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第96話 10 対 2

ーーー代刃ーーー


 僕がリングに上がると既に対戦相手もリングに上がっていた。特に強い魔力は感じないけど…油断は禁物だよね。

 フード付のコートで顔は見えないけど、身体のラインや背で女性だと分かる。


『対するは~!青コーナー!1回戦は一瞬で対戦相手を再起不能にしました!匿名希望!…ってまたですか?…まぁ良いです。にぃ様大好きブラコン美少女メイド選手!プププ…ま~た自分のことを美少女とか笑っちゃいますね~。しかも自分でブラコンとか…。』


 実況の娘が高らかに宣言した対戦相手の内容にドキリと心臓が跳ねた。

 にぃ様?ブラコン?メイド?その単語は僕の中で1本の線で繋がりある1人の人物像が浮かび上がる。

 おそらく、僕が一番の苦手意識を持ってる娘。

 最後に会ったのはゲームの中、その時も彼女は僕を敵視していた気がする。

 理由は分かってる…と、思う。

 僕が彼女の大切で大好きなお兄さんのことが好きだから…だと思う。

 

『君は…?。』


 もしかして…。


『ついに、この時が来ました。とても…とても待ちわびました。この瞬間を…代刃さん?。』


 コートを自ら脱ぎ捨て、姿を現したのは…。


『やっぱり…灯月…久し振りだね。』


 ああん。やっぱり灯月じゃん!


『ええ。2年ぶりです。代刃さん。お久し振りに御座います。』


 半分から分かれた白と黒の髪。

 小柄で華奢な背格好でありながら大きな胸元と、そこに刻まれた Ⅹ の刻印。背中が開いた特徴的なメイド服の少女。閃の義妹…灯月。

 あのコート魔力を外に漏れないように遮断出来るんだ。


『あああっと!またまた失礼しました。どうなってるんでしょう?またしても美少女です!煽ってすみません…てか、何ですか今日は?コートを着たら可愛くなれるんですかね?さっきから登場する人が全員綺麗で可愛い人ばっかりなんですけどぉ?。』


 実況の娘が叫ぶのも無理はないよね…灯月は凄く可愛いし…スタイル良いし…。


『現実で会うのは初めてだね。』

『ええ。お会いしたかったですよ。代刃さん。』

『え!?。』

『そのお姿で居られるということは…にぃ様に本当のことをお話しされたのですね?。自分が女だと…今まで男のフリをしていたのだと。』

『…え、いや…その…別に隠してた訳じゃないんだよ?それに本当のことを話した…というより、たまたまバレちゃった…みたいな感じだったんだよ?。』

『…そうですか。貴女はそうやって甘えるんでしたね。にぃ様の優しさに付け込んで。散々、男として振り撒いて…にぃ様に気に入られて…。』

『べ、別に甘えてた訳じゃ…。』

『その言葉が既に甘えです。それで?その甘えた代刃さんは、にぃ様にその胸に秘めた想いを伝えたのでしょうか?。』

『そ、そそそ…そんなことしてないよぉ…。』

『では?これから?伝えるのでしょうか?。』

『うぅ…それは…い、いつかは伝えれたらなぁ…って思うけどぉ…。』

『………。』(イラッ)


 えぇ…何か灯月が凄い怒ってるんだけど…。


『私は貴女を認めません。』

『認めないって?。』

『今の貴女では、にぃ様を幸せに出来ない。』

『なっ!?何でそんなこと言うのさ!。』

『だから!私はここで貴女を倒します。私に負けたのならにぃ様を諦めて下さい。にぃ様は私達で幸せにしますので。』

『むっ!じゃあ、灯月に勝ったら僕のこと認めてくれるの?。』

『ええ。それはもう、勝てたら…ですけど。』

『わかったよ。じゃあ、僕、本気で行くからね!。』


『何やら、お2人の間に火花が散っています!因縁でもあるのでしょうか?これは面白くなりそうな予感です~。それでは、代刃選手 対 にぃ様大好きブラコン美少女メイド選手!始めっ!!!。』


 灯月との戦いが始まった。


『来なさい!ディヴァル!。』


 早速、灯月が神具を出現させた。

 神具【魂喰混沌鎌】。

 複数の刃と1つの目玉が付いた霊魂を食らう呪いの鎌。相手の肉体や防具をすり抜け直接霊魂を攻撃する防御不可能な鎌。

 けど、攻撃の際に内効魔力を高めれば防げる筈。そして、近付けさえしなければ灯月は驚異じゃない!。


『神具【並行世界接続門】!。魔力は7だよ!。』

『いきなり7ですか。貴女も本気…ということで私も手加減はしませんから。スキル【静暗転歩】。』

『っ!?。』


 灯月が消え、いや、後ろっ!。 

 前方に全力で跳ぶ、灯月の鎌が僕がいた場所を切り裂いた。


『本当に躊躇いないんだね…。』

『ええ。気を引き締めて下さい。』

『そっちが、その気なら僕も躊躇しないよ!神具【リース・オルリア】!。』

『ん?これは?。』


 僕の背後に急速に生えた巨大な1本の大木。


『灯月は近付けなきゃ怖くないからね!。散れ!。』


 大木の葉が舞い散り灯月に向け乱れ舞う。

 葉の1枚1枚が鋭利な刃になっている。触れれば一瞬で切り刻まれてしまう。


『こんなもの!。』

『まだだよ!。』


 六枚の翼を広げ飛び立とうとする灯月の足を地面を掘り進んだ太い根が巻き付いた。

 これで、逃げられない!。


『灯月。降参するなら今のうちだよ?。』

『こんな子供騙しで私が降参するとでも?ディヴァル!食べなさい!。』

『はぁ。鎌づかいが荒れぇよ!。』


 灯月が鎌を振り抜くと舞っていた葉が一瞬で枯れ果てボロボロと地面に落ちていく。おまけに、拘束していた足の根も腐ったように崩れ落ちた。


『まぁまぁな味だな。』

『黙っていなさい。さぁ、どうですか?子供騙しでしょ?。スキル【魂喰の風】。その大きな木も枯らせてしまいましょう。』

『なっ!?。』


 巨大な大木が灯月の鎌から発せられた黒い風に触れた途端、瞬く間に腐り崩れ落ちる。


『こんなモノですか?貴女の力は?。』

『うぅ。まだだよ!門よ開け魔力は8!。神具【プロム・エリアス】』


 僕の身体を取り囲むように三日月型の機械が出現した。その機械から立体映像のような薄いモニターと数えられない量のキーボードが映し出される。

 スキル【鑑定眼(神具)】で効果を確認する。


『これは…。えぇ…。無理だよぉ…。』


 そこには、こう書かれていた。


・ プロム・エリアス

・ 空間支配(機械世界)

・ 範囲内に結界を展開し、その内部に あらかじめ プログラムされた機械兵器を出現させる。


 あらかじめって、そんなプログラムを組んだ覚えないからぁ!。

 

『戦いの最中に考え事ですか?。』


 灯月の言葉に視線を戻すと、今まさに灯月が僕に跳び掛かって来ていた。


『あっ!もう!適当だぁぁあああ!。』


 ぐちゃぐちゃと適当にキーボードのボタンを押していく。


『灯月!。』

『っ!?くっ!。』


 ディヴァルの声に反応した灯月が回避行動をとる。

 僕が適当に入力したボタンに反応した神具。地面から4機のガトリング砲が出現し灯月を狙い撃ったんだ。

 けど、反応したタイミングが速かった灯月はその全ての弾丸をスキル【静暗転歩】で躱して見せた。


『少し…イラついて来ました。』

『ど、どういう意味さ?。』

『貴女の成長のしてなさにです。』

『そ、そんなことないよ!。』

『貴女のその神具、誰が作るのを手伝ったと思っているのですか?。』

『っ!?。』

『2年も経過して、やってることはゲーム時代のまま…神具に振り回され、挙げ句、仲間を危険に晒すようなモノまで…。』

『仕方ないじゃないか!僕の神具は完全にランダムなんだから!。』

『そこです。確かに貴女の神具は強力ですよ?魔力レベル6以上を門に注ぎ込めば、さぞ強力な能力を持った神具を取り出すことが出来るでしょう。』

『………。』

『ですが、能力が強力故に貴女自身がコントロール出来ない。現に先程の大木。あれは、魔力レベル7にしては攻撃が単調、葉を降らし根を操るだけでした。ですが、本来はきっと舞い散る葉から大木までの間の全てが斬撃範囲だったのでしょう。現に葉が触れていなかったリングに無数の切り傷の跡が残っている。』

『ほ…本当だ…。』

『機械の神具もそうです。使い方を知れば強力な能力も、使い手ではない説明書を与えられただけの素人では格下の相手のは通用しても格上には通じない。最悪、1回戦の水晶の塔のような神具が出現した場合、味方を巻き込んで発動し全滅もあり得ます。ゲーム時代の時ならまだ良いでしょう。けれど、もし現実で発動させたら…どうするおつもりですか?代刃さん?。』

『そ…それは…。』

『ギルド戦のように乱戦の中で発動し敵はもちろん味方も全滅なんてことになったら?。』

『………。』

『貴女の神具は、貴女がにぃ様と似たような力が欲しいと私に願ったので、力を貸しました…。まさか、使いこなせないどころか自分の戦闘スタイルも運任せだなんて…。ハッキリ言って失望です。』

『ぼ、僕だって、頑張って…るんだ…よ?。』

『ならば、1度でも魔力レベル6以上の神具をコントロール出来たことは?能力に振り回されず、尚且つ、神具の本質を理解した戦い方が出来たことは?。』

『…ない…です…。』

『はぁ…貴女のスキル【武具最上神域錬度】は、あらゆる武器の扱いに対し達人を越え神の領域まで至ることが出来る。けれど、それは武器の本質を読み解き扱えるようになるというものです。魔力レベルが上がった神具には、武器の本質以上に特殊能力が主体のモノが多くなる。それは貴女のスキルの範囲外。だから、貴女は神具に振り回される。』

『じゃあ、どうすれば…。』

『神具は使い方です。弱い神具など存在しない。』

『………。』


ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーークロノフィリア拠点ーーー


『ゲーム時代の時も思ったけど、灯月ちゃんて代刃ちゃんに結構厳しいこと言うよね?いつまで経っても さん 呼びだもん。』

『灯月。代刃のこと。嫌い?。』


 映像を見ていた智鳴と氷姫が首を傾げている。


『嫌ってる~。訳じゃ~。ないわよ~。』


 それに、つつ美が応える。


『ワシもなんとなくじゃが。分かったかもしれん。』


 続けて睦美も反応した。


『あら~。もしかして~。気付いてたの~?。睦美ちゃん~。』

『多分、じゃがな。皆も知っての通り灯月は完璧主義の前に努力家じゃろ?。』


 灯月の行動原理は全て閃に直結する。

 閃がどんなお願いや要求をしてきても応えられるように様々なことを習得してきた。

 それは、クロノフィリア全員が知っていること。元々が素直な性格故に、分からないことや知らないことを調べたり、知っている人に尋ねるなど日常的に行われていたからである。

 睦美には昔、料理のやり方を尋ねたり。

 智鳴には昔、掃除のやり方を尋ねたり。

 果ては、煌真に喧嘩のやり方まで尋ねていた程だ。

 兎に角、何でも知識を増やし実践し出来ることを増やしていった灯月は努力の天才だった。


『代刃ちゃんの~。見た目は~。閃ちゃんの~。だ~い好きな女の子の~。外見なの~。』

『それは、閃本人が言っておったな。』

『へぇ。旦那はああいうのが好みなのか。』

『ええっ!?そうだったの!?。』

『髪。青くする。』

『氷ぃちゃん。そうじゃないと思うよ…。』

『閃の女の姿が代刃に似てるしな。』

『灯月ちゃんは~。努力家だから~。何でも頑張っちゃうんだけど~。閃ちゃんの好みだけは~。努力じゃあ~。どうしようも~。ないじゃない~。』

『代刃のヤツは最初から閃を惹き付けるモノを1つ持っていた…ってことか。』

『灯月ちゃんは~。自分より優れたモノを~。持っている人や~。認めた人には~。呼び方が~。変わるのよ~。』


 灯月の御眼鏡に適った人物は、灯月より年上で男性なら ~さん 、女性なら ~ねぇ様 と付ける。そして、年下なら 男の子なら ~君 、女の子なら ~ちゃん を付ける。

 初対面、興味の無い、敵、他人には ~様 で呼ぶ。

 たまに、無凱も様付けで呼ばれているが、おそらく灯月のお茶目なのだろう。


『けれど~。代刃ちゃんに対しては~。ずっ~と。さん呼びでしょう~?。灯月ちゃんは~。ず~っと前から~。代刃ちゃんが~。女の子だって~。知ってたのによ~。』

『確かにそうだな。てか、代刃が女だって知らなかったの旦那だけだよな?。』

『代刃はアニキには絶対言わないでと言っていたからな。』

『もしかして、灯月ちゃんって…。』

『代刃に。嫉妬?。』

『そうね~。それもあると思うわ~。けど。怒っている理由は~。違うわ~。』

『と言うと?。』

『代刃ちゃんって~。すっごく~。恥ずかしがり屋さんじゃない~。すぐに隠れちゃうし~。』

『ああ。なるほどのぉ。』

『僕も分かったよ。嫉妬の延長と言っても良いかもしれないね。』

『灯月の持っていないモノを最初から持っている代刃が全然…旦那様…に告白しないどころか…自分が女であることすら伝えないと来ておる。灯月の立場からすれば、こんなに自分が努力して頑張っているのに、一番のアドバンテージを持っている代刃がただ逃げてるだけという状況に怒っているのじゃろうな。』

『代刃は神具まで閃の時刻法神・刻斬ノ太刀に似せて作ってたのにな…。』


ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーー灯月ーーー


 私は代刃さんが許せない。

 ゲーム時代、代刃さんから神具の相談を受けた時、私は凄く嬉しかった。

 にぃ様好みのお姿を持つ女性。その方は、にぃ様が好きというクロノフィリアに入った程だ。

 にぃ様が好きすぎて同じ【二重番号】のスキルも手に入れ、似た性質を持つ神具を作りたいと相談してきた。

 私はそれが凄く嬉しかった。にぃ様は、にぃ様を好きになった女性を全員幸せにしてくれる。

 だから、私は智鳴ねぇ様や氷姫ねぇ様がにぃ様に素直になれるように手助けをするし背中も押す。

 代刃さんも、きっとこれから…にぃ様に沢山アプローチをするんだと思っていた。だから、私は影ながらお手伝いをしようと思っていたのに…。


『代刃さん?そろそろ倒してしまっても宜しいですか?成長のない代刃さんを見ているのも辛くなって来ましたので。』

『…灯月。僕のこと怒ってるよね?。』

『ええ。怒ってますよ?。』

『だよね。一緒に神具を作った後、それから少し経った頃から灯月は僕のことを見る目が変わっていった気がする。僕も、その頃から灯月に苦手意識を持ってたし。』

『…感心しました。気付いていたのですね。』

『うん。何となく理由も分かってた。僕がいつまでも閃に…うじうじしてたからでしょ?。』

『はい。そうですよ。』

『ははは。はっきり言うね。』

『私は一度貴女に失望しました。いつまでもにぃ様に気持ちを伝えず、男の姿で楽しそうに語らう貴女に。そんなことで距離を近付けて満足なのかと…。本当に、にぃ様を女として好きなのかと…。』

『好きだよ!。』

『くすっ。そうですか。ですがそれは私ではなく、にぃ様に言うべき言葉です。』

『うん。そうだね。僕も前に進むんだ。』

『なら、もう一度言います。私を納得させて下さい!貴女の気持ちを私に行動で見せて下さい。』

『うん!僕の全力を見てね!灯月!。』


 目の前の代刃さんの表情が変わった。

 あの時の…神具を共に作り、にぃ様について共に語らった時の代刃さんの顔に。

 そうです。その顔を待っていました。

 自分の殻にこもって成長すら止めてしまっていた代刃さん。自分の気持ちを受け入れ行動することが強さに繋がるんです。


『ディヴァル、空腹ですか?。』

『ああ~。良い具合にな。』

『なら、存分に食べ尽くしなさい。』

『おお。随分機嫌が良いじゃないか?。』

『ええ。ねぇ様が増えるかもしれないですからね。まぁ、負けるつもりはありませんが。』


 ディヴァルもやる気充分ですね。

 さあ、行きますよ。


『灯月。ありがとう。悪いけど勝たせて貰うからね!魔力レベル5!』


 代刃の腕に巻き付く太いロープ。先端には槍のような刃先が付いている。


『神具、【グリューダル】!。行くよ!灯月!。』


 ええ。ここからが本当の戦いです!。

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