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第136話 黄華のお風呂事情②

 ちゃぽん…。

 天井から水の雫が落ちた。

 ギルド 黄華扇桜の大浴場。人数が増え、クロノフィリアの皆さんが本格的にこちらに引っ越して来たことで、この共有の大浴場も大規模な改装が行われた。今まででもリゾート地並みの内装を保有する大浴場だったのだが…今回、行われた改装は私が想像を遥かに越えた規格外のモノであり、無凱曰く、『仲間も増えて女性率が上がったからね。互いの交流を深めやすいように広くしたよ。昔から言うでしょ?。裸の付き合いってさ。あとは…うん、僕の夢とロマンを詰め込んだくらいだよ。少しだけね。』とのこと。無凱のことだ。絶対に後者の方が理由でしょうけど…。

 それにしても…。


『やりすぎよ…。』

『んー。ママ?。どうしたの?。』

『瀬愛ちゃん。お風呂場で泳いじゃダメじゃない。お風呂場では静かにね。他の人がいる時は特にね。』

『は~い。じゃあ、アヒルさんで遊ぶね。』


 私の横に座る瀬愛ちゃん。小さなアヒルのオモチャで遊び始めた。んー。私の天使は今日も可愛いわ。


『お姉ちゃん。どうかしましたか?。』


 私の横で寛いでいた翡無琥ちゃんが心配そうに私の方に顔を向けていた。もう1人の天使も可愛いわ。幸せ。


『いいえ。あまりにも前と、かけ離れてしまった浴場だと思ってね。ここまで、変わるなんて想像してなかったの。』

『ああ…。』


 改装終了したのが1ヶ月前。

 最初に見た時は開いた口が塞がらなかったわ。

 軽く周囲を見渡しただけでも分かる異常性。

 視界に入るだけでも 宙に浮いた 10以上の石造りの湯船が見える。各々が違う効能を備えたお湯で満たされ24時間いつでも快適に入浴を楽しむことが出来る。浴槽同士は自動で動く階段と歩道で繋がっており、行きたい場所を言葉で言うだけで足元が勝手に動き目的地に運んでくれるのだ。どんな技術で造られたのか…。きっと、リスティナさんも力を貸したのでしょうけど…。

 

『確かに画期的ではあるのだけど…。ここまでになるなんて…。』


 広すぎて逆に落ち着かない。


『瀬愛は楽しいよ。ママ。』

『私も、ここに来ると色んな人と会えますし、楽しいです。』

『そう。貴女達が良ければ…私も嬉しいわ。』


 天使達の笑顔で私の些細な悩みは消し飛んでしまった。ええ。些細なこと。だって横を見ると滝があるのよ?。ボタン一つで天井に星空だって映し出せるし、壁一面には魚だって泳いでる。奥には何故か密林が見えるし、雪が降ってるところだってある。流れるプールや滑り台が懐かしいわね…。あれにも当初は驚いたけど。今回のに比べれば大したことなかったわ。


『皆さん。よく集まって下さいました。』


 …と、その時、下の階層。最も下にある一番大きな浴槽から聞き覚えのある声が聞こえた。


『あ、灯月お姉ちゃんの気配…。あれ?。皆居ますね。代刃お姉ちゃんに…。睦美お姉ちゃんに…。智鳴お姉ちゃん…。氷姫お姉ちゃん…。無華塁お姉ちゃん…。美緑お姉ちゃん…。砂羅お姉ちゃん…。累紅お姉ちゃん…。』


 あれ?。この面子って…。閃君の…。

 チラリと下の階層を覗き込むと、だだっ広い浴槽の中で円陣を組む少女達。何か話し合いでも始める雰囲気ね。

 何となく私は彼女達の会話に耳を傾けることにした。瀬愛ちゃんも翡無琥ちゃんも興味があるのか耳を澄ましている。


『それで?。灯月よ。何故ワシ達は呼ばれたのじゃ?。』

『そうだよ。いきなり皆でお風呂に入りましょうとか言い出して…絶対別に目的があるよね?。』

『はい。勿論です。』

『言い切った。』

『勿論、皆さんと一緒に入浴をしたいというのは本当ですよ?。だって、皆さんの美しい裸体を拝めるのですから。はぁ…はぁ…。触っても良いですか?。』

『一番スタイルが良い人に言われてもなぁ…。』

『相変わらず。灯月は。おっぱい。大きいね。腰は細いし。お尻の形が綺麗。』

『ありがとうございます。氷姫ねぇ様。ですが、ねぇ様のおっぱいも白くて輝いていますし、きめ細やかでモチモチとした感触。手の平に収まらない大きさなのに吸い付いてくる弾力と瑞々しさ。最高級の逸品です!!。』

『ありがと。』

『ナチュラルに揉まない!。』

『…むぅ。そうだよね。氷ぃちゃんも灯月ちゃんも綺麗だし…大きいし…私なんて…私なんて…。』

『安心してください。智鳴ねぇ様の胸も大きさでは私達の方が大きいかもしれませんが、美しさでは断トツです!。絶妙なバランスの上に成り立った至高の形。形状記憶かよ!っと言いたくなるような柔らかさの中に押し返してくる程の弾力と滑らかさ。いつまでも触っていたくなるような。そう。例えるなら水まんじゅうとでも言うべき逸品です。』

『っ!。えへへ、そ、そうかな。』

『ソムリエみたいじゃ…。』

『はい。さわり心地抜群です。』

『だから、ナチュラルに揉まない!。』

『むぅ…先程から代刃ねぇ様が厳しいですね。』

『だって!。女の子同士なんだよ!?。ふざけ合うくらいなら別に良いけど。灯月のそれはガチ揉みじゃん!。』

『あら?。あらあら?。私と濃厚な一夜を経験した、ねぇ様がそのようなことを仰ると?。』

『ん!?。あ、あれは…気の迷いと言うか…。って!。灯月を慰める為じゃないか!。閃が居なくて泣いてたのは誰さ!。』

『むぅ…それを言いますか…。内緒って約束しましたのに…。』

『ふん!。灯月だって僕の秘密を話したじゃないか!。』

『そう言えばそうですね。おあいこです。』

『僕…絶対、被害者じゃない?。』

『では、今晩、どうですか?。』

『何で、このタイミングで誘ってるのさ!?。身の危険しか感じないよ!。』

『それとも、2人でにぃ様の部屋に行きますか?。』

『………。』

『今…想像しましたね。ムッツリさん。』

『2人は仲良いね。』

『代刃の見た目。閃の大好物。』

『いや…その…仲は悪くないと…思うよ?。って…急に何言ってるのさ。智鳴も氷姫も。』

『ええ。ええ。代刃ねぇ様の容姿は、女性バージョンのにぃ様の姿に70%酷似しています。相当な美人ですよ。内向的で恥ずかしがり屋で、すぐに前髪で顔を隠しさえしなければ…。』

『っ…。そ、それは…だって…それに、本当に閃が…その…僕の容姿が好きかなんて…。本当なの?。』

『身に覚えがないと?。』

『いや…その、2人の時は…ずっと顔を見てくるし、いっぱい可愛いって言ってくれるけど…。って!。無し無し!今の無し!。』

『まぁ。代刃ねぇ様の自慢話はこの際横に捨て置きましょう。』

『ちょっ…。』

『この場は情報共有の場。互いに聞きたいこともあるでしょう。この場では、どんな質問をしても構いません。クラブの皆さんの間に隠し事は無しです!。』

『一番隠し事がありそうだよね…灯月…。』

『まぁ。隠していますが。聞かれたら教えますよ?。』

『そんな、あっさりと…。』

『あのぉ…。』

『ん?。どうしましたか?。美緑ちゃん。』

『その…私達も個人的な質問…聞いてみたいことがあるのですが…よろしいですか?。』

『勿論ですよ!。クラブのメンバーに隠し事や秘め事は無しです!。ですが、プライベートなことで答えたくなければ答えなくて結構ですよ。適度な距離感これ大事です。』

『あれ?。おかしいな。僕のプライベートは崩壊した気がするよ。』

『気のせいですよ。代刃ねぇ様。』

『そうですか…では、睦美さん!。』

『ワ、ワシか!?。』

『あの…つかぬことをお聞きしますが、その…閃さんと…ど、どの様な夜の営みを育んでいるのでしょうか!。』

『ぶっ!?。』

『あらあら、これは随分と踏み込みましたね。遠くの方でもむせている方がいるようですが…。』


 美緑ちゃんの踏み込んだ質問を聞いて思わずむせてしまった。


『けほっ。けほっ。けほっ。』

『ママ、大丈夫?。』

『え、ええ。』

『良かった~。急にビックリした。』

『ごめんね。』

『ねぇ。ママ。』

『ん?。何?。』

『夜の営みって何?。』

『ぶっ!?。』


 2回目の爆弾が投下され再びむせた。


『いや、その…無理じゃ。言えんわ!。』

『そうですか…同い年の方がどのように閃さんを満足させているのか知りたかったのですが…。』

『そ、そのな…美緑よ。ワシ等は同い年じゃ。さん付けは止さんか。あと、前にも言ったが敬語は不要じゃ。』

『あ、そうだったね。ごめんね。睦美ちゃん。』

『ダメですよ。睦美ちゃん。要点をずらしてしまってわ。普段、大人しい美緑ちゃんが恥ずかしがりながらも決心して尋ねて来たのです。しっかり応えてあげなくては。』

『むぅ…そう言われれば確かにそうじゃが…しかしな…流石に、この場で言うのは…ワシの方が恥ずかしいんじゃが…。』

『言える範囲で良いのではないですか?。』

『言える範囲か…。難しいな…。』

『では、僭越ながら私が代弁いたしましょうか?。』

『は?。』

『美緑ちゃん。』

『はい。』

『睦美ちゃんは、にぃ様にお願いされたことは決して断りません。2人きりの時の睦美ちゃんは、もう、それはそれはにぃ様に尽くせることが幸せというオーラ全開でご奉仕していますよ。瞳なんか常時ハートマークですし、にぃ様が喜びそうなことを率先して聞いていますし。』

『…ぶくぶくぶくぶくぶくぶく…。』

『きゃっ!睦美ちゃんが沈んでるよっ!。』

『クリティカルダメージ。』

『ちょっと、灯月!。やりすぎだよ!。』


 5分後…。


『けほっ。けほっ。死ぬかと思うたわい…。やい、灯月。』

『はい。何でしょうか?。睦美ちゃん?。』

『お前まさか、閃の部屋に隠しカメラなぞ仕掛けておらんだろうな!。』

『………。』

『え!?。そうなの!?。もしかして僕のことも見てた?。』

『私も…見られてたの!?。ひゃぁぁぁ。恥ずかしすぎるよぉ。』

『私は隠すことはない。むしろ見せつける。』

『氷姫さんは揺るがないですね。』

『でも、本当のところはどうなんですか?。灯月さん?。』

『私も知りたい。私…緊張しすぎて記憶が曖昧なんですよ…。ちょっと、見せて欲しいかも。』

『監視カメラ…ですか。ふっ…そんなモノ…にぃ様に掛かれば一瞬で回収されましたよ…。4桁近い数を仕掛けたのに…。』

『ああ、仕掛けは…したんだね…。』

『じゃあ、今は何もないのじゃな?。しかし、何故ワシの…その…ひ、秘密の現場を知っておる?。』

『そんなの、にぃ様を含め皆さんの性格や癖を知り尽くしている私に掛かれば造作もありません。簡単に言えば乙女の勘ですね。どうです?。睦美ちゃん。かなり正解に近かったと思いますが?。』

『……こくり……。』

『そうなんですね。睦美ちゃんは…閃さんにどんな苛烈な要求をされても拒まずむしろ嬉しそうに受け入れると…。凄いです!。』

『待てっ!。美緑!。何故に若干膨張しておるのだ?。』

『美緑ちゃん。』

『はい。灯月さん?。』

『誰かの真似をするのではなく。貴女が心からして欲しいこと、してあげたいことを素直に、にぃ様へ伝えてください。そうすれば、にぃ様もその想いに必ず応えてくれますから。』

『…自分の…したいこと…して欲しいこと…はい!。わかりました!。ありがとうございます!。睦美ちゃん!。灯月さん!。』

『ちょっと待て…灯月。』

『何です?。睦美ちゃん?。』

『その結論じゃと…ワシはただただ秘密を全員の前で暴露されただけではないか?。』

『………ふっ。』

『おい!。』


 一時はどんなことになるかと思ったけど、何とか丸く収まったわね。もしかしたら、生々しい表現が飛び交う18禁コーナーになるところだったわ…。瀬愛ちゃんや翡無琥ちゃんには聞かせられないし…。


『ねぇ。ママ。お姉ちゃん達の話が難しいね。』

『瀬愛ちゃんには、まだ早いよ。もう少し大きくなったら教えてあげるからね。』

『うん。』

『勿論、翡無琥ちゃんもだよ?。』

『はえっ!。えっ!?。あの…その…私…何も…その…知らないです…。』


 あら?。翡無琥ちゃん?。この反応って…。


『そっか。もう少し大きくなったらね。』

『は…はい…。』


 私は瀬愛ちゃんには聞こえないように翡無琥ちゃんに向けて小声の声を出す。翡無琥ちゃんは耳が良いから本当に小さな声でも拾ってくるれるからありがたいのよね。


『今の話、理解出来てた?。あの娘達が何を話しているのか。』

『っ!?。…こくり…。』


 顔を真っ赤にしながら頷く翡無琥ちゃん。可愛い。

 そうだよね。翡無琥ちゃんは年齢的にもう中学生だもん。ある程度の知識があって当たり前か。


『翡無琥ちゃん。』

『はぃ…。』


 私は翡無琥ちゃんを後ろから抱き締めた。


『閃君は好き?。』

『はぃ…。好きです…。』

『恋人だもんね。』

『はぃ…。恋人です…。』

『なら…いっぱい、わがままを言いなさい。』

『わが…まま…ですか?。』

『そう。女の子は自分が幸せになるために、大好きな人に沢山わがままを言うの。』

『わがまま?。そ、そんな自分勝手なことできません…。』

『そうだよ。自分勝手なわがままはダメ。幸せになるのは1人じゃなれないの。その、わがままの先には好きな人と一緒に幸せになる未来がないとダメなんだよ。』 

『好きな人との幸せな未来…。』

『貴女が今よりも大きくなって、あの娘達のように自分の意思で幸せな未来へ迎えることを私は願っているからね。勿論、困ったことがあれば言いなさい。どんなことでも相談に乗るからね。』

『はい。お姉ちゃん。私、お姉ちゃんも大好きです。』

『ふふ。ありがと。』


 翡無琥ちゃんの頬に軽く口付け。


『ああ!。ズルい!。瀬愛も瀬愛も!。』

『ふふ。良いわよ。瀬愛ちゃんもおいで。』

『は~い!。』


 瀬愛ちゃんも抱き締めて頬にキス。

 はぁ…この娘達に幸せな未来が訪れますように…。


『私もお聞きしたいのですが。智鳴ちゃん。』

『きゃう!?。わ、私ですか?。砂羅さん。』

『はい。この間の話なのですが。閃さんに…赤ちゃん扱いされるということは…。』

『きゃぁ!?。恥ずかしいから言わないでよぉ…。』

『閃さんにひたすら甘えさせて貰えるということでしょうか?。』

『ひぇ…。』

『どんなことをされているのでしょうか!?。』

『砂羅さん…そんなキャラだっけ?。』

『私は閃さんに甘えたい!。いい子、いい子と頭を撫でて貰いたい!。抱き締められて包まれたい!。』

『ふっ…。そんなに言うのなら教えてあげるわ!。』

『貴女は!?。黒智鳴さん!?。』

『私の本体は臆病なのよ。どうせ、照れて言わないでしょうから私が変わりに教えてあげる。』

『あ、ありがとうございます!。』

『本体が可哀想ということで、耳打ちで勘弁してね。』

『はい。』

『ゴニョゴニョ…。』

『え!?。仰向けに!?。』

『ゴニョゴニョ…ゴニョゴニョ…。』

『ぜ、全身を!?。な!?。そんなところまで!?。』

『ゴニョゴニョ…。』

『ええ!?。今度はうつ伏せで!?。』

『ゴニョゴニョ…ゴニョゴニョ…。』

『はぁ…成程…尻尾が決め手なのですね。参考になります。』

『もう!やめてぇぇぇぇぇえええええ!。』

『智鳴さん。』

『ぅぅ…何ですか…。』

『師匠と呼ばせてください。』

『むぅ…絶対嫌ぁぁあああぁぁぁ…ぶくぶくぶくぶくぶくぶく…。』


 智鳴ちゃんが沈んだわ…。


『ねぇ。無華塁ちゃん。』

『何?。累紅?。』

『無華塁ちゃんは閃さんとどんなことしてるの?。』

『どんなこと?。戦ってる。』

『え?。いや、そうじゃなくて…その皆が言ってるような…その…男女の関係的な…ことです。』

『男女の関係…。』


 あ。無華塁ちゃんが累紅ちゃんに質問されてる。実の娘の彼氏との関係かぁ…。聞かない方が良い気もするけど、気になるのよね…。


『閃のこと大好き。閃も好きって言ってくれた。』

『うんうん。』

『閃。私の鍛えた身体。綺麗って言ってくれた。』

『うんうん。それで?。その後は?。』

『戦った。』

『はえ?。』

『閃。強かった。』

『んー?。』

『私。負けちゃった。気づいたら気絶してたの。』

『どういう状況?。』

『補足します。』

『灯月さん。』

『ゴニョゴニョ…。ゴニョゴニョ…。』

『ほぇ…。なるなる。無華塁ちゃんにとって男女の関係すらも戦いなんですね。』

『ゴニョゴニョ…。』

『え!?。そんなマニアックな…。』

『こんな感じですね。無華塁ちゃんの場合。』

『参考になりました。ありがと。灯月さん。無華塁ちゃん。』

『ちょっと。恥ずかしい。』

『私は緊張してテンパってしまうんです。閃君は優しくしてくれるんですが…いっぱいいっぱいで…あまり覚えてないのです…。』

『ふふふ。安心してください。私の場合も。幸せすぎてすぐに気絶しちゃいますので!!!。』

『それ…何に安心すれば良いんでしょうか?。』

『私もあまり覚えてません!。』

『はぅ。そ、そうですか…。しかし、これだけ個性的な女性を満足させられる閃君は、やっぱり凄いですね。』

『にぃ様にかかれば朝飯前ですよ!。』

『何で灯月が胸はって自慢気なのさ…。てか、睦美が拗ねるから胸を揺らさないでよ!。』

『ワシ…拗ねてないもん…。』


 結局、無華塁ちゃんのことは聞こえなかったわね…。安心したような…がっかりだったような…。相変わらず、横を見るとキョトンとしている瀬愛ちゃんと…顔半分をお湯に沈めている翡無琥ちゃん。対照的ね。


『さて、情報共有の場はそろそろお開きです。本題に入りましょう。』

『今の本題じゃなかったんだね。』

『一方的に辱しめられたのじゃ…。』

『まぁまぁ。それでは本題です。現在我々【にぃ様大好きクラブ】は、会いたい時に、にぃ様を探し、にぃ様へスキンシップをしてきました。今のままでも十分幸せを感じられたことでしょう。ですが!。皆さん!。それで満足ですか!。』

『っ!?。』

『もっとにぃ様と一緒に過ごしたくはないですか?。』

『………。こくり。』

『そこで提案です。日程等は、にぃ様と確認しなければなりませんが、数日に一度。ローテーションで、丸1日、にぃ様と2人きりで過ごす日を作るというのはどうでしょうか?。』

『1日…ずっと…一緒…。』


 全員が頷いた。


『ふふ。決まりですね。それでは、全員で順番を決めましょう。』

『あら?。』


 純白と漆黒。左右非対称の翼を広げた灯月ちゃんが私達の階層まで上がってきた。

 どうやら、ここで見ていたのがバレてたみたいね。

 全裸の状態で、輝く羽を撒き散らしながら飛翔する灯月ちゃん。もう、綺麗さというか…神々しさというか…完全に天使なんですけど…。

 喋らなければ、もの凄い美人だし。喋らなければ、超絶なスタイルの良さだし、喋らなければ、喋らなければ…。

 くっ…改めて思い返せば、なんて…残念な娘なんだろう…。暴走することさえなければ…。


『む…何やら、とても失礼なことを考えてませんか?。黄華ねぇ様?。』


 勘も鋭い。


『そんなことないわ。灯月ちゃんは綺麗だなって思ってたのよ?。』


 ふ。六大会議で培われた私の完璧な仮面。内心を悟らせない完全な笑顔。この鉄壁の布陣は、いくら喋らなければ絶世の美女で完璧超人メイドの灯月ちゃんでも突破できないわよ。


『ふむぅ…確かにそう思って頂けたようではあるのですが…。もう少し別のことを…んー。お考えになったと思うのですが…まぁ良いです。喋ると残念な娘の私は速やかに目的を成しましょう。』


 あれ?。

 えええぇぇぇ…もうこれ心読んでるよね?。

 ちょっと…この娘…マジで怖いんですけど…。


『さぁ。瀬愛ちゃん。翡無琥ちゃん。お話は聞いていたと思いますが一緒に、にぃ様と1日デートする順番を決めましょう。』

『はーーーい!。』

『お兄ちゃんと…。はい。』

『では、黄華さん。少しお二人をお借りしますね。』

『え、ええ。』


 瀬愛ちゃんと翡無琥ちゃんを両手に抱えた灯月ちゃんが戻っていく。

 

『………閃君も…大変ね……。』


 ふぅ…とため息を一つ。一人になったので足を伸ばし肩まで湯船に浸かる。ぼーっと、再び、年頃の乙女達の会話に耳を傾けた。


『さぁ。どのようにして順番を決めましょうか?。私としては胸の大きい順を所望します。』

『それ…灯月が1番の奴じゃん。』

『ですが、代刃ねぇ様も2番目ですよ?。』

『むっ…。2番かぁ…。それも良いかも…。』

『ワシは…何番目になるんじゃそれ…。』

『私。早い。』

『私…真ん中くらい…。』

『瀬愛は?。瀬愛は?。』

『瀬愛ちゃん。あの見た目だけ天使は、内面悪魔だから近づいちゃダメだよ。』

『そうなの?。じゃあ、小さい順は~。瀬愛何番目~?。』

『瀬愛ちゃん…。』

『………ここは公平にくじ引きにしませんか?。』

『まぁ。無難じゃな。』

『…むぅ。仕方ありませんね。』


 どうやら、くじ引きで落ち着いたみたいね。灯月ちゃん…閃君が絡むと途端に悪魔みたいなこと言い出すから…でも、代刃ちゃん達も慣れているようね。灯月ちゃんに振り回されながらも楽しそう。


『決まりましたね。では、お風呂から上がり次第にぃ様に報告と日程の打ち合わせを致しましょう。』


 その時、ガラガラ!。と、勢いよく大浴場の扉が開いた。


『ふっ!。通りすがりの妾だ!。覚えておけ!。』ドンッ!。

『同じく~。通りすがりのママです~!。覚えておいて~!。』バンッ!。


 入ってきた人物の声からして、つつ美さんとリスティナさんみたいね。まるで、タイミングを見計らっていたような感じだけど?。


『んーーーーー!。んーーーーー!!。』


 あれ、もう一人声がする。凄いくぐもった声だけど…。


『どうせ!。妾達抜きで、また楽しいことを企画しておると思ったら、閃と1日デートだと!?。そんな最高なことに妾達を混ぜぬとはどういう了見だ!。』

『私達も~。閃ちゃんと~。過ごしたいの~。ということで~。当事者の~。女の子閃ちゃんを~。連れてきたわ~。えい。』

『んーーーーー!?。』


 つつ美さんの神具の布に包まれた?。いや、縛られグルグル巻きに拘束された女の子姿の閃君が、灯月ちゃん達のいる湯船に投下され、どぼーーーーーーーーーーん!!!。という音と水飛沫を上げた。


『にぃ様ぁ~。』

『閃。女風呂で大胆。』

『わ~い!。お兄ちゃんも一緒だぁ。』

『閃。戦う?。』

『閃さん。こんなところで会えるなんて…。』

『きゃう…閃ちゃん!?。まだ、心の準備が出来てないよ~。』

『閃君とお風呂…お風呂…お風呂…ぶくぶくぶく…。』

『お、お兄ちゃん…は、恥ずかしい…です…。』

『せ、閃さん…。まだ…昼間ですよ…。』

『だだだだだ…旦那、旦那様!?。』

『セセセセセ…閃!?。急すぎだよ!?。』


 喜ぶ娘。恥ずかしがる娘。混乱し、沈んでいく娘。嬉しそうにする娘。などなど、各々が別々な反応を示し混沌を極めた。


『はぁ…。お風呂…気持ちぃ。』


 私は一人、入浴を堪能した。

次回の投稿は5日の日曜日を予定しています。

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