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第95話 22 対 9

『おおーっと。舞い上がったコートから姿を現したのは~。銀髪を靡かせるセーラー服の美少女だ~。すみません。煽ってすみません。本当に美少女だったとは…。』


 些か興奮気味の奏他を他所に、光歌は厳しい表情で春瀬を睨み、銃口を向けていた。


『ちっ…仕留められなかったし…。』


 残念そうに…非常に残念そうに銃口から立ち上る煙を息で吹き消した。


『春瀬!やっと見つけたし!私が勝ったら、もうパパに近付かないって約束するし!。』


 ビシッと指を突き刺し春瀬に敵意を剥き出しにする光歌に対し春瀬は沈黙を貫いていた。


『ん?何で黙ってるのよ?私が大会に出てたことに驚いてるとか?。』

『光歌ちゃーーーーーーーーーーん!!!!!。私に会いに来てくれたのぉぉぉおおおおお!!!。』

『きゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 物凄い勢いで目をハートにしながら猛進する春瀬に、光歌が悲鳴を上げながらスキル【獣神瞬動】で逃げ回る。

 普段は隠している銀色の獣耳と尻尾を逆立てながら。

 春瀬は仁のことを愛している。

 彼女の脳内世界では既に仁との家庭を築き、娘の光歌を実の子のように大切に…もう、それは大切に可愛がっているのだ。

 目の中に入れても痛くない。

 文字通り光歌がする行動は春瀬の中で自分に対する愛情の裏返しだという認識へと変換され光歌が起こすあらゆる行動をその身で受け切ってしまう。


 スキル【愛想君寵】。


 元は【友情耐凌】という、味方からの攻撃を状況に応じ無効化するスキルであった。

 その攻撃には能力、付与効果の全てが含まれる。

 元々、生粋の前衛タイプである春瀬は、クロノフィリアでも切り込み隊長的なポジションで戦っていた。

 そこで、味方からの攻撃が誤って当たってしまった時の対策として修得したのが、このスキルだったのだが、春瀬の破綻した…否、偏った性格から強化の際に、特殊な選択肢の出現。迷うこと無く選んだ春瀬によって本来の効果を獲得した状態で更に別の効果が付与された。

 それは…自身が愛する者に対しては更に効果が向上するというモノ。

 友情、つまり同じクロノフィリアメンバーから受ける攻撃に対し、ダメージ及び効果を7割減少させる。

 だが、光歌と仁に対してのみ春瀬の愛情ゲージはカンストしているため、ダメージは回復へと変換されるようになった。

 簡単な話、春瀬は光歌のどんな強力な攻撃(神技ですら)も、春瀬が光歌を愛している限りダメージは与えられず回復し続けるということ。


『くっ!【獣爪早撃】!。』


 スキルによる驚異的な早撃ち。

 1発の銃声から放たれる7発の魔力の弾丸。

 その全ての銃弾にスキル【魔力性質変化】による複数の属性が付与されている。

 発射された弾丸は的確に春瀬の両腕、両足、下腹部、上半身、額を捉え命中した。


『少し痛いですわ!でも、手加減してくれるなんて…なんて光歌ちゃんは優しいのかしら!。』


 春瀬が止まらない。


『うそっ…手加減なんてしてない…貫通効果も加えた弾丸なのに…。』

『逃げないで下さーーーーーい!。』

『嫌だぁぁぁあああああ!春瀬なんか嫌いだしぃぃぃいいいいい!!!。』


 スキル【獣爪早撃】の連続使用。

 全身の高められた魔力を発射直後に銃に送り込み即座にリロード。

 発砲された弾丸の数。およそ70。だが…。


『なんの!これしき!ですわ!。』


 その弾丸の全てを身体を張って受け止める。


『ああ…光歌ちゃんの愛は全て受け止めますわ~。』

『愛なんて無いし!春瀬はパパを私から奪う敵!…そう敵でしかないじゃん!。』

『奪うなんてとんでもない!仁様と私は、婚姻の儀を行うのです!そして、私達の愛は互いを愛するに留まらず、全て光歌ちゃんへ注がれるのですよ?つまり!皆で幸せになるのです!。』

『意味わかんないだけど!今のままで幸せだし!私とパパの間に春瀬なんか入るとこなんて無いし!。』

『まぁ!嬉しいこと言ってくれますね!。』

『はっ!?何を言って…。』

『仁様と光歌ちゃんの間に私が入るより、私の愛が…お2人を包み込む方が好みなんて…仁様と私だけがラブラブになるのが許せないのですね?良いですよ!私は2人とも平等に愛しましょう!。』

『わぁぁぁぁぁあああああん!何言ってるのぉぉぉおおおおお!?!?』

『ふふふ。ふふふ…光歌ちゃん…可愛いわぁ…可愛いわぁ…ママって呼んで下さいなぁ~。』

『ひぃぃぃいいい!?。』


 春瀬の瞳に宿る禍々しい光を感じとる光歌。

 獣人の…獣の本能が逃走を叫び告げているのだろう。

 両手を前に出し、抱きしめようと近付いてくる鎧姿の春瀬を前に光歌は怯え、腰を抜かしてしまう。

 その顔は恐怖に歪み、絶望に染まる。

 既に銃を手放し逃げ腰になっている光歌に為す術はない。


『ふふふ。やっと近付けましたわ。鬼ごっこがしたかったなんて…光歌ちゃんはいつまで経っても子供ですわね。でも、そこが可愛いんですわ!。』

『く、来るなぁぁ…。』


 その光景は蛇に巻き付かれたハムスターとでも言えようか。眼前に迫る春瀬の圧に戦意を失い自らの身体を抱き抱え必死に抵抗し抗おうと試みる光歌。


『もう、逃がしませんわ。スキル!【聖白の部屋】。』

『なっ!?そのスキルは!?。』


 春瀬の発動したスキルによって出現した白い球体に光歌は取り込まれ、リングは静寂に包まれた。

 リング上には白い直径5メートルくらいの球体が浮遊しているだけ…という奇妙な状況が3分程続いた。


『え…ええ…と、これは何が起きているのでしょうか?。』


 実況の奏他も困惑する事態。


 そして…。


『きゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!嫌ぁぁぁぁぁああああああああああ!!!。』


 球体の中から響き渡る光歌の事件性がありそうな悲痛な叫びが会場の静寂を切り裂いた。


『ふふふ。光歌ちゃん。愛してますわ。』


 白い球体が割れ、中から出てきたのは…。

 満足そうに恍惚とした笑みを浮かべ鎧を脱ぎ捨て、ドレス姿になった春瀬と…。

 白目を向いて、完全に気を失っている光歌だった。その姿は泡を吹き、僅かに痙攣しているようだ。良く見ると、着ていたセーラー服ははだけ、全身にキスマークが刻まれていた。


『しょ、勝負あり~。セーラー服美女戦士選手が気絶により~。勝者~。春瀬選手~。』

『ふふふ…もう私達は家族ですわよ~。』


 気絶した光歌をお姫様抱っこで軽々と運んでいく春瀬。その光歌の腕は力無く垂れ下がった。


『………何やってるんだ?。アイツ等は…。』


 試合、だったのか今のは…を見ていた閃を含む他のメンバーは目の前で起きた茶番劇を静かに見守っていた。


『てか、光歌のヤツ。完全にヤられに来ただけじゃねぇか…。』

『光歌…久し振りに見たけど変わってないみたいで安心したよ。』

『光歌お姉ちゃんの魔力が…消えました。』

『わぁぁぁあああん!春瀬ッチのバカぁぁぁあああ!光歌さんに何ヤってるッスかぁぁぁあああ!!!。』

『春瀬。幸せそう。』

『やれやれ、味方同士で何をしているのかな。あの娘達は…。』

『ふふふ。良いじゃない叶。たまには、じゃれ合いも必要よ?。』

『気絶した光歌に頬擦りとキスを連打してるね…白より怖いよぉ…。』

『…裏是流?どういう意味ッスか?。』

『ひぃっ!何でもないよっ!』


 そんなこんなで呆れながら雑談していると、ツヤツヤとした肌でご満悦な表情の春瀬と、完全に意識を手放しキスマークだらけの光歌が戻ってきた。


ーーー5分後ーーー


『わぁぁぁあああああん!春瀬なんて嫌いぃぃぃいいいいい!!!。』

『よ~し、よ~しよしッス~。』


 白に泣き付く光歌。

 膝の上で泣く光歌の頭をヨシヨシと撫でる白は心なしか嬉しそうだ。


『もう!めっ!ッスよ!春瀬ッチ!光歌さんをイジメちゃ!。』

『何を仰るのかしら?私はただ光歌ちゃんの愛を受け止めただけですわ!。断じてイジメてなどいませんわ!。』


 春瀬が光歌の頭を撫でようと手を伸ばすが…。


『ひぃっ!。』


 光歌は怯えて白に抱き付いた。


『あらあら~。可愛いですわ~。』

『シャァーーー!シャァーーー!。』


 威嚇する光歌。耳と尻尾が逆立っている!。

 そんな光歌を見た春瀬は実に嬉しそう。


『お前、光歌が何をしても可愛いで済ませられるんだな…。』

『春瀬は昔から光歌には、こんな感じだからね…。』


 俺と代刃が呆れながら3人の様子を眺める。


『光歌さんは白が守るッスよ!。』

『白ぅぅううう!やっぱり私が信頼できるのは白だけよぉぉぉおおお!。』


 抱き付く光歌を嬉しそうに受け止める白。だが、彼女の瞳はある一点に注がれていた。


『光歌さん。』

『んー。なぁに?白ぅ?。』

『ちゅーーーーーッス!。』

『っ!?!?。ちょっ!?白!?ぷはっ!?急になにっ!?を…して!?。んっーーー!?。』


 光歌にキスをする白。

 光歌の知らないキス魔と化した白は光歌の唇を蹂躙し続けた。

 そして…1分後。

 そこには、白目を向いて気絶した光歌と、満足そうに恍惚とした表情を浮かべた白がぺろりと自分の唇を舐めた。


『………。光歌のヤツ。キスがトラウマになるんじゃないか?。』

『そこは基汐君に頑張って貰いましょう。』

『ふふふ。賑やかねぇ。ゲームの時みたいよ。』


 叶さんと幽鈴さんがその様子を見ながら楽しそうに笑っている。


『それでは~次の試合で~す!。Bブロック2回戦!第1試合!1回戦の時は不思議な水晶の塔を出現させ対戦相手を消し去っていました!赤コーナー!代刃選手~!』


 リングの上では、奏他が次の試合へ進行していた。


『うう…変な言い方はしないでよぉ…忘れたいのにぃ。…閃。行ってくるね。』

『ああ、頑張れよ!。』

『うん!今度こそ!カッコいいところ見せるからね!。』


 代刃がリングへ向かう。


『対するは~!青コーナー!1回戦は一瞬で対戦相手を再起不能にしました!匿名希望!…ってまたですか?…まぁ良いです。にぃ様大好きブラコン美少女メイド選手!プププ…ま~た自分のことを美少女とか笑っちゃいますね~。しかも自分でブラコンとか…。』


 嫌な予感を…感じる。


『おい…お前もか…。』


 青コーナーからリングに上がるコートを羽織った人物が…いや、もうバレバレなんだが…代刃と対峙する。


『君は…?。』

『ついに、この時が来ました。とても…とても待ちわびました。この時を。代刃さん?。』


 コートを自ら脱ぎ捨て、姿を現したのは…。


『あっ。灯月お姉ちゃんの気配です…。』


 俺の横で翡無琥が…そう呟いた。

 って…また、このパターンかよ…。

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