第97話 代刃の成長
ーーー灯月ーーー
『ディヴァル!あの魔力…食べれますか?。』
代刃さんから出現させた先端に刃が付いた長いロープ状の神具。
『いや。無理だな。あのロープ…特殊な魔力でコーティングされてやがる。食べるどころか透過も出来ねぇ。』
『なかなか、厄介な神具ですね。』
空中にいる私に迫り来る先端の刃を躱しながら神具の特徴を分析する。
ロープは際限なく伸び続け、先端の刃が高速で飛び回っている。
刃は代刃さんの意思で自在に操れるみたいですね。
必要に私の翼を狙って来ている。空を飛べる翼を奪うことで頭上の有利を失わせるつもりですね。
『いっそのこと、先端を叩き落としましょうか?。』
『いや。それも止めておいた方がいいな。見ろ、リングや地面を貫いて突き進んでいる。おそらく、貫通の能力が付与されてやがるな。下手に防げば俺の身体ごと破壊されかねんぞ?。』
『はぁ…なら…。』
『避けるしかないな。ほれ。来たぞ。』
複雑怪奇な動きで私を取り囲むように接近する先端の刃。ロープの部位は複雑な動きをしながらも絡まることはないようですね。良く見るとロープ同士がすり抜け合っている。
『くっ!ウザいですね!スキル!【未来視】!』
発動後、常に3秒先の未来の映像が見える。瞳に宿す魔力を高めればその分見える時間が延長される。しかし、発動した瞬間に大幅な魔力を消費してしまう。連続使用は出来ない。
『そこですっ!。』
未来の映像で視たロープの僅かな隙間を掻い潜り幾重にも絡まるロープの壁を抜ける。
『はっ!。』
急降下からの斬り掛かり。
『そう来ると思ったよ!。』
『っ!?。』
私を待ち構えていた代刃さんがロープの神具を解除し既に次の神具を取り出していた。
『魔力レベル4!神具!【カリギリ】!。』
手にしていたのは1本の木刀。そして、木刀の中から現れる刃を抜く代刃さん。仕込み木刀!?。
『無駄です!その刀が何をしようと私の鎌は防御をすり抜けます!。』
『それは知ってるよ!やっ!。』
『なっ!?これは!?。』
代刃さんが刀を、円を描くようにリングに突き刺す、すると私の鎌もその刀の軌道を沿うように勝手に動き同じように地面に突き刺さった。
『刃が通った軌道に 流れ を作って、対象の動きを誘導する刀だよ!。そして!魔力レベル3!神具!【シャウロウ】!。』
『ディヴァルっ!距離を!。』
『ああっ!任せろ!。』
放たれる影の狼。その数、9匹。
鎌で応戦しながら迫る狼達を斬り払っていく。斬っても斬っても再生していく影の狼。
『キリがない。ディヴァル!食べなさい!。』
『おうさ!。』
『なっ!?。うっ!?』
『解除。魔力レベル3!神具!。』
ディヴァルの刃が狼に直撃する瞬間、又しても狼が消え背中が何か…堅いものにぶつかった。
『【ディメンションキューブ】!。』
周囲の空間に出現した正六面体に固定された空気の塊。うっすらと空気が歪んで見える。
動ける範囲が制限されましたね。
『ディヴァル!遠距離で!吐き出しなさい!。』
『ああ!。』
『スキル【混沌月鎌刃斬】!。』
ディヴァルが吸収した魔力を刃から三日月状の斬撃として吐き出す飛び道具。空気中に霧散している微小な魔力を吸収しながら巨大化していく。
『それを待ってたっ!そして!当たりを引いたよ!。魔力レベル5!。』
『布!?。』
次々に神具を切り替えていく代刃さんが取り出した真っ白で大きな布。
『【シル・ク・ヴェール】!。』
あれは!?私の斬撃を吸収してる!?。
白かった布の1部に模様が浮かび上がった。防御用の神具?。
『返すよ!。』
『え!?。』
『灯月!上だっ!。』
『なっ!?ディヴァル!。』
布に描かれた模様が光を放ち消えていくと同時に空から、一筋の光の閃光が、砲撃の如く勢いで私に向かって降ってきた。
『くっ!私が放った魔力に自分の魔力を上乗せして返してくる神具ですか…。』
何とか防御が間に合いディヴァルが吸収する。
『本当に厄介な神具ばかりを取り出して…。』
『灯月。感謝するよ。』
私を見る代刃さんがそんなことを言ってくる。ふぅ…やっと一皮剥けたようですね…。
ーーー代刃ーーー
ありがとう。灯月。
君のお陰で自分の神具の使い方が理解できた。
魔力レベル5以下の神具は出現する属性の方向性をある程度コントロール出来た。
攻撃用、防御用、回復用という感じだ。
灯月は何でも出来るから、いつもヒントをくれる。この神具を作った時もそうだった。
面倒見が良くて頼りになる。そして…閃のことが大好きな女の子。
僕…いつも灯月に甘えちゃってたんだな…。
結局、今回も灯月のお陰で気付けたんだ。感謝してもしきれない。
しかも、今回も 手加減 してくれてるし…。
『ディヴァル。まだ行けますか?。』
『余裕だ。』
『では、代刃さん。そろそろ決着を付けましょうか?。』
『うん!良いよ!僕もそのつもり。』
神具は様々な条件でその能力を向上させる。
環境、意思、相性…そして、心の成長。
『ディヴァル。解放しなさい!。』
『仕方ねぇな。やるぜ。』
灯月が神具のディヴァルを天高く放り投げる。禍々しく赤黒い血のような色の魔力が爆発した。
『懐かしいね。その技。』
広範囲に爆発した魔力が集約し人型が形成されていく。手には鎌を持ちボロボロの布を頭から被った髑髏の仮面の巨大な死神が顕現した。
これがディヴァルの本当の姿。
『行きますよ。代刃さん。』
灯月が手を上げると、背後の死神も同じ動きでシンクロする。高まっていく魔力が渦を巻く。
『魔力レベル6!。』
成長できた今の僕なら、きっと…このレベルの召喚もコントロール出来る筈…。
『神技!黒翼ノ死鎌!!!。』
更に無数の巨大な鎌が出現し一斉に振り下ろされた。
『神具!【シル・ティバシルド】!。』
一枚の羽のような形状の剣。
『無駄です!全てを喰らい尽くす死神の大鎌です。そんな剣1本で防げはしません!。』
『防がないよ!この剣は!。』
リングは奏他の魔力で土を固めたモノ。その魔力すら喰らい鎌に触れたリングの半分は消滅した。
鎌が振り抜かれた後、その場には代刃の姿は無かった。
『灯月!上!。』
『っ!?。はうっ!?。』
見上げると剣を振りかざし飛び込んで来ている代刃。
いち早く気が付いたディヴァルの声が響くが神技後の硬直で動けなかった灯月に為す術はなかった。
そのまま、灯月に覆い被さるように倒れ込む。
『僕の勝ちだね。』
剣を灯月の眼前に固定し勝利を宣言する。
『…えぇ。そのようですね。…代刃ねぇ様…。』
『っ!?へへへ…やっと認めてくれた…。』
嬉しくて涙が出ちゃうよ…。
『私の神技を防ぐのではなく、弾いたのですね…。魔力レベル6も自分の意思のコントロール出来るようになったようで…。』
『灯月が気づかせてくれたんだ。どんな神具も使い方次第…だからね。』
『力押しだけでは限界がすぐに訪れます。これからも精進してくださいね?もし、また腑抜けた様子を私に見せるようなら、また さん 呼びですから?。』
『う…うん。頑張るよ…。』
神具を消し、灯月を立たせる。
『さぁ!決着です!まったく…どんだけリングを破壊すれば気が済むんですか!勝者 代刃選手~!。』
『灯月。手加減してくれて、ありがとう。』
『何を言っているのですか?私は全力でしたよ?。』
『へへへ。そういうことにしておくね。』
灯月の神具は2つある。
黒い神具と白い神具。今回は黒い鎌しか使ってなかったクセに灯月はそんなことを言ってくるんだから負けず嫌いなんだよね…。
『さぁ、代刃さん。皆さんの所に行きましょう。にぃ様に告白です。』
『え!?今から!?。』
『そうです。想い立ったが吉日ですよ!。』
『 おもい の字…違うよ?。』
灯月と並んで観客席に戻る。
『お帰り。2人とも、よく戦ったな。』
閃達が出迎えてくれる。
『にぃ様ぁぁぁあああああ~。』
躊躇いなく閃に抱き付く灯月。
凄いなぁ。あんなに素直に抱き付けるなんて…。自分の心に素直というか…。その行動力が羨ましい、かな。
すると、チラリと僕を見た灯月がニヤリと笑い自分の唇を閃の唇に押し付けた。
『なっ!?。』
キキキキキキキキキキ、キスぅぅぅううう!?。
『な、何してるの!?。』
『ふふふ。試合には負けましたが、私は代刃ねぇ様の数段上のステージに居るのですよ?。』
『何を言って…。』
え?どういうこと?。
『お、おい。灯月。いきなり過ぎだ。』
『ごめんなさい。にぃ様。でも我慢できませんでした。』
『まあ、寂しかったんだろ?。悪い気はしないが時と場所は弁えろよ?。』
『はい~。』
閃もちょっと嬉しそうだし。優しく灯月の頭撫でてるし~。
兄妹?兄妹だよね?なんて羨ま…じゃなくてズルい!…じゃなくて…。
『2人は兄妹だよね?。』
『ふふふ。言いましたよね?数段上のステージに居ると、その領域は既に過ぎ去り、私達は恋人同士なのです!。』
『なっ!?。』
『えっ!?。』
『…………!。』
何故か僕と一緒に驚いている翡無琥と無華塁。どういうこと~?。
『さぁ!続けて!さささ~と行きましょう!お次は~Cブロック2回戦、第一試合!黄華扇桜の代表選手~!1回戦は、圧倒的な技量を見せてくれました~!盲目の剣士~!翡無琥選手~!。』
『あっ…私です…。』
『頑張ってな。翡無琥。』
閃が翡無琥の頭を撫でる。
『………はぃ…頑張ります…。』
あれ?この反応…もしかして翡無琥も?。
『行ってきます。』
翡無琥がリングへと向かっていった。
『へへへ~。にぃ様~。』
尚も…閃にべったりな灯月。
あの僕を導いてくれた格好いい灯月は何処に?。
ーーー閃ーーー
『対するは~。又してもフードを被ったコートの選手です~。流行りすぎじゃね?その登場?1回戦は一撃で対戦相手を気絶させていました~。謎の戦士!匿名希望、正義の味方選手~。』
翡無琥と対峙するコートの人物。
体格から男だということは分かる。
灯月や光歌と同じコートなのでクロノフィリアのメンバーだということは分かるが誰だ?。
コートせいで魔力や気配が読みにくくなっている。
『それでは行きますよ~。翡無琥選手 対 正義の味方選手~。始めっ!。』
正義の味方と名乗った選手が1歩、1歩と翡無琥に近付いていく。
その姿は、まさに威風堂々。
その歩みには翡無琥の居合いに対する警戒も恐怖も感じさせない。
『行きます!。』
翡無琥の見えない居合い。
『えっ!?。』
『はっ!?。』
リングの上の翡無琥と俺の声が重なった。
本来なら、居合いの後の納刀時に鳴る チンッ という音が聞こえる筈だが…その音は聞こえなかった。
なんと…コートの男は微動だにせず、指先2本で翡無琥の刀を止めていた。
『貴方は?。』
戸惑う翡無琥に更に近づくコートの男は、翡無琥の耳元で何かを話している。
てか、翡無琥の居合いを指先2本で止められる技量を持つ奴なんてクロノフィリアに6人しかいねぇよ…。
…って意外にいるな…。
もしかして…。でも…何でだ?。何でこの大会に?。
『…そうですか。わかりました。降参します。』
ここで翡無琥は自ら敗北したのだった。