表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/58

39:『護る』ということ(3)

ここまで呼んでいただいているあなた…!

よろしければブックマーク、評価、感想など、よろしくお願いします!

「六哉が私たちのことを大切に考えてくれるのは嬉しい。その気持ちを異能にまでして、何度も命を救ってくれたのも、言葉にできないくらい感謝してる。でもね」



 暗がりの中でもわかる。冬華の目がうるんでる。



「それで六哉の負担にはなりたくないの。異形と戦うことを、お父さんとお母さんの仇を討とうって決めたのは、私たち自身なんだから」


「負担だなんて、そんな」


「このままじゃダメだとは思ってたのよね。六哉に頼りっぱなしだって。もっと強くならなきゃって」


「そんなこと……ッ! 頼ってるのはむしろ、俺のほうで……!」



 ふたりを護る。


 その気持ちがなかったら、ふたりがそばにいてくれなかったら、きっと俺はダメになっていた。異形におびえるばかりで、戦うことなんてできなくて、死んだ家族のことばかり考えてしまっていたはずだ。


 ふたりがいてくれたから。明るく過ごしていてくれたから。だから、俺は……!



「ここで白槌を無視したら、きっと一生後悔する。襲われてる人を見捨ててるのに、強くなるなんて、仇討ちなんてって、私は絶対そう思う。これは必要なことなの。危険なのはわかっても、逃げることなんてできないの」


「でも、あいつがなにをしてくるかわからない。ケガじゃすまないかもしれない」


「考えがないわけじゃないから。私だって死にたくないし、無茶しないって約束する。それにね」



 視線が合う。大きな瞳が、まっすぐに俺を見ている。



「六哉はいつも、私の心を護ってくれてるから。どんな異形が相手でも、安心して前に立てるの」


「……え?」


「大切に想ってくれてる。一緒に問題を解決しようとしてくれてる。間違いがあれば正してくれて、間違っていたら正して。六哉と一緒にいるだけで、いつも心が温かいの。これからもずっと……六哉にはそうしてほしい」



 小さな温かい手が、冷たい俺の手を包み込んでくれる。



「一緒にいたいと思ってるから。だから、私は死なない……というか、死ねない。死んだら六哉に会えなくなるから、絶対に死ねないの。あとは……そうね」



 笑う。自信があるような、挑発するような。



「危なくなったら『護って』くれるんでしょ?」



 ――つまりは見慣れた、いつもの顔。ちょっとつり目で不機嫌にも見える、なんでもない、って表情だ。



「……お前なあ。護って欲しいなんて思わないって、そう言ったばっかだろ?」


「それはそれ、これはこれ。きれいごとと現実は別、頼りにしてるわよ、特異の異能者さん」


「調子が良すぎない?」


「私の性格は知ってるでしょ? ほらほら、いつまでもボーッとしてない! 行くわよ!」


「ったく、いつの間に行くことが前提になったんだよ」



 でも、どうしてだろう。さっきよりは気が楽で、心が軽いような気がする。


 ふたりが、冬華がそばにいてくれたら、どこまでも先に行けそうな。


 単純な強さの話じゃない。可能性が、魂そのものが広がるような――



「冬華」



 気づけば立ち上がっていた。目の前にいる冬華が、不思議そうに俺を見ている。


 繋がれたままの手を引いて、もっと近くに彼女を寄せて。



「なに……え? ちょ、ちょっと!?」



 抱きしめる。強く力をこめるたびに、春の日差しみたいな温かさが広がっていく。


 冬華の心が伝わってくる。異形を憎む気持ち以上の、人を護りたいという想いが。


 それに力をもらうように、(こころ)の中を探って進む。



「え……これ、って……まさか……!」



 腕の中、見上げる冬華に視線を送る。それだけでわかってくれたのか、集中するように目を閉じてくれる。


 心を護ってくれている、さっき冬華はそう言った。


 ……それは俺も一緒だったんだ。隣にいてくれるから、俺の心を預けられるから、だから俺は戦える。もっともっと強くなれる。



 ――異形の王、十三忌に対抗する手段さえ、俺たちになら扱える!



「……っぷあ! ごめ、ちょっと苦しくて」


「っと、ごめん! 強すぎたよな」


「ううん、それはいいんだけど……今のって、六哉の、心の中の」


「うんうん、熱い抱擁だったねえ! というより、熱い告白だったねえ!」


「んなっ!?」


「はあっ!?」



 慌てて冬華を離してみれば、隣の秋穂がにっこにこ。俺でも見たことないくらい、機嫌の良さがにじみ出ている。



「告白を通り越して、もうプロポーズだったよね!? ろっくんもそれに応えてぎゅー、だよ! お姉ちゃんちょっと妬けちゃったよー?」


「違う、そういうのじゃない」


「そそそそうそう! 大切とか一緒にとかは比喩で、本当に一緒にいたいわけじゃなくて、いやいたいんだけど、だからね!?」


「というか、わたしちょっと蚊帳の外だったよね? 言いたいことは言ってくれたし、別にかまわないんだけどー」


「だから、ごめんってば! 私だってこんなことを言っちゃうなんて」


「……でも、つかめたんだよね。ふゆちゃんとろっくんの、ふたりで」



 笑顔が少しだけ薄れて、真剣な目が俺を見る。その瞳をまっすぐとらえて、うん、と小さくうなずき返す。


 秋穂が優しく笑ってくれる。この笑顔にも、俺の心は護られている。


 怖さは完全には消えない。でも、今なら1歩を踏み出せる。



「全部終わらせて、みんなで学院に帰ろうな。それで、来年も祭りに行こうぜ」



 今度は俺のほうから言えた。それを聞いて、ふたりも大きくうなずいてくれる。



「ごめんな、遅くなって。それじゃあ……行くか!」



 反応までは1キロちょっと。今の俺たちの足ならば、走ってすぐに向かえる距離だ。


 商店街を戻り、駆け抜け、人通りの少ない道を走っていく。


 たどり着いたのは細い小道。明かりの少ない暗がりには、倒れ込んでいる人がいた。


 そして、その隣には。


 まさに人を殺さんと、巨大な腕を振り上げている。



「――あァ? なんだなんだ、まさか貴様らが来るとはねェ」



 見上げるほどの体躯を持った、角持つ異形が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

評価・ブクマ・感想などお気軽に!
続きはみなさまの評価次第です……!


応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] 冬華ちゃん可愛いやったー!理屈で言うべきことは言っておくけど、感情でそうはならないよねと両方受け入れてるところが素敵です。そしてお互いの心の在り方を確認することで深まる絆と力!「解釈」が重…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ