第14話 これからのこと
クロノ・フィリアのメンバーで副リーダーの仁さんの経営する喫茶店。
時刻は深夜3時を少し過ぎたところ。
店の中心にあるカウンターの周りに皆が集まっていた。
まずカウンター内の椅子に座るのが仁さん。
カウンター席に座るのが奥から無凱のおっさん。その横に、柚羽という女の子。で、その後ろの長いテーブルに彼女の部下たち。
反対側のカウンターに賢磨さん。
その、一つ飛ばしに基汐と光歌。
カウンターの向い側、入り口に一番近い席に置いてあるテーブルに俺。いつも通り横に智鳴と氷姫、後ろに灯月が立ち。膝の上に瀬愛。
俺の向かって左側の長椅子に涼とその部下たち。
『流石にこれだけの人数がいると店の中が狭く感じるな。』
『そうだね。こんなに人が多いのは初めてかも。』
応えた仁さんの周囲を世話しなく動く執事とメイドたち。これは、仁さんの能力で作り出されたモノだ。
『さて、始めようか。お題は、これからクロノ・フィリアはどう動くか。』
無凱のおっさんが、立ち上がり言う。その言葉に全員が無凱のおっさんに注目した。
『で、最初は今回の奇襲事件で得られた情報と彼らの扱いからかねぇ。』
『そうだね。既に僕らは知っているけど改めて整理しようか。じゃあ、閃くんにお願いしていいかい?』
『え?俺?』
いきなり声をかけられ驚く俺に仁さんは頷いた。
『だって、こんな重要な役を無凱に任せられないし、無凱と 同じ能力 を使える君ならこの中で一番この状況をまとめられるでしょ?』
『むぅ。確かに…。』
『あれ?僕、地味にディスられてる?』
『当たり前です。あんなにお酒飲んだんですから、大人しくしてて下さい。』
『ちょっと厳しくない?柚羽ちゃん。』
そんな二人のやり取りを眺め、ため息。
まあ、仕方ないか。
『じゃあ、皆聞いてくれ。単刀直入に今解っていることだけをまとめる。今回の奇襲は緑龍絶栄の最高幹部の命令によって行われたみたいなんだ。そうだな、涼?』
確認の為に涼に聞く。涼もすぐに応えてくれた。
『はい、幹部の名前は端骨。主にプレイヤーだった人たちが持つレベルと魔力について研究している研究機関の最高責任者です。このレベルの上限を上げる装置も彼の実験で作り出されたと聞いています。』
『ソイツが涼たちの小隊を使って俺たちの情報を探ろうとしたのが今回の事件の全貌だ。』
これはここにいるクロノ・フィリアのメンバー全員が既に知っていることであり、皆が首を縦に振り理解を示した。
『この周辺は神無の能力で通信手段が制限されているから通信機器や能力を使ったテレパシーや念話を使えない。で、俺たちでその端骨っていうヤツが手引きしていた奴らは始末した。嘘の情報は光歌がダミー映像とすり替えて相手方に送信した。敵さんには涼たちは全滅っていう情報が伝わってる筈だ。』
『ブイ。』
俺の視線に光歌がブイサインで応える。
『始末した奴らの思考を探った結果、端骨ってヤツの独断で行った作戦だったっていうのが濃厚だ。よって、緑自体が動いたわけではないって俺は見ている。』
『おじさんもその意見に同意ー。』
『でも、これも時間の問題かな?』
『どういうことですか仁さん?』
『おそらく、近いうちに六大会議が開かれると思う。確か黄の子たちが言ってたんだよね?』
『はい、黄華さんから直接聞いた話なので確実に開かれるかと。』
『え!?灯月ちゃん、黄華に会ったのかい?』
『はい。2日程前に。』
『僕のこと何か言ってた?』
『まぁ…占ってはいましたね。』
『えぇ…何て言ってた?』
『近いうち無凱さんのことを監視する優秀な人材が現れると。これで、少しはだらしなさが治るわぁ。って仰ってましたよ。』
灯月がチラリと柚羽を見る。
その視線に自然と全員の視線が柚羽に集まった。
『え?え?何ですか?私?』
突然、注目されたことに驚く柚羽。
『成る程ねぇ。まあ、あれのことだ。何か意味があるんだろうね。』
何かを納得したように頷く無凱のおっさん。
『じゃあ、六大会議が開かれるとしてお題目は何だろうね?って想像通りかな?』
『そうだな。今回の侵入事件のことが他のギルド…おそらく白に知られたことで改めて俺たちの驚異が現実味を帯びて広がった。ってところか?』
『そんな感じだろうね。で、危険な存在を何とか倒そうとギルド同士が協力体勢になっていく。』
『嫌だねぇ。これは真面目にメンバー集結させる必要になりそうだよ。』
『高確率で世界の敵になりそうですね。』
『はぁ。だなぁ。』
『じゃあ、まずは彼らをどうするか決めようか。』
無凱のおっさんが涼たちに視線を向けた。
『だいたいの力量や性格とかはさっき知れたからね。適材適所に分けちゃっていいかい?』
『そうだね。無凱はそういうの得意だから任せるよ。』
『そんなんでもギルドリーダーだからな。期待してるぜ。無凱のおっさん。』
『閃くんの当たりが強い。』
立ち上がった無凱のおっさんが涼たち侵入してきたメンバーの顔を流し見る。
『まず、柚羽ちゃんと君…と…あと君かな。この3人は僕が預かろう。』
柚羽という無凱のおっさんの横にいた娘と、その近くにいた女の子2人の頭を軽く撫でおっさんが選ぶ。
『おっさん。いくら女好きだからって年齢差は考えた方がいいぞ?』
『ええ、そうなる?いや、これでも結構真面目に考えてるんだよ?』
『本当にか?』
『僕の目を見てくれ、嘘をついてるように見えるかい?』
『死んだ魚のような目とその下のクマがあるのはわかった。』
『死んだ…魚…。』
踞っていじける無凱のおっさん。
いい歳したおっさんの行動としてはキツイものがある。
『こらこら、脱線してるよ。無凱も閃くんもしっかりして。』
『はい。すみません。』
『はぁ。僕は最初から真面目だったよ。まあいいや、で、涼くんとその後ろの8人は つつみ さんの所に行って貰おうかな?』
名指しの涼とその部下8人。
『すみません。』
『何だい?涼くん。』
『そのぉ、つつみさんというのは?』
『閃くんと灯月ちゃんの母親だよ。』
『閃さんのお母様ですか!?』
『まあ、母親って言っても血が繋がってるのは灯月だけだけどな。』
『にぃ様。血の繋がりなど関係ありません。愛があれば問題ないのです。どうぞ。』
『どうぞで何で服を脱ぎ始める。』
『家族→兄妹→愛→脱ぐ→結婚だからです。』
『意味がわからん…。』
『ははは、相変わらずだね2人は。でだ、つつみさんがこの前助手を数人欲しいって言ってきててさ。10人前後で丁度いいと思うんだけど?』
『つつみさんとは何をしている人なのですか?』
『ああ、彼女はね、こんな世界になっちゃった影響で立場的に弱者になってしまった人たちを保護しているんだよ。無能力の人やレベルの低い人たちのね。まあ、保護と言っても主に何かあった時のサポートや護衛が仕事になってる。サポートの方は潤滑に回せてるらしいんだけど護衛の方まで人数が足りないらしくてさ。』
『護衛ですか。そういうことならお任せください。』
『おお、良いのかい?』
『はい。この力が役に、力の無い人たちを守る為に使えるのなら喜んで。皆もいいよな?』
『はい。隊長についていきます。』
こうして、涼の役割が決められた。涼の部下たちも決意に満ちた力強い瞳をしていた。
そんな涼たちを見てどうしても言っておきたいことがあった。
『涼。』
『はい?どうしましたか?閃さん。』
『強く生きろよ!』
『え?』
涼の両肩を強く掴み、真剣な眼差しでそれだけを言う。
俺の母さんは危険なのだ。…特に男には。
『なあ、おっさん。』
『ん?なんだい閃くん。』
『残りのこのメンバーはおそらくレベルが足りないって理由で選ばなかったんだろう?』
『んん、まあ、そうだね。ヒドイ言い方になっちゃうけど外からの嫌がらせって結構ヤバめなんだよ。彼らじゃ少し実力が足りないから、鍛えようかなって思ってた。』
『それなんだけど。ちょっといいか?…神無。いるか?』
俺は誰もいない虚空に視線を向け名前を呼ぶ。
『はい。此処に。』
『おっ。成る程ね。』
俺の視線の先に忍び装束に身を包んだ少女が現れる。
クロノ・フィリア 影組 No.23 神無
黒いポニーテールに紫色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
『ここにいる奴等を鍛えてやってくれ。お前がリーダーとして部隊化しても構わない。』
『了解しました。主殿。』
『という感じで良いか?』
『OK。神無ちゃんの下に付けるならアリだね。下手したら 黒 なんて相手にならない程の暗殺集団になっちゃうかもねぇ。』
『実質、閃くんの手足となって動く部隊になる感じかな。神無君は閃君の お願い しか聞かないし。』
『…そうですね。神無には何度も言ってるんですがね。』
『拙者は主殿の 影 故、主殿の命令でのみ行動致します。』
『これだもん…。』
『ああ、神無ちゃんが出てきたなら丁度いいや。閃君にちょっとお願いがあるんだよねぇ。』
『仲間集めの件か?』
『流石だねぇ。話が早い。』
そう言うと、無凱のおっさんはテーブルの上にデカイ地図を広げた。
『各ギルドが本格的に動き始める前に残りのメンバーを集結させたいと考えてるんだよねぇ。で、今現在で居場所が特定出来ているメンバーが3人。』
『へぇ、結構解ってるんだな。』
『まあね。何せ クロノ・フィリアの 悪組 のメンバーだからさ。何かと噂が流れて来るんだよ。あの子たちは、喧嘩っ早いからさ。』
『ああ、察した。』
つまり、売られた喧嘩を買ってる内に身バレして各ギルドに目をつけられてると。
『一人は多分この周辺を拠点にしてるみたいだね。誰かは解らないけど。』
『結構遠いな。』
『僕の 箱 も一度行ったことのある場所じゃないと 入れ替える ことも出来ないからね。直接出向くしかないんだ。』
『成る程、で神無の出番か。』
『そういうこと。神無ちゃんの能力は人探しに便利だからね。』
『解った。ということだ神無。誰がいるか解らないが此処に連れて来てくれ。』
『了解しました。』
『あと、ちょっと問題があってね。』
『ん?何だ?』
『ええと…此処だね。一人此処に囚われてるんだよね…。』
『は?』
囚われてるって捕まってるのか?有り得ないだろう仮にもクロノ・フィリアのメンバーが。
『それは本当かい無凱。』
仁さんも驚いた声を上げた。
『ああ、結構確証の高い話だよ。』
『此処は、青の基地の一つだね。信じがたいな。残りのメンバーの実力を考えても敵に捕まるなんて。』
『僕もそう思って色々調べたら何でも自分から捕まりに行ったらしい。』
『あぁ。そういうこと…。』
『そんなことするのは。』
『はい。一人しかいませんね。』
『矢志路か…。あの引きこもりが。』
『じゃあ、そこは俺が行くか。適当に暴れればアイツから出てくるんじゃないか?』
『だね。閃ちゃんなら近づけば矢志路ちゃんも解るしね。』
『閃。』
『ん?どうした氷姫?』
『私も行く。』
『え?ズルいよ。ひぃちゃん。閃ちゃん私も行きたい。』
『にぃ様。差し出がましくなければメイドであり妹であるこの私がご同行致します。』
『お兄ちゃんが行くなら瀬愛も行きたい。』
『あらら。人気者はツラいね閃君。』
『此処から青の拠点まで結構距離があるから2、3人くらいで行っておいでよ。』
『そうか。じゃあ、氷姫と智鳴で良いかな。』
『うん。』
『やった。』
『に、にぃ様…な、何故ですか…。私ではお役に立てませんか?』
『お兄ちゃん。瀬愛は?』
『落ち着けって。灯月は涼たちを母さんの所に案内して欲しいんだ。多分、 吸われる と思うから助けてやってくれ。』
『む…それは、確かに…そうですね。』
『あと、瀬愛は今回遠い場所だからお留守番な。転移が出来れば連れてってやりたいけど、生憎 走って の移動になるだろうし瀬愛にはキツイだろう。』
『そうかぁ。瀬愛一番動くの遅いもんね。わったのお兄ちゃん。でも、今度は一緒に連れてってね。』
『ああ、約束だ。』
瀬愛と指切りを交わす。
『さて、あとは基汐君と光歌と賢磨だね。』
『ああ、僕は妻の所に行ってくるよ。多分、厄介事に巻き込まれる頃だと思うからね。』
『了解、豊華さんは任せるよ。』
仁さんが各々の役割をボードに記入していく。
『光歌は基汐君と一緒が良いんでしょ?』
『もちろん!ダーリンとハナれバナれとかアりエないし。』
『じゃあ、情報収集かな。居場所の分かっていない裏組の3人と悪組3人の情報集めね。』
『了解しました仁さん。』
『えっ…ウラグミって ハルセ もサガさないといけないの?』
『当然だろ?仲間なんだから。』
『ええ、あのコ、ニガテなんですけどぉ。』
『そうなのかい?仲良く話してたじゃないか。』
『だって、パパをネラってるのよ…』
『ん?ボクを何?』
『ナンでもなーい。』
『…やれやれ。』
そっぽを向いて携帯端末を起動させる光歌に仁さんは溜め息をついた。
賢磨と基汐と光歌の名前がボードに記入された。
『ねえねえ、瀬愛は?』
『瀬愛ちゃんは私と母様の所に行きましょう。』
『うん!』
『灯月ちゃんと一緒なら安心だね。』
瀬愛の名前が記入され、これで全員のこれからの行動が示された。
俺と氷姫と智鳴は青豊詩典の拠点の1つに囚われている仲間の救助。
基汐と光歌は見つかっていない仲間の情報収集。
灯月と瀬愛は母さんのサポートと涼たちの案内。
賢磨さんは妻の豊華さんの所へ。
無凱のおっさんは独自で動くだろうが、柚羽たちの訓練も行うだろう。
仁さんは拠点に残り情報の収集と喫茶店の経営。
で、最後に神無は。
『神無には苦労かけるな。コイツらの訓練と仲間探しを任せちまって、すまん。』
『いえ、主殿。拙者の能力ならば容易いことです。』
神無が手で印を結ぶと、神無の影が物体と立体化し分身が作り出された。
『この者達の訓練は分身が行います。メンバー探しは本体でやりますので心配はいりません。』
『成る程ね。了解、任せた。』
『御意。』
そう言って、再び姿を消す本体の神無。
『じゃあ、今日はこれで解散だな。』
『そうだね。涼くんたちの部屋はさっき用意させたから案内して貰ってね。』
『はい。何から何まで、ありがとうございます。』
『いいよ。いいよ。これから仲間なんだから気にしないで。』
『それじゃあ、皆お休みぃー。』
こうして、色々なことが起きた長い一夜が一段落したのであった。