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6.夏休み

 私は、夢を見た。

 いや、夢じゃないのか……。これは杏奈の記憶だ。


 私は夏休みを使って、一人叔母さんの家に泊まりにきていた。


 「真里お姉ちゃん! 今日もマジフラやらせてー!」


 「おっ! 杏奈もすっかりハマったな!!

 他のもあるのに、今日もマジフラでいいの?」


 「うん! 先生のルート途中だし!」


 今はチャラ教師・ルフト先生の途中なんだよね~!もうすぐ一年生が終わりかけのところまで進んでる。


 「そっかぁ。いいよ、好きにやってな!」


 「ありがとう!! お姉ちゃんは今日も部活?」


 「そうなの。

 杏奈が来てるのに、なかなか外に連れ出してあげられなくて、ごめんね」


 私はお姉ちゃんを見送ってからゲームを起動した。真里お姉ちゃんはああやって言うけど、東京観光はどこへ行っても人が多くて疲れるし、私は断然クーラーのかかった部屋でだらだらゲームしてるほうがいい。家じゃこんなこと、おばあちゃんにさせてもらえないもん。


 「えっと……何処までやったかな~」


 私は黙々とゲームを進める。


 お姉ちゃんが置いて行ってくれたお菓子をお供にして、ゲームする。まさに至福の時間だ……!


 ルフト先生のルートでは、二人きりの補習を通して、絆を深めていく。途中、ルフト先生の妹と文通したりもして、少しずつルフト先生のことが明らかになっていくのだが、二年生になると急展開が待っていた。


 「えぇ?! 死んじゃったの?!」


 一人、ゲームに突っ込む。


 ヒロインが二年生に進級する前にルフト先生の妹のレミリーが死んでしまうのだ。酷く落ち込んだ先生をリィナは甲斐甲斐しくサポートする。


 しかし、二人の仲が深まって行くのが面白くないのが、いつもの悪役令嬢ソフィアだ。ソフィアは、ライルの婚約者でありながら、ルフト先生への恋心を諦められないでいる。


 最後、ソフィアはリィナを拐い、監禁し、殺そうとするが、リィナを助けに来たルフト先生によって、魔法で死の寸前まで追い込まれる。しかし、殺してはダメだと言うリィナの声に正気を取り戻し、ルフト先生は騎士団にソフィアの身柄を渡した。そして、その後の調査で魔宝を王宮から盗み出したとして、ソフィアは処刑されることになる。


 敵役とは言え、処刑されたり死んだりするのはあんまり気持ち良いものじゃない。これなら馬車の事故で死ぬかもしれないライルルートが1番良い。ジョシュアルートでもソフィアは殺されちゃうから。


 「またソフィアが悪役令嬢かぁ。もう王子の婚約者なんだから、ソフィアも大人しくしてたら良かったのにねぇ」


 「自分は仕方なく政略結婚するのに、リィナが先生と想い合って結ばれるのが許さなかったんじゃない?」


 急に後ろから声が聞こえて、慌てて振り返る。


 「お姉ちゃん! いつの間に帰ってたの?」


 「さっきよ、さっき。で、先生ルートは終わったの?」


 「うん! なかなか先生かっこよかったよー。いつもはチャラチャラしてて、無気力な感じなのに、リィナへの気持ちを自覚してから、必死にリィナを守ろうとする感じが良かった!

 でも、妹が死んじゃったの可哀想だったよ。あまりにも急展開で、最後にリィナが特別な力とかで生き返らせるのかと思ったくらい」


 「そういうのは無いね。全キャラ攻略して、死にそうになったキャラとかもいたけど、治癒力があるとかそういう力は出てこないし」


 「ふーん。そう言う世界観なんだぁ……」


 私が画面に視線を戻そうとすると、お姉ちゃんは急に声を上げた。


 「では! 無事に三人攻略した杏奈に質問です!


 ずばり……ライルとジョシュアとルフト、どれが好み?」


 「んー、そうだなぁ……チャラいのは好きじゃないから、ライルかジョシュアかな。この二人はどっちも良いね!

 金髪碧眼はやっぱりカッコいいし、水色の長髪は現実世界ではあり得ないからこそ魅力的!」


 「とりあえず良かった! はい、これ」


 「え……これ」


 お姉ちゃんが渡してくれたのはライルの缶バッジだった。


 「今日の帰りに見つけてさ。お土産に、と思って」


 「うわぁ、ありがとうー♪」


 「あと、限定のケーキも買ってきたから、一緒に食べよ?」


 「やった! お姉ちゃん、大好き!!」


 私とお姉ちゃんはケーキを食べながら話す。


 「もう明後日帰っちゃうのかぁ」


 「うん、ありがとうね! 楽しかった♪」


 「私もよ。

 あ、年末に会う時までマジフラ貸してあげるよ」


 「え?! いいの?! なんで?」


 「今は別のスマホゲーにハマり始めたからね~!

 マジフラの隠しキャラで新たな好みを開拓しちゃって、それ系のやつ始めたの!!」


 「隠しキャラ?」


 「うん! 全員プレイしたら、出てくるよ」


 「誰なの? 既存のストーリーでも出てくるキャラ?」


 「それ言ったらつまんないでしょうが。

 でも、か・な・り、好みが分かれるキャラだね。

 私は好きだけど! 私の友達はあんなの地獄だって言ってた」


 「えー! 気になる!!」


 「ふふっ! 私も早く話したい!!」


 私達はその後もキャアキャアと騒ぎ合って、叔母さんに遅いから寝なさい!! と、怒られたのであった。



   ◆ ◇ ◆



 東京から帰ってきて、駅に到着する。


 鞄の中にはゲームが、そして鞄にはお姉ちゃんから貰ったライルの缶バッジが付いている。


 私はホクホクしながら、駅からの帰り道を歩いていた。帰ったらウィルガをプレーするぞー!


 すると、後ろから自転車が走ってくる音がする。


 道路の端に寄るが、隣で自転車は止まった。

 自転車に乗ってたのは侑李。


 「なんだ、侑李か」


 「おう。今、東京から戻ったのか?」


 「うん。ただいまー」


 なんだか久しぶりで照れ臭くて、ヘラヘラ笑ってしまった。


 「おかえり。自転車の後ろ、乗ってくか?」


 「うん! 乗る乗るー!!」


 すっかり慣れた侑李の自転車の後ろ座席に立ち乗る。


 私は東京で見た物や食べた物を侑李に興奮気味に伝えていく。

 それを侑李は適当な相槌を打ちながら聞いてくれた。


 「本当に楽しかったよー!」


 「そうか……。将来、杏奈は上京とかすんのか?」


 少し道が悪い。

 私はギュッと侑李の肩に置いた手に力を入れた。


 「するはずないじゃん。おばあちゃんもいるのに」


 「でも、杏奈が行きたいって言えば、ばぁちゃんは止めないんじゃないのか?」


 どうしたんだ、急に。侑李は東京に行きたいのかな?


 「いや、私は別に行きたくないし」


 「そうなのか?

 あんまり楽しそうに話すから俺はてっきりーー」


 そういうことね。ただ普段しない体験や食べ物だからテンションが上がっただけなのに。


 「私はここが好きよ。自然が豊かで人があたたかくて。

 何より大好きなおばあちゃんがいるもの!」


 「そっか……」


 「侑李って大事な友達もいるしね!」


 そう言って、侑李の髪をぐしゃぐしゃと乱す。

 侑李は何も言わずにされるがままだ。


 こういう大らかで、優しいところが侑李の良いところだ。


 「……おう。俺もずっとここにいる」


 「じゃあ、これからもずっと宜しく~!」


 「あぁ。ずっと、な」


 そんな話をしていたら、家の前に着いた。


 「送ってくれてありがと!」


 私が御礼を言うが、侑李の目線は私のバッグだ。


 「杏奈……なんだ、それ?」


 侑李は不思議そうに缶バッジを指差す。


 「あ、これ? 従姉妹のお姉ちゃんがくれたの。

 かっこいいでしょー!!」


 「杏奈は……そういう奴が好きなのか?」


 「んー、まぁゲームのキャラだけどね。こういう人、金髪碧眼っていうの、かっこいいでしょ? 性格もちょっとキザだけど、ヒロインを溺愛する感じがいいんだよー!」


 「……キザ。……溺愛」


 人見知りの侑李にはまだ早いだろう。私以外の女子と話しているのをほとんど見たことないほどだから。


 「って、侑李にこんな話しても分かんないね」


 「杏奈は、分かるのか?」


 「ん?」


 「好きとか、愛とか……」


 顔を赤くして話す侑李がなんだか可愛い。

 侑李もそう言うお年頃になってきたのね。

 どこか姉のような心境だ。


 でも、私も侑李のことは言えない。恋愛のことなんてサッパリだ。私の方がお子ちゃまかも。


 「どうだろう。

 おばあちゃんや侑李のことは好きだけどね。

 恋愛とかはよく分かんないや」


 「……そうか。じゃあな」


 侑李は自転車に跨り、さっさと走り出す。


 「あ、うん。ありがとー!!

 ……って、行っちゃった」


 その時、後ろから「杏奈?」と私を呼ぶ声がした。

 振り返るとそこにはおばあちゃんがいた。


 「おばあちゃん! ただいま!!」


 私はおばあちゃんに抱きつく。

 おばあちゃんは笑いながら、私の背中をポンポンと叩く。


 「全くこの子はおっきくなっても甘えん坊なんだから」


 「えへへー!」


 良かった!

 またおばあちゃんの笑顔が見れて……

 おばあちゃんがまだ生きててーー



 ……そこまで考えて、ふとおかしいことに気付く。


 まだ生きてて……?


 まるでおばあちゃんがいない世界を知ってるみたいに……私ーー


 そうぼんやりと考えていると、頭の隅で話している声がする。


 「アンナ……頼む……!」


 ……祈るような悲痛なその声に私はそっと目を開けた。

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