表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/58

36:双子姉妹と同棲中(4)

 ……と、いうわけで。


 ワンルームよりは少し広い、職員用の1LDK。寮の奥にあるその部屋で、俺たち3人は暮らすことになって。


 1日2回、朝と晩。親愛の情を深めるためにと、ハグとキスを強いられていて。



「……気持ちはわからなくもないけど、こう毎回だと傷つくというかさ」



 1日2回、朝と晩。俺は冬華にわりと強めに殴られている。共同生活を始めて1週間、例外なく毎日だ。



「ふゆちゃんの照れ隠しは凶悪だからねえ。春待さんとおそろいなんだよ」


「照れ……とかそんなんじゃないから! つい出ちゃうだけだから!」


「それはそれでヤバいな?」



 奥の部屋から出てきたふたりと、リビングの机を囲んで座る。協議の結果、そっちの部屋はふたりが使う(もちろん俺は立ち入り禁止)ことになったんだけど、当然ながらリビングへの出入りは制限していない。ふたを開ければ、ふたりが部屋を使っているのは、着替えと眠るときくらいだ。



「それでね、今日はどんな課題(クエスト)だったの? 確か2級の異形さんだったよね?」


「なんかすごい速い魚だった。異界は作らなかったんだけど、とにかくすばしっこいやつでさ。こう、くねくね空を泳ぐんだよ。もし人混みに逃げられたらって必死でさ」


「でも、ろっくんはかっこよく、ズバーン! ってやっつけたんだよね!」


「残念ながら……先生が……俺に捕まえさせるだけ捕まえさせて……いいところだけ持ってって……」



 白槌との再戦までは、ずっと先生と一緒に動くことになっている。手っ取り早く強くなる――異能を使いこなすには、実戦をこなすのがいちばんだからだ。


 異形が出れば課題に出かけ、それ以外の時間は先生相手の殴り合い。実戦に近い組み手だよとは言われても、その実態はひたすら俺が床に転がされ続ける奇祭である。



「ふたりはどうだったんだ? 4級の討滅とはいえ、数がたくさんだったんだろ?」


「ふゆちゃんの作戦がばっちりハマってね! 楽に異形さんを追い込めて、すぐに課題が終わったんだよ!」


「へえ、すごいじゃん。昔から仕切るのは得意だったもんな」


「たまたまよ、たまたま。失敗したらどうしよう、誰かがケガをしたらどうしようって、ずっと胃が痛かったんだから」



 そう謙遜するものの、冬華の頬がゆるんでいる。本人としても、まんざらじゃない動きができたんだろう。


 ふたりは俺とは別行動。普段通りの課題を、クラスのみんなとこなしている。



『白槌の対策も必要だけど、君たちには()があるんだからさ。ちょうど位階(ランク)も上がったことだし、ふたりにはクラスの指揮官役を任せてみようか』



 次を見すえるということは、俺たちの将来を諦めていないということ。先生の言葉に励まされて、ふたりも頑張っているみたいだ。


 ちなみに、『強くならないと護れない』という思考になっているからか、俺の異能はひとりでも問題なく行使できている。不幸中の幸い……はおかしいのかもしれないけど、強くなれる条件だけは整ってるみたいだ。



「だから……やるしかないんだよな」


「ん? なになに、なんの気合い入れたの今」


「ふゆちゃんをまもる……キリッ! だよね!」


「馬鹿にしてんのか。お前のことも護るからな?」


「ひゃえっ!? え、ええっ!?」


「……アンタ、けっこうさらっと言うのよね」


「それで、言っちゃったあとでまっかっかになるんだよねえ」


「うるさいです。ほらほら、もうこんな時間だろ。俺はシャワー浴びてから寝るからさ」



 すっかり話し込んでしまって、時刻は深夜の1時前。ふたりは朝から学院だし、俺は夜中に呼び出されることもある。きちんと休んでおかないと、強くなるもなんにもないしね。



「それじゃあ、おやすみなさーい!」


「ん、また明日ね」



 ふたりが奥の部屋に戻って、ドアがパタンと閉められる。その音が引き金になるみたいに、眠気が襲ってくるけれど。



「……汗かいてるし、このまま寝ちゃうのはまずいよな」



 ソファベッドに倒れたくなる気持ちを抑えて、着替えをつかんでバスルームに向かう。ほとんど惰性でシャワーを浴びて、今度こそ寝床に転がり込んで。


 冗談みたいな話だけど、目を閉じて浮かぶのは冬華と秋穂、ふたりの顔。大変な状況なはずなのに、今日もああして笑ってくれて。元気に1日を過ごしてくれていて。


 それに安心していたら、眠気が体の自由を奪って――






 * * *






 ――端末(スマホ)の振動で目が覚める。反射的にそれをつかむと、画面にあるのは課題の通知と。



『15分後に校舎前』



 先生からの、そんな短いメッセージだ。


 外に目をやればまだ暗く、時計を見れば4時半すぎ。3時間くらいは寝れたのかなあ……


 当然ふたりは寝ているだろうし、起こす必要もないだろう。軽くメモ書きしていこうかと、なんとなく部屋に目をやって――



「……ぐす……ひっく……」



 そんな、か細い声に気づいた。


 いや、声というより、これは。


 一瞬だけ考えた。気づかないふりをしたほうがいいのかなって。


 でも、そんなことはできなくて。



「――『異能顕現』」



(異能付与:聴覚強化)



 小さくつぶやくのと同時に、ひとつの異能(チカラ)を行使する。


 今の俺がしていることは、趣味の悪い盗み聞き。


 わかってる、それはわかってるんだけど。



「だいじょうぶ、だよね? ふゆちゃんも、ろっくんも、死んじゃったりなんかしないよね? お父さんやお母さんみたいに、いなくなったりしないよね?」


「……もちろんよ。そのために、六哉があんなに頑張ってくれてる。だからほら、泣かないの」


「泣いてるのはふゆちゃんもじゃない、暗くてもわかるんだよ?」


「……まあ、隠してもしかたない、か。すごく、すっごく怖いの。私が死ぬことも、秋穂が死ぬことも……六哉が、死ぬことも。私たちなら勝てるって、平気だって言い聞かせても、怖いのがぜんぜん消えないの」


「うん……うん……」


「でも、六哉にはそんなことは言えないから。自分のせいって頑張るアイツに、こんな顔は見せられないから」


「そうだね……ろっくんの前では、いっぱいいっぱい笑おうね……」



 そうだよな。


 平気なはずなんてないよな。


 それでも、俺の前ではって。せいいっぱいがんばってくれてたんだって。そんなふたりの気づかいに、こんなにも遅れて気がつくなんて。




 ふたりに俺がしてあげられること。それはなぐさめることなんかじゃない。


 音を立てないように部屋を出て、待ち合わせの場所へと向かう。それが当然というように、先生はもう待機している。



「お、なんだか気合いが入ってるね? いいことでもあったのかい?」


「負けられない事情ができまして……いや、それは最初からなんですけど、ええと」


「だーいじょうぶ、言葉になんかしなくていいよ。それじゃあ、行こうか」


「……はい!」



 もっともっと強くなって、絶対に、ふたりを……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

評価・ブクマ・感想などお気軽に!
続きはみなさまの評価次第です……!


応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ