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第105話 夢伽と儀童

 巨大ロボット【カルガディス】から繰り出される拳と踏みつけを、やる気になった智鳴と機美がバイクに跨がり避けながら疾走する。

 敵は赤蘭煌王の姉弟。夢伽と儀童。


『くっそ~!当たらない!もう一回!。』


 バイクの走る進行方向を予測した右パンチ。


『機美姉!。』

『目標接近。距離合わせ終了。左90度旋回。』


 急ブレーキからの即時ブースト。方向を変え、更に爆走する機美が操縦するバイク。


『ははは!その先は大きな木だよ!ぶつかってバラバラになっちゃえ!。』

『【重装機甲ホイール】モード変更。』

『えええええ!?そのバイク飛べるの!?。』

『不可能はない。』


 両翼を展開。2輪のタイヤが中心から割れプロペラのように広がる。

 見事なライディング技術で木々を掻き分け上空に突き抜けた。


『さあ、今度は私の番ね!。【炎舞 炎狐】!さあ、可愛い狐達よ!やっちゃいなさい!。』


 9匹の炎の狐。

 【カルガディス】の周囲を飛び回り装甲に噛みつく。


『【炎舞 炎傀儡】!。』


 ついでに炎の分身も作り出す。

 手にする扇子で波状攻撃。


『わっ!?お姉さんがいっぱいだ!?。』

『翻弄されちゃだめよ!熱源レーダーを見て、全部異常に体温が高い。炎で出来た偽物よ!。』

『偽物!?じゃあ、関係ないね!叩き落としてやる!。』


 炎傀儡に攻撃を仕掛けるカルガディス。

 だが、傀儡は一定以上のダメージを受けると大爆発を起こす。それを知らないロボットは容赦なく傀儡を叩き落とした。

 その瞬間、傀儡の1体が大爆発。他の傀儡、及び、炎の狐も芋づる式に次々と爆発の連鎖を引き起こした。


『わっぁぁぁぁぁあああああ!?!?。』

『きゃぁぁぁぁぁあああああ!?!?。』


 大爆発に巻き込まれたカルガディス。


『ふふふ。綺麗な花火。これであのロボットも終わりね。』

『否。ダメージ軽微。外装部に僅かに温度変化による融解を確認。敵、存命。』

『はっ!?何それ!?。』


 爆炎の中から現れる【カルガディス】は機美の言う通りほぼ無傷。


『うう。凄い爆発…俺の【カルガディス】大丈夫?。』

『私達の、よ!当然よ!温度変化の耐性もバッチリ!。』

『ほっ…良かった。格好良く作ったのに壊れたら悲しいからな!。』


 大爆発を間近で受け、パイロットまで無傷。その様子を見た智鳴が溜め息をついた。


『機美姉。何か良いアイディアあるかしら?正直、炎傀儡の爆発でダメージ与えられないんじゃ、私はお手上げなんだけど?。』

『了解。成功率…78%の作戦を実行。一度、私から離れて下さい。』

『お~け~い。頼むわ。』


 バイクに魔力を注ぐ機美。

 智鳴はバイクを飛び降り近くの木の枝に着地する。


『ねえ、アイツ等何かしようとしてるよ?。』

『なら!こっちも何かをすればいいのよ!。』

『そうか!なら剣だ!。』


 【カルガディス】の腰から引き抜かれる巨大な剣。


『赤蘭煌剣 カルガソード!!!。』

『炎よ宿れ!斬り伏せる!。やっ!。』


 炎が剣を包み。その巨体が背中のブースターからの推進力を利用して突っ込んできた。

 振りかぶる炎剣。

 それを確認した智鳴が跳ぶ。


『智鳴。お願いします。』

『ええ。もちろん!【炎舞 炎陣刀】!』

力比べをしましょう!お子様!。らっ!。』


 両手に持つ扇子から高密度の炎の剣を作り出すスキル。

 カルガディスの炎剣を迎え撃ち、扇子を交差させ、一気に払う。 


『わっ!弾かれた。』

『うそっ!?なんて力なの!?。』


 智鳴に剣を弾かれたことでバランスを崩したカルガディス。

 機美はその隙を見逃さない。


『ターゲットロックオン。ミサイル発射。』


【重装機甲ホイール】から発射される20のミサイル。その16を【カルガディス】足元に放つ。 


『あっ!?足元が!?。』

『崩れる!?。』


 足元が破壊されたことで地中に足が埋まり、そのまま仰向けで倒れていく【カルガディス】。体勢を立て直そうと足掻いているようだが残り4発のミサイルが上半身に命中し完全に制御を失ったようだ。


『その地盤は多くの木々の根が絡まって形成されていました。よって、焼き払ってしまえば足場は崩れます。』

『あああああ~!?【カルガディス】が倒れる~!?。』

『きゃぁぁぁあああ!?ま、まだよ!た…対衝撃耐性起動ぉぉぉおおおおお!。』


 多くの木々を薙ぎ倒し、大きな音を立てカルガディスは倒れ込んだ。


『そして、これでチェックメイトです。神具【重装機甲ホイール】砲撃モード。』


 バイクの形は変形、タイヤは収納されて巨大な口径の砲身が出現する。

 魔力が砲身へと集束していく。


『姉貴!これヤバイよ!?。』

『落ち着きなさい!あれを撃つわ!。』

『あっ!あれか!分かった!。』


 倒れた体勢のまま【カルガディス】の胸の紋章に魔力が集まっていく。


『ん?これは?。』

『機美姉!気を付けて!。』


 尋常ではない魔力が集束する。

 それに伴い、胸の輝きが増していく。


『…成程。では力比べをしましょう。発射!。』


 砲撃モードとなった【重装機甲ホイール】から放たれる魔力砲。と…。


『くらえっ!カルガビィィィィィイイイイイム!!!。』


 【カルガディス】の魔力ビーム。

 魔力エネルギーを集束させた砲撃同士の衝突。

 周囲を巻き込み辺り一帯を魔力の輝きがその場を支配し大爆発を起こす。

 両者の砲撃の威力はほぼ互角だったようだ。


『けほっ。けほっ。姉貴、大丈夫か?。』

『ええ。儀童は?。』

『無事ぃ~。煙たい~。』

『良かったわ。っ!。』


 【カルガディス】のコクピットパッチが開き中から姉弟が這い出てきた。どうやら、コクピットに煙が充満してしまったようだ。 


『降伏してください。』

 

 だが、それも機美が予測した未来の可能性の1つ。

 姉弟の頭部に小型の銃を突き付けていた。


『姉貴ぃ…。』

『仕方ないわね…。』


 姉弟が両手を上げ降伏の合図。


『機美姉。終わったみたいよ。』

『バトルモード停止。通常モードに移行。』


 智鳴は裏智鳴から、機美は戦闘モードから普段の人格に戻る。


『ふぅ…。君たちとっても強いね!しかもロボット格好良かったよ!』

『おっ!姉ちゃんも分かるのか!俺のカルガディス!どうだ!格好いいだろう!。』

『私達の!カルガディスよ!でも、お姉様の武装も格好良かったです!。』

『お、お姉様…えへへ。良い響きぃ…。』


 機美が姉弟の頭を撫でる。


『機美姉…。』

『はっ!何でもないよ!。』

『でも、失敗したなぁ。』

『ん?どうしたの?。』


 儀童が唐突に語り始める。


『クロノフィリアの姉ちゃん達が普通に良い人だったからさ。火車さん達がクロノフィリアは噂ばかり先行して良い気になってる屑共って言ってたから警戒してたんだ。』


 それに便乗するように夢伽も話し始めた。


『ええ。赤皇さんや玖霧さん達も警戒していたので私達も、きっと怖い人達なんだって思い込んでて…。』

『そしたら、赤皇さん達がクロノフィリアに急に行くって言い出してさ。散々皆から警戒しろって聞いてたから俺達混乱しちゃって…。』

『結局、赤蘭に残ることにしたんです。』

『けど、代わりにギルドマスターになった火車さん達のせいでギルドはバラバラ…皆辞めてっちゃったんだよな…。』

『だから、私達はクロノフィリアと戦って、それで勝って力を示して他のギルドに入れて貰おうって考えたんです。』

『こんなことなら、最初から赤皇さん達に付いて行けば良かったな~。』


 赤蘭に残ってしまったことを後悔している2人。


『そっか~。君達も大変だったんだね。智鳴ちゃん。どう思う?。』


 智鳴が姉弟を一緒に抱きしめた。


『お姉ちゃん?。』

『ど、どうしたのですか?。』

『もちろん良いよ。この子達、良い子みたいだし。それに今からでも遅くないよ。』


 抱擁を止めて、真剣な表情で姉弟を見つめる智鳴。


『どうかな?君達が良ければだけど。クロノフィリアに来ない?赤皇君や玖霧ちゃん達も元気で居るよ?。』

『良いの?。』

『良いのですか?。』

『うん。もちろんだよ。これから宜しくね。』


 姉弟は互いに見つめ合い、無言で頷くと笑顔で智鳴を見て…。


『『うん!。』』


 …と、元気に頷いた。

 素直な姉弟に智鳴も笑顔で応え2人の頭を撫でる。


『ねえ。夢伽ちゃんと儀童君は仲間から白い薬みたいなの渡されなかった?。もしかして、飲んじゃったとか?。』


 智鳴が問う。

 あの薬は一時的にレベルを150にする代わりに命を失うという代償が必要となる。

 仮に2人が飲んでしまっていた場合、現状助ける手段はない。


『ううん。何か怪しかったから飲んでないよ?。』

『私もです。レベルを上げる薬って言われましたが、そんな簡単にレベルが上がるならゲームの時の苦労は何だったの?って思って飲みませんでした。あっ、あった。これです。』

『俺も、これ貰ったんだ。』


 姉弟がアイテムBOXから取り出した1錠の白い薬。間違いなく【リヒト】だった。

 智鳴と機美は2人が服用していなかったことに安堵する。


『良かった。それはね。絶対飲んじゃダメな薬なんだよ。』

『これは何なのですか?。』

『それはね…。』


 その時だった。


『いてっ!?。』

『っ!?。』


 急に首筋を押さえる姉弟。


『どうしたの!?。』


 突然のことに驚く智鳴と機美。


『何か急に首のところがチクッて。』

『私もです。』


 見ると小さな細い針で刺されたように赤くなっている姉弟の首筋。

 そして、目の前を横切るように飛ぶ…黒い蝶と蜂を合わせたような生物がいた。


『えっ。何これ?蝶?蜂?。』

『智鳴ちゃん!。』

『っ!?。』


 姉弟に近付いていた智鳴が機美の声に反応し後ろに飛び退いた。

 すると、目の前を黒い扇子が通り過ぎていった。


『ダメじゃないですか~。クロノフィリアを殺すために私達は集まったんですよ?勝手に同盟を破棄した挙げ句に寝返るとか…はぁ…やっぱりお子様には無理だったのでしょうか?。』

『貴女…誰?。』


 黒く長い髪。

 女子高生の制服とその上に羽織る着物。両手には黒い扇子を持った1人の少女が立っていた。


『私?私は~。紫雲影蛇所属~兎針(トバリ)です。宜しくしないで下さいね~。面倒ので~。』


『その子達に何をしたの?。』


 尚も苦しそうにする姉弟に智鳴が声を荒げる。


『何をしたのって?ちょ~っと私の虫の毒を注入しただけですよ?見てましたよね?この子達今裏切ったんですよ?しかも、殺すべき対象につくなんて…はぁ…説明聞いてなかったんですかね~。』

『お姉ちゃん…。動けないよぉ…。』

『私もです…。』

『説明をしてませんでしたが、その薬を飲むとレベルを強制的に150に上げるのですがぁ…その後でぇ~副作用で死にます。』

『え…死?。』

『死?。』


 兎針の言葉に理解が追い付かない姉弟。


『そうです。死にます。飲んだら最後です。』

『でも、私達…飲んで…ないよ?。』


 涙を流しながら必死に抗おうとしている姉弟だが、既に指一本動かせないで硬直している。

 頬を伝う涙がだけが虚しく流れ続けていた。

 徐々に自分達の置かれている状況を理解してきた姉弟。


『そうですね~。けれどぉ。盟約は果たしましょうよ。クロノフィリアを殺す。それが当初からの目的なのですから~。』


 兎針が指を動かすと、その動作に連動するように姉弟も動く。


『なっ!?手が!勝手に!?。』

『動いて!?。』


 手に乗せていた薬が本人の手で口に運ばれる。


『夢伽ちゃん!儀童君!。』

『さあ、飲んじゃいましょうか。強くなりましょう。死ぬ前にクロノフィリアを倒して下さい。』


 薄気味悪く笑う兎針。


『嫌だ!飲みたくない!お姉ちゃん!。』

『嫌、嫌、嫌。死にたくないよぉ!。』


 徐々に口に近付く薬から必死に逃れようとする姉弟だが自由を奪われた今為す術はない。

 慌てて駆け出そうとする智鳴と機美だったが…。


『今助けるね!機美姉!。』

『うん!。』

『なっ!?。』

『これって!?。』


 自身の身体の違和感に気付いた。


『邪魔、しないでくれます?言い忘れていましたが、貴女方にも毒を注入したんです。』

『なっ!?身体が!?動かない!?。』

『智鳴ちゃん!?私も…。』

『流石はクロノフィリアですね。一時的に動きは止められましたが…毒が効き出すまでに時間が掛かりました。しかも、支配下に置くまでには至らなかった。…その拘束も長くは続きません。ですが、今は仲良く彼等が壊れるのを眺めていて下さい。』


 動きを封じられ視界の先には泣きじゃくる姉弟。


『ああっ!飲んじゃうよ、嫌だよ…お姉ちゃん…。』

『嫌ぁぁぁあああ!儀童!儀童!。』

『止めてぇぇぇぇぇえええええ!!!。』


 姉弟の口の中に薬は入っていった。そして、ゆっくりと飲み込まれる。


『の…飲んじゃった…お姉ちゃん…。』

『私達…死んじゃうの?。』

『はい。ご馳走さまです。どうです?魔力が高まって来たでしょ?けど、それだけでは、あなた方は彼女達とは戦ってくれないでしょうし…これも使いましょうか。』

『それは!。』


 小さなベルを取り出す兎針。

 そのベルは白蓮が会場の人々を狂わせるのに使ったアイテムだ。


『はい。彼等のデータを破壊します。』

『貴女!何処まで酷いことするのよ!。』


 激昂に顔を歪める智鳴。


『酷いこと?酷いのは、世界の害虫であるクロノフィリアですよ?勘違いしないで下さい。』


 チリーーーーーン…。


『がぁぁぁぁぁあああああああああ!!。』

『ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!。』


 豹変する姉弟。

 この瞬間、姉弟はクロノフィリアを殺すだけの戦闘マシーンと化してしまった。


『あっ…あの子達が…。』

『酷…い…よ、こんなの…。』


 俯く智鳴。涙が地面の落ちた。

 

『クロノフィリア…は殺す!。』

『ええ!殺しましょう!殺す!殺す!。』


 血走った目で智鳴と機美を睨む姉弟。


『夢伽ちゃん!儀童君!。』


 機美が叫ぶが既に姉弟には聞こえない。


 彼等は再び【カルガディス】に乗り込んだ。

 乗り込む彼等の後ろ姿から確認できたステータスは【データ破損】【バグ修正プログラム】へと書き換えられていた。


『さぁ。これで振り出しですね。そろそろ拘束も解けたでしょう?大人しく死んで下さいな?。』


 姉弟をこんな姿に変えた張本人を睨み付ける智鳴。


『機美姉…。』

『智鳴ちゃん?。』

『あの子達のことお願い。助けてあげて…。』

『…うん。分かった…よ…。』


 智鳴の意図を組み頷く機美。


『【カルガディス】!【カルガウイング】!。』

『【重装機甲ホイール】飛行モード!。』


 再び起動した【カルガディス】を飛行パーツを装備し空へと上がる。

 それを追う機美がバイクに跨がった。


『あらあら、一人で良いのですか?レベル150が2人分の兵器ですよ?。』


 飛び上がる2体を眺める兎針が智鳴に問う。


『良いのよ。機美姉がガチになったら強いから…それより貴女…可哀想ね。』


 いつの間にか裏智鳴に変わっている智鳴。


『はい?。』

『私の本体…本気で怒らせちゃったわよ?あの娘…あんなに怒らせるなんて…貴女、死ぬわよ?。』

『関係ありません。怒らせた?…だからどうだと言うのですか?私達の目的は変わらない。この 世界 の為にクロノフィリアを排除する。それだけです。』

『…そう。なら仕方がないわね。殺し合いましょうか?。』

『ふふふ。最初からそのつもりです。【黒虫扇】。』

『【天炎陽扇】!お互い、似たような武器のようね。お手並み拝見。』


 クロノフィリア No.7 智鳴。

 紫雲影蛇 兎針。


 智鳴の新たな戦いが始まった。

このストーリーを読んで下さっている方々。

ブックマークに登録して下さっている方々。

本当にありがとうございます。

良ければこれからも読んでくれると嬉しいです。

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