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51:今このときのこと

 ……知らない天井だ。いや違う、超知ってる天井だ。


 真っ白でまぶしいのは病院のそれ。俺が――実神六哉が春先まで入院していた、学院付属の施設のものだ。



「ええと……ぐっ……いっ……てええええ!!!」



 なんとなく寝返りを打とうとして、ふしぶしの痛みに悶絶する。よく見れば、入院着からのぞいた肌はどこもかしこも白い包帯ぐるぐる巻きだ。



「ろっ……ろろろろ、ろっ……」


「ろ?」



 変な声に目をやると、窓際には私服姿の秋穂が立っていた。水を替えてくれてたんだろう、持った花瓶を机に置くと、わなわなと俺を指さして。



「ろっくん!!!!!!!!!!!!!!!」


「うっわびっくりした! 声、声でかすぎるから!」


「だってだって! あれから1週間も眠ってたんだよ!? また何ヶ月もこうなんじゃって、ずっとずっと起きないんじゃって……!」


「わかった! わかったからのしかかるな! 体! 体めっちゃ痛いんだよ!」



 本当に心配をかけたんだろう。ダイブする勢いで抱きついてくる秋穂は、ぼろぼろと涙をこぼしている。そんな彼女に笑いかけて、ごめんな、と頭をなでて。



「大丈夫だから、な?」


「うん……うん……!」


「あれ……でも、お前だけか……? 冬華は……?」



 そんな俺のふとした疑問に、秋穂が体を震わせる。びくりと背筋を伸ばしたまま、言いづらそうに俺を見ている。


 記憶ははっきりしている。冬華がどういう状態だったか、それもしっかり思い出せる。



「ふゆちゃんは……ね……」



 秋穂は俺の目を見てくれない。なにかを言いかけて、それでもはっきりした言葉にはならなくて。


 そんな……まさか……


 最悪の想像が頭をよぎった、そのとき。

 


「あのねえ。私、いちおう入院患者なのよ? 軽い気持ちでパシらせないでくれる?」



 ドアが開くのと同時に、そんな声が部屋に響いて。



「……は?」


「……なによその顔、ケンカ売ってるの?」



 ジュースの入ったビニール袋を手に提げた、パジャマ姿の冬華がそこにいた。



「……秋穂?」


「……えへへ、ちょっと喉が渇いちゃって。ふゆちゃんは優しいよねえ!」


「お前なあ!!!!!」


「やっと起きたのね。まったく、どれだけ寝坊してたか知ってる?」


「お前こそ、大丈夫……だったのか?」


「ん、元気も元気、超元気よ。検査なんかで入院したけど、明日にはもう退院するし」


「……はは。そっか、そっか!」



 ぶんぶん袋を振りながら、冬華がベッドに近づいてくる。のしかかったままの秋穂が、にっこり大きく笑ってくれる。



「おかえり、六哉」



 目の前まで来た冬華が、いつもみたいに薄く笑う。なにか返事をする前に、ジュースがコツンと額に当たる。


 それを片手ではねのけながら、俺も心の底から笑って。



「……ただいま!」

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