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第107話 決着 春瀬

ーーー春瀬ーーー


 暴風をその身に纏い、台風となって空中を駆け巡る灰鍵さん。風の力で自身を浮かせ、周囲の障害物をお構いなしに薙ぎ倒し突進してくる。

 両手に装備した双剣の刀身にも風が巻き付き突進からの双剣による連撃波状攻撃。

 渦巻く風の力で私の聖剣と衝突する度に吹き飛ばされそうになる。

 なんという風の暴力。

 自然の力を身に宿した今の灰鍵さんは風の化身と言っても過言ではありません。

 なんとか、突進を防いでも再び上昇からの急降下で襲い掛かられては反撃のチャンスが見つからない。

 

『どうした!春瀬!試合の時はこんなものではなかった筈だ!死にゆく運命にある我が肉体を哀れんでいるのであれば、それは侮辱でしかないぞ!。』


 突如、空中で静止した灰鍵さんがそんなことを言ってきました。

 冗談ではありません。哀れむなど…騎士として戦っている灰鍵さんに失礼極まりありません。何を勘違いしているのでしょうか!。


『そのようなつもりは毛頭ありませんわ。貴方が強い…それだけです。』

『だが、君ならば攻撃する手段はあるだろう?いつまで様子見を続けるつもりだ?。』

『そうですね…確かに…貴方の覚悟に、私の覚悟が追い付いていなかった…。貴方の気迫に呑まれていたのかもしれません…。失礼しましたわ。』


 聖剣を構える。

 私の表情から本気さを察してくれたのでしょう。灰鍵さんの表情も真剣さを増しました。


『【聖光玉】よ!輝きなさい!。聖剣よ!私の意志をその刃に宿しなさい!。』


 【聖鎧】に埋め込まれた5つの宝玉と聖剣の光が周囲を眩く照らす。


『そうだ!それを待っていた!これで俺も本懐を成し遂げられるというもの!。』


 宙高く飛び。周囲の大気を操り始める。


『ええ!迎え撃ちましょう!私のこの聖剣で!。』

『面白い!我が風の力!受けてみよ!。』


 不規則に渦巻く風の鎧。

 触れれば身体は粉々に砕かれ微塵となるだろう。

 しかし、避ける選択肢はない。真っ向勝負で打ち破る。それが、騎士としての矜持となるのですから!。


『はぁぁぁぁぁあああああ!【風絶破斬球】!!!。』

『【破邪聖光剣】ぇぇぇえええん!!!』


 聖剣から放たれる光の閃光と風の鎧が激突する。

 魔力を込めた魔力の砲撃は乱気流のように入り乱れる風の鎧によって削られている。…が。


『くっ!?なんという威力!前に進めん…。』


 灰鍵さんも聖剣の威力に押され突進を止めている。


『まだまだですわぁぁぁあああ!!!。』

『ぐっ!?。更に威力を!?。』


 【聖光玉】に溜められている残りの魔力を全て注ぎ込む。


『ごぉぉぉおおおおおおおおおお!!!。』

『な、ん、の、こなくそぉぉぉおおおおお!!!。』


 威力を高めた聖剣の放出を、全面に風の壁を発生させ双剣の小型竜巻を回転させる灰鍵さん。


『なっ!?。』


 聖剣の閃光が真っ二つに裂かれていく!?。

 駄目です!このままでは…。

 閃光の亀裂と共に複雑に乱れる風の奔流が私の眼前の地面に墜落し爆風が発生した。

 聖剣の放出で僅かに突進の軌道がズレたようだ。

 灰鍵さんの風の力で深く抉られた地面と土や岩、多くの木々があらゆる方角へ粉微塵になりながら引き飛ばされた。

 私も剣を地面に突き刺し飛ばされないように風圧に耐えていると…。


『これで!終わりだ!!!。』


 爆風で巻き上げられた爆煙の中から灰鍵さんが双剣を構えて飛び出して来た。

 最初からこれが狙いだったのですか!?。


ーーー灰鍵ーーー


 春瀬の聖剣から放たれる高出力の魔力砲撃を風の鎧で防ぎながら突進する。

 縦横無尽で且つ不規則に流れを発生させることで砲撃に当たる面積を減らし魔力を削る。如何に威力が高かろうと逸らしてしまえば関係ない。俺はこのまま突き進むだけだ。

 しかし、この状況は長くは続かなかった。

 春瀬の鎧に埋め込まれた宝石が一際輝きを増したかと思えば、放出する砲撃が更に威力を上げたのだ。

 ぐっ…この力は…。だが、俺の覚悟はこの程度ではない!最後の最期…この命の全てを捧げクロノフィリア…いや、春瀬を倒す!。


『風のエレメントよ!我が愛剣【エリブエル】。頼りない担い手で申し訳ないが…もう少しだけ俺に力を貸してくれ!。』


 俺の願いの呼応するように【エリブエル】に纏いし風と周囲のエレメントの働きが強く反応する。

 ありがとう!これなら!行ける!。

 最早、聖剣の光を削って威力を弱めるなどということはしない。真正面から風の勢いだけで閃光を切り裂きながら進むのみ。双剣を回転させ風の軌道を螺旋状に変化させた。


『うぉぉぉおおおおお!!!。』


 届く!。…と認識した刹那。俺の身体が目標としていた春瀬から逸れ地面に軌道が変わってしまった。

 僅かに…打ち負けたのだ。

 俺の身体は謂わば竜巻を纏っている状態。そのようなものが地面に激しく激突すれば、周囲がどうなることか…など考えるまでもなかった。

 地面は抉れ、大きく裂け、木々は根こそぎ吹き飛んでいく。

 まだだ。こんなことでは春瀬は倒せていない!今動くしか、チャンスなどない!。

 俺の直感が身体を勝手に動かした。考えての行動ではなかった。ただ、ある一点に向かって走り、跳び、双剣を構えた。

 その瞬間、目の前を遮っていた土埃が晴れ眼前に吹き飛ばされないよう剣を地面に刺し必死に堪えている春瀬の姿が飛び込んできた。


『これで!終わりだ!!!。』


 しかし、俺の剣は春瀬には届かなかった。

 いや、性格には届いてはいる。だが、防がれたのだ。

 剣を手放し。素手となった両手で俺の双剣の刃を握り締めて…。


『何だと!?。』


 春瀬の身体から溢れ出る黒い魔力。先程までの聖なる光を宿す輝きとは、全くの逆。邪悪なオーラが春瀬の身体を包み込んでいたのだ。


『これは、使いたくありませんでした。この姿では騎士道を体現できない。ただの暴君ですから…。しかし、持てる力の全てを出して貴方を倒せと騎士としての直感が私を動かしますの…灰鍵さん。どうか、受け止めて下さいまし。』


 雰囲気が変わっている。

 鎧も純白から赤黒く変色し、目と髪の色も変わっている。そして、聖剣と彼女が呼んでいた剣は禍々しい魔力に包まれ魔剣へとその姿を変えている。

 マズイ…この距離は近すぎる!。

 春瀬の何気ない拳が俺を捉えた。速い。俺は双剣を交差させその拳を防御するも、身体が衝撃に耐えられず後方に弾き飛ばされた。


『がっ!?。』


 倒木にぶつかり背中に痛みが走る。だが、動ける。速く動き、構えないと春瀬の追撃がやってくる。

 そう考え無理矢理、身体に鞭を打ち立ち上がるも春瀬はその場から動いていなかった。

 何故?。

 今、絶好のチャンスだった筈だ。なのに何故追ってきていない?。

 いや、違う。追っては来ているのだ。余りにもゆっくりとした歩みのせいで気が付かなかった。

 両手で魔剣と化した剣を持ち、地面に引き摺りながら歩いている。

 あの剣は、性質だけでなく性能も変えているのか?。

 一時はどうなることかと思ったが、あれならば対応のしようもあるというもの。確かに力は強いがそれだけだ。速さが伴わなければ宝の持ち腐れだ。


『行くぞ!【真空風刃一閃】!。』


 真空の刃を飛ばす遠距離技。

 あの驚異的な力も離れていればどうということはない。


『はっ!。』

『バカな!?。』


 だが、春瀬は真空の刃を構成する魔力ごと両断して見せたのだ。

 風を斬るなど…コイツの攻撃動作は…。

 駄目だ。結論を付けるには早計だ。


『【雷氷暴風撃】!。』


 雷と氷を発生させた台風。それを放つ大技。


『効きませんわ。』


 荒れ狂う暴風の中をダメージを負わずに突き進んでくる春瀬。

 何だ!あのスキルは!?これが奥の手?。

 ならばっ!。


『【風瞬加速】!。』


 風に乗る移動スキル。

 超加速で接近し双剣による連撃を繰り出す。


『軽いですわよ!灰鍵さん!。』


 硬い。鋼鉄を斬り付けている手応え、鎧はおろか皮膚までも硬質化しているということか?。


『はっ!。』


 魔力を更に込め全力で斬り付けると僅かだが鎧に傷を付けることが出来る。

 いける。

 全くのノーダメージという訳ではないのだ。

 そして、なによりも…。


『追い付けない…速すぎですわ!。』


 俺がスキルで速度を上げているのとは別に、春瀬のスピードはかなり遅い。スキルを使わなくても余裕で圧倒出来るレベルだ。

 速さを犠牲に圧倒的な力と防御力を得るスキルなのだろう。なら対応は簡単だ。

 ヒットアンドアウェイ。

 数撃を全力で打ち込み、直ぐ様離脱。圧倒的な防御力を持ってしても傷を付けられるなら速さにモノをいわせた連撃で十分に事足りる。


『慣れてきましたわ!。』


 何?。慣れた?だと?。


『そこですわ!。』


 相変わらず動作は遅い。

 拳を振りかぶる春瀬の動きは俺にしたらスローモーションだ。振りかぶる動作の間に34発もの斬撃を浴びせられた程だ。

 そこから繰り出される拳など目を閉じてでも回避出来るだろう。


『やっ!。』

『っ!?。』


 次の瞬間、俺は自分の考えが間違えていたことに気付かされた。

 動作が遅い?。そう、遅いのは振りかぶるまでの予備動作だけ。そこから繰り出される拳は…。


『ごあっ!?。』


 俺の知覚能力を軽く上回った。

 拳は俺の腹にめり込み再び吹き飛ばされた。 

 地面を何度もバウンドする。平衡感覚を失い何度か叩きつけられるが体勢を立て直し大木を足場に着地する。


『はぁ…はぁ…。あれは…危険だな。』


 対処法が見つからない。

 俺の全力をぶつけても小さな傷を付けるだけ。反撃の心配がなければ、押し切る方法もあっただろうが…俺の知覚の外からの攻撃が来るとなると話が変わる。

 あの防御力では、遠距離での風の攻撃では傷を付けられない…。

 接近しても、致命打を与えられない…。

 薬を使い命を捧げ、レベル150になっても春瀬には…クロノフィリアには届かなかった…ということか…。


『…違いますわね…。』


 悲しみと悔しさ…絶望にも似た感情に心が支配されかけた時、突然、春瀬が呟いた。


『…何が違うんだ?。』

『こんな戦いは、騎士の…いいえ。私と灰鍵さんの戦いではありませんわ。』

『は?どういう意味だ?。』

『スキル【聖邪光神化】!そして、スキル【聖邪合一】。』


 春瀬が発動したスキル。

 聖なる純白の鎧と邪悪な暗黒の鎧。2つの対極の性質を持つ鎧が合わさり融合する。

 結果、白と黒が織り混ぜられた混沌の鎧が完成する。その手には聖剣と魔剣の両方が握られていた。


『さあ!始めましょう!私が持つ最強の一撃を放ちます。』


 その言葉に大会での試合の場面が脳裏を過る。

 そうか…君は…俺に応えてくれようとしてくれているのか…。


『そうだな。俺達の…騎士としての決着は…そうでなくてはな!。』


 感謝するぞ。春瀬。


『風のエレメントよ!最後の力を俺に寄越せ!。』


 俺が使役できる全ての風の精霊の力を使い、今までで最大最強の風を発生させる。

 俺の身体を囲むように渦巻く風。取得した全てのスキルを重ね掛け【風絶破斬球】【真空風刃一閃】【雷氷暴風撃】【風瞬加速】をこの身に纏う。

 球体状の乱気流。その風は真空の刃を生み出し、常に雷と氷の塊を発生させる。


『行くぜ!我が風の刃!全身全霊で解き放つ!受けてみよ!。』

『ええ!貴方の全力!私の切り札…最強の攻撃で受けて立ちます!。』


 俺は駆け出す。【風瞬加速】で飛び出した。

 その瞬間、俺は 風 となった。


『奥義!【精風神撃】!。』


 精風王撃は今、神の神業となった。

 この一撃は【限界突破2】への門を自力で開いたのだ。


『神技!聖邪混合破光双けぇぇぇえええええん!!!。』


 互いに双剣を交差させて放つ最強の技。


『うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!。』

『はぁぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 環境を変える威力を持つ奥義同士の激突。

 切り刻まれ、砕かれ、燃え、潰され、吹き飛ばされる。

 この激突で勝負はついた。


ーーー春瀬ーーー


『がはっ!?。』


 血を吐く灰鍵さん。

 致命傷であろう攻撃を受けて尚も立っている、その精神力と屈強な肉体に感服するばかりです。

 上半身の服が✕字に刻まれ大量の血液が流れ出る。

 背後の森は焼き払われ、焦げ付き捲れ上がった大地が地平線の彼方まで続いていた。


『はぁ…はぁ…はぁ…すまないな…【エリブエル】…最期まで不甲斐ない担い手で…。だが、ありがとう。最期まで付き従ってくれて…礼を言う…。』


 その言葉に応えるように、弱いながらも暖かな風を発生させ、その身が粉々に砕け散った。


『風のエレメント達よ…お前達にも無理をさせたな…自然に還り、流れに戻ってくれ…今まで…ありがとう…感謝する…。』


 全身を取り巻いていた魔力が緑色に輝くと周囲に溶け込むように消えていった。


『はぁ…はぁ…。春瀬。』

『…はい。』

『感謝する。君のお陰で俺は自分の限界を超えた領域に1歩だが踏み込むことが出来た。』

『ええ。今の一撃は私共が使う【神化】という状態と同等の域に達していましたわ。』

『…そうか。ふっ…。なら…良い。俺の人生も…捨てたものでは無かった…。』

『ええ。素晴らしい剣技でしたわ。私の心と身体に深く刻まれました。決して、貴方のことは忘れません。』

『…ふ。ありがとう。君と出会えて良かった。』


 灰鍵さんは最期に小さく微笑むと、その身体が魔力の粒子と砂になり風に運ばれていった。


『私もですわ。貴方と出会えたこと、心より感謝致しますわ。』


 私の鎧に✕字に亀裂が入り地面に落ちた。


『凄まじい攻撃でしたね。』


 私の胸元が露になる。

 そこには胸元を中心に肩口からお腹に向かって✕字の斬り傷が入っている。

 傷は浅いが確かに刻まれている。斬り傷。これは痕が残りますね。


『この身体は仁様のモノですし…睦美に頼めば綺麗に消してくれますが…。…うん、それはやめます。灰鍵さん。貴方の生きていた証は私の身体に確かに刻まれましたよ。』


 暖かな風が私の傷を撫でた。

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