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第118話 決着 代刃 灯月

ーーー代刃ーーー


『なるなる~。これで~。こうね~。魔力を注いで~。おお~。じゃあこれくらいかしら~。』


 手のひらに空間の歪み、時空の門が現れる光景。僕が何度も見てきた。それを僕以外の人が…僕の目の前で、僕の能力を使い始めた女性。

 白聖連団 白聖十二騎士 序列2位 白雪

 これが彼女のスキル?。他人の能力をコピーする能力か…。


『はい~。出たわ~。』


 白雪が展開した【並行世界接続門】から出現した神具。見た目は…何だろう?1本の棒?指揮棒みたいな?棒状の鞭みたいな形の神具だ。

 僕は【鑑定眼(神具)】を発動して白雪の出した神具を確認する。

 白雪も【鑑定眼(神具)】を発動してるのか、目に魔力が集中してる。って…神具だけじゃなくてスキルまでコピーされてるし!?。


『え~とぉ~。何々~。神具…【ディアリヴァ】…能力は~。えぇ…やだな~。虫苦手なのに~。』


ーーー神具ーーー

・名前【ディアリヴァ】

・系統【召喚・使役】

・効果【神獣に区分される昆虫を召喚し使役する】

ーーーーーーーー


 …と記載されていた。

 ええ…虫は僕も苦手だよ…。


『じゃあ~、やってみましょうか~。』


 白雪が鞭を振るう。

 すると、小さな魔方陣が大量に出現し、そこから蚊のような針状の口と…蜂のような針のついた腹…カマキリの鎌ような腕…クワガタの角…。何あれ…気持ち悪い…。大きさは1匹1匹が5cmくらいの昆虫が群れで召喚された。

 そいつらが白雪の命令で一斉に襲い掛かってくる。


『うへぇ…気持ち悪いわ~。でも、これで命令出きるのよね~。いきなさ~い!。』

『きゃぁぁぁあああああ!!!。何でも良いから炎の出てっ!。魔力レベル6!。』


 時空の門に注ぐ魔力は白雪と同じくレベル6。出現するのは木で出来た短剣。


『神具!『エンカミマイゴク』!。』


 【鑑定眼(神具)】で至急効果を確認。


ーーー神具ーーー

・名前【エンカミマイゴク】

・系統【炎操作】

・効果【炎神との契約により神炎を発生させる】

ーーーーーーーー


『燃やし尽くせぇぇぇえええ!。』


 短剣を振ると木製の刃から青い炎が吹き上がり襲い掛かる虫を全滅させた。

 

『へぇ~。ある程度~。効果を~。コントロールも出来るんだね~。私もしてみようかな~。じゃあ~。確か~。魔力レベル6~。格好いいの~来て~。』


 再び、門を開き魔力を注ぐ。


ーーー神具ーーー

・名前【プロムシルケード】

・系統【機械硬盾】

・効果【操作可能な機械の盾。先端から光学レーザーを発射出来る】

ーーーーーーーー


『ほぉほぉ~。じゃあ~。撃っちゃいましょう~。はっしゃ~。』

『わっ!?。』


 発射されたレーザーを必死に躱す。


『はぁ~。当たらないわ~。』

『当たったら終わりだからね!。』


 互いに神具を召喚し、ただ能力を発動。

 そして、相殺。それを何度か繰り返すと白雪が動きを止める。


『埒があかないわね~。』

『まぁ…召喚するのが同じレベルだしね。工夫なしに能力を放つだけじゃそうなるよ。』

『そうなのね~。じゃあ、ギャンブルしてみましょうか?。』

『はっ?。』


 一際大きな時空の門を出現させる白雪。

 ちょっと…待って!?これって!もしかして…。


『魔力レベルは最大の10よ!。』

『なっ!?。』


 レベル10は僕ですら発動したことがない…。

 そこまでのレベルになると相手を倒すとか国を滅ぼすとか…そんな話ではなく、世界そのものの法則に干渉してしまうレベルの神具を呼び出してしまう。

 それに、肉体に襲い来る負担と魔力の消費はレベル9までの比ではない。


『くっ…凄いわね…魔力をごっそり持っていかれる…悪いのだけど長くは持ちそうにないから…勝負をつけるわ。』


 レベル10の神具に対抗出来るのは同じくレベル10の神具じゃないとダメだ。


『魔力レベル10!。』


 僕も接続門に魔力を注ぐ。


『ぐっ!?。』


 今までレベル10の神具を召喚したのは2回。

 クティナの時と、リスティナの時。

 そのどちらの状況でも途轍もない効果を持つ神具が召喚された。その力はクティナにもリスティナにも決定打に近いダメージを与えたのだ。

 門が…開く…。そして、神具がその姿を現した。


『…これは…。』

『凄いわ…。これ…。』


 僕の接続門は異世界の神具を性能が10分の1の状態の劣化コピーを召喚する。

 だけど…この召喚された神具は…。

 互いに門に魔力を根こそぎ持っていかれたようでフラフラだ。


『ふふ…じゃあ、撃ち合いましょうか~。神具解放ぉ~。【ヴァラダイゼグラデォス】!。』


 漆黒と純白が螺旋を描いたような色合いの剣。周囲に舞う24の宝玉が剣の周りを回転し始め刃に魔力が集まっていく。


『僕も負けられない!神具!【セイラクター】!!!。』


 腕で被さる形で一体化した小型の盾がついた刃。名前を告げると腕から分離し形を変形させた。その姿を黄金の聖剣へと…。


『『はっ!!!。』』


 振り下ろす互いの一刀。

 剣から放たれる魔力の波動。漆黒と純白の螺旋状の波動と黄金の魔力の砲撃。

 レベル10同士の神具の激突は、今現在も戦い続けている閃と白蓮のぶつかり合う魔力の総量をこの一瞬だけ上回る。

 周囲は激突する魔力の波で発生した爆風に襲われ瞬く間に更地へと変わっていく。

 互いの魔力が尽きるのはほぼ一緒だった。

 やがて、魔力の放出は弱まっていき次第に光輝いていた戦場は消し飛んだ雲で隠れていた太陽に照らされた。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』

『ふぅ…。はぁ…。』


 神具の召喚、神具の使用と立て続けに魔力を放出した代刃と白雪。互いにやっと立っている状態だった。

 放出した魔力の本流を受け、衣服はボロボロ、身体も擦り傷、切り傷だらけだった。

 大きな外傷がないのは、2人の神具の威力が拮抗し相殺したからだろう。


『はぁ…はぁ……ふぅ…ねぇ~。少し~。お話しましょうよ~。』


 突然の白雪の申し出に混乱する。

 何故?。急に?。このタイミングで?。

 様々な ? に頭の中で困惑する。


『え!?。』

『…ちょっとだけ、貴女に興味があるのよね~。』

『……………。でも君の目的って僕達を倒すことでしょ?それに…さっき薬も…。』


 彼女は躊躇わずに命を削る薬を飲んだ。

 僕の魔力に彼女が拮抗出来たのも薬の強引なレベル上昇のおかげなのに…。

 彼女が会話している今現在で際、刻一刻と彼女の命は失われていっているのに…。


『最初はね…そうだったわよ。でもね、ちょっとだけ。私自身の目的が変わったの。』

『目的が変わった?。』

『ええ~。まぁね~。』


 呼び出していた神具を消し、僕に近付いて来る白雪。足取りは軽く、彼女からは攻撃の意思や殺気を感じない。

 一応、警戒しながら、僕は神具を解除した。

 目の前で歩みを止め、顔を覗き込んでくる彼女に若干の恐怖心が込み上げてくる。何なの…この人…閃…どうしよぉ…。


『貴女…恋をしてるでしょ?。』

『え?…はい?恋?え?な、何で?え?。』


 いきなり閃の名前が出きてドキッとした。

 何で今そんな話をするの?


『ふふふ。反応が可愛いわ。その様子じゃ、まだ片想いかな?。』

『………。』


 核心をつかれて言葉を失ってしまう。何でこのタイミングで恋バナ始めるのさ…。戦闘中なのに…。


『私ね。ずっと貴女を見てたんだけど。想い人に久し振りに再会したのに、彼の周りはいつの間にか進んだ関係になっていてどうしたら良いかわからなかったでしょう?。』

『っ!?。』

『あのメイド服のスタイルの良い女の子も言っていたけど~。私も素直に自分の気持ちを彼に伝えた方が良いと思うよ?。』

『君って…ストーカー?。』

『ふふふ、そうよ~。特に~。可愛くて~恋をしてる娘にはお節介焼いちゃうのよ~。』

『ええ…。どうして…急にそんな話を僕に?。』

『薬を飲んじゃったからね。時間がないの。それに貴女と一度お話したかったって言ったでしょ?。』

『でも…君の命は…。』

『良いのよ。私の大切な人も、大切な娘も命を懸けて貴女達と戦っている。そして、私は大切な人が勝つことを私は信じているもの。』


 白雪が言う大切な人とは白蓮のことかな?。

 大切な娘って…。


『そうなんだ。でも勝つのは閃だよ!。』

『ふふふ。信じてるんだね。彼を。やっぱり、私は貴女が好きみたい。』

『すっ!?好きっ!?こここ困るよ…僕は…僕には…閃が…。』

『あらあら。顔真っ赤だぁ。可愛いなぁ~。』


 白雪に頭を撫でられる。

 なんか…お姉さんされてる…。


『その様子じゃまだ気持ちを彼に伝えられてないのね~。…私が言えた義理じゃないけれど。早く彼に想いを伝えなさい。』

『白雪?。』

『私は…見守る立場を選んじゃったからね…。』

『………。』

『気持ちを伝えるには私は遅くて諦めちゃったから、支えるだけ…。』


 白雪は白蓮を信頼している。

 この戦いで白蓮が勝つことを信じているんだ。

 けど…心のどこかで、もしかしたらの未来を考えて、その可能性の高さを自覚しているんだろう。


『白雪…。僕…。』

『ふふ。貴女は自分の心に正直にね。お姉さんが背中を押してあげる。』

『うん…ありがとう。』

『はい。良い返事。それに…そうね。自信を持てない貴女の為にお節介。』

『?。』

『彼の貴女を見る視線…貴女は気付いてないみたいだけれど、きっと好意を持ってると思うわ。』

『え!?。』

『性格はもちろん…容姿は彼…凄く貴女のことを好きなんだと思う。視線の動きとか…態度とかで何となく分かっちゃうんだ。』

『そ…そう…かな?。』

『ええ。自信を持ちなさい。貴女なら大丈夫。女の子が自分を信じてあげなくてどうするの!。』

『白雪…。うん。僕頑張る。』

『ええ。応援してるわ。』


 僕の頭を撫で、頬を手のひらで包む。

 よぉしっ!。と気合いを入れて僕から距離を取った。


『お姉さんとしての白雪はもうおしまい。ここからは、もう一度、白聖連団の白雪として相手をするわ~。』

『…うん。』

『それじゃあ~。代刃ちゃん。貴女の本気の力を私にぶつけて。』

『え!?。』

『私の覚悟に貴女の覚悟を…。全力を私に見せて欲しいの!。』


 白雪は最初から覚悟を決めていたんだ。

 最初の神具の連発も、レベル10の真っ向勝負も私との実力の差を把握するためだったのかも…。

 

『分かった。僕の全力を見せるよ!。』

『ええ!お願いするわ!。』


 白雪…ありがとう。

 僕のことを考えてくれて…結果はどうなるかわからないけど。僕は君が嫌いじゃないよ。


『スキル…【時空間女神化】!。』


 僕の【神化】。時空と空間を自在に繋げる女神となる。

 衣装は変化。より神々しく女神のような星空のような紫と黒のヒラヒラしたドレスへと変わった。

 

『綺麗ね。』

『ありがとう。白雪。色んな意味で…。』

『良いのよ。私…お節介焼きだから…。』

『…うん。僕の全力、受け止めて。』

『ええ!来なさい!。』

『【多重並行世界接続門】!。』


 僕は接続門を複数展開する。

 【神化】を果たした僕には、レベル9以下の神具の召喚に魔力による制限はない。意思一つで呼び出すことが出来る。

 しかも、同時展開が可能だ。


『行くよ!神技!【極時空間神具砲弾】!。』


 神具を一斉に解き放つ。

 能力を放ちながら神具本体を相手に向けて連続で飛ばす技。レベル9までの数百、数千…それ以上召喚された神具が白雪に降り注ぐ。


『ふふ。流石です。やっぱり、私では貴女には敵わなかったわね。』

 

 白雪は襲い来る神具の数々をその身で受け止める為に目を閉じ、両手を広げた。

 神具は容赦なく地面を抉り、白雪の身体は爆風と土煙に呑み込まれた。

 けど…僕は…。


『あら?。』


 煙が消え、そこからは無傷の白雪が現れる。

 その周囲には神具の衝撃によって深く抉れた地面への傷跡を残して。


『僕には…君を殺せないよ…。だから、行って…白雪も…自分の気持ちを捨てないで。大切な人と…最後まで一緒に居てよ…。』

『代刃ちゃん…。』


 理由はわからないけど。僕は泣いていた。

 【神化】も解け、尻餅をついている白雪を立たせる。


『行って…。』

『あらあら。本当に好きになっちゃいそうよ。ありがとう。代刃ちゃん。今度、会えたら…。』


 白雪は走って行った。大切な人が居る場所に…。


『僕も…閃の所に…行かなきゃ…。』


 僕も。走り出す。この戦いが何処へ向かっているのかは分からないけど。

 絶対…閃に僕の気持ちを伝えるんだ。 


ーーーーーーーーーー


 戦闘が開始し30分が経過した。

 膝をつくメイド服の少女。

 白聖連団。白聖十二騎士、序列1位 銀。

 スキル【鉄のエレメント】を発動し、自身の身体を液体金属化させ、その流動体となった身体と薄く鉄の刃でクロノフィリア No.10の灯月と互角の戦いを繰り広げていた。

 しかし、徐々に解放される灯月の能力に僅かに押され始めた。

 そして、現在。

 膝をつく彼女を見下ろす形で空中に浮かぶ【神化】した灯月の姿があった。

 スキル【天魔混沌翼女神化】。

 背中から大きく広がる純白と漆黒の6枚の翼。普段のメイド服姿ではない、種族を象徴するきらびやかな衣装に身を包む。

 背後には巨大な死神が六つの鎌を振り上げ、頭上には更に巨大な天使が周囲を包み込むように翼を広げ、無数の白い槍がその矛先を銀へ向け空中で停滞していた。


『ここまでですか…。すみません。白蓮…力及びませんでした。せめて、最期くらいは貴方と一緒に…。』


 全てを諦め、目を閉じる銀の瞳からは絶えず涙が流れ続けていた。


『はぁ…。そうですか…。貴女は私に似ていると思っていたのですが…代刃さんタイプの方だったようですね。』


 灯月が腕を横に振ると、死神と天使が姿を消し同時に鎌と槍も空間に溶けるように消えていった。


『…何故…トドメを刺さないのですか?。』

『そんなこと決まっているじゃないですか。貴女がバカだからです。』

『は…?。』


 灯月の言葉に普段の銀では絶対にしない表情。目を見開き、あんぐりと口を大きく開いた。


『行きなさい。貴女の大切な殿方の元に…。』

『え?。』

『今し方、貴女自身が言ったではありませんか。最期くらいは…と。だから、行きなさい。もう時間はありませんよ?。』

『何で…敵である貴女が?。』

『私は最初、貴女が同種の人間だと思いました。恋する乙女の瞳、堂々とした佇まい。雰囲気から…ですが、戦っている貴女は私とは違った。しかも、私がよく知る女性の性格にとても酷似していました。だからです。』

『よく分からないのですが。』

『理解を求めている訳ではありません。貴女のは悪いですが、あの戦いは私のにぃ様が必ず勝ちます。ですので、全てが終わる前に貴女に最期の時間を与えるだけです。』

『………。』

『最期まで自分の気持ちを抑えるのも良いでしょう。ですが、後悔だけは残さぬよう。乙女としての最期をお迎え下さい。私は、乙女が幸せならそれで良いので。』

『変わっていますね。貴女は…。』

『はて?自分に正直なだけです。貴女達と違って…。』

『…ありがとうございます。それと…。』

『いいです。その先は言わなくて。私など気にしている時間はないでしょう?早く行きなさい。』


 最後に一礼し傷だらけの身体を引きずりながら銀は走り出す。


『やれやれですね。私の同類だと思い少々テンションを上げたのですが…まさか、代刃ねぇ様タイプだったとは…。ついお節介をしてしまいました…。』


 【神化】を解除し地面に降り立つ。


『にぃ様の場所に向かいましょう。』


 銀が向かった先に、閃と白蓮様が戦っている。この魔力の感じ…白蓮と同等に膨れ上がった閃の魔力の中に感じるリスティナの気配。

 新たなライバルの出現に、苛立ちを覚えながらもゆっくりと歩き始める灯月だった。


ーーーーーーーーーー


 白蓮がクティナの能力を獲得したことで使用可能となったスキル【七大罪の獣】。

 かつて、閃達の前に現れたクティナの偽物も使用したこのスキルは、レベル170となった白蓮が新たに獲得したスキル【七大罪合一】により巨大な一体のモンスターへその姿を変化させた。

 閃の異常な肉体強化に咄嗟に発動していまい、召喚された ソレ は、閃に襲い掛かろうとするも、唐突に発生した真横からの衝撃に吹き飛ばされた。

 そして、今現在の獣はというと、眼前に立ちはだかる男達。クロノフィリア…No.5 賢磨とNo.11 叶の2人のスキルにより拘束され身動きが取れなくなっていた。

 叶の背後には神具【聖天光庭教会】が展開され岩肌の露出した周囲の環境には似つかわしくない純白の壁の教会が天から注ぐ威光に包まれている。

 叶のスキル【聖天光鎖】。天から放たれ続ける威光は、巨大な鎖を出現させ獣の身体を締め上げ自由を奪う。


『さて、これで動けませんね。後は頼みますよ。賢磨。』

『了解。やれやれ、この巨体を屠るには、なかなか大きめの 穴 を作らないといけないね。』

『なら、壁も作りましょうか。スキル【聖光剣断絶壁】。』


 巨大な…それはもう巨大な剣が天空で召喚され獣を取り囲むように大地に突き刺さる。


『ふう。これでどうでしょう。』

『完璧だよ。これで周囲に被害は出ない。』


 その時、叶は背後に気配を感じた。


『ごめんなさい。叶。戻ったわ。』

『おや、幽鈴。お帰りなさい。随分魔力を消費したのですね。』

『ええ。久し振りに強敵だったわ。けど、勝ったわ。』

『はい。信じていましたよ。後のことは我々に任せてお休み下さい。』

『そうさせてもらうわ。手伝えなくてゴメンね。』

『いえいえ。充分すぎる程です。感謝しますよ。』

『ふふ。…ちょっと、限界みたい…頑張ってね…。』


 そう言い残し、幽鈴の姿は叶の中へと消えていった。


『激励も頂きましたので、速やかに片付けましょうか。』

『そうだね。やるか。』


 前に出る賢磨が獣に向けて手を翳す。


『神技…【極重圧崩壊神黒穴】。』


 獣の身体をすんなり飲み込む程の巨大なブラックホール。

 叶のスキルで生み出した壁で周囲のモノが巻き込まれることはない。

 一瞬で獣を取り巻く環境は黒い穴に吸い込まれ形を変化させていった。

 

『呆気ないね。』


 賢磨が指を鳴らすと、黒穴は消え。

 何事もなかったような、空間に戻っていた。


『賢磨。少し気掛かりなことがあるのですが?。』

『気掛かり?。』


 神妙な顔付きで獣の消えた地点を睨む叶。


『君も見ただろう?あの白蓮君の姿…いや、ステータスを…。』

『ああ。見たよ。レベル170。クティナのスキルを得て、更に強化まで施されていた。』

『私が違和感を覚えたのはそこなんです。白蓮君はレベルが170まで上昇していました。』

『ふむ…。』

『クティナの【七大罪の獣】は、クティナのレベルと同じ個体が召喚されます。つまり、この場合はレベル170の獣でないとおかしい。ですが、我々が戦った獣は我々が圧倒でき、余裕で勝利できるレベルでした。体感では…おそらくレベル120程度だったんじゃないでしょうか?。』

『確かに…レベル170が7体融合したんだ。普通なら圧倒されるのは、こちら側だろうし…苦戦は確実だろうね。なのに僕らは、ほぼ無傷だ。』


 不思議な話だ。考えられる要因は2つ…。


『白蓮君がクティナの力を制御仕切れていないか…。』

『それか、クティナ自身が白蓮君を拒絶しているか…です。』


 白蓮君が自身の肉体に取り入れた【クティナの宝核玉】は、謂わば、クティナの心だ。

 【七大罪の獣】のスキルを発動したのも、白蓮君の意思ではなかったようですし、発動したタイミング的に見て…おそらく…。


『閃君を白蓮君から遠ざけようとした…可能性がありますね。』

『…おやおや、我等のエースはいつの間にかラスボスまで心を掴んでいたのかな?。』

『…ふふ。真実は定かではありません。ですが、今は…。』

『エースに全てを委ねよう。』


 現時点で行われている戦闘はあと2つ。

 無凱と閃…。

 …決着の時は近い。

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