第2話
火を熾している間に、亡くなった馬車の馬を捌いて肉にしようと思いかけて気が変わった。
「ナナさん、ちょっと来て!」
あえて、この状況でナナさんを呼ぶ。
「馬だけど、生き返そうと思ってね」
「あ、先ほどの………」
そう、機会があったら見せるという約束を、ココで果たそうと思った訳だ。
「でも、こんな谷底で………」
「勿論、魔法で上まで運ぶよ?」
「あ、そうか………」
「それとも、馬肉食べたい?」
ナナさんは首を横に振る。
「干し肉にすれば桜節って言って、美味しいんだけどなぁ」
まぁ、草でも食べさせて、馬車を運んで貰おうかねぇ。
あ、蘇生魔法は無事に成功致しました。
では、簡単に調理でもして、食べますか。お昼を。
串を肉と野菜に刺して、塩を振り、焚き火に当てて焼いていく。
焼けるのを待つ間に、俺の乗ってた方の馬車を直して、御者を葬った。
「そろそろ食べ頃だね」
そう言って、食べ頃の串焼きを彼女に手渡す。
「………いただきます」
「はい。
俺も、いただきます」
食べ終えると適当に腹が満たされ、さて上まで上がろうかという話になった。
「やり方は幾つかあるけど、俺を中心に全体的に浮遊させようか」
「あの………アチラの馬車は?」
ナナさんが自分が乗っていた馬車を指す。
「うん、置いていくよ。
収納しても良いんだけど、使う機会が無いだろうからね」
「え………?収納って、あんな大きな物を?」
「ん、まぁ良いか。見せてあげるよ」
俺は、異空間物質収納器と化した石に、馬車を収納する。
「え?その石に………?」
「うん、魔力付与エンチャントしたから、ほぼ無限大に収納出来る」
「それは、貴重な物では………?私なんかに見せて………」
「大丈夫。座標が分からなければ、取り出せないからね」
無闇矢鱈に、取り出せてしまうものではない。だから、最悪誰かに奪われても、また再作成すれば取り出せる。
座標をイチイチ覚えているわけではないが、俺には座標を調べる術がある。
「行商人としても生きていけるね」
「あの………私は………」
「もう君は奴隷じゃない。好きに生きて良い。………悪い事をしない限りね。
従業員にでもなるかい?」
「え………?あ、従業員………」
迷っているというより、戸惑っているんだろうな。
「今決めなくても良いよ。
街に着いたら、身の振り方なんかを考えたら良い。
それまでは、ある程度、面倒を見るから」
「なります!私、従業員に!」
おっ!ようやく自分の意見を積極的に言って来た。
「なら、その服装は無いかな」
メソッドを展開!引数、ナナさん!
『防具創作』
とりあえず、赤い魔導師風の服装で、普段着としても問題無い物を作り上げた。引数がナナさんだから、サイズはナナさん専用だ。防刃加工を施してあるので、多少は防具としての機能も備えている。
「はい。食事の前でも後でも良いから、着替えておいてね」
「あ………はい。………う」
「ああ、俺は焚き火の方を見ているよ。
馬車の中ででも、着替えると良い」
「食事!先に、食事がしたいです」
「良いよ。まだ焼き上がらないけどね」
そう言って、焚き火の方に戻ると、串焼きを全て反転させる。
「裏側が焼けたら、食べれるよ」
「あ………先に、着替えて、来ます」
隠して下着も内側にあるんだけど、ちゃんと着替えられるだろうか?
馬車に向かったナナさんは、案の定、やたらと時間が掛かった。それでも、キチンと着替えてくると、少し火から離して保温しておいた串焼きを食べ始めた。
「美味しい………」
「食べ終わったら、空の旅だ!
いっそのこと、ずっと空を翔んで行っても良いんだけどね」
「えっ!?あの………ソレは………」
「やらないけどね。どのくらい続けて飛べるかが分からないと、怖くて試せないよ。
まぁ、延々と飛べる自信はあるんだけどね」
それにしても、俺の魔法は、ホントに魔力を使わずに使えるのだろうか?まさか、周囲から魔力を集めて………?
色々検証はしてみたい。でも、今はまず、街に辿り着くのが目標だ!