兄ちゃんに恋愛感情を持ってる娘…ふふ。やっぱり私に似てるね…。


 灯月ちゃん…お兄ちゃんと…幸せになってね…。

次回の投稿は5日の日曜日を予定しています。

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