第110話 閃VS白蓮①
『さあ。始めよう。僕の命が尽きる前に。』
白蓮は己が用いる全てを使い自らの肉体を強化した。
命を削る薬【リヒト】。謎のベル。クティナの宝核玉。
奴の纏う魔力は俺が今まで出会ったプレイヤーの力の全てを上回っている。
そうだ…この感じ…リスティナと初めて出会った時の威圧感と同じモノだ…。
奴は…自力で俺達の強さを上回り、ボスを…裏ボスの領域まで登り詰めたということ…か…。
その姿は、あまりにも神々しくも美しかった。
24枚の翼。短髪の白髪は長く伸び輝き、衣装も種族特有のモノに変化していた。
上半身の服は消え、その胸元には大きな1つの瞳と7つの宝石が埋め込まれていた。
そして、その瞳の上にある一際輝きを放っている宝石がリスティナの宝石の最後の1つか…。
そして、何よりも…白蓮の後ろに円形に並ぶ十二の剣。
あれは…その1本、1本が俺の神剣に匹敵…いや、それ以上の魔力を放っている。
おそらく、俺の神剣と同じ…仲間の絆を具現化しているんだろう…。
視界から確認できる白蓮のステータスは、俺を遥かに凌いでいた。
ーーーステータスーーー
・名前 白蓮
・レベル 170
・種族 【白聖翼神王族】
【天地創世終末神王族】
・階級 【創世崩壊神級】
・種族スキル
【限界突破3(仮)】
【多重白聖翼結界】
【光のエレメント】
【創造(弱)】【崩壊(強)】
【混合獣王神化】
【飛翔】
・スキルスロット 17
・スキル
【七大罪の獣】
【大罪獣合神】
【多重結界】(【多重白聖翼結界】と統合)
【浮遊】(飛翔と統合)
【魔力崩壊】(【崩壊】と統合)
【神体強化】
【接触崩壊】(【崩壊】と統合)
【情報看破】
【肉体強化】
【剣武】
【生命時間消費】
・武装 【クティナの宝核玉】
【白聖十二精霊剣】
マジか…。クティナのスキルと白蓮のスキルが融合してやがる…。
圧倒的な存在感と魔力量。そして、殺気が俺に放たれる。今にも押し潰されそうな重圧を向けられていても俺は恐怖心や焦りを感じなかった。
むしろ、鼓動が高まり…ワクワクする。自然と笑みが浮かび笑い声を上げた。
『ははは…すげぇな…。』
俺達を倒す。
その一心でここまでの力を手に入れたのか!。
『っ!…君なら…そう言ってくれると思ったよ。』
『ああ、お前の覚悟…確と見せて貰った。俺もそれに応えたい。スキル…【闘神化】。』
俺の全身に施された刻印が光輝く。
こっちも最初から全力で行く。
『行くぜ!最初で最後の決闘だ!。』
『ああ!待ちに待ったよ!。』
互いに、微笑を浮かべ俺は踏み出した。
スキル【瞬神脚】。
移動速度と脚力を上昇させるスキル。
一気に間合いを詰め、上空にいる白蓮に殴り掛かる。
スキル【剛神腕】。
腕力の強化。その拳は神速で放たれ知覚することは出来ない…筈だった。
『甘いね。この程度の実力の相手に僕は全てを捧げたのかな?。』
『はっ!言うねぇ!。』
俺のスキル付きの全力パンチを人差し指1本で受け止めやがった。
マジかよ…。ならっ!。
『おっ!?さっきのより速いね。連撃の一撃一撃が重い。だが、僕の防御スキルを発動させるまでには至ってないよ?。』
『くっ!。』
白蓮のステータスを確認した際、奴のスキルはクティナのスキルと融合したことで複数の防御スキルを持つことが分かっている。
元々、白蓮の種族は防御力に優れている種族であり、全種族でもトップ3に入ると言われていた。
種族スキルも【多重白聖翼結界】という、複数の防御結界を自身の周囲に張り巡らせるモノで、単純な防御はもちろん、吸収、反射など様々な効果が付与されている。その数は奴の翼の数…24枚の多重結界。
そして、今は、更にクティナのスキルまで獲得している。
魔力で構成された物質を破壊する【魔力崩壊】と、触れた対象を破壊する【接触崩壊】の2つを統合した【崩壊】の種族スキル。攻撃にも防御にも利用できる破壊の神のスキルだ。
以前、クティナ(偽)と戦った時、この2つのスキルを破壊するために俺はクロノフィリア全員の神技をぶつけることで突破した。
だが、統合され強化された今の白蓮にそれが通用するのかは正直分からない。
『まあ、やってみるか!。』
『ん?。』
【闘神化】のまま【二重番号】のスキルを発動する。
これで、僅かな時間だが効果を維持したまま女の姿になれる。
『ふふ。やっぱり君のその姿は綺麗だね。』
『ありがとよ!だが、これからの攻撃…防いでみろよ!。』
『む!?。』
『神具…【時刻法神】。』
背後に出現する巨大な歯車時計。
『まずは手始めだ!神技!【極炎転輪五獣葬砲】!。』
頼むぜ!睦美!。
神技は【神化】した状態で放てば更に強化される。
それは、俺が使う仲間の神技も同様だ。【闘神化】の発動中に使えば仲間全員の強化された神技を使える裏技のようなものだ。
『成程。それが君の切り札の1つか!良いだろう!受けよう!。』
飛翔している白蓮に睦美の神技が命中し空中で大爆発を起こした。
強化された神技は威力が高過ぎて地上で使うには危険すぎる。奴が空中に居てくれて良かった。この位置付けなら他を巻き込まなくて済むからな。
『確かに凄い威力だ。切り札と呼ぶに相応しい。僕も防御結界を展開しなければ危なかったよ。』
『…良く言う…。』
完全に防ぎ切った…無傷か…。
『これで終わりかな?。』
『そんなわけないだろっ!神技!【極光破断裂神閃】!。』
『ふっ…。』
ーーー
ーーー?ーーー
激しく戦う閃と白蓮の様子を遥か天空の高みから見物する一人の少女。
その姿は、派手やかな装いのドレスに身を包む。
『ふふふ。凄いじゃない!低レベルだけど凄い見応えね。結構楽しめそう。』
『きひひひ。あの戦いを見て低レベルとは…貴女様には恐れ入りますねぇ…恐怖しか感じませんよ。』
『ねぇ。話し掛けないでって言ったわよね?。』
『えっ?ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!?。目がぁぁぁあああああ!!!。』
少女の能力で宙の浮いている端骨の左目がくり貫かれた。
『はぁ…頭良さそうなのに…学習能力は無いのかなコレ?やっぱり要らないかなぁ?。』
『ひぃっひぃっひぃっ。』
少女の言葉に全力で首を横に震る端骨。声を上げたら身体の一部が破壊される。それは既に理解している端骨だが、理性より好奇心が勝る端骨はついつい言葉を発してしまう。
現に何度か同じ流れを繰り返し左腕を始め、右足、右耳、そして左目を失っていた。
『ははは。面白いね!その動き!まぁ良いわ!面白かったから、まだ壊さないであげる。コレにはアレ等の場所に案内して貰わないといけないしね。』
少女の真紅の瞳が閃と白蓮へと向けられる。
『片方は壊れそうだけど…うん。アレにアレ等が困ってたのかぁ…。ふふふ。良いじゃない。良いじゃない。このまま見学させてもらうわ。精々、 この中 の戦いの基準を学ばせてね。ふふふ…ふふふ…ははははは!。』
狂喜にも似た笑い声が天高らかに響き渡った。
ーーー
『はぁ…はぁ…はぁ…。』
『これで22発目かな?まさか、此程…強力な技を、複数の個…修得していたなんてね…この身体になっていなければ2発目くらいで勝負は着いていただろう。』
『くっ…。』
クロノフィリア全員の【神化】状態の神技を喰らっても外側に展開された防御壁すら破壊できないなんてな…。
けど…これで発動条件は整った。
『今度は何を見せてくれるんだい?。』
『神具【刻斬ノ太刀】。』
鞘から抜き放つことで、世界の時間を停止させる長刀。
『悪いが長引かせる気は最初からねぇよ!。』
俺は、躊躇無く抜刀した。
『ぐぅぅぅううう…キツいな…。やっぱ…。』
時間が止まる。
世界全体に干渉する神具。それ故に、消費する魔力も規格外。全身の魔力を無尽蔵に吸われていく。
『へぇ…時間にまで干渉できるのかい?恐ろしい切り札だ。危険な能力だね。』
『ば、バカな…なん…で…。』
流石の俺も驚愕した。
全てが止まった世界で動けるのは、この神具を持つ俺だけの筈…なのに…白蓮の野郎…この世界で…動いてやがる…だと?。
『…はぁ…はぁ…そうか…クティナの【接触崩壊】か…。』
刀を鞘に納め、停止していた時間が動き出す。冷静に考えれば…何故、白蓮が停止した世界で動けたのか…その理由の想像はつく。
『ご名答。流石に察しも良い。』
クティナのスキル【接触崩壊】は、触れた対象が持つ構成する魔力を破壊する。俺の神具は世界の干渉するが、発動時に刀から大量の魔力が放出されることで時間を止めている。その放出した魔力を奴は自分の周囲だけ破壊したのだろう。
世界は停止しても白蓮はその影響を受けない。だから、奴も俺と同じく停止した世界で動けたんだろう。
【刻斬ノ太刀】を使用した神技は、刀で斬り付けた対象を時間の停止した世界に閉じ込めるというものなんだが…【接触崩壊】のスキルがある限り、それも奴には効かないだろうな…。
ゲーム時代のクティナ戦の時も、クティナの魔力をギリギリまで消費させスキルを発動出来なくさせてから時間を止めてたからな…。同じスキルを持つ白蓮なら防げて当然だろう。
しかも、奴はレベル170…クティナを圧倒的に上回っている。スキルの強さも桁が違う。
『はぁ…はぁ…。くっ!。』
女の姿では勝てない。
だから俺は元の姿に戻り再び【闘神化】を発動した。
【刻斬ノ太刀】で無駄に消費した魔力。残り僅かしか残ってないが…諦める訳にはいかないしな…。
『神具【時刻ノ絶刀】!。』
やれることは全部やってやる!。
『その刀は…さっきのとは違うね…刀身に帯びている魔力が尋常じゃない。』
『俺のもう1つの切り札だ。大人しく喰らってくれよ!。』
【時刻ノ絶刀】は、世界の全てを絶つことが出来る刀。振り抜いた直後に俺が認識していたモノを絶ち斬る。
今回は…。
『お前が得ているリスティナの宝石の加護だ!。』
リスティナの宝石を吸収したことで、奴は【限界突破】のスキルを強化させている。
その効果を引き離せば、奴のレベルは下がる筈。
俺は刀を振り抜いた。
…が、当然のように手応えはない。
はぁ…分かっていた事とはいえ…悔しいな…。
『そういう効果か…恐ろしい能力だね。けど…無駄だよ。僕の防御壁が発動している今、僕は如何なる干渉も受け付けない。時を止める刀と同じだよ。』
【情報看破】で、この刀の効果を理解した白蓮。【情報隠蔽】のスキルを持っているんだが、関係無しに覗き見してくる…。
…だろうな…。この刀でも白蓮を傷つけられないか…。【刻斬ノ太刀】が効かなかった以上【時刻ノ絶刀】も同じ結果だとは思ったが…。
『さて、そろそろ此方も動こうか。』
『っ!?。ぐっあっ!。』
白蓮がそう言った直後、突然その身体が目の前から消え…俺の真横に移動した。
俺が反応した時には既に拳が身体にめり込んだ後だった。
『剣を使ったら弱いもの苛めになってしまうからね。君と同じ拳でいかせて貰うよ!。』
尚も追撃の手を緩めない白蓮の拳打。
はえぇ…。目で追えない…。ガードも間に合わない。
『ぐっ!?。まだっ!。』
『へぇ…この状況で反撃かい?だが、遅いよ!。』
『ちぃっ!。らっ!。』
俺の拳を軽く受け流す白蓮。
体勢が崩れた俺に回し蹴りをいれやがる。背中の衝撃が全身に響く。吹き飛ぶ身体を回転させ受け身を取りながら、無理やり身体を立て直す。
『はぁ…はぁ…。駄目だな…。足りなかった…。』
『ん?何が足りないのかな?言っておくけど僕はまだ本気を出してないよ?。』
『ああ…分かってるさ。だからさ。お前が命懸けで手にした力に、俺はその力と向かい合う覚悟が足りなかった。』
『……………。』
そうだ…。何を余計な事を考えている。何の為に俺が白蓮の企みに乗ったのか…簡単だ。コイツに…負けたくなかったからだ。
俺とコイツは似ていると…ゲーム時代から思っていたんだ。
プレイスタイルはもちろんだが。スキル構成や戦略の立て方…。
この感情は白蓮の奴も同じだったのかもしれない。だからこそ俺との戦いを望んでいたんだからな…。
そして、勝つために全てを捧げて今…俺の前に立っている。圧倒的な力を手にして…。
『スキル【極 闘神化】発動!。』
全身の刻印が輝き、全身から魔力が勢い良く放出される。
放出された魔力を右腕に集める。
『それは…さっきの状態より…。』
『行くぜ!。』
『なっ!?消えた!?。』
その瞬間、白蓮の周囲に展開された多重結界の内の2枚が破壊される。
同時に俺の魔力を込めた右の拳が悲鳴を上げた。
『白蓮…俺も命を懸ける!。』