表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/58

50:真理の森という場所

 右を見ても本、左を見ても本。正面を見ればカウンターで、後ろを見れば子供向けの絵本コーナー。この景色には見覚えがある。子供のころ、ふたりとよく通っていた図書館だ。


 見回しても人はいないし、どこかにいそうな気配もない。()()()()()()()本棚に囲まれながら、()はひとりでここにいる。


 いつのまに手にしていたのか、そばには1冊の本。それを胸に抱きながら、図書館の中を歩いていく。少しそれを続けたところで、しびれをきらして声を出す。



「……いるんでしょ?」


「えーと、図書館ではお静かに、だよ」



 カウンターから顔を出したのは、和服を着た小柄な人。金髪碧眼の見本みたいな、見た目だけはかわいらしい女の人だ。


 その人はニコニコと笑いながら、私に近づいてくるけれど。



「悪いけど、ゆっくり話すつもりはないの。ここがいったいなんなのかは、来たときにぜんぶ思い出したから」


「なるほどね。じゃあキミの――冬華ちゃんの目的は」


「言わなくてもわかるでしょう? 連れ戻しに来たのよ、六哉を」


「そもそもまず、どうしてキミがここに来られたのかはわかってる? ここは生と死の狭間にある場所」


「生きてる人間は来られない、でしょ。次に来るのは死んだとき。異能を返し、私自身を本としてここに遺すとき――私たちがどうなってるか、それくらいはわかってる」



 異能者は死ねばここに還る。借りていた本を返したあと、自分自身の経験と願いを、新たな本として遺す。


 借りていた本をベースにして、新たな人生を上書きしたもの。新たな願いが加えられて、変化を遂げた異能の具現。そうして研ぎ澄まされていく、異形に対抗するために――大切な人たちを『護る』ために、次の誰かに託す装置(ちから)


 それがここにあるもの、私の手にしているもの――異本という存在の正体だ。



「でもまあ……その仕組みを覆したいと思うほどには、諦めきれないのよね」


「愛ゆえにってやつだね」


「そっ……そういうのじゃ……ない……なくも……ない……けど……」



 こんな時だというのに、ほっぺたが熱くなるのがわかる。そんな私の顔を見て、キリが指を指して笑う。


 そう。私は六哉を諦められない。


 私たちを助けてくれた。命を賭けて護ってくれた。


 そんな彼のことを、大切な家族のことを。


 私が――な人のことを、諦められないのは当然だ。



「あなたと六哉がなにかを約束したのはわかってる。でも、彼を返してほしい。私はどうなってもいい、六哉の代わりをしてもいい。だからお願い……お願いします……!」



 胸元の本を抱きしめながら、深く頭を下げ続ける。取引材料なんてない、承諾されるとは思えない。


 それでも私は、そうせずにはいられない……!



「うん、いいよ」


「……え?」



 軽い返事に顔を上げる。キリはにっこり大きく笑って、その手を軽く上げている。



「ただしまあ、条件付きなんだけどね」



 周りの景色が変わる。私の心象風景じゃない、真理の森の本当の姿に。



「大半が取り込まれたあととはいえ、ここにはまだまだ、たくさんの本がある。キミが今からやるべきことは、この中から()()()()()()()()六哉の魂を探すこと。六哉の魂がここになじみきってしまう前に取り戻せたなら、彼を彼のまま戻せるよ」


「……いいの?」


「まあ、キミたちの愛に免じてだね。そうそう、ここに長居をしすぎたのなら、キミ自身が戻れなくなる。そうなったらもう、彼を見つけてもおしまいだからね?」


「そう……わかった。それでいいのね」


「キミが大事に持っているそれ――キミの異本は預かっておくよ。もしも六哉を探せたのなら、その時はちゃんと返すからさ」



 キリが笑って手を差し出す。そんな彼女に、私は笑って背を向ける。



「……? どうしたの? 軽くもない本なんだ、それがあったら邪魔じゃない?」



 胸元の本を抱きしめる。今のキリのこの態度、それで私は確信する。


 ここに来たときから手の中にあった、()()()()の厚い本。


 まるで小ぶりの辞書みたいな、一時も手放したくならない、なじむ重みのそれこそが――



「これが六哉、でしょ? まったく、どれだけ私のことが好きなのよ、アイツは」


「……ははっ! ほんっと、愛し合ってるね、キミたちはさ!」



 これ以上のやりとりはいらない。キリの言葉を背中に受けて、私は扉へ歩いていく。


 他のモノとは明らかに違う、少し大ぶりなこの扉。ここをくぐれば戻ってこれる、私はそれを知っている。



「……って、ちょっと!?」



 開けた先にはドア。それも、同じ見た目のものが4枚。



【あまりにもあまりだったから、ちょっと意地悪させてもらうよ。正解の扉を抜けられたのなら、ボクだって諦めるからさ】



 声が聞こえる。意地の悪い笑い声が。


 一瞬だけうろたえる。けど、本当に一瞬だけ。


 私は迷うことなく、その中のひとつに手を掛けて。



「……悪いけど、向こうからずっと呼ばれてるのよね。認めたくないけど……私たちの『お姉ちゃん』が、帰ってこいってずっとずっと、ね」



 扉を開く。差し込む光が満ちていく。


 その瞬間、聞こえてきたのは弱い声。すぐに胸が高鳴るけれど、それを悟られないように、はあ、とわざとため息をつく。



「だったらねえ――」



 強く抱いた本に――六哉の魂に語りかけながら、私は足を踏み出して――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

評価・ブクマ・感想などお気軽に!
続きはみなさまの評価次第です……!


応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ