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第143話 裏是流と白

 最近…白の様子がおかしい。

 僕が話し掛けようと近付くと肩をビクッと跳ねさせて逃げていくんだ。

 いつもなら、僕の方が逃げる側なのにね。

 でも、ある程度離れるとピタッと足を止めて戻ってくるんだ。

 ほら、今も物陰から僕のことを見てるし…。


『ねぇ。時雨は白のことどう思う?。僕何かしたっけ?。』


 喫茶店内の奥にある食堂でカレーライスを食べながら向かいの席に座る時雨に尋ねた。

 僕の質問にオムライスを食べていた手を止めた時雨がチラリと物陰から此方を窺っている白を見る。


『そうね…。まぁ、心当たり…は…あるわ。』

『え?。そうなの?。僕全然分からないんだよね。僕が何かしたなら謝りたいし、悩みがあるなら相談してくれれば聞くのにさ。あんな一定距離を保たれたら、こっちから聞きづらいし。』

『あの、裏是流?。気付いてないの?。』

『え?。何に?。』

『………。こほん。お2人は幼馴染みだよね?。』

『あ、うん。そうだよ。もう生まれた時から家が隣同士、親同士も親友同士、学校もクラスもずっと同じ。だから、もう兄妹のように育ったんだよ。』

『へぇ。凄い。』

『ずっと一緒だったからさ。いっつも世話を焼いてくるし、すぐ怒るし、勉強しろって五月蝿いし…だったなぁ。』

『はぁ。成程。そういう環境で育ったのね。納得だわ。』

『え?。どこ行くの?。』


 何に納得したのか?。オムライスの最後の一口を食べ終え立ち上がる時雨。


『少し用事を思い出したわ。席を外すわね。』

『え?。ああ。はぁ…。うん。』

『ふふ。裏是流。ご飯粒、ついてるわ。』


 僕の口の横に付着していたらしい小粒を指で摘まむとそのまま自分の口に運ぶ時雨。

 遠くの物陰からガタッという音がしたような?。


『先に部屋に戻っていて。』

『うん。わかった。』


 そのまま食堂を出ていく時雨。

 その後ろ姿を眺めながら先日、風呂場で基汐に言われたことを思い出した。


『近い内、白の方から話しかけてくる時が来る。その時は、白に真剣に向き合ってやれ。』


 だったかな?。

 白は何を悩んでいるんだろう?。白が元気じゃないと僕もモヤモヤするし困ったね。

 って…ああ、もしかして…あれのことかな?。

 だったら、僕も覚悟を決めないとね。


ーーー


 裏是流のほっぺのご飯を…時雨ッチがパクって…パクって…食べてたッス!?。

 羨ましいッス…。ズルいッス…。


『最近…白は…変ッス…。』


 裏是流とお話したい、お世話したいと思ってる気持ちが強くなってるのに、いざ目の前に裏是流がいると、胸がドキドキして言葉が出てこなくなるッス…。

 結果として逃げちゃうッスから…裏是流に変な娘だって思われてるかもしれないッス…。


『はぁ~。どうすればいいッスか…。基汐さんに言われたのに全然出来てないッス…。』


 基汐さんに言われた言葉。


『今度で良い。落ち着いたら裏是流と2人で話してみろ。もちろん、真剣にだぞ?。照れ隠しや、逃げるのも無しだ。それを踏まえて心の準備が出来たら、お前の素直な気持ちをそのまま裏是流に伝えてやれ。アイツなら白が真剣だと気付くし、その時は逃げないから。そうすれば、必ず良い答えが出てくる筈さ。そのモヤモヤを晴らすな。』


 白の…。


『素直な…気持ち…。』


 裏是流…。


 ふっ…と我に返るとさっきまでカレーライスを食べていた筈の裏是流がいなくなっていた。

 ああっ!?。きっと食べ終わって食堂から出ていっちゃったッス!。早く追わないと!。


『白…少し良いかしら?。』

『はぅわ!?。』


 突然背後から掛けられた声に驚いて振り返るとそこには先に食堂から出ていった筈の時雨ッチがいた。


『あ、時雨ッチ…。』


 時雨ッチは裏是流と恋人になったッス。

 遠くから見ていても分かるッス。この人は裏是流が大好きってことが。

 裏是流といる時の、時雨ッチの目は優しいお姉さんみたいな感じッス。


『少し、お話良いかしら?。』

『え?。あっ…大丈夫ッス…。』


 珍しいッスね。白に時雨からなんて。

 時雨ッチに案内されて時雨ッチの部屋に。まぁ、隣は裏是流の部屋で、その隣が白の部屋ッスが。


『単刀直入に聞くけど、白。裏是流のこと好きでしょ?。』

『ッス!?。』


 いいいいいいいいいいきなり何を言ってるんッスかぁぁぁぁぁあああああ!?。


『ついでに追加すると、私のこと羨ましいとか、ズルいって思ってるでしょ?。』

『………。』


 改めて言葉にして言われると不鮮明だった自分の心が明確な形となっていくのがわかる。

 そうッス…。2人が仲良くしているのを見ると、胸がモヤモヤしてたッス…。それは、羨ましいや悔しい、ズルい、寂しいとかの負の感情の集合体。

 朝起こしに行ったり、一緒に遊んだり…休日にはずっと一緒に居たり…。昔から幼馴染みで距離が近かった白がしていたことを今では時雨ッチがやっている。

 当然ッス…時雨ッチは今では裏是流の恋人なんすから当然の行動。

 それが、どうしようもなく羨ましくて、見ているのが辛かったッス…。


『そ、そうッス…ね。白は、裏是流が好きッス。そんな裏是流の恋人の時雨ッチに嫉妬してたッス。でも、何で分かったんスか?。』

『それは、あからさまに私に向ける視線に嫉妬の感情が乗ってたもの。裏是流のこともずっと見てたみたいだし。』

『………。』

『ねぇ。』

『?。』

『その気持ち…秘めたままにしておくつもり?。』

『…それは…。』

『私は別に構わないわよ?。裏是流は私の恋人。私一人で満足させて見せるわ。』

『っ!?。』

『ふっ…。ははは…。』


 突然、笑う時雨ッチ。


『白。』

『はぇ?。』


 時雨に抱きつかれたッス!?。

 何?。どういうこと?。


『もう、貴女の中で答えは出てるんじゃない?。』

『答え?。』

『ふふふ。今の貴女の顔、凄かったわよ?。私の裏是流を取らないでって。私に敵意丸出しで。』

『え?。え?。白…今…そんな顔してたッスか?。』


 完全に無自覚。

 時雨ッチは仲間。そんな彼女に向けて良い顔ではない。そんなこと分かってる…筈なのに?。


『告白なさいな。』

『…こく…はく…。』

『素直に自分の気持ちを彼に伝えなさい。じゃないと…。』

『?。』

『彼は永遠に私 だけ のモノよ?。』

『っ!?。そんなの嫌っ!?。』

『ふふふ。ほら、答え出たじゃない?。』

『あ…。』

『ほら、思い立ったが吉日。行きなさい。』

『はにゃ!?。』


 私のお尻を叩く時雨ッチ。

 白を裏是流の元へ誘ってくれているッスね…。


『あ、あのぉ。』

『何?。』

『ありがとうッス!。』

『…良いから行きなさい!。』


 顔を赤くする時雨ッチ。

 嫉妬ばかりしちゃったッスけど、白は恋する乙女全員の味方ッス。それが、例え白と同じ男性(ひと)を好きになった人だとしても…。


『ししし。時雨ッチも大好きッス!。』

『…もうっ!。しらないっ!。』


 白は、時雨ッチの部屋を飛び出したッス。


ーーー


『はぁ…世話が焼けるわね。』


 私は部屋を出て喫茶店へ向かう。

 白の裏是流に向ける想いは当然気付いていた。まぁ、あそこまで分かりやすい行動をされれば誰でも気付くわね…。…裏是流本人は気付いてなかったけど。

 けど、裏是流も白を大切にしているのは付き合っていて分かった。幼馴染みだもんね。当然と言えば当然だ。

 私と2人でいる時は、キチンと私だけを見てくれていた裏是流だけど。普段の何気ない視線の動きや仕草で白の存在を探しているのが隣にいると察してしまえるのだ。

 互いに近い距離感で育ったせいで自分達の気持ちに気付けなかった。

 けど、私という存在が間に入ってしまったことで、2人の心が動いてしまった。無意識だとしても互いの存在を強く意識してしまった。


『見ていて、もどかしいのよね。』


 1つだけ。私は意地悪をした。

 白の裏是流への気持ちには随分前から気付いていた。本当ならもっと早く2人をくっつけることも出来た…。でも、私はしなかった。

 もう少しだけ…裏是流を独り占めしたかったから…。

 裏是流に助けられたあの日から…裏是流は私の王子様だ。一目惚れ…に近かったかもしれない。

 本当なら誰にも渡したくなかった。

 けど、白の気持ちも理解できてしまうから…。年上として助けてあげたかった。

 その2つの感情のぶつかった末に、私は2人をくっつけるのを遅らせた。


『私…嫌な、女ね…。』

『いや、そんなことないだろう?。』

『え?。』

『そうそう。私ら感謝してるくらいだし。』


 考え事をしながら歩いていた私に声を掛けたのは基汐さんと光歌さんだった。

 この廊下を歩いているということは…2人も喫茶店に向かう途中のようだ。


『見ていたんですか?。』

『途中からな。白が決心した表情で裏是流の部屋に入ってくところから。』

『正確に言うと、朝の食堂での会話を聞いていて心配だけど盗み聞き出来ない状態で部屋の前が見える物陰に隠れてたし。』

『そこまで、言わなくても…。』

『ダーリン。白が心配で居ても立ってもいられなかったし。』


 そうなのね。白は御二人に凄く懐いていたし、当然か。


『ありがとうな。時雨。白の背中を押してくれて。』

『いえ、私は…自分に正直だっただけです。裏是流と恋仲になったのも…白の背中を押したのも。全部自分の都合を通すためですから。褒められたものではありませんよ。特にお礼など…私には不要です。』

『時雨も堅っ苦しいし…。』

『それは、悪いことじゃねぇよ。』

『え?。』

『こんな状況じゃなけりゃ俺達は普通の恋愛をして、普通の関係でいられたんだ。けど、現状はそう簡単じゃない。限られた空間に限られたメンバーだ。男女比だって違う。なら、同じ人間を好きになっちまうことだって普通にあるだろ?。その時雨が抱いている独占欲は、決して間違った感情じゃない。抱いて当然だ。だから、お前が悔やむことはないさ。』

『………。』

『あとは、裏是流次第だ。時雨を選ぶか、白を選ぶか、両方選ぶか。男の見せ場だな。』

『…そうですね…。』

『大丈夫だ。裏是流はやる時はやる男だ。それは時雨だって知ってるだろう?。』

『はい。そこを好きになったので。』

『なら、心配無用だ。裏是流も白も、3人が納得出来る答えを用意してくる筈さ。』

『はい。基汐さん。光歌さん。ありがとうございます。少しだけ…すっきりしました。』

『ああ。じゃ、俺達は喫茶店に行くから。』

『ばいば~い。』


 去っていく2人。

 基汐さんの腕に抱き付いて歩く光歌さん。

 2人の関係が少しだけ…羨ましいですね。


ーーー


 コンコン…。

 2回ドアをノックした。

 中から聞こえる裏是流の声。生まれてからずっと聞いてきた。聞き慣れた声に何処か安心感を覚える。


『は~い。あ、白…。』

『あの…裏是流。真面目な話があるッス…。いや、あるの。』

『っ!。うん。分かった。部屋入んなよ。』

『うん。』


 久し振りの入った裏是流の部屋。

 時雨ッチ…時雨さんと裏是流が恋人同士になった頃から白は遠慮して入ることを止めた。

 部屋の中は、裏是流の匂いがした。ずっと昔から知っている匂い。裏是流への想いを自覚した今となっては、白をドキドキさせる匂いに変わった。


『それで、真剣な顔でどうしたのさ?。最近の様子が変だったから、結構心配してたんだよ?。』

『………。』


 駄目だ。裏是流を直視できない。

 緊張して、自分の鼓動が大きくなっていくのを感じる。


『………。』

『………。』

『ねぇ。白。』

『え?。』


 裏是流の方から話し掛けてきたことに驚いた。


『世界がこんな風になってから2年間。僕は何をしてたと思う?。』

『え?。えと…情報収集?。』

『うん。正解。けど、同時に白を探してたんだ。家行っても居なかったし。』

『うん…おばあちゃんの家行ってたから…。』

『そうなんだよ。それを思い出すのに時間がかかって何時間も白を探し回っちゃったんだ。あの時は凄く焦ってたから。』

『あっ。そうだったんだ…。ごめん。』

『それから、幻想獣達を総動員させて白を探した。無凱さんの協力で白を見つけた時には、もう代刃と春瀬と合流した後だったからさ。ちょっと安心したんだ。』


 そうだったんだ。全然知らなかった…。


『てっ、そんな話をしたいわけじゃないんだ。』

『ん?。違うの?。』

『まぁ、えっと…その…はぁ…。』


 溜め息?。


『白。』

『え?。あ、はい?。


 裏是流の真剣な顔。


『僕にとって白はとっても大切な存在だってことっ!。』

『っ!。』

『僕は先に時雨を選んじゃったけど、白の気持ちにも気付いてた。いや、違う気付かせてくれたんだ。時雨が。』

『時雨…さん…が?。』

『うん。私は裏是流が好きよ。貴方は私の王子様だもの。…けど、貴方を王子様だと思っているのは私だけじゃないから。ずっと長い間、貴方を想ってる娘が身近にいるんだから。受け止めてあげなさい。ってさ。』

『………。時雨ッチ…。』

『僕は閃さん達みたいに凄くないからさ。時雨と白を同時に愛せるか自信ないけど…。でも、白を好きな気持ちも本物で…時雨を好きな気持ちも本物だから…。それに、二股になっちゃうけど…。白…僕は君が好きだ。恋人になって欲しい。』


 きっと裏是流も混乱してるんだ。

 一生懸命、言葉を紡いで白に伝えてくれてる。

 時雨ッチは裏是流の背中まで押してくれたんッスね。凄い人ッス。


 気付けば白は泣いていたッス。

 とっても嬉しくて切ない。長年の形無い想いが今、やっと形成されたような感覚。

 白は自然と裏是流に抱き付いていたッス。


『裏是流…。』


 白は唇を裏是流の唇に重ねて…裏是流はそれを受け止めてくれた。


『裏是流。白は昔から…ずっと貴方が大好きでした。だから…白を裏是流の恋人にしてください。』

『うん。僕も白が大好き。恋人になろう。』


 再び重ねた唇は、ちょっとだけ…しょっぱかったッス。


ーーー


『まぁ、上手くいって良かったな。』

『これもダーリンの根回しのお陰だし。』


 俺と光歌は食堂にいた。

 仁さんの新作ケーキの試食という理由だったのだが、少し離れた席に座る3人。裏是流と時雨と白を眺めている。

 3人の様子から裏是流と白の間は上手くいったようだ。無事恋人になれたようなのだが…。


『そうですわね。元々世話焼きですし、キス魔の白です。今まで心の中で抑止していた分が裏是流さんと恋仲になったことで溢れ出てしまったようですわ。』


 コトンっと、テーブルに新作ケーキを置いたウエイトレス姿の春瀬だった。


『げっ…春瀬…。』

『ふふん。光歌ちゃん!。仁様と愛人になった私をお母さんと呼んでも宜しくてよ!。』

『べぇー。絶対呼ばないし!。』

『ふふ。恥ずかしがっているのね。可愛いわ。大丈夫です。私はいつまでも待ちます。光歌ちゃんが心を開いてくれるその日まで!。』


 っと、春瀬は春瀬で仁さんとの仲が進展したようで…。光歌もそこは認めていたしな。


『裏是流~。あ~んッス。』

『モグモグ。まだ口に入ってるよ。』

『じゃあ、時雨に。はい。あ~んッス。』

『あ~ん。モグモグ。うん。美味しいわ。』

『ゴクン。』

『あっ。呑み込んだッスね。じゃあ、ちゅーするッス。んー。』

『ちゅっ。』

『次ッス。あ~ん。』

『あ~ん。モグモグ。』

『あ、時雨ッチもッスね。ちゅーッス。』

『はいはい。ちゅっ。』


 何だ…あれ?。

 食べさせるのと、キスを繰り返してる…。

 因みに白を真ん中に両サイドに裏是流と時雨が座る順番だ。白の前に料理が並んでいて、それを白が交互に2人の口に運んでいるという絵面だ。


『まぁ、白が幸せそうなら良いか。』


 俺はそう思うことで納得した。

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