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第102話 神無 VS 異熊

 木々が生い茂る森の中を高速で移動する神無。枝や幹を足場に上下左右に動き敵に狙いを絞らせない。

 しかし…。


『くっ!しつこい!。』


 私の動きを正確に追尾し投げナイフを投げ続ける異熊。そのナイフの1本1本が正確無比の精度で神無の急所を狙ってくる。

 しかも、数の制限は無く無尽蔵に投擲は続いていた。


『はっ!。』

 

 何よりも、やりづらいのは投げ終わったナイフが別のナイフに吸い寄せられるように飛んで来ることだ。

 異熊だけに集中すれば、別方向から飛んでくるナイフに対応出来ない。つまり、私は常に周囲の状況を全て把握した上で回避を行わなくてはならない。


『お嬢さん。そろそろ本気を出したらどうだい?。』

『私は至って本気よ!。』

『そうかい?強情だね。バレていないとでも思っているのかな?こちらの分身体では限界だろう?。』

『………。』


 その異熊の言葉に私は無言のまま分身の数を増やす。その数、最大数の23。【操影分身】の限界。この人数で包囲し一気に決める!。


『ほぉ。やるねぇ。その数を同時に操作かい?。けどね。それはほら?狙い時だ。』

『な!?。』


 【操影分身】による23体の分身の全ての頭部に命中する魔力でコーティングされた弾丸。分身体が次々に影へと戻っていく。

 いったい何処から?。私の認識の外からの狙撃?。

 【遠影視界】で探っても姿を確認できない。つまり、気配と視認の両方から逃れるスキルか。


『ほらね?。こっちは1人じゃ無いんだよ。』

『へぇ。気配は感じなかったけど?かなり遠くに隠れているの?。』

『そうだね。でも、まあ、隠れているのは君も同じだろう?。君の本体も、いつまでも僕の影の中にいないで出ておいでよ。』


 【影入り】がバレている?。

 この男、やりづらい。全てが見透かされているみたい。こんな奴が、まだ居たなんて。


『出ろと言われて出る忍びはいないわよ!。【操影寄糸】!。』

『むっ!これは影の糸を利用して自由を奪うスキルか。指1本動かせない。』

『ご名答よ!そして、これで!【常闇影沼】!。』


 実体を影の中に溶け込ませて影として行動できるスキル。このスキルで、異熊の影を攻撃すれば実体の異熊にも同じ傷を与えられる。

 実体と同じ動きをするのが影。このスキルはそれを逆転させ、影の動きを実体に強制させる。


『覚悟っ!。』

『1つ、良いかな?。』

『!?。』


 斬り掛かろうとした直後、全身を走る悪寒。

 影から出ろ!と、私の勘が警告している。


『私の能力は 引き寄せる ことだ。私が触れたモノに別の触れたモノを引き寄せる。引き寄せる速度は私の自由に決められる。どうやら、私の影の中も、私が 触れた という判定になっているようだよ?。』


 その瞬間、影の中に居た身体は何かに引っ張られるように影の外に放り出された。


『な!?ぐっ!?。ぐぁあああ!?。』


 異熊は飛び出した私の首を掴み、そのまま地面に叩き付けられた。背中から地面に激突した私は呼吸が一瞬止まり、視界が暗転した。


『おやおや。思ったより簡単に捕まえられたよ。クロノフィリアのメンバーにしては、お嬢さん。少しガッカリだね。』

『う…うるさい!。』

『おっと!?危ない、危ない。』


 身体を回転させ、ブレイクダンスの要領で異熊を蹴るが軽々避けられてしまった。

 はぁ…はぁ…いいの貰っちゃったわね…。

 異熊から離れる。

 迂闊に跳び上がると狙撃手に狙われるし、てか緑龍の時も似たような状況だったわね。

 私、忍びなのに全然、それっぽく戦えないんですけど?。


『離れるのは良いけどね。それだと的だよ?。』


 異熊が指を鳴らすと地面や木に突き刺さっていたナイフが私に吸い寄せられるように向かってくる。


『こっ!これは!?。』

『全てのナイフが君に引き寄せられる。串刺しになりたまえ。』

『くっ!』


 唯一の逃げ場。頭上。ナイフをギリギリまで引き寄せ上に跳ぶ。

 目標を失ったナイフは互いにぶつかり地面に落ちた。

 

『そうだ!君は上に逃げるしか無い!だが!跳べば狙い撃たれるだけだよ!。』

『そんなこと分かってるわよ!【霧幻影外装】!。』

『おっ!?それは影の鎧か?。』

『ご名答!』


 霧状の影を鎧のように纏うスキル。

 実体を持つ影であり、防御にも攻撃にも使える便利なスキル。

 これで、飛んでくる銃弾も防ぐことが出来る。

 …けど…。


『おや?。』

『あれ?。』


 いつまで経っても銃弾は飛んでこなかった。暫し沈黙。やがて、地面に着地する。

 私も異熊も ? で首を傾げた。

 あっ、この魔力…矢志路。派手に放出してるわね…ああ、そう言えばさっき血を飲んだんだっけ。

 遠くの方で隠れていた魔力が矢志路の魔力に呼応するように感じられた。

 どうやら、謎の狙撃手は矢志路が相手をしてくれたみたいね。助かったわ。


『ふぅ。どうやら、2対2になってしまったようだね。また、随分と派手に魔力をばら撒いて…。』

『そうみたいね。最近、暴れて無かったしストレスでも溜まってたんじゃないかしら?。…って、いきなりナイフ投げんなっ!。』

『油断大敵だよ?お嬢さん。』

『油断なんかしてないわよ!。』


 影の鎧で不意打ち気味に放たれたナイフを叩き落とす。


『しかし、これまた厄介なスキルを発動したようだね。影の鎧か、霧のように身体を包んでいる。実体にも触れられるようだね?。』

『ええ。これを纏っている限り貴方のナイフは私の身体に届かないわよ?。』

『ふむ、ならこういうのはどうかな?。』


 異熊が私に手を翳すと私の身体が浮き上がる。

 何これ!?どうなってんの?。


『なっ!?』


 そのまま、異熊に引き寄せられる。


『対象を私の身体にした。君の方から引き寄せられるがいい!。』

『何よ!それ!?。』

『今度は少し強く殴ろうか!。』

『っ!【剛影列脚】!。』

『ぬっ!?。』


 脚力を大幅に強化するスキル。

 蹴力はもちろん、移動する際の速さも上昇させる。

 引き寄せられる力を利用して異熊へ回し蹴りをお見舞いするも拳で応戦される。


『かはっ!なんて威力だ!手が痺れてしまったよ。』

『そう言いながら、互角に渡り合ってる貴方の拳がおかしいわよ!【剛影空蹴列脚】!。』


 【剛影列脚】の応用技。空気中に散らした実体のある影を蹴って空中を移動する。 


『なんと!空気を蹴って宙を移動するスキルか!しかも、速い!。』

『【紫影葬一閃】!。』


 神具の能力を解放。

 刀身を伸ばし横になぎ払う。


『だが!それは私には効かない。』

『え!?硬い?。』


 私の斬撃は異熊の身体を傷付けるどころか弾かれた?。

 硬い?。これは…スキルじゃない。種族特性…。


『へえ、面白い種族ね。』

『ははは。私の種族は【煌魔石王族】。身体が石の種族だ。石ならどんなモノでも操れる。』

『成程ね。硬度の高い石を魔力で強化しナイフにして投げてたのね。どおりで投げるナイフが無尽蔵に出てくる訳だ。』

『ご名答。石はそこら辺に幾らでもあるからね。』

『厄介な…。』

『私が自分の情報をわざわざ教えるのはね。これで終わりにするからだよ。悪いが早々に君を始末させて貰おう!。』


 そう言うと異熊は後ろへ飛び地面に手を置いた。

 私から100メートルは離れただろうか?。小さくなった異熊の次の行動は…。


『私の引き寄せるモノの対象は最大で100メートルまで動かせる。』


 そして、空に向かってナイフを投げる。すると、地面が持ち上がり巨大な岩盤となって空中のナイフに引き寄せられていく。


『ちょっと!?デカすぎるわよ!?』


 今度は私に引き寄せられるように岩盤が落ちてきた。

 馬鹿じゃないの!?あんなの防げないわよ!?。


『ははは。動けばナイフの餌食だよ!。』


 私の周囲には数千にも及ぶナイフが地面に突き刺さっている。この時の為にばら撒いたの?。避けようとすればナイフが飛んでくるってことね。

 あの大きさの岩を破壊する技は私には1つしかない。


『ちっ!なら…神技、遠の巻【黒食掻抉蛇咬】!。』


 何億、何兆もの黒い蛇を濁流のように放つ神技。

 落下する岩に穴を開け内側から喰い破る。

 

『はぁ…どんなもんよ!。』

『今のが君の切り札かな?かなりの威力だ!あの大きさの石を跡形も残らず消し去るとは…だが、技を撃った直後は隙だらけだ!。』

『はぁ…はぁ…隙なんか作った覚えは無いわよ!。』

『ぬ!?。』


 私は、私本来の姿へと変わる。

 黄金の瞳に蛇の両腕と下半身。


『あまりこの状態は好きじゃないのよ…。目が怖いし…。見た目化け物だし…スキル【毒蛇女神化】【眷属召喚】。』


『蛇か…。』

『私の種族は【毒蛇影金眼神族】。貴方の方こそ、私のこの姿を見たんだから生かして帰さないから。』

『結構!互いの種族も知れたことだ!全力で殺し合おうか!。』


 異熊は石。私は蛇。

 種族の差では私は不利だろう。

 きっと毒も牙も効かないのだから。


『行け!眷属よ!。』


 モノは試しね!。


『ふん!蛇か?だが、私の石の身体には毒は効かないよ。そして、私は全身からナイフを出すことが出来る!。』


 異熊に群がる蛇達は細切れに切り刻まれた。


『本当に相性が悪いわ!【石化の金色眼】!。』

『無駄だよ!元々、石の私だ!石化は効かない。』

『試しただけよ!。』


 石化も意味なしね。分かってたわよ!。


『そおら!こちらに来たまえ!。』

『っ!?。またっ!?。』

『今度は全力だ!全力で防ぎたまえよ?。』

『ぐっ!きゃぁぁぁあああああ!。』


 私の腹部に異熊の拳がめり込んだ。

 その衝撃で私は吹き飛ばされるも、急激に空中で静止し、今度は異熊に引き寄せられる。


『まだまだ。引き寄せ続けようか!君が生き絶えるまで!。』

『ぐっ!がぁっ!ぐっ!。うっ!。』

 

 何度も何度も殴られる。

 飛ばされては引き寄せられ、殴られては飛ばされる。

 骨も何本も折れちゃってるわね…。


『いい加減…に…しろっ!。』

『おっと!?まだ反撃出来るのか!?。』


 私の身体の下半身。巨大な蛇の身体は無数の蛇が集まって作られている。

 その蛇達を全て異熊へ差し向ける。


『あ…たり…まえ…よ…。私は…しぶといの…よ!。』


 フラフラの足で異熊から僅かに距離を取る。

 ああ…もうっ!全身が痛い…わ…。好き勝手に殴りやがって!。


『だが、限界のようだね。それでは逃げたウチには入らないよ。』

『ぐぅっ!眷属たちよ!爆ぜよ!。』

『ぬ!?蛇が爆発?そうか、蛇の血で目眩ましを!?。』


 大量の蛇の血が異熊に降り注ぐ。


『はぁ…ぐっ!スキル!【黒影囲界獄】!。』


 影の結界。これで逃げ場を奪う。


『敵を閉じ込める結界!目眩ましはこれを発動する時間稼ぎか!?。』

『神…技!遠の巻…【黒食掻抉蛇咬】!。』

『先程の大技か!逃げ場は…結界で無し…か。だが、それは1度見たのでな!対策は考えてある!。石よ!。』

『なっ!真正面から受け止めるつもり!?。』


 石が鎧となり異熊の身体を纏っていく。

 そして、私の神技を受け止めた。

 何よ…それ!?。


『ぐぉぉぉおおおおおおおおおお!!!。』


 片膝をつく異熊。

 鎧は僅かにひび割れただけ。

 違う。鎧の石を生成し続けて修復を繰り返したんだ。それで、神技を防ぎ切った。


『はぁ…はぁ…はぁ…これは堪えるな…だが、これで手は尽きただろう?。ん?何処だ?お嬢さん?。』


 けど…それも、予想通りよ!。

 最初からこの神技は貴方の動きを止める為に放ったのだから!。


『ここよ!。』

『ん!?何!?鎧の関節に蛇が絡まって動けない!?これが狙いか!。』


 ええ!その通り。そして、これが最後の奥の手よ!。


『神技!…近の巻…【蛇神影咬刀閃】!。』


 目の前に何重にも張り巡らされた魔方陣。

 それを通り抜けることで速度を上げ続け突っ込む!。


『ぐっ!?。』

『がっ!?。』


 激突した衝撃で私は地面を転がっていく。


『がはっ!…まさか、そんな奥の手があるとは…石の鎧ごと切り裂くとは…。』


 私の神技は異熊の石の鎧ごと胸から腹を抉り抜いていた。


『当然…でしょ…う…私は…クロノ…フィリア…よ…。まだ…す…る?。』


 倒れた身体を無理矢理起こす。駄目だ。上半身を起こすので精一杯。立ち上がれない。


『ふっ…いや、限界だな…。君と会う前に既にリヒトは服用済み…尚且つ、ベルの光も浴びた…君と拮抗できたのもそれがあったからだ…。悲しいが、時間切れ。君の勝ちだ…。』

『ふん。貴方…強すぎよ…。』

『ははは…褒め言葉…嬉しいねぇ。…殺しはね。強くないと早死にするのさ…。更に強い悪によってね…。君のその力と種族…是非、私達のギルドに欲しかったよ…きっと良い仲間になれた…。』

『…きっと…お断りするわよ…。主様が居ないもの…。』

『ははは…そうかい。まあ、なんだ…お嬢さん。最後の相手が君で良かった。おっと…タバコが切れていたか…。最後に一本、吸いたかったが…。』


 満足そうに笑うと異熊の身体は砂のように消えていった。

 おそらく、リヒトを服用した影響なのだろう。


『はぁ…はぁ…。』


 私の身体は限界を向かえ仰向けに倒れ込む。


『はぁ…はぁ…主様…煌真…姉さん…皆…私…勝ったよ…。』


 これは…少しキツいわね…。ごめん…皆…援護はすぐに行けそうにないわ…。


『ごめん。少し…休むわ…。』


 私はスキル【影入り部屋】に転げ落ちるように入っていった。


ーーー


 神無と異熊が戦っている300メートル離れた場所にライフルを構えた青年が草木の影に隠れ神無を狙っていた。


『次弾。装填。』

『あいあいさー。』


 小さな2頭身の妖精を肩に乗せスコープを覗く。そこには、ナイフに取り囲まれた神無の姿が映っている。


『次、奴が跳んだら…確実に仕留め…っ!?。』

『わわわ!?。』


 背後に感じた殺気に咄嗟に反応する青年。持っていたライフルは真っ二つに両断されてしまう。


『ああ…やっと見付けたぜ!雑魚が!。』

『くっ!?お、お前は!?。』


 隠そうともしない魔力の胎動。

 馬鹿みたいに放出し続ける目の前の相手に対し臨戦態勢に入る青年。


『こそこそと俺の仲間を狙いやがって!雑魚は雑魚らしく跪いてな!。』

『クロノフィリアか…。』

『てきだぁ!てきだぁ!。』


 青年は内心喜んだ。

 現れた敵の存在は自分にとって最も相性が良い相手だったからだ。


『ああ!クロノフィリア!No.18!矢志路だ!てめぇを殺すぜ!雑魚が!。』

『それはこちらの台詞だ!吸血鬼!紫雲影蛇…常暗(トコクラ)だ!滅してやる!。』


 十字架と銀の銃を取り出す青年。

 ヴァンパイアハンター。それが、常暗のゲーム時代に与えられた二つ名だった。


『へぇ…聖職者か!良いぜ!来いよ!遊んでやる!。』


 矢志路の魔力が爆発した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


・名前    異熊(イクマ)

・レベル   150(リヒト使用時)

・種族    煌魔石王族

・種族スキル 【石操作】【限界突破】

・スキルスロット 12+リヒト影響(+3)

・スキル  【接触引寄】 スロット 3+2

      【投擲】   スロット 2

      【石硬ナイフ】スロット 1

      【硬度強化】 スロット 2

      【剛腕】   スロット 2

      【真眼】   スロット 1

      【石纒鎧】  スロット 1+1

・武装   【対魔力コート】

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