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第140話 新しい仲間

 私は美緑です。

 今朝は、閃さん大好きクラブのメンバーで交代で行われる閃さんを起こす係。今日は私です。短い時間ですが閃さんの彼女タイムです。

 私は今、閃さんの部屋の前にいます。………20分、います。

 現在の時刻は4時50分。5時に閃さんはランニングへお出掛けになるので、そろそろ起こさなければならない時間です。

 20分間。私の頭の中では様々な考えが渦巻き蠢いていました。中には邪な考えもあったでしょう。幸せを感じることもあったでしょう。

 この部屋の中に入れば、閃さんと2人きり。短い時間とはいえ誰の邪魔も入らず、誰も私達の行動は知り得ない。つまり…何をしても咎められたり、止められたりしないのです。

 ですが、そこは私の臆病な性格が邪魔をします。そうです。一番の敵は己の中にいたのです。

 閃さんに甘えたい。優しくされたい。愛してもらいたい。そんな考えを抱く私に、臆病な私が言うのです。嫌われたくない。軽蔑されたくない。…と。

 閃さんなら快く私の願いを聞き届けてくれるでしょう。ですが、そうなれば…私はどこまでさらけ出して良いのでしょうか?。

 あんなことまで?。そんなことまで?。どこまで?。

 そんなこんなで20分です。ですが、安心してください。この20分を計算に入れているからこそ、私は30分前にここにいるのです。

 自分の性格は熟知しています!。ちゃんと部屋の前で悩む時間を計算しているのです!。

 

 コンコン。


『失礼します。』


 結局のところ、どんなに悩んだところで私は一番平凡なこと選ぶことになるのです。

 つまりは、普通に入室し普通に閃さんを起こす。それが、美緑という人間なのです。


『閃さん。起きて下さ…えっ…!?。』


 私の目に飛び込んできた光景。

 閃さんはベッドの上に確かにいました。

 ですが…その状況は…。


『あら?。美緑様。おはようございます。』


 私に最初に気付いたのは、閃さんに膝枕をしている綺麗な女性。確か…そうだ。閃さんがゲーム時代に契約したと話していた神獣…名前は…そう、クミシャルナさん。


『んー。クミシャルナ。うるせぇ。主様が起きちまうぞ?。って、誰だ?。ん?。ああ。何だ美緑か?。主様を起こしに来たのか?。もうそんな時間かよ。』


 次に目を擦りながら顔だけを動かし私を見た女性。って…何で裸なんですか!?。掛け布団1枚が捲れ上がり、褐色の肌が露出しています。言動や普段の格好は男の子が着るようなモノを好んでいますが、そのスタイルは女の私から見ても綺麗と感じてしまうプロポーションを持っている方。私が所属していた緑龍絶栄で閃さんと戦ったモンスター。雷皇獣…。

 名前は…閃さんが名付けた、確か…ラディガルさん。


『ご主人様~。だ~い好きです~。』


 神無さんを幼くした見た目の少女。リスティナさんに命を与えられた神無さんがスキルで生み出した分身体の1体。今では、一人の人間として閃さんに仕えている。名前は…閃さんが付けてましたね。…確か…そう。月涙(ルナ)さんです。気持ち良さそうに寝ていますね。閃さんに抱き付いて…羨ましい…。


『んー。すぅ…。すぅ…。すぅ…。』


 クティナさんは相変わらず幸せそうに寝ています。

 何故か気絶しているように熟睡して動かない閃さん。普段なら私達の誰かが部屋に入った瞬間に目覚めるのに…。

 4人の女性に囲まれて…抱き付かれて…。それでも起きないなんて…何が起きたのでしょう…。


『ふふ。混ざりますか?。』

『え…。』


 そんな私を見たクミシャルナさんが手招きをする。


『あ…。ぅ…。くっ…。』


 結局、時間になっても現れない閃さんを迎えに来た無華塁さんと累紅さんが部屋に突入してくるまで、私は閃さんを堪能しました。


ーーーーーーーーーー


 俺は今、神無の部屋にいる。

 神無の部屋は半分区切りで畳が敷かれた和室と、女の子の部屋と一目で分かる程の可愛らしい部屋に分けられている。

 その和室の部屋にテーブルを挟んで4人の男女が対面に座っている。各々の前に置かれた芳しい香りを漂わせる日本茶が茶柱を立てていた。

 俺、俺の隣に新メンバーの月涙。向かい側に神無。その隣に煌真が座っている。煌真は珍しく月涙に興味があるようでじっと様子を窺っている。


『主様。おもてなしも出来ずに無理を言ってすみません。それと、私の部屋にお越しくださいましてありがとうございます。』

『いや、それは良いんだが…。』


 何だ…この状況は…。


『すみません。主様。口調を普段のモノに戻しても宜しいですか?。』

『ん?。ああ、構わないよ。てか、普段も別に普通で良いんだぞ?。もうゲームの中じゃ無いんだし。』

『ですが…仕える忍として…。』

『俺は、その忍としてよりも友人として神無に接したい。駄目か?。』

『…駄目ではありません。わかりました。では…。』


 神無がチラリと俺の隣に座る月涙を見る。神無から独立したことで無名のモンスターになった少女。名前を欲しがったので俺が名付けた。


『改めて、説明して貰える?。』

『はい。神無様。』


 その小さな身体で立ち上がる月涙。


『私は元々、神無様のスキル【操影分身】で作られた分身体の1つです。普段は、ご主人…閃様の身辺警護と閃様からの命令を遂行する為にお側に仕えておりました。』

『ええ。私が命じたのだもの知っているわ。』

『本来であれば、私は自我を持つことはありませんでした。事実、他の分身体は神無様の命令で動くだけの映し身です。』


 分身を生み出すスキルは大体がそうだ。


『ですが、私は例外でした。』

『例外?。』

『神無様は私を生み出した時、閃様を守護する目的でスキルを使用しました。』

『ええ…その通りよ。』

『その時です。神無様の内に秘めた感情も魔力として私の身体を作るために利用されたのです。』

『秘めた…感情?。』

『閃様を愛する感情です。』

『っ!?。』

『もちろん神無様は現在、煌真様という素敵な男性と関係を結んだことは知っています。分身体だったころの私には神無様の煌真様へ対する愛しさのお想いが流れてきていました。』

『なっ!?。ちょっと!。何言ってるのよ!?。』

『ほぉ。良いじゃねぇか。もっと教えろよ。』

『黙りなさい!。』


 神無の回し蹴りが煌真を吹き飛ばした。


『こほん。神無様は現状に幸せを感じている。それは、事実であり隠すことでもありません。しかし、煌真様と結ばれる前に抱いていた感情、閃様を好きだったという想いは神無様の中で大切な思い出として封印されていました。』

『その思い出がお前を生み出す理由と被ったことでお前を構成する魔力の一部に使われた…で良いのか?。』

『はい。その通りです。私はその想いを受け継ぎました。その想いは私に自我を与えた。閃様の身の回りで活動している最中、いつの間にか神無様の想いは私の想いとなっていたのです。』

『そして、リスティナさんに命を貰った…そういうこと?。』

『はい。別個体となった今の私は神無様との繋がりが完全に断たれてしまいました。ですが、この私の中にある温かで大きな閃様への想いは間違いなく神無様から生まれた大切な想いです。』

『………。』

『その想いを私は受け継ぎたかったのです。どうか…私という存在を認めて下さい。』


 月涙が神無に向け頭を下げる。


『はぁ…。1つ聞いて良い?。』

『はい。』

『閃様を…好き?。』

『はい!。』

『そ。私はね。そこに転がってる馬鹿が…好きなのよ。どうしようもなくね。だから、今が幸せ。馬鹿と一緒にいられるだけで満足なの。だから…。』


 神無が月涙の前に立ち、顔を覗き込む。


『貴女は、私のことなんか放っておいて自分の幸せの為に行動しなさい。貴女中にある想いは確かに私から生まれた感情かもしれない。けど、その想いを育てたのは間違いなく貴女よ。もう、その想いは貴女のモノ。だから、閃様をしっかり愛しなさい。そして、幸せになりなさい。』

『…はい。神無様…ありがとうございます。』


 月涙の瞳から涙が零れる。

 神無に認められるかを心配していた月涙だったが丸く収まったようだ。


『ご主人様。』

『ああ、月涙。改めてこれから宜しくな。』

『はい。ご主人様の守護獣として未来永劫お守り致します!。』


 月涙の頭を撫でる。神無に認められて良かったな。

 クミシャルナ達と同じ神獣となった新しい仲間。俺は快く迎え入れた。


 ゲーム時代、俺が裏是流のスキルで使役したモンスターは3体。リスティナの話では月涙を入れて5体で1つのモンスターなのだという。もしかして、残り2体も人型になってたりするのか?。


ーーーーーーーーーー


『それでは、にぃ様。お休みなさい。』

『お休み。閃。また、明日ね。』

『すぅ…。すぅ…。』

『閃。お休み。私。智ぃちゃん。運んでく。』

『ああ。お休み。氷姫もありがとう。』

『うん。』


 パタンッ。と閉まる扉。

 さっきまでの賑やかさが嘘のように訪れる静寂。


『さて、ちょっと疲れたな。明日も、早いし…寝るか。』


 数時間前に睦美に用意された寝間着に着替えベッドの上に移動した。


『ご主人様。』

『ん?。』


 突然、声を掛けられた。

 部屋の中には誰もいない筈…と、いうことは…。


『お疲れ様です。クミシャルナ。参上いたしました。』

『同じく、ラディガル。』

『同じく、月涙です。』


 俺の影から現れた3人。


『ああ。どうした?。何かあったか?。』

『はい。見たところ、ご主人様はお疲れのご様子。ご主人様の疲れを癒すのも守護獣の務めと思いまして参上しました。』

『癒す?。』

『ご許可を頂ければ今すぐにでも。我等3人。ご主人様を夢見心地の世界に誘わせて頂きます。』

『んー。まぁ、別に良いが…具体的に何するんだ?。』


 灯月達に比べれば恐怖はない。

 今まで俺の為に戦ってくれたクミシャルナが言うのだ。危険や裏は無いだろう。

 モンスターの姿の時は、俺の言うことを何でも聞いてくれる奴だったからな、それなりの信頼は構築済みだ…と、思いたい。


『ありがとうございます。では、僭越ながら私から…ご主人様、私の膝に頭を乗せてここに横になって頂けますか?。』


 クミシャルナが自分の膝をポンポンと叩き俺を誘導する。俗に言う膝枕だ。俺は言われた通りにベッドの上に寝転がる。

 頭を乗せたクミシャルナの膝の上は柔らかく、俺の頭を適度な反発力で包み込んでくれた。鼻にはクミシャルナの仄かに甘い匂いが感じられる。

 本当に人の姿になったんだな。獣の時の触角や額の宝石など神獣の特徴を除けば普通の女の子だ。


『失礼しますね。』


 優しい手付きで俺の頭を横に向かせたクミシャルナ。その視線は、俺の耳の中へ。


『もしかして、耳掻きか?。』

『流石です。最初は耳の中を綺麗にさせて頂きます。』


 当たりのようだ。だが、俺は適度に耳掻きをしてる方なのでそこまで汚くはない筈だ。睦美や美緑、灯月達にもやって貰っているしな…半ば強制だが…。

 クミシャルナが耳の中を覗き込む。


『あら。随分と綺麗にしていますね。素晴らしいです。』

『まぁな。汚くない程度にはしているつもりだ。』

『そうですね。ですが細かい耳垢がありますので、僭越ながら私が綺麗にさせて頂きますね。』

『そうか。頼む。』

『はい。』


 クミシャルナの手には、いつの間にか取り出した竹製の耳かきと反対の手には軽く濡れた布が握られていた。


『失礼します。まずは耳の外、周りを綺麗にしますね。』


 キュッ。キュッ。スーーーーー。

 キュッ。キュッ。スーーーーー。


 耳の淵を沿うようにウェットティッシュが走る。通った箇所のひんやりとした感覚が心地良い。

 これだけでも随分とすっきりするな。


『裏側も…。耳たぶの裏も…。』


 キュッ。キュッ。

 スゥーーーーー。スゥーーーーー。

 モミモミ。スゥーーーーー。


『はい。耳周りは終わりです。次は中を綺麗にしますね。ご主人様。申し訳ありませんが動かないで下さい。』

『ああ。分かった。』

『では、始めます。』


 耳の中へ入る前に入り口の部分に耳かきが往復する。


 スッ。スッ。スッ。

 カリカリカリ。カリカリ。スーーーーー。


 まだ中に入っていないというのに、これだけでも気持ちいいな。

 クミシャルナの優しい力加減が丁度良い。


『中に入りますね。』

『ああ。』


 サッ。サッ。サッ。スゥーーーーー。

 サッ。サッ。サッ。スゥーーーーー。

 カリカリ。カリカリ。カリカリ。


『本当に綺麗です。耳垢もあまり溜まっていません。これでは耳掃除になりませんね。』

『ははは。そんなことない。軽くなぞられてるだけでも気持ちいいぞ。』


 嘘は言っていない。

 耳かきが通った箇所は、くすぐったさの中にも快楽が混じっている。


『ふふ。ありがとうございます。では、このまま耳をマッサージに移行させて頂きます。』


 一度、耳かきを置き直接俺の耳に触れるクミシャルナ。


 モミモミ。グッ。グッ。グッ。

 モミモミ。モミモミ。グッ。グッ。グッ。

 モミモミ。モミモミ。モミモミ。


 耳がクミシャルナの指の動きに合わせて形を変える。軽く摘ままれたり、引っ張られたり、指先で潰されたりしているようだが全く痛みを感じない。むしろ、少しずつ気持ち良くなってきた。

 徐々に耳の血行が良くなってきたのか、耳全体が熱くなってきたのが分かる。


『次です。』


 置いてあった耳かきを再び取り、今度は耳かきのヘラの裏側で耳の至るところを押していく。

 耳のツボが刺激されているのか、これも気持ちいいな…。


 グッ。グッ。グッ。

 グッ。グッ。グッ。


『終わりです。次は中のマッサージです。』


 耳の中へ侵入した耳かきが血行の良くなった耳全体を掻いていく。


 サリサリ。スゥーーーーー。

 サリサリ。サリサリ。スゥーーーーー。

 コショコショ…。コショコショ…。

 クルクル。スゥーーーーー。

 グッ。グッ。グッ。

 クルクル。クルクル。

 サッ。サッ。サッ。スゥーーーーー。

 コショコショ…。コショコショ…。


 おお、そこ気持ちいいな。

 一際、快感を感じる部分に耳かきが当たる。全身を駆け巡るような微弱な電流が走る。


『ふふ。ここ。気持ちいいですか?。身体がピクッってなりましたよ。可愛いです。』

『おい。からかうな。だが、気持ち良かった。』

『では、ここを重点的にマッサージしていきますね。』


 コショコショ…。コショコショ…。

 サッ。サッ。クルクル。クルクル。

 サッ。サッ。スゥーーーーー。

 クルクル。クルクル。


 一切の無駄の無さ。ポイントを的確に捉え、そこから周辺までを耳かきが走り回っている。僅かな力で素早く動く先端が引き起こす快感を俺は満喫していた。


『はい。こちら側は終わりです。反対の耳に移行しますので申し訳ありませんが身体を動かして頂けますか?。』

『ああ。』


 その後、反対の耳も同じようにマッサージされた。何度か快感に負け眠りそうになったが、何とか耐えきることに成功した。


『はい。お疲れ様です。耳かきは終了です。私の耳かきに時間を貸して下さり、ありがとうございます。ご主人様。』

『いや…こっちこそ、ありがとう。耳かき上手いんだな。すっげー気持ち良かった。』


 起き上がろうと上半身に力を込めた途端、クミシャルナに止められる。


『ん?。どうした?。』

『ご主人様。耳かき は 終了しましたが、まだ終わってませんよ。』

『え?。』

『次は俯せになって私の足の間に頭を置いてください。』

『はい?。』


 俺の返事を待たず、俺の顔は一瞬でクミシャルナの太股に挟まれた。ついでに、上半身に着ていた寝間着を奪われてしまった。何だ…この状況は?。上半身裸で美人の太股に顔を挟まれるという状況に困惑を隠せない。

 てか、クミシャルナ…すっげぇいい匂いすんるんだけど…。


『次は全身のマッサージです。ラディガル、月涙。』

『やっと俺の出番だな。』

『ご主人様。気持ち良くなってくださいね。』


 ラディガルが俺の足をペタペタと触れ、月涙が手のひらを握っているようだ。


『クミシャルナ…これって。』

『はい。ラディガルが足を…月涙が腕のマッサージです。僭越ながら私は肩から背中にかけてのマッサージをさせて頂きます。』

『ああ。そういうことか。』

『主様。早速始めるぜ。ちょっと冷たいかもしれないが我慢してくれよ。』


 ラディガルが俺の足の裏にヌルヌルとした液体を塗っていく。


『どうですか?。私の作った特製オイルです。最初は冷たいかもしれませんが、すぐに温かくなりますよ。』


 確かに、少しずつ熱を持って来ているのが分かる。


『こちらも塗りますね。』


 月涙も俺の手のひらにオイルを塗っていく。


『背中にも塗ります。ベッドには一切落としませんのでご安心下さい。』


 肩から背中にかけてオイルが塗られていく。全身がオイルの効果で温かくなり、なんとも心地良い。目を開けていても仕方ないので俺は目を閉じ3人に全てを委ねることにした。


『始めるぜ。痛かったら言ってくれよ。』


 ラディガルの細い指が俺の足の指に触れる。指の先端から付け根までを丁寧に押してくれる。


 グッ。グッ。グッ。グッ。グッ。グッ。

 モミモミ…。モミモミ…。モミモミ…。


 指が終わると、マッサージされる位置が少しずつ下がっていくのを感じる。


 グッ。グッ。グッ。

 グリグリグリ。グゥーーーーー。

 グリグリグリ。グゥーーーーー。


 普段が荒々しい口調のラディガルだが、クミシャルナに負けず劣らずの丁寧さ。力の入れ加減が絶妙で軽い痛みの中に確実に快感が生まれていた。気持ちいいな。


 グリ。グゥーーーーー。グリグリ。

 グリグリ。グゥーーーーー。グリグリ。


『私も始めます。』


 月涙も動き出した。

 手のひらに自分の指を絡め全体的にほぐしていく。おお。これも気持ちいい。


『主様。こことかどうだ?。』

『いたた、少し痛いな。』

『ああ。固くなってるな。疲れが溜まってる証拠だ。ゆっくりほぐすからな。少し痛いが我慢してくれ。』

『ああ。』


 グッ。グゥーーーーー。

 グッ。グゥーーーーー。

 グーーーーーリ。グーーーーーリ。


 ラディガルの指圧が一ヶ所に集中する。しかし、痛くはない。いや、痛いは痛いのだが…その痛みが気持ち良く感じるのだ。


『上手いな。』

『ああ。主様に喜んで欲しくてな!。クミシャルナと月涙に頼んで練習したんだ。』

『俺の為にか…ありがとな。』

『っ!。ああ。いっぱい気持ち良くなってくれ。』


 一ヶ所に集中していた刺激は、やがて足の裏全体に広がっていく。


『ご主人様。こちらはどうですか?。気持ちいですか?。』

『ああ。月涙も上手だな。』

『はい!。もっと頑張りますね。』


 グゥーーーーー。グゥーーーーー。

 グッ。グッ。グッ。

 モミモミ。モミモミ。モミモミ。


 指の付け根や各関節。手のひら全体をくまなく揉んでいく。月涙の細い指に包まれて温かいな。


 グゥーーーーー。グゥーーーーー。


 気付けばラディガルの方はマッサージのポイントを脹脛へ移動していた。上下に動く親指が固くなった筋肉をほぐしていく。

 同じタイミングで月涙も手のひらから腕全体に移っていた。


『ふふ。では、こちらも。』


 ぐぅーーーり。ぐぅーーーり。

 ぐぅーーーり。ぐぅーーーり。


『おお。良いな。それ。』


 肩から背中にかけての広い範囲を流れるように指圧していくクミシャルナ。

 何度も…何度も…繰り返しほぐされていく。

 やべぇ。気持ち良すぎる。文字通り全身をマッサージされている為、もう気持ちいいとしか考えられない。

 時間すら忘れ与えられる悦楽の快感にいつの間にか意識が沈んでいった。


ーーー


『ふぅ。温めたタオルでオイルを拭き取って…はい。終わりです。』

『こっちも終わりだ。』

『私もです。』

『ふふ。ご主人様。お疲れ様です。お寛ぎ出来ましたでしょうか?。』

『すぅ…すぅ…すぅ…。』

『あら?。寝ていますね。』

『それだけ満足してくれたってこと…で良いのか?。』

『きっとそうです。私達の想いが届いていれば良いのですが。』

『ご主人様なら気付いていますよ。ご主人様。俯せは苦しいでしょうし、仰向けにしますね。失礼します。』

『俺も手伝う。』

『私もです。』

『よっと!。』

『起きないな。』

『熟睡してますね。』

『ふふ。可愛い寝顔ですね。このまま寝かせてあげましょう。私達も寝ましょうか。』

『ああ。じゃあ、俺は主様の左を貰うぜ。』

『じゃあ、私は右を。』

『私はこのままご主人様を膝枕します。』

『その体勢…辛くないか?。』

『ふふ。私は龍です。どんな体勢でも寝れますよ。それにこの位置ならご主人様の寝顔を見放題です。ふふ。堪能しちゃいますよ。』

『そうか、なら良い。俺は主様にくっついて寝る。はぁ…主様の匂い…好きだ…。お休み。』

『私もです。ご主人様。お休みなさい。』

『すぅ…。すぅ…。』

『ふふ。ラディガル、月涙。お休みなさい。ご主人様…お慕い致します。』


ーーーーーーーーーー


 僕達は今、灯月の部屋の前にいる。

 僕達というのは、灯月を除いたクラブのメンバー10人だ。

 事の発端は数日前、灯月の号令で大浴場に集められた僕達はとある提案をされた。

 それは、閃と1日二人きりで過ごす日を作ろうというものだった。

 確かに魅力的な提案だ。閃と僕達は恋人になった。閃を好きな娘は沢山いる。その全員が幸せを手にするには全員が閃の恋人になる。それが、灯月が発案したハーレム計画だった。

 今の関係に不満はない。閃は僕達全員の幸せを考えてくれているし、同じ人を好きになってしまった者同士の不思議な結束も生まれている。

 けど、やっぱり皆女の子な訳で…隠してはいても、大好きな人が自分だけを見て欲しい。自分を1番に考えて欲しい。自分だけを愛して欲しい。…と、どうしても考えちゃうんだよね。


『成程。つまり、俺はその日1日、お前達の中から選ばれた奴と部屋で過ごせば良いわけだ。』

『そうです。にぃ様は1日、選ばれた娘とお部屋デートして下さい。』

『部屋は俺の部屋か?。』

『いいえ。その時の女の子側の部屋です。私達の部屋にはキッチンもお風呂も完備してますし、1日困らない量の食材などは予め用意しておきます。』

『ふむふむ。』

『あ、因みにですが…にぃ様は選ばれた女の子の事だけを考えて下さいね。別の娘のことを考えるのは禁止です。』

『つまり、本当の男女の関係…お互いを愛し合う恋人同士の関係を体験したいと…そんなとこか?。』

『はい。今ではこうしてにぃ様のハーレムになっていますが、にぃ様が自分だけを見てくれる。そんなあったかもしれない未来を体験したいのです。』

『そうか…。分かった。その話乗ろう。』

『やった!。ありがとうございます!。にぃ様!。』

『俺はその日、1人の恋人として選ばれたお前達の誰かを見る。だが、1つだけ警告だ。』

『ん?。何ですか?。にぃ様?。』

『 後悔 はするなよ?。』

『え?。』


 あの時の閃の言葉の意味は分からないままだけど、閃と1日もずっといられるんだもん。自分の番が待ち遠しいよ。

 厳選なるくじ引きの結果、トップバッターは灯月に決まった。閃が絡んだ時の灯月は全てのステータス(運も含む)が急激に上昇するんだもん…あれは止められないよ…。


『ふふ。やはり私が一番ですね!。このメイド義妹!。にぃ様に誠心誠意ご奉仕致しますよ!。』


 なんて張り切ってたからね。

 昨日はさぞ満喫したに違いない。部屋から出てきた灯月の顔が目に浮かぶよ。きっと、満足気にお肌ツルツルでずっとご機嫌に笑ってるんだろうなぁ。


 ガチャリ…。


 時間になり灯月の部屋の扉が開いた。

 1日デートの決まりは朝6時から次の日の朝9時まで。始まりは閃の自由で早めても大丈夫という形で決まった。閃が対象の娘の部屋に入った時点で開始だ。


『ん?。何だ。お前達か?。皆揃って待ってたのかよ?。』

『あ。閃。どうだった?。1日デート。』


 先に部屋から出てきたのは閃だった。いつもと変わらない感じだけど、灯月はちゃんとご奉仕出来たのかな?。


『そりゃあ義妹とはいえ恋人だからな、楽しかったぞ。1日デートの機会なんて全然無かったからな。正直、灯月の提案にしては良い案だったな。で、今度は2日後だな。相手は確か…代刃か。まだ早いが宜しくな。』

『っ。うん。宜しくね閃…。いっぱいデートしようね。』

『ああ。楽しみにしてるぜ。もちろん、お前達とのデートも楽しみにしてるからな。宜しくな。』


 閃は皆に向けて笑うと自室へと戻って行った。

 そっか~。灯月とのデートは成功だったんだね。僕もいっぱい楽しまないとだね。


 ガチャリ…。


 その時…また、灯月の部屋の扉が開いた。


『あっ。灯月!。どうだった?。1日デート!。閃は楽しかったって言ってたけど?。』

『………。』

『灯月?。』

『どうしたのじゃ?。俯いておるが?。』

『灯月ちゃん?。』

『どうか。した?。』


 灯月の様子がおかしい。

 ずっと俯いて、黙ったまま。

 睦美や智鳴達も心配している。いつも元気な?。暴走してる?。壊れてる?。…灯月が落ち込んでいるみたいに俯いてるんだから。


『ああ。代刃お姉ちゃん…。』

『お姉ちゃん!?。』

『お兄ちゃんとね。あまあまぁ、とろとろぉだったよぉ~。』


 お兄ちゃん!?。


『『『『『幼児退行してる…。』』』』』


 ええ!?。何が起きたの!?。

 閃!?。灯月に何したのぉ?。


『えへへ~。次が楽しみ~。』


 ふらふらと天使の翼を広げて廊下を飛んでいく灯月。天井にぶつかり、壁にぶつかり、床にぶつかり…。奥に消えていった。


『……………。』

『し、幸せそうで…良かったね…。』

『う、うむ…そうじゃな…。』


 何とも言えない空気の中、自分も…灯月のようになるのかなぁ…と、胸をドキドキさせるメンバー達だった。

次回の投稿は19日の日曜日を予定しています。

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