1.学舎
とうとうこの日がやってきた。
学舎に向かう馬車の中で私は一人、ゲームの内容を書き記したノートと睨めっこしていた。昨晩までに何度も確認したことを改めて確認していく。
攻略対象は四人。
まず一人目が、ライル様だ。
ライル様とは婚約者としてすっかり仲良くなった。愛してるなんて言われているが……ヒロインと出会ったらきっとその気持ちなんて消えてしまうんだろう。ヒロインは超絶美少女だし、私は平凡だし。
それでも、私の人となりは理解してくれていると思うので、私が愚かなことをしなければ、国外追放はされない気がする。それに愛する人が出来たら言ってくれるように伝えたし、邪魔だと思ったら、婚約破棄してくれるよね。
それにライル様は唯一イベントが判明しているキャラだ。そのイベントに遭遇しないようにしたらして、二人の邪魔をしなければ大丈夫だろう。
あとはどこまでゲームの強制力が働くかってところだけど……私がいる時点でこのゲームはバグってるみたいなものだから、大丈夫だと信じたい。
攻略対象二人目がジョシュア様。
ジョシュア様とも随分と仲良くなった。今ではすっかり頼れるお兄さん的存在だ。ソフィアとジョシュア様の関係も良好だし、このルートで私かソフィアが悪役令嬢になることはないだろう。婚約者でもないし。
念のため、ソフィアにジョシュア様に好きな人が出来たらどうするか、お茶会で聞いたが「無謀な恋をしていても全力で応援してあげたい!」と目を輝かせていた。これなら公爵家であるジョシュア様と男爵家令嬢のヒロインが恋をしても大丈夫だろう。
攻略対象三人目は私の従兄弟であるウィルガだ。
ウィルガはエスクード侯爵家の領地で暮らしているため、幼い頃に数回会っただけだ。その時は兄達の後ろに隠れている照れ屋な少年という印象だったが、どう成長しているだろうか。ゲームでは、寡黙なキャラクターだったような気がするけど、実際もそうなのかな?
というか、公爵家の跡取りになってないけど、それでも攻略対象者なのかしら?
でも、まぁ、ウィルガに関しても、私やソフィアが悪役令嬢になることはないだろう。ソフィアはウィルガのことを知らないし。大体私は親族だから、恋愛対象になるはずもない。
最後の攻略対象は学園の教師であるルフト先生だ。
ルフト先生は魔法学という講義の先生なのだが、魔法学が取れるのは、ごく一部の魔力を持った生徒だけだ。ゲームによると、ライル様、ジョシュア様、ウィルガ、ヒロインであるリィナと先輩方が数人と言った感じで、十人もいなかった気がする。それだけ魔力持ちは珍しいのだ。
ゲームの中でソフィアは魔力なしと判断されていたし、これも大丈夫だろう。ルフト先生と接点がなければ、悪役令嬢になるはずがない。
「うん……大丈夫。頑張れ、私。
必ず生きて、三年後にソフィアと一緒に卒業してやるんだから」
その時、馬車が止まった。学園の近くまで来たようだ。馬車で来ている生徒も多いので、門の前は混んでいる。私は御者に声をかけ、馬車を降りて、学園に向かって歩く。
その時、後ろから声がした。
「アンナ!」
明るいその声に振り向くと、そこにはソフィアがいた。ゲームで見たそのままの容姿だが、彼女の纏っている雰囲気はゲームと全く違う。
ゲームでいつもツンと吊り上がっていた目尻は嬉しそうに下がっているし、いつも真一文字に結ばれていた唇は今は楽しそうに口角が上がっている。
そして、その隣には微笑みをたたえるジョシュア様がいた。
……このソフィアなら悪役令嬢なんかになるはずない。
「ソフィア! ジョシュア様!」
ソフィアに私も笑顔で返す。ソフィアは私の手を取ると、フニャと顔を綻ばせた。
「ふふっ! おはよう!!
今日から毎日のようにアンナに会えるのね。
こんな幸せな日を迎えられるなんて……
これからが本当に楽しみだわ!」
ソフィアは心底嬉しそうに私に笑顔を向ける。
その笑顔を見て、改めて決意をする。
……この笑顔を絶対に守ろう、と。
久しぶりに会うジョシュア様も元気そうだ。でも、学園に入る前にはしていなかった眼鏡をかけていた。やっぱりゲームの通りの容姿になるんだな……
「ジョシュア様、眼鏡かけ始めたんですね。
とても良くお似合いですわ」
私がそう言うと、ジョシュア様は頬を少し染めた。
「あ、ありがとう。
アンナにそう言ってもらえて良かった……」
その隣でソフィアがフフッと笑う。
「お兄様ったら、朝から何度もこの眼鏡姿は変じゃないかーって気にしてて煩かったのよ。いつもなんか全然気にかけないくせに。
……誰かさんに会うから、気合が入っちゃったのよね!」
「ソフィア! お前はまた余計なことを…っ!」
……誰かさんって誰かしら?確かに入学初日にヒロインが攻略対象者の三人と出会いを果たすはずだけどーー
それをジョシュア様は予感してたのかしら?
私は一人で首を傾げる。
ジョシュア様は私に向き直り、咳払いをする。
「ソフィアの言うことは気にするな。
……今日から同じ学舎に通えるのが嬉しいよ、アンナ。困ったことがあれば、いつでも私を頼ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
その後、三人で話しながら、歩いているといつの間にか学舎に到着がしていた。
堂々と聳え立つ学舎を見上げ、一人呟く。
「絶対、ゲームなんかに負けないんだから……!」
「ん? アンナ、何か言った?」
「ううん、なんでもない! 行こう?」
私はソフィアと共に教室へ向かった。




