第132話 新たな出発
この話から第二部になります。
これからも読んで頂けると嬉しいです。
ーーー第二部 世界崩壊消滅編ーーー
リスティナを仲間に迎え入れてから6ヶ月。季節も移り変わり、新たな春が始まろうとしていた。
そんな中、世界の状況は静かに変化していた。
まず、六大ギルドによって統治されていた支配エリアは境界を失い、六大ギルドの影に隠れ潜んでいた中規模のギルドが台頭した。六大ギルドが所有していたホールなどの施設を独占し、小さいながらも各々の派閥を作り始めたのだ。
正直な話、彼等は俺達クロノフィリアの驚異にはなり得ない。白蓮ほど国家レベルで動かす手練も手腕もなく、行っていることと言えばゲーム時代の延長線上のことでしかない。要は、周囲とひたすら小競り合いを繰り返しているだけ…。
この半年の間、クリエイターズも現れず、拠点としているであろう緑龍絶栄の支配領域にも表立った動きは見られなかった。
対して俺達クロノフィリアはというと、無凱のおっさんを中心に情報収集や他ギルドの監視、無能力者達の保護、安定した資源の確保など増えた人数を利用して皆が充実した日々を送れるように活動していた。いつ敵が攻めてくるかも分からない状況下のこの世界で俺達は生きていくしかないのだ。
やれることは全てやっておきたい。それが、俺達の考えだが…根を詰めすぎても良い結果は得られないように、適度に息抜きも大事。ということで、クロノフィリア内では全員総出の季節ごとのイベントを開催したりした。
拠点にも変化があった。
まず、廃ビルを利用した仁さんの喫茶店は場所を移動。黄華扇桜の支配エリアに新たなギルド会館を建設した。この新たな建物がクロノフィリアのメンバー全員が住むこととなる拠点になる。その1階にホールと隣接して喫茶店の入り口があり、喫茶店の奥にある階段と廊下から各々の部屋に行き来することが出来る。また、おっさんの能力で黄華扇桜のギルド会館にも直接繋げ、黄華さんもギルドを運営しながら俺達と同じ場所に住むことが出来るようになった。まぁ、簡単な話。拠点の場所が変わっただけで、それ以外は今までと殆ど変わっていないのだ。
各部屋割には色々と変化があった。今までは各ギルド(六大ギルド)のメンバーが集まる形で決められていたのだが、クリスマスやお正月、バレンタインを経て互の関係にも変化が生じた。恋人になったもの。元々夫婦のもの。片想いだが側に居たいもの。などなど。大切に想う者達同士で各階を自由に使用できるようになった。
俺の部屋のある階層も灯月達のバラバラの意見を照らし合わせたことで発生した俺の隣の部屋を取り合うという妥協と主張、そして血で血を洗う人外達の争いを繰り返した結果、最終的に中央にある共有スペースを境に俺の部屋が右側に配置された。そして、左側には共有スペースから伸びる2本の廊下があり、灯月、代刃、で隣に燕。智鳴、氷姫、無華塁。睦美、つつ美母さん、リスティナ。美緑、砂羅、累紅の順で部屋が並んでいる。瀬愛と翡無琥の部屋も用意しようとしたのだが、結局、階層の違う黄華さんの部屋の隣に決定した。
そんなこんなで心機一転。新たな拠点を構え新生クロノフィリアは再出発を遂げたのだった。
そんな、ある日の朝のこと。
『旦那様。朝です。起きてください。』
俺の身体を優しく揺する感覚。声の主は睦美のようだ。
最近、灯月達の中で、朝に俺を起こす係が作られたらしく交代制で起こしに来るようになった。俺は朝、ランニングをするという日課があるのだが、それを知ってか起こしに来る時間もかなり早い。時間にして朝の5時半くらいだ。
正直な話。俺は目覚ましが無くても普通に起きることが出来る。わざわざ、早い時間に起こしに来ることはないぞ。っと、最初はもちろん断った。なのだが…灯月達全員が頑なに起こしに来ることを譲らなかったのだった。あの睦美や美緑までもだ。あまりの迫力に了承せざる得なかったのだった。
それから毎日代わる代わる恋人たちが起こしに来るという他人が聞いたら羨ましがられるシチュエーションを手に入れた訳なのだが…真面に起こしに来るのが睦美と美緑しかいないという事態に直面することとなった。
起こし方も各々個性が出るようで、睦美の場合は小さなノックをした後に静かに入室。暫く無言で俺の寝顔を観察し顔を赤くしながら決死の覚悟で頬にキスをしてから部屋の中を転げ回る。微かな声で『ワシは…いったい何を…でも…旦那様と…接吻…えへへ…私…幸せ…です…じゃ…。』と聞こえた。その後、我に返ったようで深呼吸し、何事もなかったかのように俺を揺すり始める睦美。
最初はたまたま気配で目覚めた時に目撃した睦美の奇行だった。どうも俺自身、眠りが浅いようで僅かな気配でも目が覚めてしまうのだ。最初は言おうか迷った。だが、俺が目覚めたのを確認した時の嬉しそうな顔を曇らせるのは忍びなく…気付かないフリをしているのが現状だ。まぁ…可愛いから良いか…。
『お早う。睦美。』
『はい、お早うございます。旦那様。ランニングのお時間です。お召し物は此方に用意してありますので。』
『いつもありがとう。助かる。』
『いいえ。私の生き甲斐ですので。』
『そんな…大袈裟な…。』
上半身を起こそうと力を入れた。その時、腹部に違和感を感じた。そうだ。何故かずっと腹のところが温かかったんだよな…。
俺は不思議に思い掛け布団を捲った。
『はぁ!?。』
『はぇ?。』
目を丸くする俺と睦美。
その視線が交わる先には、はだけた俺の身体に抱きついている全裸の少女。って…クティナじゃん…。何で出てきてるんだ?。
クティナは普段、俺の心の中に隠れ潜んでいる。いつも寝ているようで時々、起きては俺に抱きついて来るようになった。しかし、今回のように同じ布団に入ることはなかったのだが…。
『だだだだだだだだだだ…旦那様…これはいったい!?。何故、裸の幼女と一緒に寝ているのですか!?。幼女枠は私ではなかったのですか!?。』
大慌てで混乱する睦美。
『落ち着け!睦美!そんな枠は最初からねぇから!。』
『旦那…様…。』
『あ、はい。なんでしょう?。』
『私の…身体では…満足できませんでしたか?。』
普段の睦美なら言わないような台詞まで言ってくるし…。
『誤解を招くようなことを言うな!。あの時は、お前も成人の姿だっただろうが!。って…何言わせるんだ…はぁ…そんなわけないだろう。落ち着け。それと、よく見ろ。クティナは俺に抱きついているだけだ。何もしてない。』
『…確かに…そうですね…。』
『お前にはいつも助けられてる。俺の大切な恋人だ。だから、不安になんて感じる必要はない。』
『はい…申し訳ありません。取り乱しました。』
睦美が落ち着いたのを確認し、俺に抱きついて気持ち良さそうに寝息を立てているクティナの肩を揺らし起こしてみる。
『おい。クティナ。起きてくれ。』
『ん、ん…んーーーーーん。何?。閃?。』
眠気眼を擦りながら反応するクティナ。
『起こして、ごめんな。』
『ううん。大丈夫。』
『ちょっと聞きたいんだが、何で裸で俺に抱きついて寝てるんだ?。』
『ん?。閃を守ってた。』
『は?。俺を…。』『守ってた…ですか?。』
クティナの言葉に俺と睦美は首を傾げた。
『最近。閃が灯月達に。襲われてるの見た。寝てるのに。酷いと思ったから。』
『ああ。そういうことか…。』
『どういう…ことですか?。』
俺は納得した。
未だに状況を呑み込めない睦美に説明する。
『お前達の決め事で朝に俺を起こしに来てくれるようになっただろう?。』
『は…はい。』
『正直な話、真面に起こしてくれるのは、睦美と美緑だけなんだ。』
『え?。』
『他の連中は確実に布団に潜り込んでくる。』
『っ!?。』
『それをクティナが襲われてると勘違いしたんだろう。実際、襲われそうになったこともあるような、無いような…感じだしな。』
俺の言葉に睦美は目を丸くし、俯きボソボソと小さな声で呟き始めた。僅かに肩を振るわせながら。
『…あやつ等…約束を破りおって…。』
『む、睦美?。』
『はっ!?。し、失礼しました。つい我を失ってしまいました…。』
顔の前で手をパタパタと振る睦美。俺を起こしに来ることに彼女達の中でルールがあったようだ。それを守っていたのは睦美と美緑だけだった…ということか?。
『で?。何でお前は裸なんだ?。』
『ん?。閃が喜ぶと思って脱いだ。』
『なっ!。やはり、旦那様の幼女枠は私では足りなかったということですか!?。』
『だから、そんな枠は無いから!。』
クティナの爆弾発言を真に受ける睦美。
『私では…夜伽の相手として…旦那様を…満足…させてあげられないのですね…。』
『そんなことないって…。第一に俺はお前が好きだから告白して恋人になったんだ。甲斐甲斐しく尽くしてくれるし、俺を立ててくれる。こんなに出来たお前を…愛おしいと感じてる。そんな恋人を嫌いになるわけないだろうが!。』
やべ…つい勢いで普段言わないようなことまで言っちまった。…本音ではあるが…照れるな…これは…。
チラリと睦美を確認。
『愛おしい…。旦那様…。』
『はい。』
『ふつつか者ですが末長く宜しくお願い致します。』
丁寧で流れるような動作で座礼をする睦美。久しぶりに見たな…それ…。
『ああ。これからも大事にするよ。愛してる。睦美。』
『っ!。はい。大好きです。旦那様。』
何故か、不思議な流れで睦美との仲が深まったのだった。暫く睦美と抱き合い、自然と離れる。照れた睦美の笑顔がいつもにも増して可愛かった。
離れた後、睦美がクティナへ質問した。
『のぉ、クティナ。』
『なぁに?。睦美?。』
『教えて欲しいのじゃが…灯月達はどの様にして旦那…閃を起こしに来たんじゃ?。』
俺との会話以外は旦那様呼びにしない睦美。彼女の中のルールなのか、何なのか。不思議な娘だと、改めて気付かされる。
『え~とね。』
ーーー
ーーー灯月の場合ーーー
『…メイド…参上…。』
音もなく入室する義妹メイド。
その姿はメイドというより暗殺者に近い。いや、普段から鎌を武器として使用していることを知っている身としては最早、死神の類いなのかもしれない。
『さぁ、にぃ様。覚悟してくださいまし。義妹メイドが YO BA I に来ましたよ~。』
物音と気配を完全に遮断するスキルを使用し忍び寄る義妹。夜這いって…まだ暗いとはいえ、もう朝なんだが?。あれ?。何故か義妹のスキルが無効になっている?。義妹が入室した音も、気配も、声さえも丸分かりだった。何でだ?。
『ふふ…ふふ…さぁ、にぃ様。覚悟してください。今、全てを脱ぎ捨てた義妹がにぃ様をつり上げて見せます!。』
『ダメ。』
一瞬でメイド服を脱ぎ下着姿になった灯月に立ちはだかるクティナ。そうか、クティナのスキルか…灯月の気配に気付けたのは…。てか、俺…起きた方が良いかな…。
『む。貴女は…クティナちゃん。ですか?。真の姿になった私が!。降臨!満を持したのですよ?。何故、止めるのですか?。それに…何故、にぃ様の布団の中から出てくるのですか?。私、羨ましくて泣きますよ?。涙はメイド服で拭いておきます。』
『灯月。殺気。敵。閃は守る。』
『む。このにぃ様と濃厚な営みを育んだ私に対し敵ですか?。それは、間違いですよクティナちゃん。』
『間違い?。』
『はい。今や兄妹の仲を越え、恋人となった私とにぃ様の間には既に境界はありません。言ってみれば…そう!。最初から最後までクライマックスなのです!。分かりますか?。』
『全然。』
『そうですか。では、力ずくで参りますよ!。良いですか?。ふふ。まぁ答えは聞いてませんが!。』
俺の布団に入り込もうとする義妹。
それを止めようとするクティナ。
『お前は何をしてるんだ!。』
もうどこから突っ込んで良いのか分からん。聞き耳を立てて聞いていれば、絶対何かの影響を受けている台詞に暴走気味の行動。目を開けてみれば下着姿の義妹兼恋人が布団を捲り上げているんだ。
『お前…俺を起こしに来たんじゃないのか?。』
『いいえ。にぃ様。YOBAIです。』
『もう隠す気無しか?。』
『にぃ様に嘘はつけませんので。』
『はぁ。まぁ…いい。説教だ。そこに正座しろ!。』
『はぁい!。』
『…何で嬉しそうなんだよ…。』
ーーー
『これが灯月の場合だ。』
『あのメイドォォォ!!!。』
次回の投稿は22日の日曜日を予定しています。