27:課題終了 ~かえりみち~
あまりにも寒いので朝も更新します……ちょっと寒すぎますね……
「はあぁ~、とっても疲れたねえ……」
帰りの夜道を歩きながら、秋穂がブツブツそうぼやく。表情は疲れ切っていて、なんだか歩みもノロノロ遅い。
「『不死』の反動ヤバいな……ケガとかは全部治してもらったはずなのに……体めっちゃダルい……」
異界構築による異能共有――それは過激なドーピング。解けば反動がくるような、そんなアブない手段らしい。
……みたいなことを、先生は笑って言ってたんだけど。
「ふたりとも真に受けてるの? あのときはハイになってて気付かなかっただけで、今は戦いの疲れが出てるのよ。あれだけの数を相手に動き回ってたんだし、その反動が来て当然じゃない」
「ふゆちゃんはあんまり動いてなかったもんねえ……」
「やめて。役立たずだったんじゃって気にしてるんだからやめて」
「そういう意味じゃないよー。ろっくんをぎゅーってしてあげて、疲れも取ってあげたじゃない。ちゃんと活躍してたってばー」
「ばっ……そ、それは……! 接触範囲が広いほうが早く異能が浸透するからであって……!」
「わたしにもやってよー。本当に疲れてるんだからー」
「うるっさい!!! 大人しくなってちょうどいいでしょ! アンタは!」
ばたばた暴れる冬華だけど、こいつは確かに元気そう。てことはあれか、やっぱり冗談だったのかあれは。
そんな先生はというと、俺たちとはもう別行動。六歌仙は超多忙、深夜にも近いこの時間から別の仕事があるんだそうな。
『少し遅くなっちゃったけど、駅前でなにか食べてきて。帰りはタクシーでいいからね』
ポンと渡された一万円は、大事に俺の財布の中に。忙しいぶん儲かるんだよと、ゲスの笑顔が忘れられない。
「でもでも、誰も大ケガをしなくてよかったね! 本当はわたし、ちょっと不安だったんだ」
「まあ……ね。白状するけど、何度か死んだと思ったわ」
「それもこれも、ろっくんががんばってくれたおかげだね!」
「そうそう、アンタの異能っていったいなんなの? きちんと説明してくれない?」
「そうだよ! ふゆちゃんを護るための力、かっこよすぎるよ!」
「そういうのじゃないって言ってるでしょうが! そうよね!?」
詰め寄ってくるふたりだけど、相手をするにも面倒くさい。適当に手を振りながら、離れなさいと手を振って。
「隠すつもりは少しもないし、ちゃんと説明するからさ。まずはほら、どこか休めるところに行こうぜ」
「そそそそれって……ご休憩……ご宿泊……!? じゃ、じゃあ! わたしは先に帰ってるから、あとはふゆちゃんとごゆっくり……!」
「ちゃうわ!!! 腹も減ったしメシ行こうって、単にそれだけの話だよ!」
「あのねえ。もう夜も遅いんだから、大きな声で叫ばないでくれる?」
じとーと眼鏡の視線がにらむ。いやこれ俺は悪くないよね?
バカな話を続けながら、駅までの道を歩いていく。戦いはもう終わったんだと、やっと緊張がほどけてきた。
急に降ってわいてきた1級相手。どうなることかと思ったけれど、こうしてみんな無事でいる。とはいえそれは、時島先生が控えめに言ってもただの化け物だったおかげなんだけど。
……それでもひとつ分かったことは、俺の異能も捨てたものじゃあなさそうだってこと。慢心するつもりはないけれど、このまま鍛錬を続けていれば、いつか昨日の十三忌だって――
そんなことを考えていたら、ぽん、と肩に手の乗る感触。足を止め、どっちだよ、と顔を上げると。
「んー?」
「もう、どうしたのよ」
……ふたりとも、歩いているのは俺がいるより少し前だ。
だったら一体なんなんだろうと、振り向こうとしたそのときに。
「ろ、ろっ」
「……ッ!」
ふたりの表情がこわばったのが、暗がりでもはっきりとわかった。
「休むところを探している? だったらなァ! いいところを紹介しようかァ!」
嘘だろ。
あり得ない。
なんで。
恐る恐る振り向く。
肩に乗せられていたのは、冗談みたいに大きな手。岩石みたいなその皮膚は、人間のものではあり得ない。
顔を上げる。平安時代の貴族みたいな、ひらひらとした衣服のその上では、伸ばされた髪が邪魔とばかりにまとめられている。
皺の刻まれたその顔は、割れるような笑顔を浮かべいてて。
――その頭には1本の角。岩石のようなその柱は、異形を統べる王の証。
血走った瞳が俺を見る。視線に力があるみたいに、体がこわばって動かない。
この男の。
この異形の名は。
「俺を謀った六歌仙、アレに邪魔をされては敵わんのでなァ! 異界構築――その名を『岩掌風塵禍』ァ!」
異形の王、十三忌――白槌の姿が、そこにはあった。





