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18:わるいぶんめい(1)

 購買部で。


 ガチャを回す。


 これまた妙な話が出たなと、ふたりに説明を求めるけれど。



「いいからいいから! 行ったらわかるよ! ね!」


「まあ……必要なことではあるから。悪いけどつきあってあげて」



 こんな調子で答えは得られず、気づけば俺たちは校舎の外へ。わからないままふたりに連れられ、わからないまま歩いていく。



「そもそもだけど、購買部なんてあったんだな。必要なものは食堂で揃うだろ?」


「それがね、あるんだよー。ちょっとだけ遠いけど、道はちゃんと覚えておいてね!」



 15分ほども経っただろうか。校舎をはずれ、裏に広がる雑木林を突っ切った先で、ついにふたりは足を止め。



「ここよ」


「ついたよー!」



 と、指し示された場所はというと。



「……いちおう聞くけど、からかわれてはないんだよな?」


「そんなことして私になんの得があるのよ」


「いや……だってさあ……」



 それはもう雰囲気のある、観光スポットとして載せたいくらいの。



「どう見ても洞窟じゃん、ここって」



 ――地底への入り口、というふうなところだった。



「すごいよねえ。わたしも初めて来たときはびっくりしちゃったんだ」


「大丈夫よ、中はきちんと整備されてるから」


「でもでも、入り口だけは気をつけてね! そこだけは薄暗いし、雫が落ちてきたりするから! びっくりしたふゆちゃんがね、ぴゃーって叫んだことがあってね!」


「叫んでない! ちょっと驚いただけ!」


「入るぞ?」



 神聖な場所です、といったふうな光の差さない入り口に足を踏み入れる。入ったとたんに空気が違うというか、ひんやりした冷気を感じていると。



「……ほんとだ、中は照明があるんだな。壁とか天井もきっちり整備されてるし、ちゃんとした建物みたいだ」


「気をつけてね。秋穂も言ってたけど、そのあたりは足元も悪いから」


「自分はだいじょうぶだと思ってる人がこけちゃうんだからね……ひゃあっ!!?」


「言ってるお前がかよ!」



 あわてて腕を伸ばすと、すべった秋穂も反射的にそれをつかんで。



「……せ、セーフだったねえ……こういうことがあるから、ろっくんも気をつけなきゃだめだよ?」


「いちばん気をつけるべきはお前だからな?」



 腕に腕をからめるようにしながら、なんとか体勢を立て直す。さすがに反省してるんだろう、秋穂はその手を離さないまま、ゆっくりじっくり、足元をきちんと確かめていた。


 それでもなんだか、こいつをこのままにしておくのは心配で。



「奥まではつかまってていいから」


「え!? いいよ、だいじょうぶだよ!?」


「大丈夫なやつはコケないんだよ。ほら、行くぞ?」



 その手を軽く握りながら、ゆっくり秋穂を引っ張っていく。言ったそばからこけないよう、足元だけは慎重に。


 最初は遠慮していた秋穂も、すぐに機嫌よく手をぶんぶん。繋がれた手がゆらゆら揺れる。



「えへへ、ろっくんは優しいねえ。でもねー、女の子に簡単に優しくしちゃだめなんだよ? 勘違いされちゃうよ?」


「されないと思うけど、それでも自然にこうできるのはふたりにだけかなあ。他の女子に、っていうのは、なんか自分でも想像できないし」


「へええ……よかったね、ふゆちゃん!」


「なんで私に話を振るのよ。まあ、六哉みたいなコミュ障が女子と仲良くしてるのは、確かに想像できないけどね」


「誰がコミュ障か」


「さーて、そろそろだよー! 先に行ってるねー!」



 言っているうちに手を離し、一本道を突進していく秋穂。地面もしっかりしているし、ここまで来れば大丈夫だろう。


 そうなると、当然冬華とふたりきりになるんだけど。



「なんか怒ってる? そういえば、面談の前も不機嫌だったよな」



 その時よりも悪いらしく、顔全体がもうむっすり。なんなら唇もとがってるくらいだ。



「うるさい。ほっといて」



 否定しないのが冬華らしいけど、理由がいまいちわからない。だったらもう、下手なことはせずに。



「怒ってるならそれでいいから、理由を話してくれないか」


「なんでよ。アンタには関係ないでしょ」


「あるよ、お前のことは大切に思ってるんだから。よくないことがあったんなら、気になって当然だろ」



 思ってることを言ったほうが、こじれずにすむなと思ったんだけど。



「………………は?」



 なんかこう、冬華の表情がこう、見たことないほど複雑な感じに。



「え……は……? それはええと、どういう……なに……? 大切……私が……?」



 喜怒哀楽すべてを通り抜けたあと、ゆであがったみたいに真っ赤になる冬華。え、なに、どういう感情なのこれ。そんな変なこと言った?



『お前のことは大切に思ってるんだから』




 愛の告白か????????????????




 今度は俺が真っ赤になるばん。いや見えないけど、たぶんなってる顔が熱いやばい。ちがうそうじゃないんだ先生とさっきそんな話をしたからついポロッと出ただけなんだ。



「いやあのちがう、そうじゃない。そうじゃないぞ冬華。いやなにも間違ってないんだけど、そういう意味の話じゃなくて」


「そそそそそうよね!? 六哉がねえ!!? 私のことを大切だなんてねえ!!?」


「勘違いするなよお前が大切なのは本当、違うそうじゃない、いや違わないんだけど、こう、あのほら、わかってくれ」


「あーうんそういうことねわかるわかる完全に理解した! ってわかるかバカぁ!!!!」


「だからなんで殴りかかるんだよ!!!」


「うるさいうるさいうるさい!!! ばかあほへんたい!!!!」


「変態は言いすぎだろ!? ああもう、とりあえず殴るのやめろ!」


「あっ……って、ちょっと!」



 振りかぶられた軽い拳を、当てられる前に空中でキャッチ。その手をつかんでひっぱって、そのまま奥へと進んでいく。



「……離しなさいよ」


「やだよ。そしたらまた暴れるだろ」


「ここも学院の施設なのよ。誰かに見られたらどうするつもりなの」


「暴れ馬を引いてますって説明するよ」


「あんたねえ……それにしても、六哉の手ってこんなんだった?」


「なんだよ。昔から変わってないだろ」


「変わってるわよ。なんかこう……大きい? ごつごつ? って感じ。ちょっと腹立つ」


「お前の怒りのスイッチがほんとうにわからん……痛てて」



 返事のかわりに、強く力が込められる。でも抵抗はそれくらい。手を離そうとはしないまま、隣を一緒に歩いてくれる。


 それはほんの数分くらいの、ちょっとの距離だったけど。



(それを言ったら、お前の手だって小さくて、柔らかくて……昔はそんなこと、少しも思わなかったのになあ)



 そんなことを意識させるには、十分すぎる時間だった。



「あれー? おてて繋いで歩いてくるなんて、ふたりは仲良しさんだねえ」


「こいつがあまりにも暴れるからな?」


「誰が暴れさせたと思ってるのよ!!!」


「よしよし、ふゆちゃんは嬉しかったんだよねー。わかるよー」


「なにもわかってないでしょあんたは! ああもう! 離れてよ!」



 そうして秋穂の前に到着。ぶん! と繋いだ手を切られて、そのままにらまれるけども。



(……なおったっぽいな、機嫌)


(うんうん。さすがはろっくんだねえ)



 ピリピリした雰囲気がなくなってるのが、俺たちふたりには手に取るようにわかる。たとえ口では『死ね!!!』と口汚く罵られていようともだ。



(秋穂はわかってたのか? 結局なんだったのこれ)


(んー? わっからないよー♪)


「……なにをふたりでコソコソしてるのよ」


「えへへ、ごめんなさーい。それじゃあ、みんなでいこっか! 今ならわたしたちで貸し切りだよー!」



 ぷんすこ怒っている冬華と、にこにこ笑顔ではぐらかす秋穂。まあいいか、解決はしたみたいだし。


 気持ちを切り替えようと深呼吸、そのまま周りを見回してみる。



「おお……すごいな……」



 洞窟の中にあるここは、整備されていながらも岩肌の目立つ大きな部屋で。


 中央には大きな泉と、そこに鎮座する見上げるほどの龍の像。


 澄んだ心地よい空気と相まって、神秘的なものすら感じられるくらいなんだけど。



「……でもさ、これのどこが購買部なんだ? そもそもガチャって?」


「それはねえ……ふっふっふ……」


「もったいぶらないの。ええと、『(せん)(こつ)』ってなにかわかる?」


「異形を倒したあとに拾ってるあれだよな? エネルギーの塊だとか聞いたけど」


「そうね。ここではそれを使って……」


【そこから先は……我が話そう……】


「……っ!!!!???」



 急に頭に響いてくる、堂々とした重い声。慌ててふたりを見るけれど、なぜだか双方にやにや顔で。



「ふふふ、驚いてる驚いてる。その顔を見ただけで来たかいがあったわ」


「はじめての時はふゆちゃんだっておどろいてたくせにねー」


「ばっそれは言わなくていいの! だまるの!」


【仲が……良いな……いいことだ……】


「仲がいいというか、ただの腐れ縁なんです。というわけで六哉、この方がここ……『在原学園購買部』を管理してくれている龍神さまなの」



 冬華がそう言い、秋穂が指すのは、泉の前の大きな石像。


 像が? 喋る? いやでもそうか、そんなこともあるかな学院だもんな。


 驚きのハードルが下がっているのを自覚しつつ、改めて像の方を向く。



【よく来たな……名はなんと言う……?】


「実神六哉です。ええと……よろしくお願いします」


【うむ……ご丁寧にどうも……我が名はな……】



 お約束のようにはめられている、大きな宝石の瞳がまたたく。


 頼りがいのありそうな心地のいい声、見上げるほどに大きな体、龍神さまという紹介。


 俺だって男の子。ちょっとワクワクしながら、次の言葉を待つけれど。



【『購買のおばちゃん』だ……今後ともよろしく……】



 なに言ってんだお前。

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