第5話
朝飯は、予想以上に美味しかった。
「サービスのデザートだよ」
そう言って、甘い焼き菓子を届けてくれたのは、恐らく店長の奥さんだろう。
やはり、あの量の真っ白な上質の砂糖は、金貨1枚では安過ぎたらしい。
「美味しい」
ナナさんの舌には合ったようだ。俺も食べてみる。
「うん、美味い!」
未来では低価格の上白糖も、今は入手も困難だったりするからね~。
ただ、味の記憶は強いというからか、前世の記憶………未来に存在していた俺の味の記憶と比べると、美味いとは言っても、やや甘過ぎる。
この時代だから通用する味だろうが、高いのだから、控えて使えば良いのに、とは思う。
まぁ、その辺は時代の移り変わりと共に洗練されてゆくのだろう。
「さて。市場の方を見て回ろうか。
ココは漁港が近いから、珊瑚や真珠が安く手に入る筈なんだ」
「行商をなさっていらっしゃるのですか?」
「旅費を稼ぐ程度にね」
うん、間違っても買い占めたりなんかしない。
その代わりに、裏ワザを使うけれど。
というか、既に金稼ぎが目当てなら、行商なんて真似をするつもりは無いのだけれどね。
「先に、一度部屋に戻るよ」
「?
はい」
部屋に戻ると、お金を少しナナさんに分け与えた。
「こんなに………。
よろしいのでしょうか?」
「うん。
だから、今から俺がやることは、誰にも話さないでね」
そう言って、金貨をコピー&ペーストした。10枚ほど。
やはり、この操作も『命令』と見做され、可能だったか。
「買い物自体は二人で行くけど、買いたいものがあったら躊躇せずに言ってね」
「え?ええっ?!」
どうやら、この方法はナナさんを惑わせたか。
「シッ!
動揺するようなら、置いていくよ」
「しょ、少々お待ち下さい。
深呼吸して気持ちを凪いでからお願い致します」
スーッ、ハァーッ。
しばらく傍観する。そして。
「行きましょう」
「良いね?行こうか」
番台に行き、店長さんにもう一泊のお願いと代金の支払い、ついでに鍵も預けて、朝市のやっている場所を聞いて、ソチラに向かう。
ナナさんは、自分の買い物も出来ると思ってか、食い入るように商品を眺めている。………貧乏性なのか、買うことは無かったが。
「おっ、ココかな?」
宝石の類を売っている店を見付け、やはり真珠は他の地方よりもグッとお安かった。
「真珠かい?形の良くない物は、薬屋で売っているよ」
店長さんだろうか?オバサンがそう声を掛けてきた。
「金貨1枚分、色々な真珠が欲しいんだが。
あと、珊瑚は扱って居ないのかな?」
「珊瑚は、今年は保護する年だねぇ。
来年なら、比較的安く買えるよ。
まぁ、全く取り扱っていない訳じゃ無いが、もうクズみたいな珊瑚しか無いよ」
「なら、珊瑚は良いいや。
真珠を、金貨1枚分。色とかサイズがバラバラのものが欲しいな」
「まずは、色から見ていくかねぇ。
コイツとコイツとコイツ。──で、白、黒、ピンクと揃ったが、大きい奴を選んだから、あとはあまりサービス出来ないよ」
「じゃあ、あと一個。コイツは駄目かい?」
そう言って、程良いサイズの白い真珠を選んだ。
「………まぁ、その位は良いかねぇ?
4つで金貨1枚だ」
「うーん………ちょっと高い気がするけど、まぁ良いか。
ホイ、金貨1枚」
そう言って手渡す金貨を、ナナさんが凝視している気がする。
「毎度~」
無事に買い物を済ませ、俺はあと、丈夫な糸を買い求めた。安い物だ、銅貨一枚で済む。
「ナナさんは、買い物は良いのかい?」
「はい、お腹もいっぱいだし、特に求める物はありません」
「じゃあ、宿に戻るよ」
宿で、鍵を受け取って部屋に戻ると、早速、毛布の上で作業を始める。
真珠4つと、糸をコピー&ペーストする。一つずつ。
コピペの終わった真珠と糸は、全部一つの袋に入れて、異空間に収納する。
次に、メソッドを展開して真珠に中心を通る穴を開ける。
4つとも穴を開けたら、96個、コピペする。
それぞれを穴に糸を通し、ギリギリで糸を結んで余計な糸は切る。
それを4種類作り終えたら、ネックレスになったそれ自体を4つずつコピペする。
「良し!コレは他の街に持っていけば、高く売れるぞー」
囁くような小さな声でそう言う。
「ナナさんは、どれが欲しい?」
「えっ!………いただけるのですか?」
「広告塔になって貰わないとね!」
「では、コレを」
そう言って選んだのは、一回り小さい真珠のネックレスだった。
「ほほぅ………お目が高い」
「えっ!………一番安いのではないのですか?」
「確かにそうだけど、一番上品だからね、そのサイズが。
他のは、コレクターなんかが欲しがる品だよ」
実際、欲しがる人は、ナナさんと同じ選択はしないだろう。
「さて。コピー元の一組は大事にしまっておくとして。
商品にする方は、それぞれ箱詰めにしてしまおうか」
それらを箱詰めし終えた所で、飯時を伝える金属を叩く音がした。
全て異空間に収納して、ナナさんをお昼に誘った。