第123話 閃VS白蓮③
残光の軌跡が走る。
繰り出される2本の斬撃を迎え撃つ2本の斬閃。左右交互に孤を描く軌跡を残しながら激しく衝突を繰り返し火花と金属音、そして、魔力と衝撃波を周囲に撒き散らす。
両者の術理はほぼ互角。
短期間で大幅な強化を獲得した2人は、戦いの最中、その強大な力を徐々に自らのモノとして使いこなし始めていた。
続く打ち合いの中。攻守を入れ替えながら互いの刃をぶつけ合い、自らの技量を更に高め合っているのだ。
既に人の域を越えた斬撃は、戦いを見守る仲間達ですら、僅かな光の線が走り、次の瞬間に発生する衝撃波と空気の振動を感じることしか出来ないでいた。
『らぁぁぁあああああ!!!。』
『はぁぁぁあああああ!!!。』
一瞬だ。
ほんの数秒の衝突で発生した衝撃で、周囲のモノは吹き飛び、瞬く間に何もない荒野へと変わっていく。
レベル170。
神の領域に踏み込んだ者同士の戦いは、レベル150に至った者同士の戦いですら児戯に等しいことを、まざまざと見せ付けられた。
文字通りレベルが違うのだ。
戦闘を繰り返しながら移動する閃と白蓮が通り過ぎた後に残されるのは、根元から無惨にひっくり返り粉々になった木々の数々と、捲れ上がった大地だけだった。
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ーーー白蓮ーーー
僕と同じ高みに至った彼。
スキル【神体強化】と【肉体強化】で強化され、【剣武】により超越された僕の連撃を、彼は同じ速度と軌道の連撃で相殺し続けている。僕らの技量、魔力、スキルの強さは完全に拮抗していた。
この短時間で、本当に彼は凄い…。この瞬間を長年…待ち望んだ僕にとっては、この上無く胸の鼓動が高鳴っていた。
僕らの周りを飛び回る無数の剣が衝突を繰り返している。
【白聖十二精霊剣】 。僕の仲間達、白聖十二騎士団が持っていた能力を宿した12本の精霊剣。背後に円形に並ぶ、それらは、僕の意思で放つことも、能力を発動することも出来る。12本の剣が放たれる波状攻撃は、並みの能力者なら2、3本で消し去れる威力を誇るのだが…彼が僕を迎え撃つに使用しているのは、23本の神剣。
彼が信頼するクロノフィリア全員の能力を宿す奇しくも僕と同じ性能の武装だった訳だ。
能力は拮抗してはいるものの、手数で圧倒的に負けている。何せ数が倍なのだ。こちらが1本放てば彼は2本で迎撃してくる。同じ土俵では勝ち目がない。
加えて、彼が両手に持つ双刀。
この二振りの刀が特に厄介だ。
彼が左手に持つ【時間を止める】刀。鞘から解き放たれた今、常に世界の時間を止めようと魔力を放ち続けている。自らの能力を発揮しようと、より強い魔力を放出し世界に干渉しようとしているのだ。
一度でも止められてしまえば…神へ至った僕らの戦いでは、刹那の時間停止ですら勝負が決してしまう状況に陥ってしまう。
故に、僕は【崩壊(強)】が取り込んだ【魔力崩壊】のスキルを刀に向けて発動し続けることで、刀から放出している魔力を相殺し続けている。
そして、右手の刀。
あらゆるモノを【絶ち斬る】刀。
振り抜かれた瞬間。彼が認識していた対象を絶ち斬ってしまう恐ろしい能力を持っている。
しかも、収集した情報によれば、その対象は物体に留まらず概念すら絶つことが可能であるらしい。つまり、能力者が持つスキルや武装はもちろん、種族や…もしかしたらレベルすら斬ることが出来てしまうのではないのか?。
そんなゲームシステムすら破壊しかねない能力を有する刀を使わせる訳にはいかず、こちらの刀にも【崩壊(強)】が取り込んだ【接触崩壊】を発動し続けている。
つまりは、彼と同じスキルの常時発動に魔力の大半を持っていかれているということだ。
何よりも最も僕を苦しめていること。
それは、クティナが持っていたスキルが僕の意思で完全にコントロールしきれていないということ。
発動する度に拒絶に近い拒否反応を示す為、少々手荒だが魔力を大量に流すことで無理矢理制御化においている状態だ。
クティナ…は僕を憎んでいるのだろうね。何せ、ゲーム時代に僕は最も彼女を傷付け殺し続けたのだから。仲間のレベルを上げる為に彼女を利用したんだから…当然だね。そして、今もまた、彼女の力を利用している。怒って…憎んで当然のことを僕は彼女にしているんだ。
けれど、あと少し…もう少しの時間だけ…君の力を利用させてもらう。
『ははは!楽しいな!白蓮!。』
様々な轟音が鳴り響く中、その雑音をかき分け、楽しそうな彼の声が僕の耳に届く。
本当に彼は楽しそうに戦っている。僕をどのように攻略しようか思考を巡らせながら攻め立てるんだ。
彼は僕に似ている。
そう思っていたのだけど、僕では彼に遠く及ばなかった。根本が違ったんだ。似て非なるもの。僕達が似ていたのは外側だけ、中身は全くの別物だ。
その違いが、今の…互いの立ち位置に繋がっているのだから。
けれど、彼は僕を同列に見てくれている。僕の願いに応えようと並び立ってくれたんだ。
今度は僕が彼と真っ向から向き合う番なのだ。
『ああ!心が踊るよ!高まっているよ!。』
『はっ!俺にとってのラスボスはお前だ!白蓮!。』
『僕にとってもそうだ!。…だから。』
『ああ!お前には…。』
『…君にだけは…。』
彼も僕と同じ気持ちで戦ってくれている。
剣がぶつかり合う度に、感情が、意思が流れてくるようだ。
『『負けねぇっ!!!。』』
絶対に勝つ。
最後に立っているのは、この僕だ!。
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ーーー閃ーーー
白蓮の野郎は、ここまで強くなっているなんて思わなかった。
【人神化】した俺の剣を全て打ち返し、神具【刻斬ノ太刀】と【時刻ノ絶刀】の能力は完全に封じられている。
リスティナの力を借りたことで、俺は女の姿の時しか使用できなかった神具を男の姿でも使えるようになった。
【時刻法神】も背後に展開し、クロノフィリアのメンバー全員の神剣を白蓮へ向け放ち続けるも、奴も12人の仲間の能力を宿す精霊剣を展開し俺の神剣を悉く撃ち落としていく。
手数は此方が上の筈なのに、白蓮は数の差を化け物じみた身体能力、【神体強化】と【肉体強化】、そして、おそらく【剣武】も使用し捌き続ける。
攻め切れない。それが現状だ。
【多重白聖翼結界】と【七大罪の獣】を失っても、奴の力は衰えるどころか逆行をはね除け自らに力に変えてやがる。
まったく、最高の相手だよ。白蓮!。倒し甲斐がありやがる!。
『ははは!楽しいな!白蓮!。』
俺は素直な気持ちを口にした。
敵として、こんなに手応えがあった奴なんてクティナやリスティナくらいだった。
お前からは、彼女達に匹敵する凄味を感じる。
コイツにだけは負けたくねぇ。
お前になら、俺の神技をぶちこめそうだ。
俺は、最後の一撃に全てを懸ける準備を始めた。
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ーーー白蓮ーーー
くっ…。
身体が痛い。全身の筋肉組織が破壊され始めている。関節が軋み、骨が歪む。
身体を動かす度に、激痛が走り始めた。
限界が近付いているんだ。
【生命時間消費】のスキルが僕の生命の残り時間を報せてくれている。
『まだだ!まだ戦える!。』
魔力を命を燃やし、もっと強く、もっと速く…彼に攻撃を繰り出し続ける。
魔力の過剰消費、肉体の限界を越えた僕に応えてくれたのは、彼だけではない。今まで共に戦場を駆け抜けた仲間達の精霊剣、そして、僕の相棒、【白聖剣】が、想いに呼応するように輝いていく。
『むっ!何だ!それは!?。』
異常な光の増加。それを見た彼も驚いている。
攻めるなら今しかない。皆…俺に力を貸してくれ!。
『らぁぁぁあああああ!!!。』
『っ!?させねぇ!!!。』
全力の踏み込みと強大な魔力を纏う白聖剣を振り下ろす。
僕の渾身の一撃に対し、彼も全力の魔力を込めた刀で反撃してきた。
今までにない程の強烈な衝撃を生み出す激突する刃。
『ぐっ!。』
『ぐぅ!。』
受け止められた!?。けど、この一撃だけは…。
『負けねぇ!!!。』
『なにっ!?。』
彼の刀。【時を止める】刀の刃が砕け散った。自分の武装が破壊されたことに驚く彼だったが、直ぐ様立ち直り残った【絶ち斬る】刀を振りかざす。
『ちっ!?まだこっちが残ってるぜ!。』
いける!。
彼の刀を破壊できたということは、それを封じてた【魔力崩壊】のスキルを使えるようになったということ。
『ここは!僕の方が有利だ!。』
振り抜かれる刀を両手に持った剣を重ね合わせて刀にぶつける。
『くっ!マジか!?けど、負けられないのはこっちも同じだぁ!!!。』
『ぐっ!?。』
彼の魔力が増大。
刀の硬度が急激に強化された!?。
『はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
『らぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
互いの全力の衝突。
1本の刀と2本の剣。
その結果は…。
『っ!?。』
『砕けた!?。』
双方の刃が砕ける形で終わる。
『まだだよ!。』
これは想定内のこと。
彼ならばここまでやる。僕はそう信じてたんだ。だからこそ、切り札の発動する為に準備をした。拳に全身を巡る魔力を集中させていたんだ!。
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ーーー閃ーーー
白蓮の全力。
決して甘く見ていた訳でも、油断していた訳でもなかった。けれど、想定外に奴の底力が俺の神具を上回ったんだ。
【刻斬ノ太刀】と【時刻ノ絶刀】の両方を破壊されたのは予想外だったが、これが俺の神技の発動条件だ!。
刀を破壊された状態から拳を構え全身を回転させる。
視線の先の白蓮同じように拳を構えていた。
そうか、切り札まで…同じだったようだな。
全ての神具、神技が通用しなかった時…初めて使うことが出来る俺の神技…。
その名は…。
『極 天刻地絶人!!!。』
全魔力を叩き込む右の拳。全ての能力を受け継いだ俺の最強の技だ。
対する、白蓮も…ほぼ同じ構えで。
『白聖拳!!!。』
右の拳を繰り出していた。
交差する拳同士が互いの身体を捉えた。
このストーリーを読んでくれてありがとうございます。
これからも良ければ読んでくれると嬉しいです。