第100話 邂逅①
無華塁の神技で発生した局地的大地震によって崩壊した会場の最も高い位置にある瓦礫の上から周辺を眺める1人のピエロ。
クロノフィリア所属 No.16 裏是流。
白蓮により精神と理性を破壊された観客席達は、その大部分が建物の崩落に巻き込まれたが、元々が本能で動く生き人形と化した。彼らは、頭を…脳を破壊されない限り獲物へ向かい這いずり回る。
ゾンビのように蠢き、本来持っているスキルや武装を無造作に発動している。
そして、最も厄介なのが襲う対象がクロノフィリアメンバーのみであること、彼等はクロノフィリアメンバーを殺すまでさ迷い続けるのだ。
運良く崩落に巻き込まれなかった数300。身体の部位が欠損、破損したもの数2万。つまり、残り2万300体もの生き人形が会場跡地をさ迷っている。
そんな生き人形を100体の幻想獣で足止めしているのが裏是流だった。
他の仲間達が自分の戦いに集中出来るように裏方のような仕事を自ら引き受けていた。
『う~ん。まともに動けなくするだけなら僕のペット達だけで抑えられそうだね。』
高い瓦礫の上から周囲を見渡すと、所々で爆発音が聞こえてくる。
皆…戦ってるんだ。僕が雑魚を抑えないとね。
そう、敵が保有する戦力で一番の雑魚は観客席の人達だ。意思のない単調な攻撃しかしてこないから幻想獣でも抑えられる。
けど、そろそろ次の問題が発生する。
脅威的な速度で再生し活動を始める存在がすぐ近くにいるのだ。
100体の【完成された人間】。
およそ人間の持つ能力を極限まで強化された化け物達が動き始めたのだ。
コイツら相手には幻想獣達で迎え撃つのは厳しい。
そして、皆が戦っている場所に向かわせる訳にはいかない。こんな奴等に戦場を掻き回されたら戦況が一気に不利になる。
『どうするかなぁ…。』
幻想獣を召喚している間、召喚した幻想獣の数に比例して僕は一定範囲内でしか動けない制限が掛かる。今現在、召喚した幻想獣は最大数の100。
完成された人間を相手にするには僕自身が動かなくちゃいけないけど、それだと生き人形達が抑えられない。
『僕1人じゃ手が足りないね。』
『おいおい。また、逃げ腰か?。』
『ん?あ、煌真じゃん。』
いつの間にか僕の隣に立っていた煌真。
『安心しろよ。俺があのデカブツ共の相手、してきてやるからよ。』
『ははは。それはありがたい。じゃあ、宜しく。』
『おう!任せろや!。』
煌真が完成された人間が蠢くど真ん中に飛び降りていった。
凄いなぁ。敵の待ち受ける中央に飛び降りるなんて…四面楚歌。相変わらずの脳筋ぶりだ。
『よし、これで安心かっ…な!?。』
うそっ!?危なっ!?何かが凄い勢いで回転しながら突っ込んで来たんだけど?。紙一重で躱した何かを見る。
『外した。』
回転が止まり、パッと開いた星の絵柄が付いた傘で浮遊する。ゴスロリの黒いドレスを着た
少女。
『君は確か紫雲の…。』
『そうよ、紫雲影蛇 紫音。貴方の相手をする。』
『マジかぁ。ねぇ、他の人にしてくれない?。』
『ダメ。あの獣達を操ってるの貴方でしょ?戦力的にアレが邪魔なの。だから、私が貴方を殺しに来たの。』
『ああ。そうですか…。』
ヤベェ。僕…殆ど動けないぞ。
上下左右動けても3メートル四方が限界だよ。マジどうするかなぁ…。微妙にピンチじゃない?。
ーーー
『やはり…こうなりましたか。私のお相手は貴女だと思いましたよ。銀様。』
『ええ。貴女とは、少し似たシンパシーのようなモノを感じていました。灯月様。』
会場より少し北側の開けた場所。
そこで現在、閃と白蓮が対峙している。
2人のメイドは、共に大切に想う相手が力の全てを出し合う命懸けの戦いの邪魔をする訳にはいかず、だが、もしもの時の助太刀として動けるようにと向かった先が森の入り口。
クロノフィリア No.10 灯月。
白聖連団 白聖十二騎士 銀。
灯月にしても銀にしてもこの場所こそが、どんな状況にも対応できるベストな位置なのだ。
『考えていることは同じようですね。』
『ええ。私は貴女を必ず倒す!私の全てを懸けて!。』
銀は懐から例の薬を取り出し口に含む。
それは自分の命をレベルに変える禁断の薬。白蓮が多くの命を犠牲にして完成させた、クロノフィリアに対抗するための切り札。
名前を【リヒト】。
『貴女!?それ!?。』
『ええ。この薬を服用してしまった以上。私の命はそう長くない。けど、それでいいのです!貴女を倒せれば私の役目は終わるのですから!。』
銀の魔力が急激に上昇する。
『そうですか…。なら私も貴女を全力で倒す為に動きましょう!。神具!来なさい【ディヴァル】!。』
巨大な鎌を出現させる。
対する銀は…。
『鉄のエレメントよ…私の身体と融合なさい。』
2人のメイドは互いに大切な想い人の為に全力でぶつかり合うことを誓う。
ーーー
『あらぁ~?私の相手は貴女なんだぁ~。』
『うん。君もここで好きな人の戦いを見守りたかったんでしょ?。』
『そうですよぉ~。貴女もだったんだねぇ~。代刃さん?。』
灯月と銀が対峙している場所から閃のいる位置を挟んで真逆の場所に代刃と白雪が居た。
クロノフィリア No.2 代刃。
白聖連団 白聖十二騎士 白雪。
『うん。雪姫。だよね?。僕のこと知ってるんだ。』
『もちろんだよぉ~。試合に出てたでしょ~?。私ぃ~貴女に興味があったんだぁ~。』
『え!?僕に?。』
『そうだよぉ~。面白い能力を持ってたからねぇ~。』
『僕の能力?。』
『そうよぉ~。とっても興味があるわぁ~。そしてぇ~。私のぉ~役目はクロノフィリアの1人を~。殺すこと~。』
白雪が躊躇いなく薬、リヒトを口にする。
『ふふふぅ~。』
『なっ!?。』
代刃の視界から白雪が消えた。
そして、自分のすぐ後ろに感じる白雪の気配。
『くっ!。』
辛うじて距離を取った代刃は僅かに白雪に頬を触られた。
『ふふぅ~。冷たいなぁ~。でもぉ~。貰ったわよぉ~。鏡のエレメントさん~。へえ~。そういう 能力なんだねぇ~。じゃあ~。やってみよう~。神具~!【並行世界接続門】~!。』
『なっ!何で…僕の…神具を…。』
白雪の手のひらから出現する時空の歪み。それは代刃のよく知る現象。
数多くの試練を乗り越えてようやく手に入れた唯一無二のチカラ。
『さぁ~!貴女の力で~。貴女を~。殺すわよぉ~!。』
ーーー
『始まったか…。』
周囲の気配を読み、各地で行われる戦闘の始まりを知る男。
ギルド 紫雲影蛇のギルドマスター 紫柄。
他の仲間達…紫雲のメンバーも各々自身の戦いに身を興じ始めた頃だろう。
紫柄を含め紫雲影蛇のメンバーは生き残る為に何でもしてきた。法も秩序も無くなった世界で何者にも縛られず自由を手に入れる為には手段など選んでいられなかった。
しかも、彼等が拠点にしていたのは、誰の支配領域でもない戦闘跡地の荒廃したビル街。当然、似たような思考を持つバカ共が自然と集まってくる。
その中で自由を手にする為に一番簡単な方法が 殺し だった。
殺せば怨みを買う。だが、場所が場所だけに強さを示せば相手が怯えて敵が減る。
そうして彼等は生き残って来た。
気付けば周囲に自分達を脅かす驚異は居なくなり裏世界の支配者となっていたのだ。
真っ向から戦えば六大ギルド最強の白聖連団とも互角以上に戦える最強のギルドとなっていた。
そう、彼等は自由を手に入れたのだ。
だが、例外がいた。
クロノフィリア。ゲーム時代を含めて、誰もが最強のギルドだと口を揃えて言う存在が。
彼等は知っている。培われた観察眼と経験は自分達とクロノフィリアがぶつかればどちらが滅ぶのかを知っている。
自分達は相手にすらならず全滅する。
メンバー全ての考えは1つだった。
縄張りで大人しく身を潜める。
それが、生き残ることに特化した最強のギルドの導き出した未来を勝ち取ることへの答えだった。
時は流れ、白蓮により自分達の運命を知る機会が与えられた。
彼等は知った世界の真実と自分達の存在理由を…。
絶望。希望など最初から無かったのだと。待ち受けるは リセット される運命。
だからこそ彼等は白蓮と手を組んだのだ。
自分達の可能性と未来を懸けてクロノフィリアを殲滅するために。
そのために、仲間を1人犠牲にしたのだから…。
『やあ。ここに居たんだね。』
『………。』
1人の男が背後から声を掛けてきた。
『ふん。やはり、貴方か。』
『おや?僕が来るって分かってたのかい?。』
『当然だろう?俺を止められる可能性があるのは貴方だけだ。クロノフィリア。ギルドマスター。無凱。』
紫雲が振り返る。
そこには何度も手配書で目にした危険人物が居た。
『そうだね。あそこに集まっていた白蓮君の仲間のメンバーの中で君が1番危険そうだったんだよね。君…今の白蓮君より強いでしょ?。』
『………。今のな。』
『うん。すぐに追い付くだろうね。彼なら。』
『だから、貴方が来たんだろ?。』
『そう。他のメンバーで君の相手が出来そうなのは今のクロノフィリアのメンバーじゃ6人くらいだ。』
『ふん。いくつもの切り札を隠し持っている君達に言われても嬉しくはない。戦いになれば俺は負けるだろうさ。』
『謙虚だね~。でも、戦いじゃなく、殺し合いなら。君が勝つ。だろ?。』
『貴方を含めて、6人以外ならな。だからこそ貴方がここに来たんだろ?。』
『ご名答。やっぱり、一筋縄じゃいかないね~。』
後ろ髪をポリポリと掻く無凱。一見隙だらけなのに針の穴を通す程の隙さえ確認出来ない。
改めて、敵対する相手に警戒心を強めた。
規格外の化け物が目の前にいる。
『はあ…貴方に目を付けられた自分を呪おう。』
『言葉のネガティブさとは裏腹に殺気が漏れてるよ?。』
『隠す気が無いからな。まあ、長話もなんだ…。とっとと始めよう。』
クロノフィリア No.1 無凱。
紫雲影蛇 ギルドマスター 紫柄。
戦闘を告げるゴングなどない。戦いは既に始まっているのだ。
ただ、目の前の敵を殺す。
それが紫柄が出来る唯一の自己証明だった。
ーーー
『睦美お姉ちゃん。』
『ああ、瀬愛よ。ワシから離れるでないぞ?。』
『うん。』
地震による崩壊から瀬愛を抱えて飛び上がり着地した先は崩壊した会場の入り口。
そこで遭遇したのは…。
『おや?おやおやおやおやおや…これはクロノフィリアのお嬢様方ではありませんかぁ~。ひひひ。』
端骨率いる緑龍絶栄だった。
薄気味悪い笑みを浮かべ睦美と瀬愛を眺める端骨。
『瀬愛、戦闘準備じゃ。』
『うん。』
睦美は青龍刀。瀬愛が指無しグローブを取り出す。
『おやおやおや。戦うおつもりですか?こちらは私を含め、八龍樹皇、最強の律夏。そして、空苗の3人ですよ。お子様2人で勝てると思っておるのですか?。』
『当たり前じゃて!あとな、ワシらを見た目で判断せぬ方良いぞ?。』
『何?。これは?。』
既に瀬愛の糸は周囲に張り巡らされていた。
あらゆる属性に耐性を持ち、よく伸びよく縮み、見えづらい。あらゆる場所に接着し、触れるモノを切断する万能の糸。
それが、端骨達3人に絡み付き身動きを封じた。
『いつの間に?全く見えませんでした。』
『どうじゃ?だから、言ったじゃろ?。』
『素晴らしい能力ですね。ですが、この程度で私共の動きを止めた気でいるのは、少々甘いかも知れませんよ?。』
『何?。』
端骨が指先で軽く糸に触れる。
『成程、成程。ならこれで。』
その瞬間、瀬愛の糸は崩れる様にボロボロと破壊されていく。
『おお。やはりね。どんなに耐性があっても自らの劣化には耐えられないようですねぇ。』
興奮気味に笑う端骨。
『睦美お姉ちゃん!。』
『ああ、瀬愛。心せよ。ここからが本当の戦いじゃ。』
『…うん!がんばる!。』
クロノフィリア No.6 睦美。
クロノフィリア No.15 瀬愛。
緑龍絶栄 ギルドマスター 端骨。
緑龍絶栄 八龍樹皇 律夏。
緑龍絶栄 八龍樹皇 空苗。
3対2の戦いが始まった。