第6話
やはり、この街は海産物が美味い。
宿の一階の食堂で提供される物ですら美味いのだから、本格的な店に行ったら、格別だろう。
「夕飯は他で食べようか?」
「?
ココのお食事で十分美味しいですけれど?」
「もうワンランク上の海産物。興味は無い?」
「え?ええ、興味は無かったですけど、もっと美味しいなら、食べてみたいです」
「良しッ!ココの店長さんに聞いてみよう」
昼食は「ご馳走さま」して、番台の店長さんに声を掛けに行く。
「店長さん、ココより上の海産物が食べられる店って、知っていたりしません?」
「知っているか知らないかで言えば、知っている。
だが、馬鹿みたいに高くて、分からん奴にはココの料理と大差無い味だ。
因みに、ウチで金貨1枚も出せば、ワンランク上の料理を用意出来るぞ」
「ソレ、先に言ってよ、店長さん」
夕飯は、上等な飯を予約してから、ナナさんの待つ席へと戻って、事情を説明した。
すると、恐らく店長さんの奥さんが、皿を下げるのと共に、ナナさんの首に掛かった真珠のネックレスを指差して言った。
「そんな上等なアクセサリー、見せ付けるんじゃないよ。
ウチは比較的マシとはいえ、柄の悪い奴も中には居るもんだ。
まぁ、そもそもがその服も十分に華美だがね。
絡まれたく無かったら、しまっときな」
忠告を受けて、ネックレスはしまっておく事にする。
とりあえず、この街は明日の朝飯を食べたら出ることにして、行き先を、貴族街にした。
そして、今日は真珠を収めた銀細工の指輪を作る事にしようとして………。
「ああ、大事なことを忘れていたよ。
ナナさんに、虫除けの指輪を作ってあげないとね」
「?」
「ああ、コッチの話。
アクセサリーには、魔除けや何かの効果があるからね。
銀の指輪なら、そう高くない。
右の薬指に合わせて作るよ」
結局、この日は、銀細工の指輪に、『bizarre』の文字を刻んで仕上げ、ナナさんにプレゼントすると、夕飯を報せる音が。
ワンランク上の料理というのは、確かに間違い無かったのだけれど。
舌の肥えてる俺からすれば、コレで金貨1枚は高い気がする。
ならば、コレより上の料理を食べに行っても、大したことは無かっただろうし、それで高い料金を取られるのは、少々納得がいかなかっただろう。
因みにナナさんは、『美味しい』と言って喜んで食べていた。
それから日が落ちるまでは真珠の指輪を作っていたのだけれど。
俺は元々、銀細工で商売して旅をしていたからな。下手なりに。
だから、銀のインゴットのストックがあったのは助かった。もう、買いに行かなくて良い。
前世の俺はどうだろう?調べれば調べられる環境があったようだけど。
そして本当に奇妙な事に、いつ手に入れたかが分からない、『bizarre』と刻まれた指輪を嵌めていたのだ。
恐らくは、妹からプレゼントされた可能性が高いのだが。
だから、ナナさんにも同じ文字を刻んだ指輪をプレゼントした。
日が落ちたら、翌朝の為に眠るのだが、ココでナナさんとズルズルと男女の関係にはならない。
でも、寄り添って眠るのだが。ダブルの部屋だから、二人用のベッドが一つしか無い。
とりあえず、休みが取れればそれで良い。
明日は朝が早いのだから、夜は速やかに眠らねばならない。
ただ。
未だ28の俺には、十分に刺激が強い経験で。
ロクに眠れずに、翌朝を迎えるのだった。