ドS級パーティーを追放された俺は、女王様たちと共にドSSS級パーティーを作る
「ブレット、お前クビだ。今すぐパーティーから出てけ!」
リーダーのモリスからそう言われて、俺は興奮しつつも同時に困惑を隠せなかった。はあっ、はあっ……。頭がどうにかなりそうだ。
「ど、どうして突然クビなんて言うんだ? 俺は今までパーティーのために尽くしてきたと――」
「うるせえ! 口答えすんな、この豚野郎!」
モリスは俺の腹を思い切り蹴った。
「おふうっ」
ん、ぐはあっ。俺はうずくまって吐瀉物を床にまき散らし――そして、唾液も垂れ流し――、興奮で頭がおかしくなりそうになった。しかし、なんとか耐えて考える。
どうして、俺がパーティーをクビ――追放なんだ? 俺はこのパーティー〈サディスターズ〉のマゾ一点として、サディストたちの欲望を一身に受けてきたというのに……。こんなの、おかしいよ……。
「どうしてお前を追放するのか――簡単な話だ。おいっ!」
モリスが誰かを呼んだ。
すると、ドアが開いて、裸に亀甲縛り、口にはボールギャグという格好の太ったおっさんが、イモムシのように這って入ってきた。
「誰なんだ、こいつは……?」
「俺たちの新たな豚野郎だ。なあっ!?」
「ぶっひいいいいいいっ!」
乱暴に蹴られて、豚のように喘ぐおっさん。
すぐにわかった。彼が俺と同種であることに……。
「一目見てわかるだろうが、お前よりもこの豚野郎のほうが反応がいい。イキがいい。見た目も小汚くて豚としては最上級だ」
「だから、俺を捨てるのか……?」
「そうだ。お前はもう用済みなんだよ。用済みの豚野郎は殺処分してやるべきだが、それは特別に勘弁してやろう」
「ぐぅっ……」
ビクンビクン。悔しいことに、用済みと言われてゾクゾク興奮してしまう自分が情けない。そうだ、俺のような豚野郎はいつ捨てられるかわからない、替えのきく存在なんだ……。
「というわけで、クビだクビクビクビィィィ! さっさと出て行けやぁ!」
尻を蹴られ軽く喘ぐと、俺は〈サディスターズ〉のパーティーハウスから出て行った。去り際にパーティーの元仲間たちから罵声が浴びせられる。
「無能豚野郎がっ! 野垂死ねや、おらっ!」「あんたみたいな無能は、誰かに寄生しないと生きていけないから、早く新しいご主人様を探すこったね」「てめえには薄汚ねえ豚小屋がお似合いだよぉ!」「キモイからさっさとくたばれ!」「あははっ、罵られて興奮してやんの!」「よかったな、追放処分になって。最高の気分だろ!?」「死ね死ね死ね死ねええええっ!」
俺は涙を流しながら、興奮で息が荒くなった。
興奮と絶望――相反する二つの感情が胸を支配してカオスを形成する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺は獣のように慟哭した。
◇
俺は亡霊のように街をさまよい歩いた。歩いても気は晴れなかったので、冒険者ギルドに併設された酒場に入った。そこで、一人寂しく酒を飲んでいると、
「相席、いいか?」
と、尋ねられた。
俺が酒場内をきょろきょろ見回すと、いつの間にか大変混雑していた。なるほど、だから相席か……。別に相席だろうと酒が飲めればかまわなかったので、
「どうぞ」
と、俺は言った。
「ありがとう」
そう言って腰かけたのは、綺麗な女だった。
周りの冒険者たちが、ちらちらと彼女のことを見ている。それほどまでの美人だし、実力も最強クラスである。
エルザ――パーティーに属していないソロの冒険者だ。
彼女の名を知らない者は、この街にはいない。いたとしたら、そいつはよほどの世間知らずか、この街にやってきたばかりのニュービーか。
「あんた、〈女王〉エルザだよな」
「その二つ名はやめてくれ」エルザは眉根を寄せた。「恥ずかしい」
「そうか、すまん」
「そういうお前は……確か、〈サディスターズ〉の――」
「『元』だ」俺は訂正する。「さっき、追い出されたんだ」
「それは災難だったな」
そう言うと、エルザは店員に酒を注文した。
かなり混んでいるが、酒はすぐに運ばれてきた。エルザはそれを豪快に飲みながら、
「だが、追い出されて逆によかったのではないか?」
「? どういうことだ?」
「あのパーティーはかなり評判が悪い。お前――ブレットも散々な目に遭ってきたのではないか?」
「まあ、どうだろうな……」
マゾヒストの俺にとって、サラブレッドサディストの揃った〈サディスターズ〉は、願ってもない理想的な環境だった。しかし、一般的な人にとってはかなり過酷な環境に見えるに違いない。
「お前、これから行く当てはあるのか?」
「ない」
「……そう、か」
歯切れの悪い言い方をすると、酒を飲み干しお代わりを注文した。
何か俺に尋ねたさそうな顔をしているが、踏ん切りがつかなくて悩んでいる。もごもごもにょもにょ何か呟いているが、言葉という形にはならない。
「何か質問があるのなら、遠慮しないで聞いてくれ」
「そ、そうか? それなら遠慮なく質問させてもらうが――」
エルザはそこで声のボリュームを落とすと、
「――実は、その、お前がかなりのマゾヒストという噂を聞いたのだが……それは本当なのか?」
「……ああ」
「そうか。得心がいった。超絶マゾだから、〈サディスターズ〉なんてサディストパーティーに所属していたんだな。でも、どうしてクビに……?」
「新しいおもちゃが入ったからだよ」俺は答えた。「だから、古いおもちゃの俺は用済みになり……」
「そうか」
とくに慰めるわけでもなく、エルザはただ頷くだけだった。
そして、今度は黙って酒を飲みながら、何かを考えていた。俺には他者の内心を読むスキルはないので、彼女が何を考えているのかはわからない。
やがて、エルザは言った。
「よかったら、二軒目に行かないか?」
「ああ、構わないが……」
冒険者ギルドの酒場から出ると、個室になっている店に入った。わざわざ個室の店を選んだということは、他の人にどうしても聞かれたくないような話でもあるのか……? でも、俺に……?
「実は、私は……サディストなんだ」
「……え?」
「しかし、今までずっと、そのサディズムを内に秘めて生きてきた。だが、最近、その抑え続けてきた欲求がもたげるようになってきた。このままむりやり抑え続けると、いつかは火山のように爆発してしまう」
そこでだ、とエルザは続ける。
「よかったら、私とパーティーを組まないか?」
「パーティー、を……?」
「そうだ。サディストの私と、マゾヒストのお前がパーティーを組めば、きっとうまくいく。それに、私は〈サディスターズ〉の奴らとは違って、お前を捨てたりはしない。だから――どうだ?」
エルザが手を差し出した。
俺は嬉しさのあまり、ボロボロと涙を流してしまった。
彼女の手を握る。
「よろしく、エルザ」
「私の名前を気安く呼ぶなっ!」
手の骨が折れそうになるほど強く握りしめられ、手を思いきり引っ張られた。
「私のことは、これからは女王様と呼べっ!」
そして、もう片方の手で鋭いビンタ。
「ん、あああうっ」
「何を喘いでやがる、この豚野郎がっ!」
バシン、バシン、バシン!
うぐおぅぅぅ……。俺はこれから始まるであろう至福の日々を想像して、胸の高鳴りを押さえられなかった。
◇
「おい、このキモブタ野郎! 掃除すらまともにできないのか!」
「ぶっひいいいいいいいい……」
〈サディスターズ〉の面々はいつも通り、カールをいたぶっていた。
ブレットをクビにして、カールを新しいマゾ要員としてから一か月。カールは次第にやつれていった。原因は彼らの『お仕置き』が激しすぎること。ブレットと同じ程度の『お仕置き』であったが、カールは耐えられなかったのだ。
彼らは知らなかった。ブレットの耐久力が人並み外れている、ということを。だから、一切の加減なくカールをいたぶり続け――。
「おいっ! 聞いてんのか、カール!」
「…………」
「誰が黙っていいと言ったっ!?」
「…………」
「返事をしないと、鞭打ちだぞ!」
「…………」
そこで、ようやく異変に気がついた。
「お、おいっ……カールの様子、おかしくないか?」
「もしかして、気絶してるのか? だったら、冷たい池の中にこの巨体をぶち込んでやるか?」
「いや、気絶しているわけじゃない……。こいつ、死んでるぞ!」
「な、なんだと……っ!?」
〈サディスターズ〉の面々は慌ててカールの脈をとった。心臓に手を当ててみた。痣だらけの彼は明らかに死んでいた。
――安らかな、死に顔だった。
「ど、どうしよう?」
「どっかその辺の山に埋めればいいだろ」
「そうじゃねえよ。うちにはマゾ要員はカールしかいないだろ。これからどうすんだよ? そう簡単に代わりは見つからないぜ?」
「追い出したあいつを――ブレットを呼び戻すしかないだろ!」
「でもさ、戻ってくるかな、あいつ?」
「あのマゾヒストなら、呼べば簡単に戻ってくるに決まっている」
「そうと決まったら、さっそく行動に移すぞ。俺は〈サディスターズ〉リーダーとして、ブレットに会ってくる。その間にお前らはカールの死体を処理しておけ。わかったか?」
「「「「「わかりました」」」」」
◇
うをおおおおおおおお――っ。
俺はいつものように鞭で体を打たれていた。三方向から襲いかかる鞭が、それぞれ違った痛みを与えてきて、俺を最高に興奮させる。圧倒的快楽っ!
当初、俺とエルザ女王様の二人だけだった〈クイーンビー〉は、新たに二人の女王様が加わって、四人組のパーティーとなった。
〈クイーンビー〉のパーティーハウスでは、女王様たちの罵声と卑しい俺の嬌声がよく聞こえ、この街の七不思議の一つに数えられるようになった。
『謎の罵声と嬌声の正体は?』
さて、それはともかく。
俺のご褒美タイム中に、何者かが訪ねてきた。鞭打ちが一旦中断される。
俺は汗をかき、喉が渇いていたので、何か飲み物を飲みたかったのだが、両手が拘束されていたので何も飲めなかった。
「ちっ。誰だ?」
鞭を置き、汗を拭うと、エルザ女王様は玄関を開けた。
そこに立っていたのは――。
「確かお前は〈サディスターズ〉のリーダー……」
「モリス……」
俺はパンツ一丁の状態で呟いた。
「ブレット。お前が〈クイーンビー〉に加入したという噂は聞いていたが……はっ、なるほど、この姉さんたちも俺たちの同類ってわけか」
「……何の用だ、いまさら?」
「ブレット――いいや、豚野郎。今すぐ〈サディスターズ〉に戻ってこいっ!」
「ふざけるなよ」
エルザ女王様は静かに怒った。
「ブレットを捨てた貴様らがいまさら戻って来いなんて……虫がいいにもほどがある!」
「あんたには聞いてない!」モリスは怒鳴った。「お前に聞いてるんだよ、ブレット。で、どうだ? 悪くない提案だろう?」
「断る」
「な、なぜだっ!?」
まさか断られるとは思ってなかったモリスは、ひどく驚いている。
「〈クイーンビー〉の女王様たちのほうが、〈サディスターズ〉よりもずっといいからだよっ!」
「な、なんだとぉぉぉ!?」
激高したモリスは置いてあったエルザの鞭を手に取ると、それで俺の体をバシバシと叩き始めた。痛覚とともに快楽も襲いかかる。だが――。
「こんなんじゃ、全然足りないんだよおおおおおっ!」
女王様たちの鞭打ちになれてしまった今では、モリスの鞭打ちなど大して心に響かない。退屈な児戯に等しい。
「クソッ! クソッ! クソオオオオオォォォ!」
サディストとしての自尊心を破壊された哀れなモリスは、発狂しながら走り去って行った。
俺が〈サディスターズ〉にいたのは過去のこと。今は――そしてこれからは〈クイーンビー〉専属のマゾ要員として、女王様たちにかわいがられるのだ。
「なに、ニヤついてんだよ。このボケナスがぁぁぁ――っ!」「犬みたいに吠えてみろよおおお!」「後一〇〇回は打ってやるからなっ!」
バッシィイイィィィイイン! バチイィィィンッ! ベシイイィィィ――ン!
「痛っあぁぁぁぁいっ! 最高!」
◇
「なんだとっ!? ブレットを呼び戻すことに失敗したというのか!?」
「ふざけるな! あいつがいなかったら、俺たちは今後どうやって欲求を満たせばいいんだよ!」
「俺はもう〈サディスターズ〉を抜けるぞ!」
いつまでもマゾ要員を確保できなかった〈サディスターズ〉は崩壊した。サディストの彼らを一つに束ねていたのは、皮肉にもマゾヒストの存在だったのだ。
サディスト同士で殴り合いの喧嘩になったりもした。しかし、誰の欲求も満たされなかった。欲求を満たせるほどの暴力が振るえなかったからだ。
〈サディスターズ〉のパーティーハウスから、メンバーが一人また一人と出て行った。最後に残ったのは、リーダーであるモリスだけだった。
「どうして……どうしてこんなことに……」
モリスは一人寂しく夜の街をとぼとぼ歩いた。
ブレットをクビにしなければ――キープしておけば、こんなことにはならなかったのだ。後悔したが、時すでに遅し。
無性にイライラして、誰かを殴りたい欲求がムラムラとわき上がってきた。人気のない路地に入り、ターゲットを探す。
「よし、あいつをぶん殴ってやる!」
後ろを向いて歩いている男に近づくと、モリスは拳を振りかぶった。
がしかし――。
「何っ!? 避けられた、だとっ!?」
男がくるりと優雅に振り返った。
「お前、サディストだな?」
「――っ!? 誰だ、貴様!?」
「俺はサディスト狩りのサディスト。俺はサディストを痛めつけることによって、快楽を得ている。世の中にはそういう存在もいるのだよ」
くくく、と男は笑った。
「もう一度問う。お前、サディストだな?」
「だったら?」
「ボコボコにしてやる」
「やってみろ!」
サディスト同士の戦いが始まった。
モリスは自分の勝利を信じて疑わなかったが、現実は彼の想像とは真逆の結果をもたらした。男はモリスの想像を超えた、怪物じみた強さだった。
「やめろ……やめてくれ……」
「は、は、は。実にいい声だ。もっとよく聞かせてくれ。もっと鳴いてくれ」
サディストによるサディストに対しての拷問が始まった。
モリスは絶望的な苦痛の中で、マゾヒストの忍耐力――苦痛を快楽に変換する能力のすごさを実感した。
骨が三本折れたところで、モリスは意識を手放した。そして最後にもう一度、ブレットをクビにしたことを後悔したのだった――。
◇
バッシィイイィィィイイン! バチイィィィィィンッ! ベシイイィィィ――ンッ!
「ああうっ!」
今日も俺は、クエストを終えた女王様たちにご褒美をもらう。女王様たちにとってもそれはご褒美で、全員が幸せになれるすばらしい鞭打ち。
「おらおら、もっと声出せよおおおっ!」「鞭打ちの次は往復ビンタ一〇〇回だからな!」「死なないぎりぎりまで痛めつけてやるよぉ!」
マゾヒストの俺にとって、それは至福のひと時。
いつまでこの関係が続くのかはわからないが、今は女王様にかわいがられる幸福を噛みしめて生きていけたらな、と強く思う。
「おい、なんとか言ってみろ!」
「もっと強くたくさん打ってくださいっ!」
バッシイイイイン! バチイィィンッ! ベシィィィンッ! バッシイイイン! バチイィィンッ! ベシイィィンッ!
嗚呼っ、最高っ!